――このお芝居で大切なことは何だと思われますか。
目で見ての美しさでしょうか。「浜松屋」「稲瀬川勢揃」「極楽寺屋根」「山門」。「きれいだな」とお客様が見てくださったら、成功ではと思います。
(ようこそ歌舞伎へ:尾上菊五郎)
思えば開場3日目のピカピカな歌舞伎座で私が最初に観た演目は、菊五郎さんの弁天小僧でありました
あれから5年がたっているというのに、いやむしろ5年前よりも、、、浜松屋の花道のお嬢様が超絶可愛らしいのは何ごと
インタビューで仰っていたダイエット効果もあるのか、あるいは新開場のときは背負っていたものの重さもあったのか。お化粧も変わったらしいけれど、それだけじゃないように思う。今回の花道、恥じらう姿が本気で可愛い(しかし微かに透けて見えるうさんくささが最高笑)。
本舞台で開き直ってからの弁天の明るさと闇と色気と決まり事の動作の流れるような自然さと台詞の気持ちよさと江戸っ子な度胸と爽快さ。ああ、この弁天が再び観られて幸せだ・・・・・。かんざしポロリからの間(ま)も理想的(やっぱり菊ちゃんは引っ張りすぎだったと改めて思ふの)。
左團次さんの南郷も、前回同様、大っっっ好き
軽みも温かみもあるのに、凄みもたっぷり。
菊五郎さんとのやりとりには少年同士の悪友のような、でも長年積み重ねた信頼による親密さが感じられて。この見応え、ああ、至芸であるなあ・・・と今月もまた思ったのでありました(ご本人たちはまだまだと仰ると思いますが)。インタビューで「夏雄ちゃん」と「寿」がいなくなった寂しさを話されていた菊五郎さん。左團次さん、今もお元気に菊五郎さんの側にいてくださってありがとう。
そして花道のお二人のThe江戸っ子なテキトーなお金の山分けに今回もニコニコ
最初から最後まで、75歳(菊五郎さん)と77歳(左團次さん)というご年齢を完全に忘れておりました。
客席にいながら、まるでその場に自分がいるように感じられました。
でもそれは東京じゃなく、江戸の浜松屋。
東京っ子じゃなく、江戸っ子な菊五郎さんと左團次さん。
これは江戸時代にいた盗賊だ、とリアルに思った。今の時代の人間にはない空気。そしてこういう主人公のお芝居を楽しんだ江戸の人々。
こういう空気のお芝居は今後はもう観られなくなっていってしまうのかなあ、と菊五郎さんの世話物を見るたびに思うことを、今回も思ってしまった。若手の役者さん達は、現代風な解釈や演出のお芝居(劇といった方がいいようなお芝居)は本当に上手いのよね。コクーンの三人吉三や野田版桜の森~のような。でもあれらのお芝居に感動しながらも同時にこういう空気をひどく懐かしく思ってしまっている私がいて。それってこういうことなのだよなあ、と。理屈じゃない江戸の空気。
どちらの歌舞伎もあっていい、と思う。あっちの歌舞伎も大好きだし。でももし今後歌舞伎があちらの空気だけになってしまったら、歌舞伎からこの空気がなくなってしまったら、そのとき私は今ほど歌舞伎を観に来るだろうか、とも思う。
菊之助(赤星十三郎)。
なので正統派で勝負をしている菊ちゃんを応援してるけど、こっちはこっちで喜撰とか文屋とか最近ニンとは言い難い不思議な方向に行っているような・・・。でも何がどう吉と出るかはわからないので、今は色々挑戦していいと思います。ニンなお役を真面目にお稽古しているだけでは身に付かない空気もあると思うし。って素人の初心者がえらそうにすみません…。でも私は菊ちゃんには切に切に菊五郎さんの空気を継いでほしいの…。ちなみに今回も盗賊には全く見えなかったわ…(登場は稲瀬川だけだが)。
海老蔵(日本駄右衛門)。
海老蔵もこの5年間、色んな事があったねぇ・・・。私より若いのに、私よりずっと多くの別れを経験しているのだなぁ・・・。
ところでこの駄右衛門、狙っているのかいないのか(たぶん狙っていないと思うけど)ウサンクササがいっぱいで、それが個人的には何気にツボでした。海老蔵の潜在的な大らかさってこの世代の役者さん達の中では貴重だと思うので、そういうものを失わずに頑張ってほしいなあ。
5年前に三津五郎さんがされた忠信利平は、今回は松緑。
私、海老蔵&松緑の組み合わせが実は結構好きで。と陰陽師のときに感じたなあということを今回同じ舞台にいる二人を観て思い出したのだけれど、やっぱりこのお二人は自ら進んで「やろうぜ共演!」とはこの先もならない・・・のでしょうねぇ・・・・・。ええ、わかっております。
長~いお返事の丁稚は眞秀くん(勸玄くんと同い年なんですね~)。
今回の出演は「お祖父様の弁天小僧で絶対にやらせて欲しい」としのぶさんのたってのご希望だったとのこと。出番のないときは暖簾の後ろで動かずに座って待っていてイイコでした。左團次さんにお盆ばっのときに思わず笑顔が零れていた大物ぶりはさすがしのぶさんの息子さん。私が眞秀くんを観るのはこれが初めてだったかなあ。と今調べたら、眞秀くんの初お目見得は昨年の團菊祭の魚屋宗五郎の丁稚だったんですね。友人が観に行って菊五郎さんがすごく良かったって感動していたなぁ。私も2014年に同じく感動していたので、「あの菊五郎さん、いいよねー!」と二人で言い合ったのだった。あれはまだ一年前なのか…。
松也の鳶頭。台詞回しが少々現代風には聴こえたけれど、声のいい音羽屋♪
橘太郎さんの番頭は鉄板ですね~。
種之助の宗之助も坊ちゃんな若旦那らしい柔らか味がいい感じ♪
ところで私はこのお芝居を観るの四度目なのに、なぜか稲瀬川勢揃いの前に休憩と記憶違いをしていた。極楽寺の前に休憩だったのですね。照明がつかないからあれ?と思ってしまった。
菊五郎さんの立ち回りは、しっかり目に焼き付けました。がんどう返しも幕見から見下ろしてもぎりぎりまで屋根に乗っていらっしゃった。音羽屋!!!
山門と滑川土橋。ラストの山門の上の駄右衛門の顔が高層階席からは見えないのは前回と同じ。橋の上の青砥左衛門は今回も梅玉さん。
――誰よりも数多く「弁天小僧」を演じてきた菊五郎さん。後輩の方々に「受け継ぐ」という視点からどんなことを感じとってほしいと思っていますか?
言葉の間かなあ。あと、歌舞伎としての江戸っ子言葉ね。「ひゃく」(百)を「しゃく」というでしょ。でもやり過ぎるとぞーっとしてきちゃう。昔の江戸っ子はそう言ったかもしれないけれど、歌舞伎でやる場合の発音はちょっと違うと思うんです。お客様に聞かせる場合は「ひゃ」と「しゃ」の間くらいにするとかね。
――今回海老蔵さんが父・團十郎さんの演じた日本駄右衛門役を演じられると、昔の團十郎さんの面影を感じたりするかもしれませんね。
そうでしょうね。海老蔵くんもそうだけど、鳶頭(とびがしら)の役も(六代目 尾上)松助がやった役なので、息子の松也にやらせようと配役を決めたんです。彼らには映像を観るだけでなく、実際の演技を見て「感じ」を掴んでほしいんです。一緒に演じたことを思い出してほしいですね。
※菊五郎が語る『弁天娘女男白浪』
※ようこそ歌舞伎へ『弁天娘女男白浪』尾上菊五郎
今月の歌舞伎座は「十二世市川團十郎五年祭」。
新開場の二か月前に團十郎さんが亡くなられて5年。そして三津五郎さんが亡くなられて3年。
三階の写真もそうですが、こうして飾られたお写真を見ると不思議な感じがしますね…(といっても今回は幕見なので中には入っていないのですが)。