日本人ならその名前だけで血が騒ぐ忠臣蔵!
年末でございますねぇ*^^*
今回初見でしたが、仮名手本がこれほど見所満載の演目とは嬉しい驚きでした。
先月の『義経千本桜』といい、こんな狂言を三年連続で生み出した江戸時代ってすごすぎる。
※21日(1階6列目)、24日(大序&三段目&四段目のみ幕見)
【大序 鶴ヶ岡社頭兜改めの場 / 三段目 足利館門前進物の場・松の間刃傷の場】
初見なので、幕開きの儀式性の何もかもが楽しくて仕方がなかったです。
口上人形、柝の音(数えたら47より全然多かったですが)とともに長い時間をかけて開く定式幕、置鼓、東西声、役者の人形身、すべてが夢のよう。
台風で倒れてしまった八幡宮の大銀杏を久しぶりに見られたのも嬉しかった。
そして名を呼ばれて目を開けた菊五郎さんの判官の美しいこと。。。
江戸っ子な菊五郎さんも素敵だけれど、おっとりと品のある菊五郎さんもほんといい。
判官が一介の侍ではなく大名であることが、立派な武士であるようにとちゃんと育てられたんだろうなぁということが、伝わってくる。
そんな判官だから、あそこまで追い詰められる姿が可哀想で…。堪えに堪えた「しばらく…」の声が悲痛で…。
そしてそういう判官だから、「お家取潰しがわかっていながら刃傷に及ぶなど、城主としてどうなん?」という疑問を殆ど感じさせない。
家臣もきっと彼と同じ思いであることがわかるから。
家臣がこの若い主を、心から慕っていることがわかるから。
主も家臣もどこか朴訥で、不器用で、だけど真っ直ぐで、武士の清らかな精神を当り前のものとして持っている、塩冶家とはそういう家なのでしょう。
梅玉さんの若狭之助。
短気でイライラしてる梅玉さん、新鮮ですんごい楽しかった!
あの柔らかな声で「ちと心悪うござる。……さほどではござらぬ!」
可愛い。。。
大序の爽やかな浅葱色の長袴もお似合いでした。判官の玉子色にしても、大序の衣装は可愛いなぁ。
左團次さんの師直。
素の左團次さんまんま?な、カラリと明るい愛嬌のあるエロ爺でした、笑。
ねっとりじっとり嫌味~な師直も見たかった気がするけれど、大名らしい品と貫録もあってよかった。うまいよねぇ。
花道から登場する顔世を舞台からただ一人無遠慮に見つめる好色そうな目、見てるだけでニヤニヤしてしまう。
そして始まるセクハラ攻撃。
って、、、ここまでセクハラだったとは
ち、乳揉んどる。。。
左團次さんは相変わらずカラリとやってるけど、デフォルトでエロ爺な雰囲気に芝雀さんの清純そうな雰囲気&肉感的な体つきが相まって、思いがけぬエロさに。。。
ひ、昼間から大名の奥方に屋外でこんなセクハラを受けさせるなんて、仮名手本ってすごい。。。
そしてふと思ったのは、本来の配役なら吉右衛門さんが師直をやる予定だったのよね、と。
うわ…、芝雀さんにセクハラする吉右衛門さん!
菊五郎さん&梅玉さんにネチネチ嫌味を言う吉右衛門さん!
観たかった!!!
あと、大序の判官の一度目の引込みで、兜を手にした判官が顔世にただ一度すっと視線を流すところ、雰囲気があってよかったです。
大序幕切れの菊五郎さんのおっとりしながらも凛とした表情も、とても美しかった。
ここの見得、御三方ともご立派!
それと、進物の場。松之助さんの伴内のエヘンバッサリ(今回は右足を出したらバッサリ)が、お上手で楽しかった。松之助さん、幹部昇格おめでとうございます!
【四段目 扇ヶ谷塩冶判官切腹の場・表門城明渡しの場】
通しで観ると、この四段目の空気って実に独特ですね。
切腹の場のひんやりと張りつめた緊張感と、城明渡しの場の由良之助の涙。
仇討ちの十一段目よりも遥かに『忠臣蔵』らしさを感じました。
ここでもやはり菊五郎さんの判官は美しかった。
死に臨む者の透明感と、胸の内の熱い思い。
畳の端に足先(ちゃんと右足だった)がついて、ふと顔を上げて花道の奥を見つめる目、切なかったなぁ…。
二度目の「力弥力弥」の少し高めの声と早めの言い方に、諦めきれない最後の切実な思いが滲んでいて、胸が痛くなった…。
そして、そして。
吉右衛門さんの由良之助
なんなのこれ!なんなのこれ!もんのすごく良かった!!!!!
先月の知盛があまりに凄すぎたので、まさかすぐ翌月に再びこれほどのものが観られるとは、正直思っておりませんでした。ご体調も万全ではないとのことでしたし…。しかし、素晴らしかった。。。
判官が腹に刀を突きたてた直後に到着して、花道で膝をついたときの表情!
城代家老の風格、けれどその強張った頬と目が表す心の動揺。
すごいぞ、吉右衛門さん。。。
そしてずっと抑えていた判官の感情が、由良之助の顔を見た途端に溢れ出て……。
ここの菊五郎さんと吉右衛門さんは本当に……、もう言葉で表せない。なんだろうこの満足感。。。
この由良之助と判官は、ちょうど史実と同じ、歳の離れた兄弟のような年齢差に感じられました。
死んだ判官の着物を整えてあげる由良之助の手の優しいこと…。
きっと判官にとって由良之助は最も頼りになる家臣であり、また兄のような存在でもあったのではないかな…。
評定で若侍達を諌める場面の吉右衛門さんも、ほんと大きい。
筋書で仰られているとおり、「この人に任せておけば大丈夫」という安心感のある由良之助。
心の中で何度「立派だなぁ…」と呟いたことか。
そして立派なだけじゃなく、情が深く、どこか色気まであるなんて。
ほんと吉右衛門さんって世界遺産だわ。。。。。
そして襖を払って現れる、ズラリと家紋が並ぶ千畳敷の迫力。
これこそ、この演目の要となる光景だと思う。
このためだけでも仮名手本は一度は一階席で観るべき。
舞台上の彼等と共にこの眺めを見て初めて、武士にとっての「お家お取り潰し」とはどういうことなのか、わかった気がした。
先祖代々続いた「家」が一夜にしてなくなった、その意味が。
その瞬間に立ち会うことになってしまった者達の想いが。
そしてその筆頭家老が、由良之助であるということが。
長い歴史の重みと、彼らの体温をともなった生活の思い出がひとつに重なる、観る者を感動させずにおかない名場面だと思います。
家臣達が去った後、二度と戻ることのない真っ暗な門の前で張りつめていた糸が切れたようにどっと膝をついたとき、手に触れた判官の刀。
その切っ先に付いた血を飲み、袖ごと刀を胸に抱き締める姿のなんと壮絶で美しいこと。
「さてこそ末世に大星が忠臣義臣の名をあげし 根ざしは斯くと知られけり…」すべてはこの夜に始まったのだ。
この夜の由良之助の孤独な決意が、涙を流し一人花道を歩くその姿が観客の心を捉えて離さず、十一段目まで続いていくのだと思います。
この場面も、やはり一階席から観たいところ。由良之助と全く同じ目線で、次第に遠ざかってゆく館の門を感じることができるからです。
彼が感じている江戸の夜の空気を私も同じ場所で吸い、その寂寥感を苦しくなるほど肌で感じる、そんな錯覚を覚えた幕切れでした(正確には江戸ではありませんが。ああ歌舞伎の世界観って面倒な)。
これを書いている今も、あの花道の由良之助が脳裏に焼きついて離れません…。
吉右衛門さんが四段目をされたのって、筋書によると18年ぶりなのですね。こんなにこんなに素晴らしいのに、なんともったいない。
まさか次回は18年後ってことはないですよね…!?(てか18年後って・・・・・・・・・)
この段は、若侍達もよかったです。
キレのある動きが綺麗でしたし、声もよく、血気に逸る様子がとてもよく出ていました。
あと亀三郎&亀寿が同じような衣装で並んでいる姿を見て、この二人ってやっぱり兄弟なんだなぁ、と。よく似てますね^^
それと梅枝の力弥も、若い少年の美しさと必死さが出ていてよかった。
菊五郎さんとのあやしくも悲しい別れも、吉右衛門さんとの息の合った親子ぶりも、文句なし。
先月とは全く違った雰囲気で、演じ分けも出来ていて素晴らしい。
梅枝はどんな役をやっても安心して見ていられるなぁ。この歳ですごいことだわ。
【浄瑠璃 道行旅路の花聟】
一転して、すべての元凶カップルの道行。
梅玉さん&時蔵さんも、色気があっていいですねぇ*^^*
先月の千本桜の道行カップルと異なり、こちらはそれは悲愴な感じ。勘平など道端で思い余って腹切ろうとするし。
実際、心境としてより悲惨なのは勘平の方だろうと思います。ひたすら一途に義経を追いかけている静と異なり、勘平は自身の軽率さが原因で、「自分がお側に付いていながら…」どころか側にさえおらず、しかもその理由が「色にふけったばっかりに」ですからねぇ。色男ならではの憎めない理由ではありますが、本人の自責の念は相当でしょう。
そんなちょっと目を離すとすぐに刀に手をかける勘平を、ぐいぐい引っ張っていくお軽が頼もしくも健気。
お軽は勘平が大好きなので、死んでほしくなくて必死です。切ない。。。
もっとも、本当はこのお軽こそすべての元凶なのですけどね。「大事なお仕事中には渡さないで」という顔世の言葉に従わずにさっさと手紙を渡しにきちゃったわけですから。
でもお軽からその事情を聞いていながら、深く考えずに手紙を判官に渡した勘平も勘平ですから、似たものカップルだと思います。
時蔵さんのお軽、勘平のことが好きで好きでたまらない感じが伝わってきて、とてもよかった。
歌舞伎の女方って、一見気が強いのに可愛らしい健気な女性が多いですよね。今も昔も男の理想なのでしょうか、笑。
でも決して暗くはなく、華やかで素敵でした
梅玉さんの勘平も、お軽にぐいぐい引っ張られっぱなしなのだけれど、伴内が来たときにはさっと彼女を庇うように後ろに隠すところなんて、すんごくカッコよかった
若狭之助、勘平、平右衛門と、今月は色々な梅玉さんが見られて、私は幸せです!
ああもう、梅玉さん大好き!
もちろん時蔵さんも大好き!
品と色気、万歳!
團蔵さんの伴内も、先月に続き抜群の安定感でございました♪
そうそう。幕が開いて吃驚したんですけど、この道行って春の夜の設定なのに完全に明るい昼間の背景なのですね
四段目の後でまた夜の景色は遠慮したいので嬉しいですけど、これほど思い切り設定を無視しちゃう演出も面白いなぁと思いました。鶏の鳴き声が二重に場違いに、笑。
でも夜明けの道行というのも観てみたいなぁ。
そういえば大序の黄色い銀杏も、季節感完全無視ですよね。話の時期は如月下旬なのに。銀杏といったら黄色だろう!その方が綺麗だろう!といったところでしょうか。さすが歌舞伎笑。
※夜の部の感想
あほちゃいますやろか。
久方ぶりにtwitter検索で歌舞伎座顔見世の評判でも見ようかと「歌舞伎座」と入れたら、三津之助さんの御訃報に関連して「歌舞伎座の呪い」という呟きのオンパレード。。。
ほとんどが歌舞伎座に足を踏み入れたこともないであろう人達の無責任な呟きとはいえ、一見人の死を悼んでいるようで、この状況を楽しんでいるとしか思えない呟きのなんと多いこと。。。
気持ち悪くなって、読むのを止めてしまいました。
古建築物フェチな私はもちろん歌舞伎座の建て替えには反対でしたが、こうして建て替えられて今では新しい一歩を踏み出している以上、「歌舞伎座の呪い」などという言葉は誰よりも亡くなった役者の方達が、誰より歌舞伎を愛し、その明るい未来を夢見ていた人達が一番望まない言葉であろうことくらい、考えるまでもなくわかります。
亡くなった当人が一番嫌がるであろう言葉を平然と世界中に向けて呟ける人達って、どれだけ無神経なのでしょう。
もっとも数時間後にはそんな呟きも大昔のこととなり、呟いた本人ももう忘れているのでしょうが(それがtwitter)。
どうせ呟くならそんな何の役にも立たない言葉より「松竹の呪い」とでも呟きなさいませ。その方がよほど現実的で、建設的です。
私がまともに歌舞伎を観始めたのは今年に入ってからなので、三津之助さんのことは詳しく存じ上げてはおりませんが、とても若くして亡くなられたのですね。先月の国立にも出演されていたとのこと…。ご冥福をお祈りいたします。
さて、最近更新が滞っておりますが、私は元気にしております。
嘘です。ひどい風邪をひいておりました。
だいぶよくなりましたが、今月の歌舞伎座の感想は、、、近いうちに、、、上げられたらいいなぁ、、、と思っております。
ではでは、ベッドに戻りまする。
乱文、失礼いたしましたm(__)m
みなさまもどうぞご自愛くださいませ。
先日のKバレエ以来通勤時の音楽はチャイコフスキーな私に、今年もロイヤルオペラハウスからクリスマスシーズンの案内が届きましたよ。
なんちゅう誘惑かいな。
ここ数年はこのメールが届くと、年末だなぁと感じます。
これとは別に毎年12月にはクリスマスeカードも届くのですが、そちらもいつもとてもセンスがいいので楽しませてもらってます。
このくるみ割り人形の案内も、ゴールドとホワイトで素敵ですよね*^^*
チケットは£5~。
あいかわらず安いですねぇ。
いいなぁ、ロンドン市民は。
来年はがんばって観劇代を節約して、また行こうかな。。
ロンドンで初くるみ割り人形。
お、なんだか楽しそう。
ミスサイゴンはそれまでやっていてくれるかしら。
仕事が片付かずにバタバタで退社し(そもそもお休みの予定だったのに;;)、オーチャードホールのカフェで牛のたたき丼を10分で掻っ込み、開演3分前に着席。
しかしオーケストラがあの旋律を奏で始めると、ほぼ条件反射で『白鳥の湖』の世界へ――。
この演目を観るのは7月のロイヤルバレエ団に続き2回目ですが。
そうなの!!!私はこういうジークフリートが観たかったの!!!!
仁左さまと同じで、熊哲も「客が何を観たいか」をよ~くわかってくれているお人。古典への敬意を決して失わずに、客に最大限の満足をくれる。
『ジゼル』のときに「王子系も案外似合うな」と感じたけれど、今回のジークフリートを観たら、案外どころか、その気品は王子様そのもの
やんちゃで可愛いマザコン王子。熊哲が踊ると、どんな役でも誠実そうに見えるから嬉しい。
登場時のブルーの衣装も、とっても似合っていました。単なる立ち姿も、重心が安定しているから本当にキレイ。
そして第三幕のソロの素晴らしさ!!!!!!ブラボー!!!!!!×10000回でございます。
なんだかこのヒトって観る度に若くなっているような気がする。。
それと、これはご本人も「怪我をしてから踊り方が変わった」と仰っていますが、今はどの踊りにもとても心がこもっていて、明るい場面の踊りでもすごく伝わってくるものがあって、なんだかそれを観ているだけで涙が。。
今回は彼が「バレエの母」とも呼んでいる演目なだけに、あの旋律で舞台で踊っている姿を見ているだけでもう泣いた。。。
そんな熊哲の舞台の唯一の欠点は、どうしても彼から目が離せずに他のダンサーの鑑賞が疎かになってしまうことですが・・・
今回はちがいました!
なぜなら荒井さんのオデット/オディールが、熊哲のジークフリートに勝らずとも劣らず素晴らしかったからです
そうなの!!私はこういうオデットが観たかったの!!!
その儚さ、でも姫としての凛とした気品。
ジークフリートへの切ない愛情、でも絶妙な人間味の薄さ。
オディールの方も、妖艶で、だけどすぐにパパンに相談にいく少女らしさもよく出ていて、イメージどおりのオディール。
そして、そんな表現力もさることながら、踊りのテクニックも軸がしっかりしていて素晴らしい。少しだけふらつかれているときもありましたが、些細なレベル。32回フェッテ(数えたことないけれど)も、ほとんどぶれず、綺麗でした。
私的には文句なしのオデット/オディール。
熊川さんも安心して踊っているように見えました。
キャシディさんのロットバルト。
体格がいいので、この役がとてもお似合いでした。リアル梟っぽい動きが不気味でよかった。
そして白鳥達が曲の高まりとともにロットバルトを追い詰めていくフィナーレは、ゾクゾクしてやっぱり最高!白鳥達が美しいだけに、ほんとコワい・・笑。この場面に限らず、今回もコールドは大変綺麗に揃っていました。
井澤さんのベンノ。
『ジゼル』でも思いましたが、この方も本当にいいダンサーですね~。
ジャンプが高くキレもあって、観ていて楽しい♪
ラストの結末は、舟→階段の違いはあるものの、ロイヤルとほぼ同じなのですね。『白鳥』のラストは色々なバージョンがありますが、私はこの終わり方が一番好きです。
オデットはプロローグと同じ花摘みの娘姿で(人間らしい表情と仕草に戻っている荒井さん、お見事でした)、ジークフリートと再会し、二人手を取り合って天国への階段をのぼり、抱き合って幕。
ロイヤルと同じく、白鳥達と紗幕で隔てる演出は、あちらの世界ということが一目でわかって、うまいなぁと思います。
衣装も装置も、センスがよくて素敵でした。
今回の席からはオーケストラピットのハープとオーボエ奏者がよく見えたのも、嬉しかったです。オーボエにあの旋律を奏でさせたチャイコフスキーは、ほんと神だと思う。。。それにこの主題以外も、『白鳥の湖』の音楽ってどの曲も全部素晴らしいのですよね。つくづく、バレエは生オケに限る。多少音が外れようが私はテープより断然生の音が好き。これを書きながらあの音楽を思い出すだけで、胸がいっぱいになります。
劇場に足を運んだ人にはしっかり責任をもって夢を見させてくれる熊川さん。
桁外れに高いチケットも、熊哲値段も、劇場を出る時にはまったく高く感じなくなってしまう。
それは、それだけの舞台を見せてくれるから。
このご時世にチケットが完売になる理由が、よくわかります。
来年春の新作は『ラ・バヤデール』だとか。
この作品は昨年のマリインスキーでもう100%満足させてもらったのですが、ソロルは熊川さんでしょうか?
それなら絶対に参ります!
でも、実はオペラ座バレエ団もまだ諦めきれておらず、なのですよね。。。。お、お金が。。。。
ところでいつも思うんですが、バレエを好きな人って絶対に歌舞伎も好きだと思うのです。特に舞踊。
私、歌舞伎を観ていていつも、バレエに似てるなぁって思いますもの。
無駄のない美しい動き、緩急の迫力、動と静の鮮やかな転換、長い歴史が磨き上げてきた古典の味わいと美。
ストーリーその他の一見ハードルが高い部分も、バレエがイケる人なら全然イケますし。
バレエをお好きな方、歌舞伎もぜひ^^!
Tetsuya Kumakawa in Swan Lake
Tetsuya Kumakawa Swan Lake Act lll
先週の歌舞伎座千穐楽と前日のKバレエの圧倒的感動が残りまくっている中、行ってまいりました、日本青年館。秋の巡業の初日です。
頭の中は、ニザさまと吉さまと熊哲とチャイコフスキーの旋律で、とっくにカオス。
出来のよろしくない舞台ならいくら観ても「観劇疲れ」にはならないのですが、良い舞台は否応なく感動が押し寄せるので、もう体力も限界でございます。。。
こんな状態じゃ感性も鈍ってどんな舞台を観ても感動なんてできないんじゃ…と心配でしたが――。
菊ちゃん、素晴らしかった!!
私にとって菊ちゃんは吉と出るか凶と出るかが割と極端な役者さんですが(技術的にではなく、感動的な意味で)、今回、とても良かったです。
すごく前方の席ではありませんでしたが意外と舞台が近く、オペラグラスなしであの菊ちゃんを2時間堪能できただけで大満足。
ただ、よくもわるくも菊之助オンステージといった舞台でもありました。
三津五郎さんの不在は、やはりとても大きかったのだな…と実感。
ですが2つの演目をあれだけの貫録で引っ張った菊ちゃんにも、ちょっと感動してしまいました。36歳で立派なものだなぁ。
【野崎村】
菊之助のお光ちゃんが可愛くて、可愛くて。。。
菊ちゃんはこういう気の強い女の子の役が似合いますねぇ。
観る前は品がありすぎてどこぞのお姫様みたいに見えてしまうのでは?と少し心配しましたが、ちゃんと田舎娘に見えました。真ん丸な顔がほんとに可愛い。大根切ってる姿なんてもう反則的。
しかしポスターでも筋書でも上の写真でも全部大根と一緒とは、やっぱり「お光ちゃん=大根」なのね・・笑
筋書で菊之助自身も言っていますが、このお光は、お染の姿を見た瞬間にもう自分の恋が実らないことを予感しているのが、よくわかりました。
お染を追い出した後、久作に灸をしながらも、表の方を気にしている目がとても不安そうで。「最後の足掻き」のような雰囲気が、ここで既に見え隠れしているのです。
どんなに強く相手を想っても、どんなに頑張っても、自分の想いだけではどうにもならないのが、恋。久松への恋はお光にとって初恋だったろうと思いますが、そのことを彼女は、経験からではなく本能でわかってしまった。
ここ、上手だったなぁ。笑える場面なのに、そんなお光が健気で切なくて…。でも笑えて。客を“笑いだけ”で終わらせない菊之助の空気の作り方、見事でした。
初めての恋で、あんなにウキウキ大根を切っていた女の子が、自分の花嫁姿を想像して照れていた女の子が、ついにその憧れの姿になれたときには髪を下ろしていて――。よくぞここまで号泣ものの話を思いつきますよねぇ…。ああもうこれ書いてるだけで泣けてくる…。切ないなぁ。
そしてクライマックスの土手の場面。
本来の両花道のときにどのような演出なのかは観たことがないので存じませんが、ちゃんとした両花道がないときにいかに間抜けな雰囲気になるかはよくわかりました(舟も駕籠も一向に前に進まない)。。。
この演目、両花道を作れない場合には、かけない方がよろしいのでは。。。
気を取り直して。
舟と駕籠が去ってゆき、一転して訪れる静寂。
この動から静への一瞬の転換の素晴らしいこと…!
笛の音の効果。早咲きの梅、その枝には飛べない奴凧――。この場面だけでも、『野崎村』って傑作だ…。
そして、、、菊ちゃん!!
ここの菊ちゃん、本当に本当に素晴らしかった。
魂が抜けたように彼らの去った方角を見つめるお光。この空気の透明感。
その手から、ぽとりと落ちる数珠。
久作はそれを拾い、声をかけるのをためらいながら、そっと優しく娘の手に握らせてあげて。
その感触にはっと我に返って、そして張りつめていた糸が切れたようにわっと父親にすがりついて号泣するお光――。
ここの彌十郎さんの演技がまた、切ないのよ………。
年齢的にもちゃんと親子に見えるから、なおさら…。
久作も可哀想ですよねぇ…。ほんの数刻前までは、可愛い娘と息子と妻と四人、つつましく、でも睦まじく暮らしていく未来が当たり前にあったのに――。
菊ちゃんお得意の“静寂の緊張感の引っ張り”も、今回は効果的でした!
秀調さんのお常も、大店の後家らしさとお染の母親らしい温かさが出ていて、とてもよかったです。
巳之助の久松と右近のお染は、正直に申しあげてしまいますと、、、ちょっと物足りなかったかな。。。
巳之助は、いつもより声が弱かったような…。また、心中を決意するほどお染を愛しているようには見えず…(筋書によるとちゃんと表現しようとはしていたようですが)。でも「振袖の持病」について菊ちゃんと言い合う場面などは、幼馴染らしい気安さが出ていてよかったです。みっくんカッコいいし*^^*
右近のお染は、文楽人形みたいでキレイでしたが、彼女の心の想いがあまり伝わってこなかったのが残念でした。とはいえ、『四谷怪談』のお梅ちゃんにしても、彼はこういう役がよく似合いますね~。一途で思い込んだら一直線。悪気はないのだけれど、ひと騒動起こして周りに迷惑をかけるタイプ。すぐに「死にます!」と言うところも、全然不自然じゃなく。21歳でこれだけできれば、やっぱり十分、なのかも。
【江島生島】
三津五郎さん&菊之助のこの舞踊が観たくて買った今回のチケットでしたが、三津五郎さんのご休演により、江島→右近、生島→菊之助に配役変更。
初見ですが、男性の物狂い系の舞踊が大好物なので、楽しみにしておりました。
思っていたとおり大変私好みの、切なくも美しい踊りでございました。
こちらの菊ちゃんも、とてもよかった。
前半の生島の夢の場面では、美貌の役者ぶりと、江島に対するしみじみとした愛情、そしてそのしっとりとした色気に、まさに夢の世界を見せてもらいました。
後半の物狂いの演技も、菊ちゃん上手い!
旅商人に絡むところなど可笑しみがあってくすりと笑えるのに、単純な笑いだけにさせないところは『野崎村』に続きお見事。
島流しになっている割にお肌ツヤツヤ、頬もふっくらなのはまぁご愛嬌で^^;。島流しになってからまだそう時間がたっていない設定だと思うことにいたします。でもこれ以上は太らないでね…。
右近も、こちらはとてもよかった。江島は大奥の身分の高い女性の品格が、海女ちゃんは島の娘の奔放な若さがよく出ていました。踊りも品があって綺麗。
そして『俊寛』の千鳥の場違いに派手な黄緑衣装は、島娘のスタンダード衣装だったのだと判明し、個人的にスッキリ
秀調さんの旅商人。
情が深くて、優しくて、温かかった。この商人が良いと、生島の哀れさが引き立ちますね。久作が良いと、お光の哀れさが引き立つのと同じで。
笑いながら海女達が去り、やがて小雨が降ってきて、打掛を被ってうずくまってしまった生島の上に笠を差し掛けてあげる絵面の優しいこと。。。
そして『保名』も『吉田屋』もそうですが、美しい男性と打掛の組み合わせは最高ですね~。世の中にこれほど艶っぽい組み合わせがあるだろうか。ビバ日本文化!
最後、再び江島の姿を求めてどこへともなく去っていく生島。
花道の菊之助の表情、胸が苦しくなる、透きとおるような美しさでございました。
哀しみと美しさは、同じ材料でできているのかもしれませんねぇ。
そして三津五郎さんの生島も見てみたいなと改めて強く感じました。
きっと菊之助とは違う個性の、三津五郎さんらしい生島を見せてくださることでしょう。
待っていますよ~、三津五郎さん!
皆さんは、これから日本の津々浦々へのひと月間の巡業。
相変わらずの殺人的スケジュールでございますが、皆さまお元気で千穐楽を迎えられますよう祈っております!
※今回の青年館の客層は巡業のカオス感が皆無で、普段の歌舞伎座よりずっとコアな歌舞伎ファンばかりが集まった印象でした。大向うさんもちゃんとおられたし(やっぱり大向うさんの存在って大きいですよね)。気持ちよく観られて良かったです。でも、あの軽い椅子は疲れたわ・・・。このホールも、オリンピックで取り壊しが決まったのでしたっけ。