「かじ」
よしはらきよみ
わたしぐっすりねてしもとった
おねえちゃんもおとうさんも
よこでねている
おかあさんがどたどたとはいってきて
『きよみ おとうちゃん おねえちゃん
はよきよ かじやで』
おおきなこえでどなった
わたしは ぱっと目をあけると
おへやがまっかになっとった
けむりがいっぱいはいってきた
へんなにおい
バリッバリッバリとおとがしている
おとうさんが大きなこえでわめいとった
おかあさんもきちがえみたいになって
ないかいうとった
なにいうとるかわからへん
おとうさんはわたしをおんぶして
かいだんをおりてくれた
おかあさんはおねえちゃんをおんぶして
おりていった
せっかくしたへおりたのに
おねえちゃん
またひとりで上にいきようねん
ゆめみとんかしらんけど
おとうさん あわてておねえちゃんをつれにいった
わたしらねまきのまま はだしのまま
せやけどランドセルだけ手にもっとった
おかあさんあんたらここでいいよいうて
かじのなかにはいっていった
もえてるへやのなかにはいっていった
わたしのふくやらにもつを
かかえてでてきた
つぎに「またいってくる」いうて
いこうとしたら
しょうぼうしょのおっちゃんが
おかあさんをとめた
わたしは
からだがふるえてとまれへん
ドキドキして
からだまでかじいってるみたい
じぶんのいえがもえてるとはおもわれへん
山みたいなろうそくがもえてる
やねのうえがぼそぼそおちている
ひのこがゆきみたいにあがっていきよう
じっとみとったらなみだがでてくるねん
さむうてふるえるのに
かおはものすごくあつい
わたしのつくえがもえている
あのねちょうももえている
わたしのふくもたからものも
みんなもえている
なみだがいっぱいでてきてとまらへん
しょうぼうの人がいっぱいきて
ホースでみずをかけてくれた
ものすごいはくりょくやったけど
だんだんひがきえていった
*
みんなこうかいどうで
とめてもらうことになった
ひはきえたけど
なかにはいったらあかん
こうかいどうの二かいにあがって
すわっても
かじのことばっかりおもいだす
となりからひがもえてきたんや
うちはひのようじんをちゃんとして
ねとっただけやのに
となりのいえのひとかじになったとき
けんかしとったみたい
はじめのほうは
ノックするおとがきこえとった
つぎにガチャンと
ガラスのわれるおとがきこえとった
なにがあったんやろな
*
おとうさんとおかあさんが
はなしているからねられへん
「これからどないしたらええんや
いえもおかねももえてしもうた」
「どこでねるんや
もうすぐおしょうがつやいうのに」
おとうさんもおかあさんもないている
わたしもなけてなけてしょうがない
おとうさんがわたしに
「また おとうさん
がんばってはたらくからなかんとき」
いうてるくせに じぶんもないとう
おとうさんのだいくどうぐも
おかあさんのないしょくのどうぐも
もえてしもうたのに
「いなかへかえるか
いなかのがっこうへいくか」
わたしはいや
ランドセルをまくらのとこにおいて
ねようとおもったけど
ねられへん
ほんまにわたしらどうなるんやろ
これからどないしたらええんやろ