運動会昔も今も椅子並ぶ 横山徒世子
「雪」 古川時夫
雪は降る
音もなく降っている
色褪せた屋根
枯芝に
たいらに降っている
雪は降っている
私の足跡を
たんねんに消し去り
ただしんしんと
降っている
白杖の女が
車に轢かれた
道の上を
何事もなかったかのように
雪は降っている
「涙」 小林弘明
机の引き出しを開けると
若い娘の顔が覗く
名は金正美といい
裾の赤いチマチョゴリを着た
華やいだ写真である
「チョンミ、チョンミ」と自己紹介した
彼女は到着早々に
チマチョゴリに着替えて
大きな白鳥のように羽ばたいて見せた
そんな彼女が一篇の詩作品をめぐって
思わず涙してしまった
明るい女子大生の揃った合評会の席上
予期しない雲行きとなった
何かが彼女の涙腺に触れたらしい
涙 滂沱
彼女が担当した詩作品は
名前がいくつもあって
どれが本当の名か? という
在日韓国人の心情を吐露したもので
その上ライのため
もう一つ名前が重なってくるといった内容であった
彼女の胸の中に
突然悲しみが湧いて出たらしい
しばらくは無言で嗚咽をこらえてから
また明るい顔に戻って
「すみません 感想はあとで述べます」
と小声で言った
思わぬ事態に当の作者も大慌てで
「もういいです、ありがとう」
と何べんも繰り返した
外は12月の寒波が寄せている
会場は時ならぬ彼女の涙で
一段と清々しくなって
澄明な春のうねりのように温もりに包まれた
ぼくは時々引き出しの中の彼女を眺めることにしている
札幌国際芸術祭
札幌市では、文化芸術が市民に親しまれ、心豊かな暮らしを支えるとともに、札幌の歴史・文化、自然環境、IT、デザインなど様々な資源をフルに活かした次代の新たな産業やライフスタイルを創出し、その魅力を世界へ強く発信していくために、「創造都市さっぽろ」の象徴的な事業として、2014年7月~9月に札幌国際芸術祭を開催いたします。
http://www.sapporo-internationalartfestival.jp/about-siaf