引き続き矢部さんのお便りです。読みでがあります。
■福田三津夫様
先日、小学校の学習田で5年生の子どもたちが稲刈りをし竿掛けをして現在乾燥中の稲を、いよいよ明後日に「脱穀」作業して最終的お米になるまでを体験させます。
脱穀は、人力足踏み脱穀機を子どもたちが操作して行います。この足踏み脱穀機は戦前まで使われていたものを私が修理して使えるようにしました。
「選別」は、籾と藁くずとを選別するのですが、手回しの羽根の風力で選別する唐箕(とうみ)という古い道具です。
田舎の大人もほとんど知らない道具ですので、福田さんは見たこともないと思います。
最後に「籾摺り」という工程をへて、いよいよ玄米の出来上がりです。これは近所の農家の現代の機械をお借りして行います。
これらの道具の準備を明日やる予定なのですが、偶然なのですが今日の新聞に絵本作家の甲斐信枝さんのことが書かれた記事が掲載されました。その記事を添付します。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7c/e1/478dc2eb79a17c886229ebfde080640a.jpg)
お米にかんする学びは、稲作り体験を通しての学習と本からの研究学習がありますが、後者のためにわたくしが選んだ絵本があります。『稲と日本人』(甲斐信枝著、福音館書店)です。
4年ほど前にこの絵本のことを知ってびっくりし感銘をうけたので、ぜひとも子どもたちに読ませたいと思い、5年生の学級文庫に複数冊を寄贈しました。そのころ書いた文章は下記のようなものでした。
『稲と日本人』
矢部 顕
先日、甲斐信枝さんという絵本作家の方の講演会に行ってきました。昨年出版された『稲と日本人』(福音館書店・2015年)という絵本に接する機会があり、その絵本の質の高さと内容に圧倒されたのですが、著者の講演があると知って聴きに行ったのです。
もともと、物語絵本には仕事柄ずいぶん長いあいだ親しんできたのですが、科学絵本というのか観察絵本というのでしょうか、ほとんど興味をむけたことはありませんでした。ですから、甲斐信枝さんという絵本作家も知りませんでした。
『稲と日本人』というテーマはたいへんに大きなテーマですが、そのテーマにふさわしく非常に力のこもった絵と文章に驚きましたが、15年の歳月をかけて研究し制作し完成したとのことを聞いてさらに衝撃を受けました。いまどき拙速的な書籍があまりにも多い出版界で、熟成にかけた時間の長さにため息がでます。
甲斐信枝さんは、1970年以降30冊以上の絵本を発刊(その多くは福音館書店発行)されていますが、そのほとんどは雑草か小さな昆虫の絵本です。名もない草や小さな動物も人間と同じ生き物なのだ、という視点での哲学をゆるぎないものとして持っていらっしゃることに感銘を受けます。
稲を見て、「まぁ、覇気のない生き物だこと。人間がかかわらないと生きてゆけない」と感じたとおっしゃったのですが、力強く生きている雑草などの自然界を見つめてきた眼力はすごいものがあります。「1億年以上前には雑草として生きていた稲が、人間が常食にしようとしてから飼いならされるようになった。1万年前には、飼いならされることに抵抗しなくなった」と。この直観力には信じがたいものがあります。
あとで知ったのですが、『雑草のくらし―あき地の五年間―』(福音館書店・1985年)を出版するにあたっては、空き地の雑草を5年間にわたってつぶさに観察し見守ってから制作刊行したとのことでした。タイトルの『雑草のくらし』の「くらし」という言い方に、甲斐さんの生き物に対する愛情が表れている気がします。
「なぜ、このような絵本の作家になったのですか?」という聴衆の質問に答えて、「かんたんです。小さいころから雑草が友だちだったから。雑草からたくさんのことを教えてもらったから」。
講演から<稲作の歴史もまた人間の壮大な物語である>ことをあらためて認識させられました。野生種、渡来、飢饉、品種改良、多様性、このようなことを柱にして制作されたとのことですが、日本人が稲とどのように共生し長い歴史を歩んできたかがわかる日本人の精神史でもあります。
1930年生まれの、まぁ相当なお年寄りのおばあちゃんである甲斐信枝さんが、15年の歳月をかけて制作した情熱に圧倒されました。
『稲と日本人』は、日本のすべての学校の図書室におくべき、あるいは副読本にでもすべき、絵本というか研究書といってもよい本だと思います。(2016.3.21)
■矢部顕様
メールありがとうございました。
今回のメールも、興味深い「情報」がてんこ盛りですね。またブログにいただきます。よろしくお願いします。
私のおじいさんの家は練馬の農家だったので足踏み脱穀機も唐箕もよく知っています。さすがに足踏み脱穀機は動かしたことはなかったのですが、唐箕は現役で動いていました。懐かしいですね。
東久留米市で教師をしていた頃、3,4年生の社会科見学で毎年のように東久留米の一番古い地域の柳窪地区の村野さん宅を訪ねました。村野家は昔からの豪農家で足踏み脱穀機や唐箕を納屋から出して子どもたちに話をしてくれたものです。
それにしてもさすがに矢部さん、足踏み脱穀機を再生させるとはびっくりです。
『稲と日本人』(甲斐信枝著、福音館書店)のご紹介と「書評」ありがとうございました。読みでがありました。新聞記事がクリアに出れば言うことがないのですが。福田三津夫
■福田三津夫様
先日、小学校の学習田で5年生の子どもたちが稲刈りをし竿掛けをして現在乾燥中の稲を、いよいよ明後日に「脱穀」作業して最終的お米になるまでを体験させます。
脱穀は、人力足踏み脱穀機を子どもたちが操作して行います。この足踏み脱穀機は戦前まで使われていたものを私が修理して使えるようにしました。
「選別」は、籾と藁くずとを選別するのですが、手回しの羽根の風力で選別する唐箕(とうみ)という古い道具です。
田舎の大人もほとんど知らない道具ですので、福田さんは見たこともないと思います。
最後に「籾摺り」という工程をへて、いよいよ玄米の出来上がりです。これは近所の農家の現代の機械をお借りして行います。
これらの道具の準備を明日やる予定なのですが、偶然なのですが今日の新聞に絵本作家の甲斐信枝さんのことが書かれた記事が掲載されました。その記事を添付します。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7c/e1/478dc2eb79a17c886229ebfde080640a.jpg)
お米にかんする学びは、稲作り体験を通しての学習と本からの研究学習がありますが、後者のためにわたくしが選んだ絵本があります。『稲と日本人』(甲斐信枝著、福音館書店)です。
4年ほど前にこの絵本のことを知ってびっくりし感銘をうけたので、ぜひとも子どもたちに読ませたいと思い、5年生の学級文庫に複数冊を寄贈しました。そのころ書いた文章は下記のようなものでした。
『稲と日本人』
矢部 顕
先日、甲斐信枝さんという絵本作家の方の講演会に行ってきました。昨年出版された『稲と日本人』(福音館書店・2015年)という絵本に接する機会があり、その絵本の質の高さと内容に圧倒されたのですが、著者の講演があると知って聴きに行ったのです。
もともと、物語絵本には仕事柄ずいぶん長いあいだ親しんできたのですが、科学絵本というのか観察絵本というのでしょうか、ほとんど興味をむけたことはありませんでした。ですから、甲斐信枝さんという絵本作家も知りませんでした。
『稲と日本人』というテーマはたいへんに大きなテーマですが、そのテーマにふさわしく非常に力のこもった絵と文章に驚きましたが、15年の歳月をかけて研究し制作し完成したとのことを聞いてさらに衝撃を受けました。いまどき拙速的な書籍があまりにも多い出版界で、熟成にかけた時間の長さにため息がでます。
甲斐信枝さんは、1970年以降30冊以上の絵本を発刊(その多くは福音館書店発行)されていますが、そのほとんどは雑草か小さな昆虫の絵本です。名もない草や小さな動物も人間と同じ生き物なのだ、という視点での哲学をゆるぎないものとして持っていらっしゃることに感銘を受けます。
稲を見て、「まぁ、覇気のない生き物だこと。人間がかかわらないと生きてゆけない」と感じたとおっしゃったのですが、力強く生きている雑草などの自然界を見つめてきた眼力はすごいものがあります。「1億年以上前には雑草として生きていた稲が、人間が常食にしようとしてから飼いならされるようになった。1万年前には、飼いならされることに抵抗しなくなった」と。この直観力には信じがたいものがあります。
あとで知ったのですが、『雑草のくらし―あき地の五年間―』(福音館書店・1985年)を出版するにあたっては、空き地の雑草を5年間にわたってつぶさに観察し見守ってから制作刊行したとのことでした。タイトルの『雑草のくらし』の「くらし」という言い方に、甲斐さんの生き物に対する愛情が表れている気がします。
「なぜ、このような絵本の作家になったのですか?」という聴衆の質問に答えて、「かんたんです。小さいころから雑草が友だちだったから。雑草からたくさんのことを教えてもらったから」。
講演から<稲作の歴史もまた人間の壮大な物語である>ことをあらためて認識させられました。野生種、渡来、飢饉、品種改良、多様性、このようなことを柱にして制作されたとのことですが、日本人が稲とどのように共生し長い歴史を歩んできたかがわかる日本人の精神史でもあります。
1930年生まれの、まぁ相当なお年寄りのおばあちゃんである甲斐信枝さんが、15年の歳月をかけて制作した情熱に圧倒されました。
『稲と日本人』は、日本のすべての学校の図書室におくべき、あるいは副読本にでもすべき、絵本というか研究書といってもよい本だと思います。(2016.3.21)
■矢部顕様
メールありがとうございました。
今回のメールも、興味深い「情報」がてんこ盛りですね。またブログにいただきます。よろしくお願いします。
私のおじいさんの家は練馬の農家だったので足踏み脱穀機も唐箕もよく知っています。さすがに足踏み脱穀機は動かしたことはなかったのですが、唐箕は現役で動いていました。懐かしいですね。
東久留米市で教師をしていた頃、3,4年生の社会科見学で毎年のように東久留米の一番古い地域の柳窪地区の村野さん宅を訪ねました。村野家は昔からの豪農家で足踏み脱穀機や唐箕を納屋から出して子どもたちに話をしてくれたものです。
それにしてもさすがに矢部さん、足踏み脱穀機を再生させるとはびっくりです。
『稲と日本人』(甲斐信枝著、福音館書店)のご紹介と「書評」ありがとうございました。読みでがありました。新聞記事がクリアに出れば言うことがないのですが。福田三津夫