宇宙論揺るがす最古の銀河 ジェームズ・ウェッブ望遠鏡
日経サイエンス
2022年12月23日
去る7月、米マサチューセッツ工科大学の天文学者ローハン・ナイドゥは、稼働したばかりのジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の初期観測の画像を調べ、ある天体に気づいた。それは今から約135億年前、宇宙年齢3億年の銀河で、これまで観測された銀河の中で最も古かった。予想以上に明るく、そこにある星の合計質量は太陽10億個分にもなっていた。天の川銀河の数百分の1に迫る質量だ。
その後さらに、ビッグバンからわずか5億年足らずの時期に天の川銀河サイズの銀河が存在すると報告された。そんな巨大な銀河が短時間で生まれるというのは、現在の宇宙進化モデルによる予想と一致しない。
ビッグバンの直後、宇宙は想像を絶する高温・高密度の粒子のスープだった。その後3分間で宇宙が膨張して冷えると、ヘリウムなどの軽い元素の原子核が形成され始めた。40万年後には宇宙は十分に冷えて、最初の原子が登場した。そして宇宙が約1億歳になったときに、初代星が誕生するための条件が整った。
巨大な火の玉のような初代星は、目に見えない暗黒物質によって集まり、原始銀河を形成した。やがて原始銀河どうしが重力の影響で相互作用し、合体して大きな銀河になった。初期の混沌とした宇宙から現在のような秩序ある宇宙への移行には約10億年かかったというのが、現在のモデルの予想だ。
だが今回、このモデルに疑問が投げかけられた。初期宇宙には合体前の小さな原始銀河がたくさん見つかるだろうと予想されていたのに、すでに大きくなった銀河が観測されたからだ。
「今回の結果は驚くべきもので、宇宙の標準モデルで理解するのは難しい」と米テキサス大学オースティン校の宇宙論研究者マイケル・ボイラン=コルチンは語る。現在のモデルに代わる説として、暗黒物質は存在せず、大きなスケールにおける重力の法則を変更することで同様の影響を説明できるとする「修正ニュートン力学」があるが、異論も多い。
もっとも、初期宇宙の銀河にはダストがほとんどなく、そのせいで明るく見えているだけかもしれない。あるいは特に明るい、見つけやすい若い銀河だけが見えていて「初期宇宙では一部の銀河で星形成がより容易になるような何かが起こっているとも考えられる」とデンマーク・コペンハーゲン大学の天体物理学者シャーロット・メイソンは言う。
まだ不確定要素が多々あるとはいえ、新発見の数々に天文学者たちの意気は上がっている。「私たちは未知の世界をのぞき込んでいる」とメイソンは話している。
(詳細は12月23日発売の日経サイエンス2023年2月号に掲載)