漢方学習ノート

漢方医学の魅力に取りつかれた小児科医です.学会やネットで得た情報や、最近読んだ本の感想を書き留めました(本棚3)。

漢方生薬探求:生姜と乾姜

2021年01月11日 20時33分41秒 | 漢方
漢方方剤を構成生薬から紐解いて理解を深めようシリーズ。
第三回は生姜・乾姜です。

これらの方剤に対する私の従来のイメージは、
・生姜と乾姜を分けて考えたことはない。
・生姜は温める生薬。
・日常生活の中でも食材のニオイ消しにも用いられている。
程度のお粗末な知識にとどまります。

以下の資料を参考に、私なりに探求してみました。

<参考資料>

1.浅岡俊之Dr.の漢方解説
② Dr.浅岡の本当にわかる漢方薬(浅岡俊之著、羊土社、2013年発行)

2.『薬徴』(吉益東洞)、『薬徴続編』(村井大年あるいは村井琴山)

3.「増補薬能
編集人:南 利雄  出版元:壷中秘宝館 


まずは浅岡Dr.の解説を。
約70分の動画からポイントを私なりに書き留めました。

□ 生姜の基本
・ショウガ科ショウガの根茎
・食品用として中国南部〜東アジアで生産されるが、薬用としての条件を満たす生姜の産地は限られる。原産地はいまだに不明。

★ 生姜の薬能
・『神農本草経』では「臭気を去り、神明を通ず(シャキッとする、という感じ)」
・心窩部、腹部の水の動揺(水の収まりが悪い、上に上がってきやすい)を解消する
・適用:嘔気、胃の不調

★ 乾姜の薬能
・『神農本草経』では「胸満・咳逆上気を主る、中を温め血を止め、汗を出し風湿痺、腸◯下痢を逐う」

★ 生姜と乾姜の比較
(薬性)
・生姜:温、散
・乾姜:熱、補
(特徴)
・生姜:香り
・乾姜:辛味
(目的)
・生姜:水の動揺(おさまりが悪い状態)を鎮める
・乾姜:寒を去る(吐き気が悪化した先のショック状態に対する起死回生薬)、嘔吐も守備範囲
(守備範囲)
・生姜:心窩部、腹部
・乾姜:胸部、腹部
(古典における方剤数)
・生姜:『傷寒論』39方、『金匱要略』51方
・乾姜:『傷寒論』24方、『金匱要略』32方

<生姜を含む方剤>

□ 小半夏湯:半夏、生姜
・適応:嘔家(吐く人)、不渇(口渇がない)
・嘔気に使う基本方剤

★ 半夏
・サトイモ科カラスビシャクの根茎
(薬能)体の中心に水が余っている状態を治す
・嘔気、嘔吐
・痰
生姜と相性がよくコンビを組む
※ 脱水を治す甘草、水余りを治す半夏は対照的

□ 小半夏加茯苓湯:茯苓、半夏、生姜
「にわかに嘔吐し、心下痞(みぞおちに水が溜まって痞える)し、膈間に水ありて眩悸する者」
・適応:妊娠悪阻(つわり)、その他諸病の嘔吐
※ めまいと伴う発作性嘔吐→ メニエール病
(構成生薬)
・茯苓:眩悸(めまいと動悸)

□ 半夏厚朴湯:茯苓、半夏、生姜、厚朴、紫蘇葉
「婦人、咽中に炙臠(炙った肉)あるが如し」・・・咽頭違和感、ヒステリー球、食道神経症
・小半夏加茯苓湯+気鬱の生薬(厚朴、紫蘇葉)
→ 気鬱を伴う嘔吐
・適応:不安神経症、神経性胃炎、つわり、咳、しわがれ声、神経性食道狭窄症、不眠症

嘔吐の基本は小半夏湯、めまい・動悸を伴う嘔吐に小半夏加茯苓湯、気鬱を伴う嘔吐には半夏厚朴湯と進化してきた。嘔吐を訴える患者さんに小半夏加茯苓湯を使いたいがないとき、小半夏湯や半夏厚朴湯で代用可能。

□ 小柴胡湯:柴胡、黄芩、人参、半夏、生姜、大棗、甘草
「黙々として飲食を欲せず、心煩、喜嘔(しばしば嘔吐すること)」
・半夏+生姜は小半夏湯なので嘔吐の適応がある
・「黙々として飲食を欲せず」は気鬱(柴胡が担当)

□ 呉茱萸湯:呉茱萸、人参、生姜、大棗
「嘔して胸満(胸の中が詰まって苦しい)する者」
・激しい気逆の結果、頭に気が過剰になり頭痛、水も連れてきて頭痛嘔吐、足の気が少なくなり冷える。発作性なので顔が真っ赤になる。

□ 真武湯:茯苓、蒼朮、芍薬、生姜、附子
「腹痛し小便利せず、四肢沈重、自下利する者」
・寝冷えの下痢(水の動揺が下痢になって出てしまった状態)
・真武湯は重症者に使われるイメージがあるが、それならば生姜ではなく乾姜が採用されるべきである。乾姜ではなく生姜が採用されていることを考慮すると、そこまで深刻ではない軽症例にも使用可能な方剤と考えられる。

<乾姜を含む方剤解説>

□ 甘草乾姜湯:甘草、乾姜
「咽中乾き煩燥吐逆する者」
・甘草:脱水(咽中乾き)

□ 半夏瀉心湯:黄連、黄芩、半夏、乾姜、大棗、甘草、人参
「心下満して痛まざる者」
・強い吐き気(乾姜)に使う。生姜と同じような使い方。
※ 小柴胡湯と生薬構成が似ている兄弟関係:小柴胡湯の柴胡→ 黄連、生姜→ 乾姜に替えると半夏瀉心湯になる。生姜と乾姜の違いを考えると、小柴胡湯より半夏瀉心湯は病気が進行して重症化した場合に用いられる。

□ 黄連湯:黄連、桂枝、半夏、乾姜、大棗、甘草、人参
「胸中に熱あり胃部に邪気あり、腹中痛み嘔吐せんと欲する者」
・嘔吐に乾姜が使われている。
※ 半夏瀉心湯と生薬構成が似ている:半夏瀉心湯の黄芩→ 桂枝に替えると黄連湯になる

□ 人参湯:人参、蒼朮、乾姜、甘草
「大病差(い)えて後、喜唾(きだ)」(大病が癒えた後に唾液がたくさん出る、嘔吐に近い)
・嘔吐類似症状に対して乾姜を使用

□ 乾姜附子湯:附子、乾姜
嘔せず渇せず、表証なく脈沈」
・乾姜が入っているのに「嘔吐」ではなく「嘔せず」とは如何に?
→ 乾姜は嘔吐ではなく、それより悪化して嘔吐する元気もない冷え・ぐったりした状態(ショック状態)に対して使われている。

□ 大建中湯:蜀椒(=サンショウ)、乾姜、人参、膠飴
「嘔して飲食能わず、腹中
・吐き気ではなく冷えに対して乾姜が使われている。
・蜀椒:お腹の動きをよくする

□ 苓姜朮甘湯:茯苓、乾姜、白朮、甘草
「身体重く腰中冷え、水中に座するが如し、・・・、小便自利」
・吐き気ではなく冷えに乾姜が使われている。

□ 小青竜湯:麻黄、桂枝、五味子、細辛、半夏、乾姜、芍薬、甘草
「咳逆奇息、臥することを得ず」(肺が冷えて咳が出て眠れないほど苦しい)
・肺の冷えに対して乾姜が使われている。


以上、浅岡Dr.の動画まとめでした。

浅岡Dr.のは生姜と乾姜の薬能と使い分けをわかりやすく説明しています。

・生姜:水の動揺(おさまりが悪い状態)を鎮める
・乾姜:寒を去る(吐き気が悪化した先のショック状態に対する起死回生薬)、嘔吐も守備範囲

その心は・・・薬性が端的に表現してくれます。

・生姜:温、散
・乾姜:熱、補

用いられる病気のステージが違う、生姜は体の中央に溜まった水を捌くイメージだけど、乾姜は嘔吐が重症化して冷えてぐったりしたときに使う、強力に温める「熱」の薬である、と。

浅岡Dr.は生姜と乾姜を明確に区別していますが、
実際に漢方薬に使用されている生薬について説明する際、
語尾が濁りがちです。

「本来生姜は何も加工していない生のショウガを指すが、
流通しているショウガは既に乾燥工程を経ており、
正確に言うと生姜ではない。」
「では現実的に生姜と乾姜の区別というと・・・ムニャムニャ。」
てな感じです。

せっかく筋の通った理論なのに、原料の段階で躓いていることを知ると、
果たして浅岡理論を信じてよいのかどうか不安になります。


気を取り直して、次に吉益東洞の『薬徴』を読んでみました。
大塚敬節先生の校注本も手元にありますが、
どこに書いてあるのか見つけづらいので、
ツムラ漢方スクエアの教材(細野八郎先生の解説)から。

ムムッ、生姜について言及が見当たりません。
『薬徴』には乾姜の記載しかないのでしょうか。
注意として「『薬徴』は優れた書物であるが、東洞独自の解釈で薬能を論説しているため理解しにくい条文も存在する」とあります。
なので、混乱を避けるため東洞説は別に取りあげることにしました。

□ 乾姜の主治は「結滞の水毒を治す」こと。
条文「結滞の水毒を主治するなり。かたわら嘔吐、咳、下痢、厥冷、煩躁、腹痛、胸痛、腰痛を治す」
・「結滞の水毒」とは「一箇所に停滞して病気の原因となっている水」を指す。
・しかしこの言葉は古典(『傷寒論』『金匱要略』『黄帝内経』)の中に見当たらない、東洞の造語である。
・水毒も日本漢方の用語で、中国医学では痰飲である。津液(血液以外の生理的な体液)が外部からのストレスとか、体内の異常な熱により粘稠度を増してくると、これを痰と呼び、痰の中でも粘稠度の低い者を飲と呼ぶ。
・上腹部の振水音は、東洋医学では留飲と呼ぶ。
・主治とそれ以外の薬能は関連付けにくいが、体の一部に余分な水が溜まる水毒の症状(下痢、嘔吐、腹鳴、小便過多および過少、浮腫、動悸、めまい、耳鳴り、頭痛、咳嗽、全身倦怠感、発汗過多、唾液分泌過多、神経痛、関節痛)を考えると理解できる。

□ 古典の処方から帰納的に薬能を類推

(乾姜を四両、あるいは他の生薬と同量含有)
・大建中湯:嘔、心胸中大寒痛
・半夏乾姜散:乾嘔(からえずき)、吐逆、涎沫を吐す
・苓姜朮甘湯:腰部の疼痛、腰中冷ゆ、腰以下冷痛
嘔吐と疼痛が共通項

(乾姜を三両含有)
・人参湯:心中痞
・通脈四逆湯:乾嘔、下利清穀、手足厥逆
・小青竜湯:乾嘔
・半夏瀉心湯:嘔、腹鳴
・柴胡姜桂湯(柴胡桂枝乾姜湯):胸脇満
・黄連湯:嘔吐せんと欲す、腹痛
・苓甘五味姜辛湯:胸満
・乾姜黄連黄芩人参湯:吐下(嘔吐と下痢)
・六物黄芩湯:乾嘔、下痢
嘔吐と下痢が共通項

(乾姜を二両から一両、時には四両)
・梔子乾姜湯:微煩
・甘草乾姜湯:煩燥吐逆、厥
・乾姜附子湯:煩躁眠るを得ず
煩躁(もだえ苦しむ様子)が共通項

(乾姜を一両半、時には三両)
・四逆湯:下利清穀、手足厥冷

(乾姜を一両あるいは三両)
・桃花湯:下痢
・乾姜人参半夏丸:嘔吐止まず
嘔吐と下痢が共通項

以上から東洞は「嘔吐する者、咳する者、痛む者、下痢する者、これら皆水毒の結滞するものである」と結んでいる。

□ 乾姜の適応症状「嘔吐」
・「乾嘔」が四処方、「嘔」「嘔吐」「吐逆」と書かれているものが七処方。
・乾姜の嘔吐は、からえずきから胃の内容物を吐出する、いわゆる嘔吐まで含む鎮吐作用。
・「生姜は嘔吐を主り、乾姜は水毒の結滞を主る。混ずべからず。」
と東洞は述べているが、嘔吐に関しては区別が困難。

□ 乾姜の適応症状「疼痛」
・大建中湯の「大寒痛」以外は軽度の痛みの表現にとどまる。

□ 乾姜の適応症状「寒冷」を認めない東洞
・十八処方中七処方に寒冷状態の記載あり
・しかし東洞は「寒」に対する薬能に反対している。
「本草書には乾姜を熱薬の中でも附子に匹敵する大熱薬としている。また世の中の医者も四逆湯の中の乾姜と附子は熱薬であるので、よく厥冷を治するといっているが、それは誤りである。・・・厥冷の原因は毒の急迫によるものであり、しかも甘草は急迫を治するものだから、四逆湯で厥冷が治るのは乾姜の作用ではなく、甘草の作用である。」
→ この点、『傷寒論』の記述と相容れないとの指摘あり。

細野先生の考察;
『薬徴』の乾姜の条にはいろいろ問題がある。実証主義者の東洞が「結滞の水毒」という病態的な言葉を創作して薬能の説明に用いたことが不思議である。
構成生薬の少ない処方を選び出して其の適応症状を比較して乾姜の薬能を知ろうとしなかったことが不思議。其の方が正確な薬能(中焦を温め、寒を遂う、其の結果として脾胃の働きが正常化して水毒が取れる)にたどり着けたのではないか。


以上、『薬徴』の解説抜粋でした。

東洞の手法は帰納法的に種々の乾姜含有方剤の適応症から乾姜の薬能を抽出するものであり、すると他の生薬の薬能が入ってくるので焦点がぼけてしまいがち。
細野先生はその点を指摘し、構成生薬が少ない方剤から引き算式に乾姜の薬能を推察した方がピントが合った薬能にたどり着けるのではないかと記述しています。
その方法を採用しているのが浅岡Dr.であり、二味の方剤から説き起こしているのでわかりやすく説得力があると私は感じました。

後に、生姜は『薬徴続編』という書物で取りあげられていることを知りました。
こちらは吉益東洞によるものではなく、後年、村井大年という人物が『薬徴』にはない生薬を追記したようです。
『薬徴続編』の生姜の項目は寺澤捷年Dr.の解説です。

「生姜、嘔を主治する。故に乾嘔、噫、噦逆を兼治す」とあり、生姜は嘔を主治する。注目すべきは、嘔と吐を区別していること。そして嘔に近いものとして乾嘔(からえずき)、噫(おくび)、噦逆(しゃっくり)を兼治する。

生姜は桂枝湯を始めとして様々の処方に入っているが、薬徴的な考え方に立てば、嘔というものが本来の役目である。そして噦逆、噫気、乾嘔、あるいは乾噫食臭などは嘔吐の軽症のものであり嘔の中に含めている。

嘔と吐をはっきり区別し、ものを吐き出してくるのを吐といい、吐き気でムカムカしている吐きそうな状態は嘔である。半夏と生姜が組み合わさった時は、表現として必ず嘔吐、つまり吐き気もする、実際にものを吐くという具体的な内容になっている。しかし生姜だけで半夏がないという時は、ただ単に嘔といったり乾嘔といったりする。

生姜と大棗はよく組み合わされて用いられるのであり、しかもほかの薬味というものは移動するのだけれども、大喪と生姜の組み合わせの分量だけは、その処方の中で動かないという点に注目している。

生姜潟心湯は大変よく使う処方であるが、そこに嘔の字が落ちているわけは、実は親元の処方であ
る半夏潟心湯ですでにいっているからあえてここに書かないのであると。しかし、吐という字が出てこない点は、これは落としてしまったのではないかと、村井琴山は推論している

いろいろな本草の本に様々な説があるが、結局臨床医の言葉ではないので、実際から離れたことが書かれている。これは世を誤るものである。

『薬徴続編』では、妙に嘔吐にこだわっています。それも「嘔」と「吐」の区別に。
からだの中で何が起きているのかよりも、気持ち悪いだけなのか、実際に吐いているのかに注目するのは、病態から目が離れてしまうような気がします。

次は各本草書の記載を列記した「増補薬能」から乾姜の項目を抜粋してみます。
下線部は浅岡Dr.の解説で出てくる薬能です。

<乾 姜>  

増補能毒】(長沢道寿)
「味辛く大熱。能毒大略生姜に同じ」。変わるところは大熱にして気を散ずる事甚だし。痰を去るの神薬なり。生姜もまた痰を能く去るなり。産後の熱をさます。口伝。
(毒)「陰虚火動に。脈実数なるに」。私曰く、辛熱なる故に熱病に忌む。

一本堂薬選】(香川修庵)
泄瀉、乾嘔、糀嗽を療じ、気を下し、胃を開き、食を進め、血を止め、中を温め寒冷腹痛、傷食吐瀉、痰を消し、飜胃、宿食を消し、冷気を去る。附子と善く脱せんと欲する気を回す。久虚の痢疾を和す。
(弁正) 嘔を止め、胃を開き、汗を発するは、互いに(生姜と乾姜)に相通用すべし。而して嘔家は生姜、尤も良なり元気を挽回し、中を温め、瀉をとむるに至っては、則ち乾姜に非ずんば能くすべからず。何ぞ混同すべきや。

薬徴】(吉益東洞)
結滞の水毒を主治するなり。傍ら嘔吐、咳、下痢、厥冷、煩躁、腹痛、胸痛、腰痛を治す。

重校薬徴】(尾台榕堂)
結滞の水を主治するなり。故に乾嘔、吐下、厥冷、煩躁、胸痛、腹痛、腰痛、小便不利、自利、咳唾涎沫を治す。

古方薬議】(浅田宗伯)
味辛温。中を温め、血を止め、瀉、腹臓冷え、心下寒痞、腰腎中疼冷、夜に小便多きを主る。凡そ病人、虚して冷えるは宜しく之を加え用いるべし。

薬性提要】(多紀桂山)
辛。寒を逐い経を温め、胃を開き、肺気を利し、寒嗽を止める。

古方薬品考】(内藤尚賢)
其の味辛く温。以て能く経脈を宜通し寒邪を逐い、胃中を温む

漢方養生談】(荒木正胤)
上迫する水毒を温散する。四肢の厥冷咳逆、嘔吐、眩暈、腰腹の冷感や痛み、小便の自利に効あり。

中薬大辞典】(上海科学技術出版社)
中を温め寒を逐いやる、陽を回らし脈を通ずる、の効能がある。心腹が冷痛し、嘔吐し下痢し、四肢冷たく脈は微、寒たい飲み物によって喘咳し、風寒による湿痺があり、陽虚して吐き、鼻出血、下血するもの治す。

壷中(著者不明)  
日本薬局方の生姜(乾燥品)は古方では乾姜であり、八百屋で売っているヒネ生姜が古方の生姜である。日本薬局方の生姜は熱薬であるので、陽実証に生姜の代用品として使う場合は分量に注意すべし。(大柴胡湯・越婢湯など)

これを読むと、浅岡Dr.の解説は一本堂薬選(香川修庵)の記述に近いことがわかります。
次に生姜の項目を。

<生 姜> 

増補能毒】(長沢道寿)
「味辛く甘。微温。腹中を温め気を散じ快くし、胃の気のかいなきを助け、同腑下がりたるを開き、食を進む。霍乱の心腹の痛みに」。    
私曰く、霍乱に限らず心腹の痛みには大方用いるたるがよきぞ。「吐逆の神薬なり」。私曰く、必ずこの薬を用いる事は諸薬を胃の腑へ引き入れ、腹中を温むると心得るべし。
(乾姜) 「味辛く大熱。能毒大略生姜に同じ」。変わる処は大熱にして気を散らする事甚だし。痰を去るの神薬なり。生姜もまた痰を能く去るなり。産後の熱をさます。口伝。
(毒)「陰虚火動に、脈実数なるに」。私曰く、辛熱なる故に熱病に忌む。

一本堂薬選】(香川修庵)
風寒湿の邪気を発散し、汗を出し、嘔吐を止め、痰喘、糀嗽、胃を開き、諸薬を調和す。

薬性提要】(多紀桂山)
辛。温。表を発し、寒を散じ、痰を豁き、嘔を止める。

古方薬品考】(内藤尚賢)
気味辛く温。而して質能く堆排す。故に痰を開き、胸を利して、以て嘔吐を止めるを取る。橘皮、半夏及び理気の方中に入れて、以て各薬の巧を佐く。

古方薬議】(浅田宗伯)
味辛温。嘔吐を止め、痰を去り、気を下し、煩悶を散じ、胃気を開く。

漢方養生談】(荒木正胤)
もどすことを主治し、胃を開き、表を発し、寒を散じ、痰を取り、おくびを止める。

漢方薬物学入門】(長城書店)
胃内停水のあるとないで半夏と生姜の使い分けができるのではないかと思います。生姜は温薬、乾姜は熱薬です。

「嘔吐を治す」と西洋医学的に言うのは簡単ですが、
その裏にある病態を上記の書物ではいろいろな表現方法をとっています。

・長沢道寿:胃の気のかいなきを助け
・香川修庵:胃を開き
多紀桂山痰を豁き
内藤尚賢:痰を開き
浅田宗伯:痰を去り、胃気を開く
荒木正胤:胃を開き、痰を取り

誰もが「胃を開く」とか「痰を取る」と記載しています。
ただ、それを統一してイメージするには、浅岡Dr.の
心窩部・腹部の水の動揺(おさまりが悪い状態)を鎮める
という表現がとても合っていると私は感じました。

さて、当初の私の生姜・乾姜に対するイメージ、

・生姜と乾姜を分けて考えたことはない。
・生姜は温める生薬。
・日常生活の中でも食材のニオイ消しにも用いられている。

はちょっと情けないですね。

温めるのは乾姜が勝り、
生姜は胃のあたりの水が溜まった状態を解消するのが主治、
と理解を改めました。

ただし、現在流通している生姜・乾姜は古典の記載にある者と異なるので、
この使い分けがどこまで通用するのかは未知数、という問題が残ります。

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