後期ゴシック彫刻・市民運動・演劇教育

小学校大学教師体験から演劇教育の実践と理論、憲法九条を活かす市民運動の現在、後期ゴシック彫刻の魅力について語る。

〔114〕ドキュメンタリー映画「袴田巖 夢の間の世の中」、淡々とした日常の映像の中に冤罪のむごさを感じました。

2016年10月03日 | 映画鑑賞
  元死刑囚・袴田巌さんの冤罪事件の再審が決定し即日釈放されました。2014年3月27日のことでした。その翌月から2015年8月まで200時間分の映像が残されました。そして出来上がったのが、ドキュメンタリー映画「袴田巖 夢の間の世の中」です。
  その経過を新聞が伝えています。

●袴田巌さん 釈放の翌月からカメラで追跡 ドキュ映画完成(毎日新聞2016年1月12日)
 静岡地裁で2014年3月、死刑判決の再審開始決定で約半世紀ぶりに釈放された袴田巌元被告(79)と姉秀子さん(82)の日常を追ったドキュメンタリー映画「袴田巌 夢の間の世の中」が完成し、2月から一般公開される。メガホンをとったのは「SAYAMA みえない手錠をはずすまで」などの作品で知られる金聖雄監督(52)。「2人の前を向く強さを通して、時間の重さを感じ事件そのものの残酷さを考えてほしい」と話している。
 再審開始決定に検察側が即時抗告し、今も東京高裁で審理が続く中、きょうだいは浜松市で静かに暮らす。金監督は釈放された翌月から2人にカメラを向けた。「全てを否定され、死刑におびえ続けた重さは想像を絶する。どう伝えるべきか」。悩みながら昨年8月まで撮影を続け、記録した映像は200時間分を超えた。

  この映画会が先日清瀬市で開かれました。

■ドキュメンタリー映画「袴田巖 夢の間の世の中」清瀬上映会
・お話
   袴田秀子(お姉さん)
   平岡秀夫弁護士(元法務大臣)
   金 聖雄 監督
・主 催 無実の死刑囚・袴田巌さんを救う会
・共 催 カトリック東京教区 正義と平和委員会
・2016年9月25日 (日)
・会 場 清瀬市生涯学習センター「アミューホール」

  上映時間119分はお姉さんの家に帰った巌さんの淡々とした日常の映像です。一日数時間家の中を歩き回り、私には意味不明のことをつぶやき続け、無表情にみえた巌さんが、秀子さんや、親戚や支援者との会話やつながりの中で徐々に変化していきます。家の外にも出られるようになっていきます。
 彼の行動に戸惑い目が離せなくなりながら、時折挿入される律儀に書き綴られた日記の文章とのギャップを考えさせさせられます。48年間死を意識しながら過ごした留置場生活は、他者や外界を遮断して自分だけの世界を創りあげるしかなかったのです。
  明るく振る舞う秀子さんの存在が巌さんの「社会復帰」に貢献していることはいうまでもありません。当日の秀子さんの話に、前日巌さんが地域を数時間歩き回り、警察から連絡があって、家まで送ってもらったということでした。
 今後、国家や地域、私たちは彼に何ができるのでしょうか。 重い問いを突きつけられたドキュメンタリー映画でした。

  ところで当日、優しさに溢れた金聖雄監督の話を聞くことができました。「SAYAMA みえない手錠をはずすまで」の監督として有名ですが、なんと「空想劇場~若竹ミュージカル物語」も作られていたのですね。若竹ミュージカルは東京学芸大付属養護学校(現在、特別支援学校)の卒業生や父母たち、教師たちが創りあげた壮大な演劇活動です。日本演劇教育連盟の仲間の工藤傑史さんがその中核を担いました。『僕たちのブロードウェイ』(晩成書房)という本も彼の尽力で出版されています。
  最後に金監督のコメントをチラシから紹介させてもらいましょう。

● 監督 金 聖雄(きむ そんうん)
「証拠はねつ造の疑いがある」
「これ以上の拘置は耐え難いほど正義に反する」
 2014年3月27日。冤罪でありながら死刑囚として、48年間という途方もない時間を獄中で過ごした袴田巌さんの再審が決定し、即日釈放された。
 私たちは、その後の生活にカメラを向けた。
「袴田事件は終わった。冤罪もない。死刑制度も廃止した。俺は死刑囚じゃないんだ」
 事件のことを語る巌さんは、未だに“妄想”という自分の世界から抜け出すことができない。しかし、釈放直後の表情がなかった頃に比べると、“平凡な日常”が巌さんの気持ちを解きほぐしているようだ。
 ある目突然始まった将棋三昧の日々。私も、何度となく挑戦したが、なんと73戦全敗。その度に、勝ち誇ったように、ニヤッと笑顔をみせる。また、親戚の赤ちゃんを抱いた好々爺の表情は温かい。ボクシングの話題になれば半世紀前の記憶がよみがえり、試合の論評もする。
 巌さんの“妄想の世界”を、日常という“現実の世界”がゆっくりと包み込んでいく。
 死の恐怖から逃れようと必死で生き抜いてきた巌さんは、今も私たちが想像できない深い闇を抱えている。しかし平凡な日常”のつみ重ねが光となって、その闇を照らしはじめているように思う。
 「巌のあるがままの姿を見て欲しい」と、姉の秀子さんは笑顔で語る。
 この映画で何か明確な答えがでたわけではない。しかしスクリーンに映し山される巌さんの存在が、生きることの尊さを、静かに問いかけているような気がしてならない。


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