chuo1976

心のたねを言の葉として

宇宙論揺るがす最古の銀河 ジェームズ・ウェッブ望遠鏡

2022-12-25 04:33:07 | 宇宙

宇宙論揺るがす最古の銀河 ジェームズ・ウェッブ望遠鏡

日経サイエンス
2022年12月23日

 

去る7月、米マサチューセッツ工科大学天文学者ローハン・ナイドゥは、稼働したばかりのジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の初期観測の画像を調べ、ある天体に気づいた。それは今から約135億年前、宇宙年齢3億年の銀河で、これまで観測された銀河の中で最も古かった。予想以上に明るく、そこにある星の合計質量は太陽10億個分にもなっていた。天の川銀河の数百分の1に迫る質量だ。

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宇宙の一見何もないかのように見える領域をジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡で撮影したところ、宇宙黎明期の銀河が数多くとらえられた(写真提供:NASA,ESA,CSA and STScI)

その後さらに、ビッグバンからわずか5億年足らずの時期に天の川銀河サイズの銀河が存在すると報告された。そんな巨大な銀河が短時間で生まれるというのは、現在の宇宙進化モデルによる予想と一致しない。

ビッグバンの直後、宇宙は想像を絶する高温・高密度の粒子のスープだった。その後3分間で宇宙が膨張して冷えると、ヘリウムなどの軽い元素の原子核が形成され始めた。40万年後には宇宙は十分に冷えて、最初の原子が登場した。そして宇宙が約1億歳になったときに、初代星が誕生するための条件が整った。

巨大な火の玉のような初代星は、目に見えない暗黒物質によって集まり、原始銀河を形成した。やがて原始銀河どうしが重力の影響で相互作用し、合体して大きな銀河になった。初期の混沌とした宇宙から現在のような秩序ある宇宙への移行には約10億年かかったというのが、現在のモデルの予想だ。

だが今回、このモデルに疑問が投げかけられた。初期宇宙には合体前の小さな原始銀河がたくさん見つかるだろうと予想されていたのに、すでに大きくなった銀河が観測されたからだ。

「今回の結果は驚くべきもので、宇宙の標準モデルで理解するのは難しい」と米テキサス大学オースティン校の宇宙論研究者マイケル・ボイラン=コルチンは語る。現在のモデルに代わる説として、暗黒物質は存在せず、大きなスケールにおける重力の法則を変更することで同様の影響を説明できるとする「修正ニュートン力学」があるが、異論も多い。

もっとも、初期宇宙の銀河にはダストがほとんどなく、そのせいで明るく見えているだけかもしれない。あるいは特に明るい、見つけやすい若い銀河だけが見えていて「初期宇宙では一部の銀河で星形成がより容易になるような何かが起こっているとも考えられる」とデンマークコペンハーゲン大学の天体物理学者シャーロット・メイソンは言う。

まだ不確定要素が多々あるとはいえ、新発見の数々に天文学者たちの意気は上がっている。「私たちは未知の世界をのぞき込んでいる」とメイソンは話している。

(詳細は12月23日発売の日経サイエンス2023年2月号に掲載)

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拡がった物理学の前線…複雑系と真鍋博士ノーベル賞

2021-12-13 05:08:25 | 宇宙
拡がった物理学の前線…複雑系と真鍋博士ノーベル賞
 
2021/12/10 東京新聞 池内了
 
 
 2021年のノーベル物理学賞を真鍋淑郎博士が「地球の気候の物理的モデリング、気候変動の定量化、地球温暖化の確実な予測」の功によって、ドイツのクラウス・ハッセルマン博士と共同受賞された。ノーベル物理学賞と言えば、これまで物性分野(巨視的物質の性質)・素粒子分野・宇宙分野などでの物質の構造や反応についての、比較的単純なシステムの基本的原理の発見が主な対象であったので、応用的な側面が強い地球物理学の分野では最初ではないだろうか。
 一般に、地球がからむ現象には多数の要素が複雑に関係し合っている場合が多く、物理学のように一刀両断で解答を得ることが難しい。そんな地球科学からの物理学賞の受賞で、物理学の前線が拡がった思いである。
 賞の対象となった地球温暖化の原因は、端的に言えば太陽からやってきて地球表面が受け取る熱エネルギーと大気から宇宙空間へ放射される熱エネルギーの差にある。真鍋博士の業績は、その大気の熱収支の計算を、大気に含まれる温室効果ガスである水蒸気や二酸化炭素(CO2)の量を考慮し、それによって生じる大気の流れを追跡するとともに、さらに海洋との熱の遣り取りと海水から発生する水蒸気量の効果をも含めて「大気・海洋結合モデル」として発展させ、地球温暖化の予測の確実性を高めたことにある。
 一般に地球環境問題と呼ばれる気象や気候の問題は「複雑系」と呼ばれてきた。地球大気への日照効果・大気の水蒸気やCO2や塵などの組成・温度・圧力・流れなど数多くの要素(物理量)から成り立ち、その間の結びつきは非線形で(直線関係ではない)、簡単に予測がつかない。さらに、地上から大気上層部まで各物理量は変化しているし、それらは時間とともに変化していく。そもそもコンピューターが発明されたのは(戦争のための大砲の弾道計算とともに)天気予報を行うことが目的であった。とはいえ、天気予報の的中率は現在でも100%に達しないように、複雑系を正面から解くのは困難なのである。
 とはいえ、天気のような刻々と変動する現象の追跡は困難なのだが、大気を構成する成分(特にCO2)がどのように反応し、結果的に地球環境に対してどのような影響をもたらしているか、という全体の挙動を大局的に明らかにする過程については確かなことが言える。スーパーコンピューターを駆使して非常に多数の事例を調べ、そこに普遍的に成立する法則性を発見することができるからだ。
 実は、地球温暖化に対するCO2の温室効果は、真鍋博士が世界最初に言いだしたわけではなく、100年以上前の1896年にスウェーデンのアレニウスが予言していた。定性的に(際立った性質に着目した見方)はわかっていたのだ(もっとも、アレニウスは、CO2の温室効果で地球が温暖化すれば、作物の生育が促されるので農業生産によい効果を与えるとしていた)。今や大気中のCO2の増加が止まらず、地球温暖化の元凶であることを、IPCC(国連気候変動に関する政府間パネル)が今夏に出した第6次評価報告書で、「人間の影響が大気、海洋及び陸域を温暖化させてきたことは疑う余地がない」と言い切った。このIPCCの確言の背景には真鍋博士の業績があり、またノーベル賞委員会もIPCCの結論を知っていたのであろう。複雑系をコンピューターで解析して解の振る舞いの一般性を明らかにする、そんな研究が今後増えるのではないだろうか。(いけうち・さとる=総合研究大学院大名誉教授)
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チェレンコフ光。宇宙から降ってくる微粒子がこの水の原子核とうまく衝突すると、光が出る。

2020-07-28 05:26:09 | 宇宙

『スティルライフ』 池澤夏樹  1988年


 彼は手に持った水のグラスの中をじっと見ていた。水の中の何かを見ていたのではなく、グラスの向うを透かして見ていたのでもない。透明な水そのものを見ているようだった。
 彼は
「何を見てるの?」とぼくは聞いた。
「ひょっとしてチェレンコフ光が見えないかと思って」
「何?」
チェレンコフ光。宇宙から降ってくる微粒子がこの水の原子核とうまく衝突すると、光が出る。それが見えないかと思って」
「見えることがあるの?」
「水の量が少ないからね。たぶん一万年に一度くらいの確率。それに、この店の中は明るすぎる。光っても見えないだろう」
「それを待っているの?」
「このグラスの中にはその微粒子が毎秒一兆くらい降ってきているんだけど、原子核は小さいから、なかなかヒットが出ない」
 彼の口調では真剣なのか冗談なのかわからなかった。
「水の量が千トンとか百万トンといった単位で、しかも周囲が真の暗闇だと、時々はチラッと光るのが見えるはずなんだが、ここではやっぱり無理かな」
 考えてみると、この話をした時には、ぼくは彼とまださほど親しいわけではなかった。アルバイト先で知り合って、時おり飲んで、とりとめのない話をするだけだった。どこに住んでいるのかも知らない。いつも半ば独言のような彼の話をぼんやり聞いていた。
「微粒子ね」
「ずっと遠くで星が爆発するだろう。そうすると、そこから小さな、ほとんど重さもない粒子が大量に宇宙全体に飛び出す。何千年も飛行して、いくつかが地球に落ちてくる。いくつかって言うのが、このグラスに毎秒一兆くらい」
「星か」
「そう、なるべく遠くのことを考える。星が一番遠い」
「遠くのことね」とぼくはまた繰り返した。
 自分の頭蓋の内側が真暗な空間として見え、頭上から降ってきてそこを抜けてゆく無数の微粒子がチラッと光を放って、それをぼくは単なる空虚でしかないはずのぼくの脳髄で知覚し、そのうちにぼくというものは世界そのものの大きさにまで拡大され、希釈され、ぼくは広大になった自分をはるかに高いところから見下ろしている自分に気付いた。その静けさの彼方で、一人の男が一個のグラスを手にして、中の水をじっと見つめていた。

 

f:id:shuuei:20200728052330j:plain

 

ニュートリノ
2002年 小柴昌俊 ノーベル物理学賞
1987年2月23日 大マゼラン星雲 超新星爆発

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生まれたての宇宙、ひとの胎児のよう 次々と姿を変えて

2020-04-03 05:53:42 | 宇宙

生まれたての宇宙、ひとの胎児のよう 次々と姿を変えて

2020/4/2 朝日新聞

 

村山斉の時空自在〈24〉


 宇宙の進化は人間と似ている。
 胎児は単細胞から数日の間に分裂を繰り返しどんどん複雑になっていく。最初の40日でエラができてなくなったり、尻尾が生えてなくなったり、目まぐるしく変化する。どんどん人間らしくなり、いろいろな臓器ができていく。そのあと240日ほどすると、へそからの栄養補給がなくても、空気にさらされても生きていけるようになる。生まれた後も年を重ねるにつれて変化がゆっくりになる。


 宇宙も138億歳の今の進化はゆっくりだ。地球ができてから人間が生まれるまで40億年以上かかったし、太陽が燃え尽きるのは50億年ほど先だ。小さな銀河の多くは大きな銀河に吸収合併される。大きな銀河は太り続け、いずれは腕がなくなって丸くなる。
 今の宇宙は少子高齢化が進み、星の誕生は少ない。だが、合併が起きるとしばらくの間活発に星が生まれる。銀河系も45億年ほどするとアンドロメダと衝突して合体する。新しい星で夜空がきっときれいになる。楽しみだ。
 星のベビーブームがあったのは100億年ほど前だ。最初の頃の星は大きく、「太く短い」運命で100万年ほどしか生きなかったものが多い。
 もっとさかのぼると、宇宙誕生から最初の38万年まではいわば胎児の状態だ。まだ星もなく、宇宙全体が熱く濃いガスで満たされ光も通らない。さらにさかのぼると、重要なマイルストーンがいくつもあった。
 陽子と中性子がくっついてヘリウム原子核ができたのが生後3分。クォーク同士がくっついて陽子と中性子ができたのが100分の1秒。宇宙空間にヒッグス粒子が凍りつき、空気のような存在として私たちをまとめる準備ができたのが1兆分の1秒。胎児と同じように、宇宙も目まぐるしく変化したのだ。(素粒子物理学者)

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かに星雲・超新星爆発  「明月記」藤原定家

2020-01-19 02:16:21 | 宇宙

かに星雲・超新星爆発  「明月記」藤原定家

 後冷泉院・天喜二年四[五]月中旬(1054年5月20日~29日[6月19日~28日])以後の丑の時、 客星觜・参の度に出づ。東方に見(あら)わる。天関星に孛(はい)す。大きさ歳星の如し。


 10円玉に刻まれている平等院鳳凰堂が建てられた前の年・平安時代末期の「天喜二年(1054)」 の当時の歴で5月11日から20日の間の夜中に、 超新星又は彗星(客星)が、オリオン座(觜・参)の東に見えた。 おうし座ζ星(天関星)付近で、大きさは木星(歳星)ほどだった。(http://www.asahi-net.or.jp/~nr8c-ab/ktjpm1.htm)

1054年に現れた超新星の残骸「かに星雲」。藤原定家が明月記に記した=NASA提供

 

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札幌国際芸術祭

 札幌市では、文化芸術が市民に親しまれ、心豊かな暮らしを支えるとともに、札幌の歴史・文化、自然環境、IT、デザインなど様々な資源をフルに活かした次代の新たな産業やライフスタイルを創出し、その魅力を世界へ強く発信していくために、「創造都市さっぽろ」の象徴的な事業として、2014年7月~9月に札幌国際芸術祭を開催いたします。 http://www.sapporo-internationalartfestival.jp/about-siaf