先日の数年ぶりの歌舞伎があまりに楽しかったので、またまた行ってきてしまいました、新春浅草歌舞伎。
今回は第二部で、『毛谷村』、『口上』、『勧進帳』です。
いやぁ、ほんとにほんとに楽しいですね、生舞台は♪
2500円ぽっきりでこんなに楽しい思いをさせていただいて、申し訳ないくらい。
さて、私は歌舞伎素人なので(まだ5回目)、今回の演目も全部初見です。
まず、『毛谷村』。
これは、すんごい楽しかった。
親の仇討ちのために男装をして旅している女の子が、その仇と勘違いして襲った相手は、剣はとっても強いけれど心根の優しい田舎侍で、そしてなんと親が決めた許婚でした☆・・・って、なんですかこの少女漫画のようなストーリーは!
何が良かったって、壱太郎のお園ちゃんが可愛いのなんのって。
『寿曽我対面』の十郎が色っぽくて可愛かったので(だから男に見えなかったのだが)、今回は女形ということで期待大で行ったら、期待を遥かに超えて良かった。
気が強いのに、六助が許婚だと知った途端に急に意識して可愛らしくなっちゃって、女らしく頑張ろうとするけど家事とか全然ダメで、でも剣は強くて…という役がぴったり。笑わせるポイントもよく心得てるし。
そんな感じなので、薄味な愛之助と妙にお似合いで、許婚以外の何物にも見えず、とても可愛いカップルでした^^
あと、斧右衛門の海老蔵が、「海老蔵ってこんな演技もできるのね」と、ちょっと新鮮。端役なのに場違いに目立った演技をしてしまうのかと思いきや、ちゃんとその辺の農夫に見えてるし(メイクのせいもあるが)。他の配役で観たことがないので普段どういう演出なのか知らないのだけれど、ここは笑い担当ということでいいのよね?あの眉毛だし。
お園の母親役の吉弥さんも、良かったです。
お次は、海老蔵による『寿初春 口上』。
要は、新年の挨拶です。
『毛谷村』での冴えない農夫役から一転して、裃姿で華やかにご登場。こういうギャップは楽しい。
海老蔵の口上は『伊達の十役』のときに一度観ていますが、この人はほんと上手いですね、こういうの。そつが無すぎて少々イヤミな感じもなくもないですが、口上も一種の芸であることを考えれば、やっぱり上手なので観ていて楽しいです。
しかし、ああいう口上を淀みなく流れるように述べられる歌舞伎役者達ってすごいなぁ。ていうか『勧進帳』みたいな日本語をすらすらと噛まずに読み上げられること自体、すでにひとつの芸術に思えてしまう。
海老蔵が憧れの弁慶役を初演したのが14年前の浅草歌舞伎で、そのときどれだけ緊張したかという話も面白かったです。
そうそう、市川家のお家芸「にらみ」も、披露してくれました。
昨年11月のインタビューでは三が日のみと言っていたのですが、結局全日程でやることにしたようです。12月の勘三郎さんの死や團十郎さんのご病気とか、関係あったりするのかな…。
さて、この「にらみ」。どうやってやるのかと興味津々だったんですけど、「さぁ、やりますよ」という風にちゃんと準備を整えてやるんですね。へぇー。正月に成田屋に睨まれると一年間無病息災で過ごせるとのことなので、観られてよかったです。個人的には「にらみ」そのものよりも、その前に片袖をばっと脱いで片膝を立てる所作がとても綺麗で、見惚れました。
で、最後は『勧進帳』。
私は歌舞伎を観る前は内容を予習してから行くのですが、今回は有名なストーリーだしと甘く考えていて、昨夜遅くになり「ま、かる~く予習でも」とネットで調べたところ、なんだこりゃ!?と絶句…。台詞の日本語が、まっっったくわからん。『寿曽我対面』もそうだったし、歌舞伎では珍しいことではないけれど、『勧進帳』がそれ系だったとは…油断した……。
別に全部わかる必要はないけれど、全然わからないのはさすがにまずすぎる…と、真夜中に慌てて予習予習予習。
その甲斐あり、とても楽しむことができました。
さて、感想ですが。
海老蔵の弁慶。良かったのですけど、先日から海老蔵ばかり立て続けに観ていたせいか、この頃にはちょっと食傷気味になってしまっていたのです。
が、ここで思わぬ嬉しい誤算が起きました。
愛之助の富樫が、、、なんかイイ!
まじめで心根の気持ちいい役人ぶりが、よく表れてる。
『幡随長兵衛』から続いていた私の愛之助の印象は「顔も声も良いけど、如何せん個性が薄すぎ」というものだったのですが、今回はこの薄味ですっきりした感じが、暑苦しい海老蔵の弁慶ととても合っていて良かった。動と静、火と水、いい感じ。
山伏問答、迫力あってカッコ良かったなー。いつまでも観ていたかった。二人の掛け合いが、ゆっくりしたスピードから、次第に速さとテンションを増していくあの緊迫した高揚感といったら!(別ジャンルですが、オペラ座の怪人でpoint of no returnの場面が一番好きなのと同じ感覚です。)
この二人は年齢が近いので、バランスもよかったです。
というわけで、とっても涼やかで素敵な富樫でした。
四天王も良かったです。松也・壱太郎・種之助が、『長兵衛』のチンピラ子分のときと同じく、若々しく血気盛んで観ていて楽しかった。義経様をお守りしなければ…!という悲壮感もちゃんと見られ。
義経と言えば、孝太郎さんの義経がまた、とても良かったんです。なんていうのか、“周りの人間達と何かが違う”品があるんです。といって浮世離れしすぎてはおらず、女々しくもなく。すごいなー、こういうカリスマ性も出せちゃうんだ、この人。
この演目ってどんなに弁慶と富樫が素晴らしくても、義経に魅力がなかったら、絶対に成功しない演目だと思うんですよね。台詞は少ないけれど、ここで起きている全てのことはただ義経一人のために起きているわけで、常に中心にいるのは義経です。だから義経役はとっても重要。
海老蔵の弁慶は、元来が荒くれ者の弁慶らしさが良い意味で出ていている一方で適度に肩の力も抜けていて、事前にyoutubeで観ていたオペラ座公演よりも良かったです。
ただ私は、もうちょ~っとだけ無骨な弁慶の方が好みかな。この弁慶はなんか要領がよさそうで^^;
――そんなことを思いながらラストの場面を迎えた私でしたが。
幕外の花道での、天を見上げるあの表情、、、素晴らしいですね…!
関を無事切り抜けられたことに対する安堵。
富樫に対する、そして神仏に対する感謝。
けれど、この先に義経を、そして自分を待ち受けているであろう運命も覚悟しているような。
静謐で清廉な、けれど胸が苦しくなるような表情でした。
そしてその直後に、あの迫力ある飛び六方(三階席だから初めしか観られなかったけど)。
このギャップが実にいい。
こういう静と動の使い方は、現代劇にない、歌舞伎ならではの面白さだと思います。
カッコよかった。
以上。
一部に引き続き、二部も大満足な新春浅草歌舞伎でした♪
いつか再び海老蔵&愛之助が勧進帳をやることがあったら、絶対にまた観に行きたいと思います。
【追記】
海老蔵の弁慶についてふと思ったんですが、この何でも上手にこなして器用そうな弁慶が、時勢を読んで頼朝につくことをせず、明らかに劣勢な義経に最期まで従うっていうのも、案外胸を打っていいかも。そういう弁慶もアリかな、と。
そういえば、だいぶ昔に読んだ司馬遼太郎の『義経』の弁慶が、そんな感じだったような。司馬さんの弁慶、好きなんですよ、私。鎌倉方からの女スパイを味方に引き入れるために伊勢三郎に抱かせたり、そんな手段を平気でとる弁慶。
もっともこの司馬弁慶も海老弁慶よりは無骨だったので(自分で指示しておきながら、あっと言う間に女を落とした三郎を苦々しく感じたり)、やっぱり海老弁慶ももうちょい無骨な方が私は好みかもしれんです。