七瀬 ふたたび

筒井さんのご本でしたっけ？　人の心が見える七瀬が主人公の物語。
人の心が見えたら・・・どれだけいいだろうと思っていた時があります。

それって、多分、誰かを好きになっている時だったのかな？
相手が私をどう思っているか・・・不安で不安で仕方のない頃、かと言って告ったり、訊ねたりもできない小心者の私は、心が見透かせたらいいと思ってた。

でも、これってほんとはすごく辛いわけだ。
人の胸に巣食う悪意とか、嫌悪とか、にこにこ顔の裏できれいに隠しているものが見えたら・・・怖いのかもしれないね。
例えば、今でこそ告知することが当たり前になっているような大病でも、やっぱり人によっては『知らされないほうがいい』なんていう臆病さんもいると思うの。なのに、否が応でも分かるとしたら・・・？

最近、そういう・・・一面の単純な良い事だけじゃない、世の理(ことわり)みたいなものに感応するのが多くなったように思う。
例えば・・確かに携帯電話の登場はとても便利で身軽に世界を広げてくれたけれど、
メールなんかしょっちゅうしている私は、便利に使いこなす一方で、便箋や封筒、封緘シールなんかを選ぶ楽しみがなくなった。

おうちの人が出たらどうしようとか、何て言って取り次いでもらえばいいかな？なんてどきどきしながらかけたボーイフレンドへの電話も・・・じかに繋がるのが分かってから、便利さとひきかえにときめき、なんてのも無くなった。

パソコンは携帯にも増して何倍も便利で、無くては不便なものになってしまったけれど、キイボードで繋がる事のできるインスタントさは、生身の人間が付き合う事でのみ分かる表情や声や、眼差しの温もりですら、一方的な思い込みや、想像にしか過ぎない危うさも連れてくる。

いつだって、文明は揺り戻しがくるものだから、便利になった今、あえて昭和回帰みたいなブームも出始めている。

勿論、鈍感ゆえに人の心が読めないのは論外だけど、本当に見えたら、私は多分、生きていけないな、とも思う。恋しい人の心を読もう、読もうとしているときが一番の醍醐味かもしれないね。
分かってしまったら、幸せな時はずっと続かない。いつの間にか、それが普通になったり、冷めたりするんだから。もう死語になってしまった感のある『ファジー』かな？　曖昧な部分やハンドルの遊び、みたいな部分ってのも必要だわ、と心の見えない私は・・・思う。