親の理性のコントロール、そして若者の苦悩と挫折

2007-07-12 15:41:17 | Weblog
父親というものは、不思議な存在である。

私はといえば、無責任で自分勝手な父親しか知らないが、世の中には立派過ぎる
父親というものも、居るのだ。


女親は妊娠・出産・授乳・養育、の過程の中で、自分の子どもとして徐々に母親
としての実感を得ることができるが、はて、男親はどのような精神的過程を経て、
父親となっていくのだろうか。


自分が産んでいない分、「これは果たして、本当に自分の子だろうか?」とのか
すかな疑問が、頭の片隅をよぎるかもしれない。その立場は、かなり気の毒な気
もする。


おもろいお父さん。小学校の時の友だちのお父さんは、おもろかった。茶の間で
「戦争に行っても、生きて還ってくるコツ」を、おもしろおかしく教えてくれた。

「敵が撃ってきたら、決して撃ち返さないで、すぐに倒れこんで、ずっと死んだ
フリをするんだよ。相手も傷つけないし、弾も減らないし、それが一番なんだ。
途中で様子を見ようと、頭なんか上げちゃいけないよ、すぐ撃たれるから~」と。
ひょうきんな身振り手振りで、毎回お約束のその手の話に、何度聞いても笑い転
げたものである。


うちの酒乱の父親と、友だちのお父さんを取り換えたいと、真剣に考えたほどだ。


以前に、あるご家族と、頻繁に交流することがあった。そこのご主人は、頭脳
優秀、理路整然、温厚誠実、冷静沈着、文武両道、ジェントルマンな珍しい人
である。仕事ぶりはといえば、細心緻密、粉骨砕身、懇切丁寧、部下の面倒見
も良いし、ユーモアもある。家庭では、夫として、父として、まさに家庭人の
鑑のようであった。


では、その子どもはといえば。目上の者にはちゃんとした敬語や謙譲語が使え、
驚くほど礼儀正しいのである。

当然、私はおにいちゃんの方に、いろいろな質問を浴びせた。もちろん、興味シ
ンシンで。かなり親しくなって、突っ込んだ話をするようになった頃、お兄ちゃ
んは、たまっていた父親への不満を漏らし始めた。


それはひとことで言えば、「完璧すぎるのがイヤミで嫌い」ということだった。


子どもが問題を起こしても、怒鳴ったり、殴ったりはしない。自分の前に正座さ
せて、コンコンと教え諭すのである。世の中の仕組み、人としての道、どこにも
破綻のない説明である。まだ、それほど論理的ではない20歳を過ぎたばかりの若
者には、グウの音も出ない。反論の糸口さえ見つからない。逃げ道がない。感情
のぶつかり合いのレベルにも行けない。ということだったろうか。


むしろ、父親には、感情をむき出して叱ってほしい、と彼は言った。もし、自分
が悪いことをしたのなら、その場で烈しく怒声を浴びせられて、殴られた方がど
れだけマシか知れない、と。いつも大人の態度で、上からの目線で、私はあくま
で怒っているんじゃない、教え諭しているんだ、という顔を見ると、ムカついて、
とても嫌な感じがする、と。


この若者はその頃、音楽の世界で時流に乗りかけていた。本人にも、周囲の者に
も、明るい未来の展望が開けているかに見えていた。


しかしその後、さまざまな事情で道が閉ざされ、彼はとうとう挫折してしまった。
深く悩んで、うつ状態におちいってしまった。しかし、彼は頑として親に助けを
求めない。病気でアルバイトさえできず、生活に困っても、電話もしないし、実
家にも帰らない。幸いなことに兄弟仲はいいので、兄弟に助けてもらっている。


私が、彼らのお母さんと話したところによれば、子ども達は誰ひとり、家に寄り
付かないということである。「男の子なんて、どこもそんなものなのよ」、と平
気である。彼女はご主人を信奉しているので、寄り付かないのは息子たちの問題
だ、と思っているのだ。息子たちの心の中がどんなものか、考えてもいない。そ
して、話の最後は決まってご主人のこと。最近、体調がすぐれないということだ
った。


若者らが、今どうしているのか、心配だが、早く精神的に父親をのりこえて、自
分の道を歩き出してほしい、とせつに願っている。


感情でばかり子どもを叱ってはいけないけれど、時には感情むきだしで叱って、
かまわない事もある。理不尽な親のしうちに、「バカオヤジ」だの「クソババァ」
だのと、子どもに口汚い棄てぜりふを吐かせておくのも、やむをえない事かも知
れない、と思っている。


人間が人間をコントロールすることなど、「幻想」でしかないのだ、と思う。

完璧であることは、美しいけれど、捉われ過ぎると、皆が窒息死してしまう。

なにごとも”ほどほど”がいいのだ。”ほどほど”を忘れないようにしよう(笑)

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10 コメント

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欠点がないのは (のっち)
2007-07-12 18:16:32
たくさん欠点があるより大変なんだね。

今父と同居していて、子供の頃に気づかなかった
いろいろを発見して、

「くそじじぃ!」と

心の中で悪態をついています。
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単なる私信ですが (トーコ)
2007-07-12 22:31:20
のっちさん!

ひぇぇ~、のっちさんのおかげで、あのグループの事はじめて知りました。
あれ、イタリア語かスペイン語?と思ったけど、違ったのかにゃ。
すごい人気のグループなんですね!はぁ~、知らんかったわ~。うははは。

ハイ、「くそじじぃ?」さんには、ボケもなく、とりあえずは、寝たきりにさえならないでいてくれれば、感謝感謝というものデス(笑)
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水増し@まだ生きてますが… (建コン一擲)
2007-07-13 01:20:06
「『くそジジィ』早く死ね!」と、言われるまで長生きして、葬式では「やっと死んだ、ばんざ~い」って、送ってもらいたいと思っています。
だから、死んでも長生きしなくっちゃ!
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生きてる限り”水増し” (トーコ)
2007-07-13 10:15:32
建コン一擲さん!

やははは。三途の川の向こうの景色は、「お花畑」だそうじゃありませんか。100歳までまで生きるのは、ムリかもしれないから、99歳あたりでどうでしょう?

そして、みんなに万歳三唱で送られるの。きっと、死んでも49日目には復活するかも、と思うんだけど(笑)
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精神的過程? (個風)
2007-07-13 22:17:30
どうなのでしょう?

ぶっちゃけますと、僕は結婚三年目ですが、中二の娘が居ます。
これ以上は言いませんが、親としての意識は持っているつもりです。
…若干酒乱の気がありますが

できた父親の子供は必ずできた大人になる訳ではないのですね
医者の息子が起こした事件も多々ありますしねまだ捕まってないあの犯人はいまいずこ
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親をやる覚悟 (トーコ)
2007-07-13 23:49:02
おぉ、個風さん!

個風さんがお幾つなのか、知らないのよね~。

で、ぶっちゃけてくれて、ありがとう

個風さんなら、きっと良い父親になれると思う
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人生 (いしとも)
2007-07-14 23:22:22
どれがいい親なのかなんて、ほんとケースバイケース。

どんな親でも、反面教師という面と、育ててくれたことへの
感謝という面の両方があるハズだし。

用は、親じゃなくって、親を通して「人間って皆弱いものだ」
って理解して相手を許すことのできる自分だよね。

このお父さんも、いい親を演じることで初めて
自分の存在価値を確認してる弱い人間なのかもしれないしね。

一番強い親は、カッコいいとこもカッコ悪いとこも、
包み隠さず、自然体で生きてるとこを見せられる親だよね。


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親子の組み合わせ (トーコ)
2007-07-15 11:09:41
いしともさん!

のっちさんのお勧めで、東国原英夫氏の「ゆっくり歩け、空を見ろ」を、ただいま読了したところです。

ただの、女に見境がない懲りない男、だと思っていた彼にも、心の原風景ともいえる、父親との葛藤、ひいては自分の人生との葛藤があったのだ、と知りました。

彼はいまや公人ですが、あれは淫行で世間から白い眼で見られていた頃の本です。正直、よく書いたなと思います。

99.9%、一見最低の父親でも、子どもを思う気持ちが全くないとはいえないのかもしれない。やっている事が的外れであったとしても、それは愛情があっての事なのかもしれない、と見方を変えました。

でもホントは、分かりやすい、普通の父親がいいけれどね
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読書家 (かずこ)
2007-07-15 18:35:31
トーコさんは読書家ですね。
文章が上手いのが納得です。
子供の頃作文で賞を貰われたのも納得です。

それに引き換え私は歳のせいか?1・2行読むと
眠くなってしまいます。
まったくもって睡眠薬代わりです。トホホ・・・
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最近は私も、読んでて寝ます (トーコ)
2007-07-15 19:19:25
かずこさん!

今日の大雨の中、お仕事とは、タイヘンでしたね。お疲れさまです。(なるせブログ・コメント情報より)

いえいえ、読書家だなんて、そんな・・・単なるヒマ人の娯楽ですから。

本日も雨の中ヒマなため、本屋に出かけ、文庫本8冊を購入。5千円札が消えちまいました~(泣)

その後、雨が上がったようなので、ダム湖に行ったら、また急に降りだしました。で、一周だけして帰ってきました。これじゃ~運動にならず、トホホホ

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