『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

第14章  焼討炎上  29

2008-07-17 07:52:17 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 メネラオスは、ヘレンを見おろした。
 『俺を裏切った女、ヘレンめっ!』 緊張感がその場を支配した。
 メネラオスは、殺気をこめて振りあげた剣をヘレンの首根をめがけて振り下ろした。オデッセウスの動きは間に合わなかった。メネラオスの振り下ろした剣は、ヘレンの首筋にあとひと皮というところで停まっていた。一瞬ときが止まった。かすかに明るい空間が凍った。
 『約束だ!』 メネラオスが言い放つや、手にしていた剣を放り投げた。すかさず、ヘレンの肩を抱くメネラオス、歩み寄ったオデッセウスは、両手を広げ、その厚い胸に二人を抱きしめた。
 『おいっ!オデッセウス。お前、大丈夫か。それにしてもお前、血なまぐさいな。ヘレン。オデッセウスに手当てをして差し上げろ。俺には用事がある、オデッセウス。では、あとでな。』
 舞う火炎の色に映えて、トロイの上空は赤く照っていた。
 連合軍は、スカイア門前に仮の陣営を設営していた。役務を終えた将たちが帰陣してくる。アガメムノン、ネストル、イドメニス等は、彼等からの報告を受け、彼等の労をねぎらった。メネラオスも戦場の巡回を終えて帰陣してきた。

第14章  焼討炎上  28

2008-07-16 07:52:52 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 斬り裂かれた胴は、大きく口をあけていた。その部屋の荒れた感じが、男たちの死闘を物語っていた。かすかに届く光の中に、メネラオスは、柱を背にしたオデッセウスを見い出した。オデッセウスは、メネラオスを認めると、顎をしゃくって、部屋の闇を指し示した。
 『ヘレンは、どこだ!』 メネラオスが問う。彼が手にしている抜き身の剣が、きらっと光を返した。
 『オデッセウス。ヘレンをかくもうなよ。、、、、』
 その時、暗さの中に影が動いた。薄地のローブを身につけたヘレンが、メネラオスの前にひざまずき、両手を伸ばし懇願するように彼の膝に触れた。
 『おいっ!メネラオスどうした。先ほど交わした約束を忘れたのか。』
 オデッセウスは、メネラオスを叱咤した。オデッセウスは、剣を支えにして起ちあがった。彼の右手には、デイポポスを倒した剣が握られていた。メネラオスに対したオデッセウスの剣は、強い怒気を漲らせて息づいていた。

第14章  焼討炎上  27

2008-07-15 08:07:04 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 オデッセウスの左腕の傷は浅くはなかった。彼は、起ってはいられなかった。中央の柱に背中をあずけ、尻を床に落とし足を投げ出して、荒々しく呼吸をしていた。
 メネラオスは、各軍団の戦闘展開状況をチェックしながら、王城に歩を運んだ。ここでも各所を巡り勝利を自分の目で確かめておきたかった。
 連合軍は、トロイを火で持って征圧した。将兵たちは思うがままにトロイを蹂躙した。彼等は、やりたい放題である。彼等を害する者は、もうトロイにはいなかった。戦いに勝つということは、こうゆうことなのかと、血の匂いを振りまきながら、斬殺、凌辱、掠奪を思うがままにやった。
 メネラオスの胸は、ヘレンへの怒りで平常ではなかった。ヘレンへの思慕は、盲しいたままであった。王城の中を捜しまわった。メネラオスは遂に行き着いた。鎧をまとったデイポポスが自分の身体から流れ出た血の中に転がっている情景を、王城の中の闇を薄めている、かすかな灯りが照らし出していた。

第14章  焼討炎上  26

2008-07-14 08:26:04 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 デイポポスの斬撃が来た。肩をめがけての神速の剣であった。デイポポスも剣の扱い上手であった。オデッセウスは、打ち込んでくる剣の力を第一撃の剣で判っていた。一歩踏み込んで、これをはね返した。二人はめまぐるしく斬り合った。双方とも手傷を負いながら撃剣を交えた。広間の灯火の数も三つに減っていた。か細い光の中で斬り合った。
 デイポポスは若い。斬り込んで返す剣がすばやい、剣の風がオデッセウスの頬をなぜて過ぎる。オデッセウスは、肩で息をしている、決着をつけなければ俺がやられる、危険を感じた。デイポポスの剣は、オデッセウスの首を薙ぐ様に振り斬って来た。足元の乱れに気付いたオデッセウスは、腰を沈めて、デイポポスの左胴を薙いで走り抜けた。手応えは充分であった。剣は、デイポポスの左胴を斬り裂いていた。デイポポスの体が傾いていく、膝をつく、両手足を広げて、目を開き、胴から流れ出る血だまりの中に倒れこんでいった。

第14章  焼討炎上  25

2008-07-12 07:29:42 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 王城に着いたオデッセうすは、ヘレンを捜した。王城のトロイ兵と闘う兵たちを叱咤する将の姿がそこにあった。各部屋の扉は打ち壊され、血の海の中に横たわる斬り倒された兵たち、その中を右往左往、逃げ迷う女たち、兵に凌辱される女たち、戦いで生じる地獄の惨を目にした。彼はヘレンを捜した。捜し歩く先では見当たらなかった。祭壇の間にも足を運んだ。そこには、王プリアモスの屍体が血の中に倒れており、凄惨な静寂があった。ヘレンの姿はない。
 『いるとすれば、デイポポスのところか。』 彼は、ためらわずにデイポポスの館に向った。ヘレンはいた。デイポポスは大声をあげていた。デイポポスはオデッセウスに気がついた。
 オデッセウスとデイポポスは、無言で剣を抜いて対峙した。目の下の筋肉を震わせながらデイポポスは、足元を確かめながら間合いをつめてきた。デイポポスが猛然と剣を上段から打ち込んできた。剣には力があった。オデッセウスは、辛うじて受け止めたが三、四歩さがった。デイポポスも跳びさがった。再び、間合いが広がった。オデッセウスは、侮れぬ相手と思った。巧みにデイポポスの打ち込みを誘った。乗じてきた。デイポポスは無造作に間合いをつめてきた。

第14章  焼討炎上  24

2008-07-11 07:05:23 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 『俺は、お前に俺の城市の一つを進呈しようと思っている。どうだ。受けてくれる気はあるか。』
 『俺の領土は、それは、やせた土地だ。だが、俺には、我が領土。イタケを去る気は、俺にはない。しかし、お前と俺、二人が、無事、生き残れたら、メネラオス、お前から、もらいたいものがある。いいか。』
 『判った!オデッセウス。お前の望むものを進呈する。約束する。それがどんなものであろうと、お前の望みをかなえる。判った。』
 『メネラオス。お前の胸のうちが読める。俺にヘレンの命をくれ。それをヘレンにやりたいのだ。トロイの神像を盗むとき、俺は、ヘレンに命を救われたのだ。いいな。』 二人の会話は終わった。
 『俺は、王城へ急ぐ!こうしてはおれない。』
 『判った。俺もやらねばならないことがある。』
 『とにかく、勝たねばならん!』

第14章  焼討炎上  23

2008-07-10 07:03:05 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 二人は、道すがら三人の者たちに行う役務についての委細を話し、メネラオスは強く指令した。
 『いいか、よく聞け!たとえ、自軍の兵であっても、お前等三人の指示に従わない奴は、斬り捨ててよい!いいな。』 と強く結んだ。
 程なく、アンテノールの屋敷に着いた。屋敷には誰もいなかった。二人は、ひと息ついて、城市の模様を眺めた。炎の渦は城市を焼いている。その眺めに満足げであった。
 オデッセウスは、メネラオスに声をかけた。
 『大事な用件の一つは済ませた。俺には、もうひとつ、大事な用件がある。』
 『そうか。それにしても、長かったな、あれからの10年だ。お前は、どう思う。あの時は、命からがらだったな。これで、俺たちは、10中8,9は生きて帰れると思う。帰ったら、ともに、近くで領国を治めて過ごせればと思っている。』
 『それで何だ、メネラオス。』

第14章  焼討炎上  22

2008-07-09 10:15:32 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 王妃へカベを先頭に、王家の女たち、それに連なる女たちは縄をうたれ虜囚として引かれていった。その中には幼子アステアナクスを腕に抱いたアンドロマケもいた。
 アイアースは、アテナの神殿に踏み込んだ。そこには、神殿の巫女をつとめる王女カッサンドラが女神アテナに懸命に祈っていた。アイアースはつかつかと歩み寄るとカッサンドラを手荒く引き摺り下ろすと凌辱に及んだ。情け容赦もなく彼女を凌辱した。カッサンドラは、逃れようと必死にもがき抵抗するのだが逃れられない。彼女は、アテナの神像にしがみつき、神像が倒れてもしがみついていた。だが、アイアースの凌辱は凄まじく、アテナ神像は目を天上にそらした。女神アテナはアイアースを許さなかった。いつの日にか、必ず、彼に死の鉄槌をと神像のアテナは、神の役務として心に刻んだ。
 広場をあとにしていたオデッセウスとメネラオスは、連れ立って、アンテノールの屋敷に歩を運んだ。去ること10年前、アンテノールの助けがあったればこそ、命に係わる危機から脱出して、トロイを去ることが出来たのだ。二人は、作戦の要務を終えた主将格の男と兵二人を従えていた。

第14章  焼討炎上  21

2008-07-08 07:59:06 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 城市内を暴れまわっていた一群の将兵たちは、プリアモスの王城に襲いかかった。デオメデス、アイアース、ネオプトレモス等が率いる軍勢である。抵抗する衛兵などものの数ではなかった。
 戦斧、大槌、掛矢、壊し取った梁や柱で間口の扉を破り、攻め入って、抵抗する兵を斬り伏せた。命乞いする者も、情け容赦なく鋭刃を奮って斬り捨てた。王城の兵たちは、侵入してくる連合軍を阻むことは出来なかった。
 ネオプトレモスは、祭壇の間に踏み入った。そこには神々に祈りを捧げている王の姿があった。灯火の照らす、その中にヘカベ、アンドロマケ、一族の王妃、王女たちも見える。ネオプトレモスは、彼女たちの目の前で凄絶な斬撃を行った。
 老プリアモスの白く長い髪を掴み、壇上から引き摺り下ろした。二人の目が会った。プリアモスが短く言った。
 『アキレスの息か。』
 ネオプトレモスの気ははやっていた。問答無用とばかりに、手にしていた剣で、プリアモスの胸を刺し貫き、首を斬り落とした。噴き上がった鮮血は、霧となって舞い上がった。女たちは、気を失って倒れいく者、息を詰まらせて泣き伏す者、絶叫の泣き声をあげる者、無惨の修羅場であった。

第14章  焼討炎上  20

2008-07-07 07:48:21 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 アエネアスは、城市の有様を目にして腰が引けた。
 『これでは、今、俺が駆けつけても、どうすることもできない。何も為すことが出来ない。』 引き連れている部下にささやいた。各所に燃え上がる炎が各家をなめている。彼は逡巡した。そのとき、横合いから襲撃をうけた。少ない手勢で応戦するアエネアス、これを討ち倒して、危機から逃れた。自軍の兵の姿も見出すことが出来なかった。アエネアスは、敗北を実感した。それとともに、トロイを去ることを決意した。そして、いつの日にか、もう一度、このトロイを復活させることに力を尽くすことを心に誓った。
 彼は、追いすがる敵を倒し、追っ手から逃れた。恥をあとからすすぐことを心の中で詫びながら逃げた。
 家に帰り着いた彼は、老齢の父を背負い、息子アスカニオスの手を引いて、妻を連れて、わずかの手勢を従えて、燃えるトロイを背にして走り続けた。妻は、暗闇と戦いのどさくさではぐれ、そして、迷い命を落とした。アエネアスは、恥ずかしい敵前逃亡であったが、万難を排しての逃走は成功した。
 市中の戦いから、王城での戦いに移っていく、王城内での戦いは、戦士族であるギリシア人の性をむき出しにした行為で惨烈を極めていた。