三島の未読作品。
1954年に起きた近江絹糸争議を題材にした小説です。
金閣寺、青の時代、など、三島は実際の事件を題材にした作品が多いです。
旧態依然の日本式経営からアメリカ流経営へ移る端境期の争議ですが、三島は「書きたかったのは、日本及び日本人というものと、父親の問題なんです」と述べています(朝日新聞S39.11.23)。
三島がこの作品を書いたのが、40歳を目前とした時期。この後に、豊饒の海の執筆へと向かいます。
Wikipediaにはさまざまな書評が紹介されており、こちらを読むのも面白いと思います。
私は、ヘルダーリンやハイデッガーはまったく読んだことがないので、ここらへんの知識は皆無なのですが、ときおり登場するヘルダーリンの「帰郷」の意味を知っていると本作がさらに深く読めるのかもしれません。
情景描写、心理描写については、三島ならではの煌びやかで緻密な表現で、時代を感じさせません。特に第十章における自由についての考え方は、旧態支配から逃れ、自由主義の中で生きている現代人においても一考させられる内容でした。
初出は1964年。新潮文庫からは1987年。
p.s. やっと風が涼しくなった。
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