日々雑感

読んだ本やネット記事の感想、頭に浮かんでは消える物事をつらつら綴りました(本棚7)。

「センス・オブ・ワンダーを探して」(阿川佐和子&福岡伸一)

2012-08-01 03:46:13 | エッセイ
大和書房、2011年発行。

題名の「センス・オブ・ワンダー(※)」は環境学者であるレイチェル・カーソンの有名な遺稿であり、その名前と福岡伸一氏に惹かれて購入しました。
対談集の形式を取り、おおむね福岡博士の持論をインタビューアーの阿川さんが上手く引き出すという構成になっています。

※ レイチェル・カーソンの本より;
 「子どもたちの世界は、いつもいきいきとして新鮮で美しく、驚きと感激に満ちあふれています。残念なことに、私たちの多くは大人になる前に澄みきった洞察力や、美しいもの、畏敬すべきものへの直感力を鈍らせ、あるときは全く失ってしまいます。もしも私が、すべての子どもの成長を見守る善良な陽性に話しかける力を持っているとしたら、世界中の子どもに、生涯消えることのない『センス・オブ・ワンダー(=神秘さや不思議さに目を見はる感性)』を授けてほしいと頼むでしょう。この感性は、やがて大人になるとやってくる倦怠と幻滅、私たちが自然という力の源泉から遠ざかること、つまらない人工的なものに夢中になることなどに対する、かわらぬ解毒剤になるのです。」


私にとっての福岡博士はNHK-BSの「いのちドラマチック」でおなじみの物知り博士。
彼の著作は何冊か手元にはあるのですが、まだ手をつけていなかったので、この本が格好の導入書になりました。

彼の持論である「動的平衡」をはじめ、この本の中でもDNA二重らせん構造の意義からフェルメールの絵画に至るまで、いろいろなことをわかりやすく解説してくれています。
「生物を探求するのが夢だったのに、実際に専門家になると死んだ細胞を切り刻む日々を過ごすというジレンマを抱えた」という告白には考えさせられました。
また、「脳死」ならぬ「脳始」問題は衝撃的でした。

<メモ>
 私自身の備忘録。

常在菌(腸内細菌と皮膚常在菌)
 消化管はお腹の中にあるから体の中みたいだけれども、口と肛門とで繋がっているチューブで、皮膚が折りたたまれているにすぎないんです。だから、チューブの中にいろんな菌がいるのと同じように、外側の表面もいろいろな菌がいて私たちを守ってくれているんです。
 昔、虫歯菌をやっつけるためにルゴール液みたいな殺菌剤でうがいをしなさいとすごく奨励されたことがあるんです。そういうものでうがいをすると口の中の菌が死ぬんで、確かに虫歯菌も死にます。でも、口の中にはいろいろな雑菌がいて、それが口内をより凶悪な菌から守ってくれている。だから、そういうもので口の中の雑菌を殲滅してしまうと、より悪い菌が入ってきて口内炎とかいろいろヘンなことになってしまうんですよ。

嫌気性菌が陽の目を見た?
 これまでは腸内細菌にどんなものがいるかわからなかったんです。外の空気に触れると酸素濃度が高すぎて死んじゃう嫌気性細菌が棲みつくので、それを外に出して培養しようとしても死んじゃうから。
 でも、最近DNAを調べる技術がすごく進化して、引き算方式でわかるようになりました。
 ゲノム研究の結果、人間のDNAは端から端までわかっているから、お腹の中のDNAを全部調べて引き算すると雑菌のDNAと食べ物由来のDNAが残る。次に、食べ物由来のDNAは米とか植物のDNAとかがわかってるんで、それをまた引き算すると、残ったものが菌のDNAですよね。

ところ変われば、腸内細菌も変わる
 フランス人と日本人の腸内細菌は全然違うんですよ。
 日本人は海苔とかわかめとかもずくとかを食べるから、腸内細菌も海藻の成分を分解できるやつがたくさんいるんです。ところが、フランス人のお腹にはそんなの全然いない。
 その風土に合った腸内細菌が棲みついているから、日本人が外国へ行くとうまく適応できなくてお腹の調子が悪くなる。だけど、間もなく適応できるようになるんです。

DNA~「二重らせん」の巧妙さ
 人間の細胞は中に核があって、そこにDNAが折りたたまれて入っている。そのDNAの情報は長い1本の糸で伸ばすと3mくらいある。らせんが大事なのはそのDNAを毛糸みたいにくるくる巻いて小さな小さな毛糸玉みたいにしてキュッとコンパクトにして入れられるからなんです。
 でも、もっと大事なのはこれが二重になっているということなんです。互いに向き合って相手を映している鏡の構造になっている。必ず関係が決まっていて、AとT、CとGという法則に基づいて対応しているのが「二重らせん」の「二重」という意味なんです。
 そして、壊れてもコピーができて直せちゃうことが一番大事。

動的平衡(ダイナミック・ステート)の発見
 爪とか髪の毛とか皮膚だけじゃなく、実は私たちの体全ての部分で日々交換がなされています。脳細胞とか心臓の細胞みたいに一度できたら分裂しない細胞でも、細胞の中身はものすごい速度で入れ替わっているし、そこにあるDNAも端から分解されながらまた合成されてこの形を保っているにすぎなくて、入れ替わっているんです。
 口の中とか消化管みたいに早いところだと2-3日で完全に入れ替わってしまう。筋肉だったら2週間くらいで半分が、血液の細胞でも数ヶ月で入れ替わるので、半年から1年も経てば私たちは分子のレベルでは全く別人になってしまうのです。

心臓を移植しても神経は繋がらない
 心臓移植では、心臓を強引に切り取ってくることはできますが、心臓にはたくさんの神経や組織が入り込んでいますから、その時に切断されてしまった関係性は次のところに持っていっても完全には再生されません。
 例えば、好きな人を見たらドキドキするのは脳からの信号が心臓に行っているからです。でも、心臓移植は大きな血管は再生できても、神経系は寸断されちゃうから、そういうことは容易には再生されない。脳が反応するとおりには心臓は反応しません。

脳始」問題
 脳が死ねばその体は死んだと見なせるというのが脳死です。であれば、その人が人として出発するところはどこか、それは脳が始まったところでいいんじゃないかという意見が出てきました。
 シナプスが脳細胞をつなぎ合わせて脳の形ができて脳波が生まれて意識が立ち上がる頃が、おそらく脳が始まる頃です。胎児が脳波を生み出すのは受精してから27週目くらいなんです。27週目までの胎児は脳が始まっていないのでまだ人間とは言えない。今、妊娠中絶は22週未満までできるから、それよりあとですね。
 脳が始まる以前は単なる細胞の塊と見なせるから、そこから再生医療のためのES細胞を取り出したり、組織を取り出しても殺人には当たらない、ということになってしまいます。

文化と文明の違い
 文明は人間が自分の外側に作り出したある仕組み、文化は人間が自分たちの内部に育ててきた仕組み。

何のために働くのか?
 こういうジョークがあります。
 ホームレスの人が寝ていて、金持ちが、
「君、そんなところでゴロゴロ寝ていないで働きなさい」と言ったら、
「なぜ働かなきゃいけない?」と。
「働けば金が入る」
「なぜ金を儲けなきゃいけないんだ?」
「金が入れば家が買える、服も買える」
「なぜ家や服を買わなきゃいけないんだ?
「ゆったりとした家の中に座ってゆったりと本が読める。ゆったりとした時間が使える。いろいろなことが考えられる。」
 そしたらホームレスは、
「もうゆったりしているから、今のままでいい。」

トキを食べたイタチは悪者?
 ちょっと前のニュースだけれど、トキを殺したイタチは一方的に悪者にされました。しかしイタチは生きていくために餌があったから食べただけです。


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