デンマンと松本清張(PART 1)
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上の合成写真は寅さんと松本さんではなくて、デンマンさんと清張さんのつもりですか?
判りますか?
タイトルを見ればすぐに判りますわよ。 でも、どうして急に松本清張さんを取り上げたのですか?
あのねぇ~、3日前に松本清張さんの本を3冊バンクーバー図書館から借りてきたのですよ。
3冊も。。。?
その内1冊はすでに読んで返したのですよ。 最初の10ページぐらいが本から外れてしまうのでカウンターの係員に、その事を話したら「バインディングをし直します」と言って注意書きの栞(しおり)を挟んだので、できるだけ早く返さねばならないと思い、その日のうちに読んで返したのです。
あらっ。。。1日で1冊を読んでしまったのですか?
そうです。
。。。で、その事があったので清張さんの事を取り上げる気になったのですか?
いや、違いますよ。 次の箇所を読んだ時に急に思い出したことがあったからですよ。。。
松本清張先生は1992年に亡くなられた。
私が初めての単行本を上梓したのはその前年の暮であったから、実にすれちがいである。
お顔を見たこともなく、お声を聞いたこともない。
したがって私にとっては、最も近しい文学史上の人となった。
そのことが幸いであるのか不幸というべきかは、いまだにわからない。
謦咳に接することの叶わなかった不幸のかわりに、一読者として作品に親しみ続ける資格を得たと思うからである。
(赤字はデンマンが強調
読み易くするために改行を加えています。)
270ページ 『悪党たちの懺悔録』
松本清張傑作選
浅田次郎オリジナルセレクション
2009年 第1刷発行
発行所: 株式会社 新潮社
これは本の最後に選者の浅田次郎さんが書いた解説の出だしの部分なのですよ。
この部分を読んでデンマンさんは急に思い出したことがあるのですか?
そうなのですよ。 僕は松本清張さんと間近に会ったことがある。 清張さんの吐く息が感じられるくらい近かった。
あらっ。。。出版のパーティとか講演会の楽屋で会ったのですか?
いや。。。新宿の東口からそう遠くない紀伊国屋本店で偶然出会ったのですよ。
それ以前にデンマンさんは清張さんと話したことがあるのですか?
いや。。。僕は全く清張さんの一読者に過ぎません。 それまでに会ったことも見たこともない。
つまり、新宿の本屋さんで見かけた程度だったのですか?
そうなのですよ。
デンマンさんのことですから清張さんのサインを求めたのでしょう?
いや。。。そういう雰囲気ではありませんでしたよ。 あの風貌ですからね。 ブスッとした表情を浮かべているように見えるでしょう? 話しかけたいように気にならない。 清張さんには人を寄せ付けない雰囲気がある。
もしかして他人の空似ではありませんか?
あのねぇ~、清張さんの顔は、写真で見ても一度見たら忘れられないような個性的な人相ですよ。 あの人相は、そうやたらにあるもんじゃない。 だからこそ、すぐに清張さんだと判ったのですよ。
それで清張さんは紀伊国屋の本店で本のサイン会を開いたのですか?
いや。。。僕と同じように本屋に立ち寄ったという感じでしたよ。 入り口から5メートルぐらい入った所の単行本の書棚の前で僕は本を手にとってパラパラめくっていた。 そしたら隣に背の低い黒いコートを着た男がやって来た。 本を手に取るでもなく背表紙を見ているといった感じでした。
その人が清張さんだったのですか?
そうなのですよ。 150センチぐらいしかない小男ですよ。 どのように見ても155センチ以上はなかった。 松本清張ってこんな小男なのだろうか? 顔が大きく大柄な人だと僕は思い込んでいた。 それが意外にもブスッとした小男だった。 それが僕の第一印象でしたよ。
それで、その場に居た他の人はどのような反応を示したのですか?
その日はたぶん土曜日か日曜日だと思うのですよ。 でも、それほど店内は混んでいたわけじゃなかった。 5メートルほどの本棚の並びには僕と清張さんの他に2人か3人程度だった。 誰も気づいていないようだった。 気づいていたとしても、僕と同様に「人を寄せ付けない雰囲気」を感じていたに違いない。 だから、誰も話しかけようとはしなかった。
いつ頃の話ですか?
まだ僕が海外に出る前、日本に居た頃ですよ。 当時、僕は松下産業の正社員で横浜港北区にある松下通信工業(株)に出向していた。 その日の事はよく覚えていますよ。
どうして。。。?
あのねぇ~、会社のダンスパーティーで仲良くなった技術管理課の女の子とデートをする予定だったのですよ。
あらっ。。。会社のダンスパーティーでナンパしたのですか? うふふふふふ。。。
やだなあああァ~。。。そのように茶化さないでくださいよう。
つまり、真面目に付き合おうとしていた女性なのですか?
当然ですよ。 かなり前に記事に書いたことがありますよ。 ちょっと読んでみてください。
床上手な女
上の記事の中でも7番目に「ダンスのうまい女性は床上手」と書いてあるでしょう。。。僕も、実際、そう思いましたよう。
デンマンさんには体験談があるのですか?
あるのですよう。僕は松下産業に入社して横浜の綱島にある松下通信工業に出向したんですよう。それで、毎年ダンスパーティーに顔を出すようになった。
社内ダンスパーティーですか?
そうです。どう言う訳か、綱島の大食堂ではやらずに、佐江戸にある工場の集会場でやったのですよう。3000人ぐらい入れる会場なのですよう。
綱島から、かなり離れているのですか?
同じ横浜市にあるのだけれど、僕は車を持っていなかったので電車を乗り換えてゆくから、1時間ぐらいかかりましたよう。
左の方に「松下電器産業」と書いてあるけれど、ここが僕が松下通信工業で働いた時には、通信工業の佐江戸工場があった所ですよう。現在では都築(つづく)区にあるけれど、この区は港北区と緑区の一部が分区して、新しくできたとか。。。僕が居た頃は港北区だったように思うのですよう。当時は工場の周りは畑で、家などほとんど無かった。おそらく、新しい区ができるほどだから、今では、工場の周りには家が建ち並んでいるのでしょうね。東横線の綱島駅から菊名駅で乗り換えて、横浜線で鴨居駅で降り、そこから田んぼの中を工場まで20分ぐらい歩いたものですよ。
それで、たくさんの人が集まったのですか?
そうですよう。まるでお祭りさわぎでしたよう。少なく見積もっても1500人ぐらいがやって来ていました。“芋の子を洗う”ようだと言う形容があるけれど、まるでイモを洗うように人がゴロゴロとダンスしていると言う感じだったですよう。うしししし。。。
大勢の人たちが所狭しと踊っていた訳ですか?
そうなのですよう。僕はデータ制御事業部の技術部で働いていたのだけれど、技術部技術課はすべて男だけです。技術部には250人ぐらい居ました。 女性が居るのは技術管理課という課だけで、そこには課長1名と係長1名、それに7人の女性が居たのですよう。
。。。で、デンマンさんのことだから、すぐにその7人の女性たちと仲良くなったのでしょう?
そうです。 やっぱり技術管理課の女性たちと仲良くしないと仕事がやりにくいですからね。
どうしてですか?
打ち合わせがあったりすると、技術管理課の女の子に頼んでコーヒーを入れてもらうのですよう。 そう言う時でしか会社の只のコーヒーが飲めない。うしししし。。。
つまり、会社の只のコーヒーを飲むために女の子のご機嫌をとって仲良くしていたのですか?
うん。。。、確かにそういう下心が半分ありましたよね。うへへへへへ。。。お金を払って飲むコーヒーショップが会社の食堂の一角にあったけれど、そういう所で打ち合わせをしたことが無い。うしししし。。。
それで、その女の子たちと踊った訳ですか?
そうですよう。同じ社員でも見ず知らずの女性と踊るよりは、普段、顔を合わせている女性の方が、やっぱり踊りやすいですよね。
それで、どう言う事があったのですか?
あのねぇ~、僕は学生時代から数えれば、少なくとも200人を越す女性と踊ったと思うのですよう。
それで。。。?
その7人の中に山本恵子さんと言う女性が居たのですよう。この人と踊った時だけ、僕の背後に他のカップルが近づいてくると、僕の肩に置いた手の人差し指だったか?あるいは中指だったか?“すぐ後ろに他のカップルが近づいてきて、ぶつかりそうになっていますよう”。。。まるで僕にそう言うように指先に力を込めて知らせるのですよう。“あっ。。。うしろ。。。うしろ。。。”なんて、言葉で言う女の子も居たけれど、やっぱり、指先で知らせる方が洗練されているような感じで、僕は改めてこの恵子さんを見直したのですよう。
そのような事をするのはデンマンさんのお相手では恵子さんだけだったのですか?
そうなのです。後で話を聞いたら、女子高時代にそうするように先生に教わったと言うのですよう。それがマナーなのかもしれないけれど、僕は教わった事が無いし、それまでに、そのような事をする女性と踊った事が無い。
。。。で、実際に恵子さんは床上手だったのですか?
残念ながら、ベッドの中でお相手をしてもらうような関係にはならなかったのですよ。 本当に残念でした。 でも、上の記事を読み返しながら、恵子さんならば、まず間違いなく床上手だろうと、しみじみと懐かしみながら思い出したと言う訳なのです。
『床上手な女』より
(2008年9月16日)
つまり、この恵子さんと新宿でデートしたのですか?
そのつもりだったのだけれど、当日になって急用ができたので行けないと言ってきたのですよ。
デンマンさんの下心を見透かして遠回りに断ったのですわ。 うふふふふふ。。。
あのねぇ~、そのような下心はありませんでしたよ。
それで一人でブラブラと新宿まで出かけて行ったのですか?
そうです。 新宿でデートするつもりだったので、他にすることが思い浮かばなかったから新宿まで行った。 これからどうしようかと考えながら時間つぶしに本屋に入ったのですよ。
そしたら松本清張さんを見かけたというわけですか?
そうです。 どうせ有名人を見かけるなら松本清張さんよりも原節子さんに会いたかったですよ。 うへへへへへ。。。
(すぐ下のページへ続く)