居心地

相棒のワンコとの暮らしの風景
他愛ない日常のあれやこれ

おもかげロウソク

2009年05月16日 | 妄想ワールド
何度目かの「昼寝屋」からの帰り道

脇のベンチにかけているおばあさんが

こちらを見ている事に気づいた。


にこにこと柔らかい知り人の様な笑顔に

思わず会釈をすると

すっと手を伸ばしロウソクを握らせる。


「あふれた時に使いなさい」


曖昧に頷きバックの底にロウソクを沈めると

それっきりおばあさんと一緒に記憶から消えてしまった。


相変わらずの毎日を弾むようにこなし

時に自分の笑い声に驚きながらも

張りつめたロープをわたる軽業師のように

立ち止まる事のない日々をやり過ごす。


いつもと同じ様に寝る前には風呂に浸かり

いつもと同じように息を吐き

いつもと同じように汗を掻いたはずだった。


ただ少し違っていたのは

いつの間にか深いため息になっていた事。


汗が頬を伝う滴となり

やがて幾筋もの跡を残し

後から後から溢れてくると

「あふれた時に使いなさい」の囁きが蘇る。


そろそろと湯を上がり

バックの中からロウソクを取り出し

そっと火を着ける。


ぼうっと暖かな灯りがゆらゆら揺れだすと

灯りの向こうにゆらゆらと影が見える。


会いたいのに会えない人の面影が

ロウソクの灯と一緒に揺れている。


すっぽりと抱きしめられたような心地のまま

ロウソクが固まりになるのを見届けた時

「分かってる...」

と声を残し煙と一緒に消えて行った。
コメント (10)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

にほんブログ村

にほんブログ村 家族ブログへ