全国の原発の再稼働・審査状況
7年前の東京電力福島第1原発事故以降、原発を取り巻く環境は大きく変わった。政府は規制を強化したうえで原発を「重要なベースロード電源」と位置づけ、再稼働を推進してきたが、再稼働した原発は5基にとどまる。この間、再生可能エネルギーの普及と価格低下が進み、将来は「主力電源」となる可能性が出てきた。電力会社にとって、原発の位置づけは揺らぎはじめている。【片平知宏】
関西電力は2017年12月、大飯原発1、2号機(福井県おおい町)の廃炉を決めた。福島原発事故を踏まえ、原子力規制委員会は12年に新規制基準を策定。再稼働には耐震補強や津波対策など安全対策が必要となり、1基当たり1000億円超のコストがかかる。30万〜50万キロワット級の原発の廃炉は震災後に6基あったが、100万キロワット級の大型原発の廃炉は初めて。原発再稼働は採算が合わなくなっていることを印象付けた。
14年7月の九州電力川内原発1、2号機を皮切りに電力4社の7原発14基が規制委の安全審査に合格したが、再稼働は15年8月の川内1号機など計5基にとどまる。政府は30年度に電力供給の20〜22%を原発でまかなう目標を掲げる。達成には30基程度の再稼働が必要だが、国内40基のうち16基は再稼働申請を見合わせている。比較的古い原発の再稼働コストが重く、電力会社が申請に二の足を踏んでいるのが実情だ。
◇伸びる再生エネ
原発再稼働が進まない根底には、電力供給の構造変化がある。主役は太陽光や風力、バイオマスなどの再生可能エネルギーだ。政府は12年7月、再生エネを電力会社が一定価格で買い取る制度(FIT)を導入。その結果、電力供給に占める再生エネの割合(水力も含む)は10年度の9.6%から16年度は15.3%に拡大した。
再生エネの発電コストも低下し、発電事業用の太陽光の買い取り価格は1キロワット時当たり40円(12年度、出力10キロワット以上)から18円(18年度)に低下。政府は30年に買い取り価格を太陽光は7円、風力8〜9円にすることを目指している。
経済産業省の有識者会議は15年、原発の発電コストは「10.1円以上」だと試算した。15年時点では他電源よりコストが安いが、30年には再生エネが下回る可能性がある。
再生エネには送配電網の整備や発電量の安定性といった課題が指摘される。しかし、40年までに世界全体の再生エネへの投資は800兆円に上るとの試算もあり、課題解決へつながる可能性が高い。巨額投資に伴う再生エネの技術革新と急速な普及による「主力電源化」は世界的な潮流になっている。
「原発のリスクはもはや民間企業単体では負担できない」(電力大手幹部)。福島原発事故後、電力業界からこんな声が漏れるようになった。
原発事業は立地計画から廃炉まで約100年を費やし、建設・廃炉費用は1基当たり約5000億円とされる。それでも1基当たり年間数百億円の燃料コストがかかる火力発電よりも維持費がかからないのがメリットとされてきた。
しかし、16年の電力小売り自由化で電力事業は独占から競争の時代に移り、電力大手は長期的な販売計画が立てにくくなった。電力会社の意向に反し、地元自治体や司法の判断などで原発が停止させられる可能性もあり、「原発に巨額の費用を投じるのはリスクが高すぎる」(電力大手幹部)状況だ。
福島原発事故の廃炉・賠償責任を負う東京電力ホールディングス(HD)は、建設作業がストップしている東電東通原発(青森県東通村)を巡り、他電力や重電メーカーとの共同事業体を設立することを検討。まずは候補企業との検討会で共同事業を進めるための課題を整理する方針だが、はやくも「国に原発事業の環境整備を検討してほしい」と国頼みの声が上がっている。
◇新増設可否、政府あいまい
経済産業省は昨年8月から、国のエネルギー政策の基本方針を定める「エネルギー基本計画」の改定に向けて有識者委員会で議論を進めている。政府は2014年の基本計画では、原発の新増設・建て替え(リプレース)について可否を判断していない。電力会社や重電メーカーは認めるよう要望しており、政府の判断が注目される。
原発業界は「原発技術や人材の継承が必要」との理屈を足がかりに、政府に新増設の容認を求めている。しかし、福島原発事故と被害の大きさを目の当たりにした国民は原発に厳しい目を向けており、政府は原発新増設に対する態度をあいまいにしたままだ。
政府はこれまで原発が必要な理由として「脱化石燃料」「安価な電力」「地球温暖化対策」などを挙げてきた。しかし将来、再生エネがその条件をすべてクリアする可能性がある。原発と再生エネをどう位置づけるのか、整理が必要になりそうだ。