
【午前7時】エドワード・ホッパー
ところで、最後に残された懸案事項がひとつ、そして謎がもうひとつばかりあるかと思います。
物語の最初のほうで、トム爺から「パレーさんには恋人があんなさっただ」といったような発言があり、ナンシーが早とちりしてその相手をジョン・ペンデルトンであると勘違いしてしまったのですが――相手がジョン・ペンデルトンでなかったら、パレー叔母さんの昔の恋人というのは、一体誰だったのでしょうか?
実をいうとそれは、お医者のチルトン先生でした!
ジョン・ペンデルトンが足を折って倒れていた時、パレアナが電話して助けを呼んだお医者先生です。実をいうとあのあと、パレアナはスノー夫人にしてあげたように、パレー叔母さんの髪も結ってあげたりしていたのですが、その時の姿をチルトン先生が見るなり、パレー叔母さんが怒りだしたということがありました。
ふたりは、愚にもつかないようなこと(?)というのか、今となっては「何故そんなことでこんなに長く仲たがいすることになったのか」といったようなことが原因で、喧嘩別れしていたのです。
以降、パレー叔母さんとチルトン先生との間に交流は一切なく、ハリントン家に呼ばれるお医者先生はウォーレン先生ということに決まっていました。パレアナは、ジョン・ペンデルトンが骨折した件を通してチルトン先生と仲良くなっていましたから、事故に遭ったあと、チルトン先生に来てもらいたがりました。
けれども当然のことながら、パレー叔母さんはそのことを渋りました。
無理もありません。何故なら――「次に自分の家にあなたを招くとしたら、それはわたしが自分の誤りを認め、あなたの求婚を受ける時だ」といったように、パレー叔母さんはチルトン先生に言い渡してあったからです。
その結果、チルトン先生もパレー叔母さんも今の今まで互いに独身を貫き通し……とりわけ、チルトン先生の暮らしのほうは寂しい限りだったようです。第十五章に>>「この人の生活はさびしいかぎりでした。妻もなく子もなく、ただ不安定に二間の診察室を借りているだけでした」という描写がありますし、チルトン先生もまたジョン・ペンデルトン同様<婦人の手と心>を必要としていたのです。
ところで、当然のことながらチルトン先生は医師として、パレアナの病状のことがとても気にかかっていました。
それというのも、チルトン先生のお友達のお医者さんが、パレアナとよく似た症状の患者を治すことに成功していたからです。けれどもパレーとの約束のことがあって、チルトン先生はどうにもハリントン家を訪ねられずにいました。
>>「ペンデルトン君、ぼくはあの子に会いたいのだ。診察したいのだよ。どうしても診察しなければならん」
「そうか――そうできないのかい?」
「そうできないかだって?ペンデルトン君、ぼくが十五年以上もあの家の敷居をまたいでいないことは、きみもよく承知しているはずだ。きみは知らないのか――だが、ぼくが話そう――あの家の女主人が言ったんだ――ぼくにきて欲しいと頼んだら、それはあの人がぼくに許しを乞い、すべてをもとどおりにしたいという――つまり、あの人とぼくと結婚するという意味にとってもらいたいと、こう言ったんだ。たぶん、きみは、あの人がいま、ぼくを呼ぶかもしれないと思うだろうか――それはあり得ないことだ!」
「しかし、いくことはできないのかい――招かれなくても?」
チルトン医師は顔をしかめました。
「さあ、できそうもないな。ぼくにも少しは自尊心というものがあるからね」
「しかし、そんなに気をもむくらいなら――自尊心をのみ込み、けんかのことも忘れる、というわけにはいかないものかねえ――」
「けんかのことも忘れるだって?」
と、医師は荒々しくさえぎりました。
「ぼくが言うのはそんな種類の自尊心じゃない。そんなたぐいのだったらぼくはここからあの家まではいずってでも、逆立ちしてでもいくよ――それがなにかの役に立つのならね。ぼくが言っているのは職業的自尊心なのだよ。これは病気の問題であり、ぼくは医師だ。出しゃばって、『さあ、私を頼んでください!――いけませんか』とは言えないじゃないか」
(第二十九章『開いた窓から』より)
さて、このあとどうなったかと申しますと、この会話を窓の外で聞いていたジミー・ビーンが(彼はそこで花壇の草取りをしていたのです)、「こいつはオイラの出番!」とばかり、このことをパレー叔母さんに知らせにいくのでした。
こうしてすべて――事はうまく運びました。十五年間絶交状態にあった昔の恋人同士が、どんな会話を経て再び結ばれることになったのか、その詳細については語られていませんが、なんにしてもとにかく、パレアナの足の問題を通してパレーとチルトン先生は和解し、また和解しただけでなく結婚まですることになるのです!
>>窓辺では看護婦とウォーレン先生が熱心に話していました。チルトン先生は両手をパレアナにさしのべました。
「パレアナちゃん、きみがいままでやった仕事の中で、一番うれしい仕事の一つがきょう、できあがったのですよ」
チルトン先生の声は感激でふるえておりました。
夕暮れに、驚くほどおどおどした、驚くほど変わってしまったパレー叔母さんがパレアナのベッドのかたわらへ忍ぶようにやって来ました。看護婦は食事にいっておりました。部屋には二人きりしかおりませんでした。
「パレアナや、おまえにお話があるのだよ――だれよりも先におまえに言おうと思ってね。そのうちにいつか、チルトン先生は――おまえの叔父さんにおなりになるのだよ。これもみんな、おまえのおかげです。おお、パレアナ、わたしは、それはそれは――幸福なんだよ!そして、それはそれはうれしいんだよ!――かわいいパレアナや!」
パレアナは手をたたこうとしました。しかし、一度、小さな掌を合わせると、手をそのままにして止めました。
「叔母さん、叔母さん、先生がむかーしに欲しがってた婦人の手と心というのは、叔母さんだったの?そうだったのね――いま、わかったわ!それだから、先生はあたしが一番うれしい仕事を――きょう――したのだとおっしゃったんだわ。あたし、うれしくてたまらないわ!ああ、叔母さん、あんまりうれしくて、ちっとも――足のことでさえ、いまじゃ、どうでもかまわないくらいよ!」
(第三十一章『新しい叔父』より)
その後、パレアナはチルトン先生のお友達のお医者さんに診てもらうために遠くの病院のほうへ移ることになります。そして、そして――再び歩けるようになるのでした。それからそうなる前に、その病院のパレアナの病室でパレー叔母さんとチルトン先生とは結婚式を挙げてもいたのです。
パレアナがもし事故に遭わなかったとしたら……パレー叔母さんとチルトン先生とは、互いに別れ別れに暮らしたままだったことでしょう。
こうして物語のほうは万事うまくいき、大団円を迎えてフィナーレとなります。
それでは、次回は『少女パレアナ』の物語のことを踏まえつつ、彼女のこの楽観主義の<喜びの遊び>を、果たして現実のわたしたちもすることが可能なのかどうかについて、少し書いてみたいと思います♪(^^)
それではまた~!!
ところで、最後に残された懸案事項がひとつ、そして謎がもうひとつばかりあるかと思います。
物語の最初のほうで、トム爺から「パレーさんには恋人があんなさっただ」といったような発言があり、ナンシーが早とちりしてその相手をジョン・ペンデルトンであると勘違いしてしまったのですが――相手がジョン・ペンデルトンでなかったら、パレー叔母さんの昔の恋人というのは、一体誰だったのでしょうか?
実をいうとそれは、お医者のチルトン先生でした!
ジョン・ペンデルトンが足を折って倒れていた時、パレアナが電話して助けを呼んだお医者先生です。実をいうとあのあと、パレアナはスノー夫人にしてあげたように、パレー叔母さんの髪も結ってあげたりしていたのですが、その時の姿をチルトン先生が見るなり、パレー叔母さんが怒りだしたということがありました。
ふたりは、愚にもつかないようなこと(?)というのか、今となっては「何故そんなことでこんなに長く仲たがいすることになったのか」といったようなことが原因で、喧嘩別れしていたのです。
以降、パレー叔母さんとチルトン先生との間に交流は一切なく、ハリントン家に呼ばれるお医者先生はウォーレン先生ということに決まっていました。パレアナは、ジョン・ペンデルトンが骨折した件を通してチルトン先生と仲良くなっていましたから、事故に遭ったあと、チルトン先生に来てもらいたがりました。
けれども当然のことながら、パレー叔母さんはそのことを渋りました。
無理もありません。何故なら――「次に自分の家にあなたを招くとしたら、それはわたしが自分の誤りを認め、あなたの求婚を受ける時だ」といったように、パレー叔母さんはチルトン先生に言い渡してあったからです。
その結果、チルトン先生もパレー叔母さんも今の今まで互いに独身を貫き通し……とりわけ、チルトン先生の暮らしのほうは寂しい限りだったようです。第十五章に>>「この人の生活はさびしいかぎりでした。妻もなく子もなく、ただ不安定に二間の診察室を借りているだけでした」という描写がありますし、チルトン先生もまたジョン・ペンデルトン同様<婦人の手と心>を必要としていたのです。
ところで、当然のことながらチルトン先生は医師として、パレアナの病状のことがとても気にかかっていました。
それというのも、チルトン先生のお友達のお医者さんが、パレアナとよく似た症状の患者を治すことに成功していたからです。けれどもパレーとの約束のことがあって、チルトン先生はどうにもハリントン家を訪ねられずにいました。
>>「ペンデルトン君、ぼくはあの子に会いたいのだ。診察したいのだよ。どうしても診察しなければならん」
「そうか――そうできないのかい?」
「そうできないかだって?ペンデルトン君、ぼくが十五年以上もあの家の敷居をまたいでいないことは、きみもよく承知しているはずだ。きみは知らないのか――だが、ぼくが話そう――あの家の女主人が言ったんだ――ぼくにきて欲しいと頼んだら、それはあの人がぼくに許しを乞い、すべてをもとどおりにしたいという――つまり、あの人とぼくと結婚するという意味にとってもらいたいと、こう言ったんだ。たぶん、きみは、あの人がいま、ぼくを呼ぶかもしれないと思うだろうか――それはあり得ないことだ!」
「しかし、いくことはできないのかい――招かれなくても?」
チルトン医師は顔をしかめました。
「さあ、できそうもないな。ぼくにも少しは自尊心というものがあるからね」
「しかし、そんなに気をもむくらいなら――自尊心をのみ込み、けんかのことも忘れる、というわけにはいかないものかねえ――」
「けんかのことも忘れるだって?」
と、医師は荒々しくさえぎりました。
「ぼくが言うのはそんな種類の自尊心じゃない。そんなたぐいのだったらぼくはここからあの家まではいずってでも、逆立ちしてでもいくよ――それがなにかの役に立つのならね。ぼくが言っているのは職業的自尊心なのだよ。これは病気の問題であり、ぼくは医師だ。出しゃばって、『さあ、私を頼んでください!――いけませんか』とは言えないじゃないか」
(第二十九章『開いた窓から』より)
さて、このあとどうなったかと申しますと、この会話を窓の外で聞いていたジミー・ビーンが(彼はそこで花壇の草取りをしていたのです)、「こいつはオイラの出番!」とばかり、このことをパレー叔母さんに知らせにいくのでした。
こうしてすべて――事はうまく運びました。十五年間絶交状態にあった昔の恋人同士が、どんな会話を経て再び結ばれることになったのか、その詳細については語られていませんが、なんにしてもとにかく、パレアナの足の問題を通してパレーとチルトン先生は和解し、また和解しただけでなく結婚まですることになるのです!
>>窓辺では看護婦とウォーレン先生が熱心に話していました。チルトン先生は両手をパレアナにさしのべました。
「パレアナちゃん、きみがいままでやった仕事の中で、一番うれしい仕事の一つがきょう、できあがったのですよ」
チルトン先生の声は感激でふるえておりました。
夕暮れに、驚くほどおどおどした、驚くほど変わってしまったパレー叔母さんがパレアナのベッドのかたわらへ忍ぶようにやって来ました。看護婦は食事にいっておりました。部屋には二人きりしかおりませんでした。
「パレアナや、おまえにお話があるのだよ――だれよりも先におまえに言おうと思ってね。そのうちにいつか、チルトン先生は――おまえの叔父さんにおなりになるのだよ。これもみんな、おまえのおかげです。おお、パレアナ、わたしは、それはそれは――幸福なんだよ!そして、それはそれはうれしいんだよ!――かわいいパレアナや!」
パレアナは手をたたこうとしました。しかし、一度、小さな掌を合わせると、手をそのままにして止めました。
「叔母さん、叔母さん、先生がむかーしに欲しがってた婦人の手と心というのは、叔母さんだったの?そうだったのね――いま、わかったわ!それだから、先生はあたしが一番うれしい仕事を――きょう――したのだとおっしゃったんだわ。あたし、うれしくてたまらないわ!ああ、叔母さん、あんまりうれしくて、ちっとも――足のことでさえ、いまじゃ、どうでもかまわないくらいよ!」
(第三十一章『新しい叔父』より)
その後、パレアナはチルトン先生のお友達のお医者さんに診てもらうために遠くの病院のほうへ移ることになります。そして、そして――再び歩けるようになるのでした。それからそうなる前に、その病院のパレアナの病室でパレー叔母さんとチルトン先生とは結婚式を挙げてもいたのです。
パレアナがもし事故に遭わなかったとしたら……パレー叔母さんとチルトン先生とは、互いに別れ別れに暮らしたままだったことでしょう。
こうして物語のほうは万事うまくいき、大団円を迎えてフィナーレとなります。
それでは、次回は『少女パレアナ』の物語のことを踏まえつつ、彼女のこの楽観主義の<喜びの遊び>を、果たして現実のわたしたちもすることが可能なのかどうかについて、少し書いてみたいと思います♪(^^)
それではまた~!!

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