「ブルックナーは、なかなか自信がもてない人でしたね。交響曲もなんども書き直しています。そもそも完璧を、絶対普遍を求める人だったのです。カトリック信者ではありましたが、彼の場合、信仰心だって[制度的なものではなく]普遍的なものです。[世俗的な音楽である]交響曲の第7番に、自作の宗教曲《テ・デウム》から引用してもいますよ。「non confundar in aeternum 私がとこしえにおじ惑うことのないように」と歌われる部分の音楽です。日本でもバッハをやるでしょう。バッハだって、とても信仰心篤い作曲家です。でも、キリスト教徒でなければ理解できないなんてことはありません。キリスト教徒であれ、ムスリムであれ、ユダヤ教徒であれ、仏教徒であれ、その深い信仰心は、より良い世界の希求は、誰の心にも訴えかけるものです。」
――ミサ曲では、最後に「Dona nobis pacem われらに平和を与えたまえ」と歌われます。現下の世界状況を考えると、これはとくに切実に響きます。
「こう言ってよければ、世界はいま関節が外れています。気候変動。戦争……。ブルックナーのミサ曲でそれを止められるわけではありませんが、音楽は人間を高めます。ひとたび聴けば、別の人間になるのです。Dona nobis pacemは一つのメッセージ。信仰を持たない人でも、それを聴けるわけです。人々に届くかもしれない一個のアピールにはなります。」 (ローター・ケーニヒス @春祭サイト)