日本へ輸出するために製造された1袋25キロのバターピーナッツ
先日、友人がスナックで、おつまみとして出された柿ピーを食べていると、「中国産のピーナッツは毒まみれだからやめておいたほうがいい!」と親切なお客さんに忠告されたという。カウンターにいた他のお客さんは怖くなったのか、ピーナッツを避けて柿の種ばかり取り始めた。店のママは豆だけ残っている小皿を見て迷惑そうな表情を浮かべ、なんとなく場の空気が悪くなったらしい。その客が出されたピーナッツを中国産と断定した根拠は分からない。しかも、“毒まみれ”とは穏やかじゃないが、中国産ピーナッツにはそう思い込まれてしまう事情がある。
自然界最強の発がん性物質
理由はアフラトキシン。「自然界最強の発がん性物質」とも呼ばれ、急性毒性よりはむしろ、慢性的に摂取すれば肝臓がんを発症するリスクが高くなると、国際的なリスク評価機関のFAO/WHO合同食品添加物専門家会議(JECFA)でも注意を呼びかけている。
実際、平成27年度から平成29年度における厚生労働省の輸入食品等の食品衛生法違反事例を確認すると、大粒落花生や炒ったピーナッツなど、中国から輸入されたピーナッツ製品で87件の違反があった。全ての違反理由が、国が定めた基準値を超えるアフラトキシンが検出されたことによるものだ。
しかも、平成27年度は20件、平成28年度は43件、平成29年度は34件と過去3年で増加傾向にあるから心配だ。違反の目立つ大粒落花生は、殻付きのまま販売される商品が多い。粒の大きなものは柿ピーなどにも使われ、小粒や揚げたピーナッツは、主に菓子類に使用されるという。
中国の一大生産地・山東省の落花生農家と工場へ
なぜ中国のピーナッツに猛毒が発生するのか。そのワケを探るべく、中国・山東省の日本向け落花生の生産地を訪れた。同省は中国の落花生生産量の約25%を占めると言われている一大生産地。写真は、同省栄成市にある落花生農家の母子が仕事をしている光景だ。ここでは、4月に種をまき、10月ごろに収穫を行う。
栄成市を訪れたのは、9月下旬だったため、農家にいた中年女性と老女の親子は加工用の落花生を先に収穫して、殻付きの落花生を弦から取り除く作業をしていた。
「とれたての落花生は生で食べても美味しいのよ。これは納品しないといけないから、地面で10日ほど天日干しするわ。栄成は落花生農家がたくさんあるのよ。見渡す限り畑だからね。農薬は4月に少しだけ使うわ。だから、ほとんど無農薬なの。だって、広大な畑にいちいち農薬を使うようなお金を田舎の農家が持っているわけないじゃないの。ここらへんの落花生は、ほとんど日本の製菓会社に買い取ってもらう分だから、最初に少しだけ農薬を支給してもらって使うのよ。農薬を買うお金がある農家なら、収穫量があがるからたくさん農薬をまくはずだわ(笑)」
芸能人の誕生日をよく知っている漫談家とそっくりな中年女性は、そう言って笑った。中国の畑では、家庭ゴミから農薬の空瓶、点滴パックなどありえないものが捨てられているが、栄成市の落花生畑はどこもキレイだったことが驚きだった。
落花生農家のすぐ近くに、日本の製菓会社へ落花生を輸出している企業があった。
総経理(社長)に話を聞くと、この会社は栄成市内でも最大の落花生工場を所有しているという。本格的な収穫時期の前に訪れたこともあって、工場はあまり稼働していなかった。ちょうど良いので、工場を見学させてもらうことにした。
カビ毒が中国産ピーナッツに発生する本当の理由
「この工場では年間1万2000トンのピーナッツ製品を世界へ輸出しています。日本の企業にも毎年4000トンのピーナッツを送っています」
落花生を選別する機械や、バターピーナッツの製造機を見学しながら、中国人社長は親切に教えてくれた。
中国で様々な食品工場を見てきたが、このピーナッツ工場はすごく清潔だ。カビが生えるような不衛生な要因は全く見受けられない。
この工場では、日本向けのバターピーナッツも落花生から殻を取って加工しているという。商品はキレイに袋や段ボールに詰められ、衛生的な問題は見当たらなかった。
畑や加工場に問題がないのに、なぜ、アフラトキシンのようなカビ毒が、中国産のピーナッツに発生するのか。中国人社長はこう答えた。
「それは収穫してから乾燥させる期間の問題です。落花生は畑で収穫してから天日で干しますが、その期間が長いほど落花生の殻は白くなる。乾燥の度合が足りないと黒ずんでしまう。乾燥の足りない落花生はカビます。これがアフラトキシンを発生させる原因です。我々の会社では、契約の落花生農家へ規定の農薬を与え、収穫した落花生の乾燥もきちんと管理しています。さらに全て市内で収穫したものを使用しています。山東省の青島あたりでは、様々な農家の落花生をかき集めてきて日本へ輸出しているそうですが、そうした管理の行き届かない落花生にカビが生えています」
船での輸出中にカビが発生しやすい
社長の熱弁は止まらない。
「日本への輸出手段は主に船です。船内は湿気も多く、カビが発生しやすい環境です。だから、きちんと中国国内で落花生を乾燥させる必要があるのです。我々は独自の検査機器でアフラトキシンや残留農薬のチェックをしている。自社のチェックで問題が出たときはその農家からのピーナッツの購入はしません。これくらいしないと、安全な商品を日本へ送ることができないからです」
収穫量が多すぎて、十分に乾燥させないままピーナッツを売ってしまう農家も
工場を後にして、別の落花生農家の男性にも取材したが、やはり中国産ピーナッツでカビが発生する原因は、乾燥不足だと語っていた。全ての落花生農家がきちんと乾燥させるわけではないという。
収穫量が多すぎて、決められた納期までに十分に乾燥させることができないまま、業者へ落花生を売ってしまう農家も少なくないそうだ。それは、中国が日本をはじめとした国へ大量の落花生を輸出しているため、農家に求める量も多くなるからだ。こうした事情によって、船積みされた中国産ピーナッツは移送途中でアフラトキシンが発生してしまう。
FAO(国連食糧農業機関)の統計(2014年)によると、世界の落花生生産量(殻付き)は、約4232万トン。生産量第1位は中国の約1570万トン。2位のインドは約660万トンなので、中国はダントツの生産量を誇っている。
日本はどうか。一般財団法人「全国落花生協会」のHPを見ると、日本の生産量は1万5500トン(2016年)。千葉県産が8割近くを占め、次に茨城県が多い。この2県で約9割の国産落花生が生産されているという。同協会の統計では、日本は2016年に3万1769トンのピーナッツ(むきみ)を輸入している。内訳は中国が1万2126トン。米国が1万1865トンで、ほとんど米中からの輸入に頼っているのが現状だ。
収穫前や加工中よりも後に生じる問題の危険性こそ、中国産ピーナッツが怖い本当の理由だろう。実は、輸入食品等の食品衛生法違反事例をよく見ると、米国産のピーナッツや木の実類もアフラトキシンが検出されており、積み戻し措置になっているケースが多い。恐らく、中国同様、船による輸送でカビが生えてしまったことが原因と推測できる。国民の安全を守るためにも、政府が中国や米国に、輸送時における衛生管理も呼びかけて欲しいものだ。
上の写真を見て欲しい。左はしっかり乾燥できた落花生だ。右は中国の市場で見たものだ。ところどころ、黒ずんでいる部分もあるため、カビが生えている可能性がある。とにかく、殻付きの落花生を選ぶ際は、できるだけ殻の白い商品を選んで欲しい。黒っぽい殻は避け、あとは虫食い痕のある落花生もカビが生えやすいので選別して食べないようにしたほうが安全だ。
アフラトキシンは熱に強く、炒りピーナッツやバターピーナッツでもアフラトキシンは検出されている。素人が見分けるのはほぼ不可能に近い。濃い緑など、変色しているピーナッツは食べないことだ。いくらなんでも変色しているピーナッツを食べ続けるモノ好きも少ないだろう。
ただ、国産ピーナッツでアフラトキシンが検出された例はないという。中国産ピーナッツは、安価で美味しいものも多いが、抵抗力の高い成人はともかく、子どもやお年寄りは控えたほうが賢明かもしれない。