南向にゆるくなだるる日溜に独りの心しづめつつをり 二見博三
病む身には帰ることなきふるさとの新聞に載るわが詠みし歌 北村久子
この年は歩む日少く痛む足なほも痛みて除夜の鐘聞く
わが汗の下着を濯ぐ夫の背に人の見えざる手を合せたり
顔も知らずわが声たよりに添ひきしとつぶやく夫に涙こみあぐ
ⅩⅩⅩⅩⅩⅩⅩⅠ「わたしたちの家」を観る聴く、 『エイガニッキ』 SASHI-ハラダ 2018/12/24
狭い部屋の中、少女たちが歌い踊る、白い衣装、おかっぱの黒髪、主人公が止まり、何かを見詰め聴き入る、シャッターの音がしたと、この時空の外、まさに、映画の撮影の事、私たち観客のことではないか、朝、朝食、母と主人公の二人暮らし、畳に座っての食事、母は出掛けていく、ごみ収集車のお兄さんと共に、車に乗り込んで、主人公は学校に、帰り道、路地、母は買い物をして帰ってきた、遅かったねと待っていた主人公、あなたこそと母、二人は並んで、シャッターを開け、扉を開き中に、フェリーの上、濃い化粧の女、不気味な女、何を見詰める、狂気、風、靡く髪、だれも居ないフェリー、港に着いて、これまただれも居ない待合室、開いている椅子ばかり、電話して居る娘、記憶喪失の女、名ばかりやっと語って、連れ出す娘、こうして二人のやって来た部屋は、始まりの母と娘の家では無いか、時空は、時は、過去から、現実に、いや、同じ時間の異空間とも、化粧する少女の二人、主人公と友人、濃い化粧、そして外に、母と男の後を付けて、二人の様子を探るのだ、倒れる母、おんぶする男、タクシーに乗り込む二人、この様子を観て、驚きの二人、大胆だとばかり、母は主人公に、新しい人との結婚話、死したが、父さんはと主人公、聞き入れない主人公、洗濯物を干す母、ビルの谷間の家、俯瞰で下の主人公を捕らえて、手伝ってと母、嫌だと云いながら上がってくる主人公、仰ぎ見る角度の屋上の洗濯物、空が彼方に、記憶喪失の女と暮らす娘、この娘はこの屋敷に住むのだから、始まりの母と娘の娘の成長した姿とも、いや、母の過去かも知れない、いや、記憶喪失の娘が母では無いのか、いや、始まりの主人公の娘が成長して記憶喪失に、だから、何かを知って居る娘がこの家に連れ戻ったとも、しかし、皆名前は違っているのだが、名など、取り敢えずの物なのだとも、何も思い出せずに、娘の計らいで此処に暮らす女、繕い物、巧みな女、旨くない娘、喫茶店、仕事を求めてやって来た記憶喪失の女、何もかもハッキリせずに、店主に拒まれて、そこに男が、男は記憶喪失の女を知って居るらしい、だが、全く反応しないので、人違い、娘は電話、どこからかの指示に従っているのか、何を探る、何に采配されている、ならば、記憶喪失の女とは何者、畳の部屋、障子、今時に、でも、この障子故に、穴が、主人公は何かを感じたか、障子に穴を開けて、覗く、何が見えるのだろうか、時空間を越えた、二人の女の世界だろうか、母と主人公、じゃんけんして勝った方の云うとおり、この家に残る、母が勝ってしまって、あなた如何するのと母、困惑する二人、主人公の誕生祝い、何処か乗らない主人公、不吉な表情、覚めた顔、母の恋する男との語らい、ワインを注ぐ、そこに何かを混ぜて、差しだされたワイングラス、男は一口飲んで吐き捨てる、主人公は何処に、覗きの彼方に、記憶喪失の女と娘の部屋に、カフェの男が遣ってくる、どうやって此処を見つけた、誰なのだろうか、記憶喪失の女も驚き、娘も判らない、だが、平気で上がり込んできて、探り回る、カフェでの女と店主の語らいの場でも、既に何かを知ってやって来ていた、部屋の奥に、如何することも出来ない女と娘、この様子をのぞき観たか、主人公が花瓶を投げつける、上がり込んだ、異空間の男は倒れ込む、割れた花瓶、流れる赤い血、誕生祝いの翌朝か、いつもの朝食、出掛ける準備の二人、母と食事する主人公、こんなもの在ったかしらと、送りものたちの中から、一つの箱を取り出す、リボンで結ばれた箱、開けて見る主人公、ゆっくりと、蓋を開いて、何が、判らない、ドラマの終わり、歓待、主人公の投げた花瓶に依って助けられた、記憶喪失の女と娘からの贈り物、母のボーイフレンドの首では無いのか、あるいは、今度はしっかり始末しろと、毒とも、銃とも、ならば、消えたお父さん、これは母の仕業、采配、父親とは、記憶喪失の女と男の関係は、娘と男の関係は、娘の電話して居る先は誰、何者、知らず、私たちは、何かに采配されて、映画も、芝居も、監督とスタッフに采配されて、だが、逆に、撮られている映画に依って、芝居に依って、監督も、スタッフも、采配されていないか、映画を見る私たちも、映画に依って采配されて、だが、観ることに依って、私たちが、采配しているとも言えるのだ、映画を作り出すとは、こんな関係の全ての事、さあ、送られてきた、箱の中に、何を見る、おかっぱの少女たち、女たち、母、男は、この屋敷に住めない、父も既に居ない、上がり込んだ男も、直ぐに倒されてしまう、さて、この部屋の中に招かれた、私は、確かに、映画が終わり、招きは終わったか、いや、未だ、部屋の中に、今もって居るのでは無いか、障子の穴から覗かれながら、見ることの迷宮、見ることは何処にも辿り着けないのだ、危うい、危うい、私たち、
ⅩⅩⅩⅩⅩⅩⅩ「丸」を見る聴く、 『エイガニッキ』 SASHI-ハラダ 2018/12/23
部屋の中、詩、言葉遊び、独り言、洗面所の中だった、ドアの外から家族が、早くしてと、出るのを待っているのだ、父親が会社に出掛けていく玄関先、母と祖母、キッチンのテーブル、始まりの主人公は、部屋の中だろうか、現れない、路地での語らい、母と祖母と近所の娘、娘が家にやって来て、ベルを鳴らし、玄関の中、二階に声を掛ける、それでも返事が無いので、上がっていく、布団の中で寝て居るばかりの主人公、きっと布団の中に入ってくると主人公、入らないねと娘、見詰める娘、仕事に出掛けるのでは無かったか、主人公を誘ったのは、共に出掛けるのでは無いのか、だが、結局、布団の中に、裸の二人、布団から起き出す二人、背中の娘、振り向いて、そのままに止まってしまう、語り続ける主人公、が、娘の視線の先、知らず、己も手を指さしながら見詰めやはり止まってしまう、部屋の中、黒い球体、幻想、錯覚、現実、判らないのだが、そこに戻った父親、実はリストラで一ヶ月も前に退職して居たのだ、二階に上がり、寝て居る主人公に、顔を合わせられないままに、語り出す、この仰角のカメラ、背景の青い空と白い雲の群れ、この瞬間、父親が、部屋から飛び出して、外にあるごとく、素晴らしい、壁の張り紙なのだが、かくて、語られる失業の話し、漸くに、振り返り、娘をも見いだして、来ていたのかと、が、動かない二人の視線の先に、父親も嵌まっていく、止まってしまう、家に戻った祖母と母、祖母が二階に、この様子に驚いて降りてきて母に語りかける、見てはいけないと、何も判らないままに、警察に連絡、事件なのか、祖母はハッキリ伝えられない、母も見に行きたいが、祖母が必死で止めるので、やって来た警察官たち、何事ですかと、何も判らないのだと母、それではと、一人の警察官が、二階に、何事かと、入り込み、理解できないままに、彼もまた視線の先を見詰めたままに、止まってしまう、何時までも戻らない上がった警察官に苛立ち、今一人の警察官が、二階に現れた、困惑、止まっている仲間に語りかけ、触れようとまたしても視線の先、止まりながらも、横の警察官と重なって、二人の警察官は横倒し、そのまま止まってしまう、かくて、母の苛立ちは募り、警察も応援隊を、刑事が母を差し止めて、二階に、困惑、この止まってしまった人々の姿に、何も出来ずに、倒れ込んだ、警察官の腰の銃を手にしようと、瞬間、銃弾が、事件を何処で知ったか、マスコミの記者二人が家の向かいの高台から覗く、二階の様子が見えるのだ、カメラマンが撮影、銃撃の瞬間、この銃弾が、父親の首を撃ち抜いてしまう、血吹雪が舞う、一体何が、事件は解決、失業した父親が、子供たちを人質に立てこもり、警察官の銃を奪って自殺、が、主人公も、娘も、精神を病んで、何も判らないままに、失態の刑事は消えた、生き延びた警察官も、やはり主人公らと同様に、精神に異常が、かくて、母と祖母と主人公の兄が主人公の面倒を見ることに、一人では何も出来ない主人公、兄は外に暮らして居るが、介護のために手伝いに訪れて、しかも、娘の家族に対しては慰謝料を払わなくては成らない羽目に、母は元気に、拳をあげて、三人で頑張ろうと、何処か冴えない空回り、マスコミの、記者の一人は、執拗にこの事件に拘り、撮られた写真から、他殺だと断定して記事を書く、が、上司は、警察で結果が出ているのだから、誰も取り合わないと、カメラマンも、何処か冷たい対応、一人記者ばかり、煩悶、何を見ているか、主人公の視線、相変わらずに、何かに捕らわれているのか、介護の祖母は次第に痴呆に、そして、死、いよいよ全ては母に、そこに疑問を持つ記者が写真を手にして、他殺だと、が、母は、今更に、こんなものと苛立ち怒るばかり、何の解決にも成らない、記者は、警察を辞めた事件の時の一人の元警察官を追う、が、何も判っていない、殴りつけるばかり、記者の調査の最中、車いすの男、やはり、同じ時間に、何かを見ていたらしい、そのまま精神を病んで、路地には、浮浪者然とした男がやはり止まっている、事件との関係は、一体、何が、母は戻った兄を抱き留めて、ありがとうと、他に当てが無い、娘の家族は理解を示してくれていると、娘と主人公の結婚話、労りの兄と娘の姉妹か介護の娘か、仲良く二人を見守る二人、今まで孤独だった兄に、ガールフレンドが、祖母も兄にはだれも居ないと嘆いていた、調査を続ける記者の苛立ち、不安、不満、怒り、事件の家に、兄が居合わせて、写真のことを他殺の事を語る、兄の驚き、が、記者の怒りの暴発、母は記者に写真を見せられて罵って居たが、その後には、この間は済みませんでしたと、記者には謝っていた、だが、何も出来はしないままに、母と兄は、この写真から、何かを始められるか、記者の孤独な叫び、正義の叫び、滑稽なばかりではないか、そんな怒りの記者の前に、主人公が、彼は狂気とも、捕らわれた視線のままに、この記者に、襲いかかる、ナイフを片手に、記者は倒れ、主人公は押さえ込んで、ナイフが記者の顔の前に、上下でにらみ合う二人、また、そこに、詩が、言葉の遊戯が、主人公のモノローグが、さてだが、この視線の集中、これって映画そのものでは無いのか、皆が、止まって、見詰める世界とは、しかも、何やら幻を見るのだ、まさに錯覚の世界、この世界に、誤魔化されて、動けない、いや、填まり込んで仕舞う人々、これは政治かも宗教かも知れない、こんな間を、場を、時空間を刑事が許せるはずも無い、権力に取っては、正常にビジネスライクに生きて欲しいのだから、しかし、その構造を判って撃っても居ない刑事、結果権力の采配の中、記者は、正義を、真実を語る、まやかしを暴かんと、だが、自殺か他殺かなどでは無いのだ、この構造を、見ることの仕組みを、填まり込んでいく仕掛けをこそ解き放たなくては、ラストはだから、知性や正義に対する、映画と云う構造からの反撃なのだが、記者を刺してなんに成る、己の視線をこそ、いや、見る聴く感ずる、己の在処こそを撃て、だから、主人公のラストの視線は、映画を見る、私たちを撃っていないか、このモノローグは、始まりから、全ては始まりのモノローグの世界とも、こんなモノローグを撃て、主人公の視線に撃たれながら、