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ツリオヤジのキドニーケアな日々 ~ 知れぬ事は知れぬまゝに、たやすく知れるのは浅い事 (葉隠 聞書第一0202)

葬送 - 平野啓一郎 (新潮文庫)

2021-09-19 05:41:33 | 読書メモ

平野啓一郎の「葬送」を読み終えました。
第一部、第二部それぞれが上巻、下巻からなる4冊の文庫です。
フランス二月革命前後における浪漫派の芸術家二人、ショパンとドラクロワを主人公に、精細な心理描写を中心に当時の様子を描いた作品です。

ショパンが表紙の第一部上巻。ちなみに表紙の絵はすばてドラクロワの絵画からです。
聞きなれない外国人名の登場人物は、心理描写を通して徐々にキャラクタが明確になっていきます。
サンド夫人の娘、息子、養女をめぐる結婚問題。ショパン、ドラクロワの芸術家気質とその愛人、友人、知人がこの巻によってほぼ明確になります。ソランジュの結婚問題がこじれにこじれたところで下巻へ。

ドラクロワが表紙の第一部下巻。
ショパンの病気の進行と共に、家族問題に起因するショパンとサンドの破局までが主ですが、この巻では最後の最後、ドラクロワ手がけた下院図書室の天井画の描写がすさまじい迫力です。この次の巻に出てくる、ショパンの演奏会の描写とともに、この小説における最大の読みどころはこの箇所だと思います。

サンド夫人が表紙の第二部上巻。
しょっぱなからショパンの最後の演奏会の描写です。全巻最後のドラクロワの天井画とともに、芸術を異なる次元で表現することの壮大な実験ではなかったかと思います。

絵画というものは色、図形、構成など、様々な要素で表現されています。文字で全てを表現する文学とは、表現に使う要素が全く異なります。絵画という芸術を、文字という方法、いわば「異なる空間」で表現しようとしています。作者の卓越した筆力でこそなせた業だと思います。
もちろん、この小説の内容を、文章だけで理解したわけではありません。ドラクロワの作品をネット上で検索し、その画像を眺めて、そしてまた文章を読むことによって、自分の中のイメージが広がります。
この本によって、ドラクロワだけではく、グロやジェリコーのような画家にも興味が湧いてきました。あと、アングルにも^^;

音楽についても同じです、音によって表現される音楽を、文字によって表現する試みが、この小説の中で行われています。ショパンのソナタやマズルカをYoutubeで探して聴きながら、そしてまた文章を読んで創造力を膨らませる。第一部下巻の最後と、第二部条件の最初は、「葬送」を読んでわたしがもっとも感銘を受けた個所です。

ドラクロワの「サルタパナールの死」の一部が表紙の、第二部下巻。
ショパンの弟子の愚直な愛情、ショパンの姉の家族愛の中で、淡々とストーリーは進みます。
死に対する無力感が描かれ、物語は最後を迎えます。

心理描写を主体にした進行の中で、二月革命やポーランド分割など、19世紀ヨーロッパの社会背景も描画されていて、絵画、音楽、歴史への興味がとても深まる小説でした。

さて、これで作者自身が語るところの、ロマン三部作(日蝕一月物語、葬送)を読み終えました。平野作品に対する興味はとても深まっているので、次は第二期の実験的な短編群を読んでみたいと思いますが、
その前に他の本も読んで気分を変えたいところもあるので、しばらく平野作品は置いておきます。
また、少し時間をおいてから「日蝕」を読み直してみようと思ってます。

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p.s. 昨日と同じようにたんぱく質オーバー。50gを切るのはなかなか困難。塩分は〇。


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