先月末、高知県の芸西村にある宿泊研修施設「考える村」に 行ってきた。この施設をつくったのは、あの桂浜に龍馬の銅像を建てた時のリーダー・入交好保氏だ。当時は、早稲田大学の2年生だった。入交氏にとって、「考える村」は、龍馬像建設にかけたのと同様に限りない情熱を傾けた一大プロジェクトだった。
設立は昭和49年3月。趣意書には、次のように書かれている。
「現代人は静かにものを考える時間と場所が必要である。はせんによって全てを失った日本人は、ひたすら経済活動にはげんで、それなりの自信をとりもどしたかに見えるが、今尚心の拠り所に迷っている。我々は「考える村」を創設する。この村に入る者は心身ともに自然に帰り、人生の意義を先人に学び、そして考える」
面積150ヘクタール、標高250メートルの山林地帯にあり、谷間には渓流や滝があり、川に沿って遊歩道を歩くと、小鳥のさえずりが聞こえてくる。広大な緑の空間に静寂な時間が流れていて、心が洗われるような気がする。一度は訪れてみる価値ありだ。
「喫茶 舞花(まいか)」には、やまがらなどの可愛い訪問も。
ここでは、予約制で、美味しいランチを楽しむことができ、素敵な女性二人が出迎えてくれる。
HP http://kangaeru-mura.jp/ TEL 0887-33-3681
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眼下には、太平洋の海原と黒潮カントリーが。
「考える村」のユニークな「語録の道」。約4kmkの遊歩道には、土佐の生んだ偉大な先人が残した語録の碑16基がある。これらの語録を熟考しながら歩くという趣向だ。
「花は清香によって愛せられ、人は仁義を以て栄ゆ。幽囚何ぞ恥ずべき、只赤心の明あり」ー武市瑞山
「船中八策」ー坂本龍馬
一、天下の政権を朝廷に奉還せしめ、政令よろしく朝廷より出づべき事。
一、上下議政局を設け、議員を置きて、万機を参賛せしめ、万機よろしく
公議に決すべき事。
一、有材の公卿諸侯および天下の人材を顧問に備え、官爵(かんしゃく)を賜ひ、
よろしくし従来有名無実の官を除くべき事。
一、外国の交際広く公議を採り、新たに至当の規約を立つべき事。
一、古来の律令を折衷し、新たに無窮(むきゅう)の大典を選定すべき事。
一、海軍よろしく拡張すべき事。
一、御親兵を置き帝都を守護せしむべき事。
一、金銀物貨(ママ)よろしく外国と平均の法を設くべき事。
「妙見山上の誓い」ー岩崎弥太郎
「男子 志成らずんば 再びこの山に登らじ」ー郷関を出づとき、妙見山の神社に誓った言葉。
「板垣死すとも自由は死なず」ー板垣退助
「考える村」の見るべきものの一つに、司馬遼太郎氏が桂浜の銅像60周年記念に贈ったメッセージ(400字詰め原稿用紙5枚の長文)の屏風がある。達筆家で知られた入交氏が精魂込めて書き上げたもので、銅像建設のリーダーらしい熱い思いが伝わってくる。
~銅像還暦によせて~
司馬 遼太郎
銅像の龍馬さん、おめでとう。
あなたは、この場所を気に入っておられるようですね。私はここが大好きです。世界中で、あなたが立つ場所はここしかないのではないかと、私はここに来るたびに思うのです。
あなたもご存知のように、銅像という芸術様式は、ヨーロッパで興って完成しました。銅像の出来具合以上に銅像がおかれる空間が大切なのです。その点、日本の銅像はほとんどが、所を得ていないのです。
昭和初年、あなたの後輩たちは、あなたを誘(いざな)って、この桂浜の巌頭(がんとう)に案内して来ました。
この地が、空間として美しいだけでなく、風景そのものがあなたの精神をことごとく象徴しています。
大きく弓なりに白線を描く桂浜の砂は、あなたの清らかさをあらわしています。この岬は、地球の骨でできあがっているのですが、あなたの動かざる志をあらわしています。さらに絶えまなく岸うつ波の音は、すぐれた音楽のように律動的だったあなたの精神の調べを物語るかのようです。
そしてよく言われるように、大きく開かれた水平線は、あなたの限りない大きさを、私どもに教えてくれているのです。~(後略)