「サーカス」 中原中也
幾時代かがありまして
茶色い戦争がありました
幾時代かがありまして
冬は疾風吹きました
幾時代かがありまして
今夜此処でのひと盛り
今夜此処でのひと盛り
サーカス小屋は高い梁
そこに一つのブランコだ
見えるともないブランコだ
頭倒さかさに手を垂れて
汚れた木綿の屋根のもと
ゆあーん ゆよーん ゆやゆよん
それの近くの白い灯が
安値やすいリボンと息を吐き
観客様はみな鰯
咽喉のんどが鳴ります牡蠣殻かきがらと
ゆあーん ゆよーん ゆやゆよん
屋外やがいは真ッ暗 暗くらの暗くら
夜は劫々こうこうと更けまする
落下傘奴らっかがさめのノスタルジアと
ゆあーん ゆよーん ゆやゆよん