『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

第14章  焼討炎上  19

2008-07-05 08:08:10 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 押し寄せる連合軍の軍勢は城市内外に住むトロイの人口を越えていた。
 炎は、ごうごうと走り、城市を舐めていく。女たちや子供たちは悲鳴を上げて、渦を巻いて逃げ惑う。炎上して崩壊する家々は、逃げ惑う彼等の行く手を遮った。
 連合軍の将兵たちは、炎上の炎に追われる兵や市民たちに情け容赦のない剣を奮った。トロイ側の兵たちはこの敵襲に何の備えもなく、防戦もむなしく、ただただ、一方的に思うがままにされた。家、建物等には火が放たれ、焼かれ、至るところに兵の、市民たちの屍体が溢れた。阿鼻叫喚、地獄絵図とは、、、、、。それは、言葉を持ってあらわすことの出来ない、目を向けることも出来ない惨状であった。
 アエネアスの住居は、城市から離れた地点にあった。彼は、今、トロイ城市街におきていることに、気付くのが遅れた。彼は、鎧をつけ身づくろいを整えると城市に向けて急いだ。逸る気持ちに身体を同調させて急いだ。その頃、城市の半分は火の海であった。

第14章  焼討炎上  18

2008-07-04 07:46:04 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 城壁上の衛兵を声をあげさせることなく手際よく始末した。彼等は身をかがめて彼方からのサインを待った。来た!上陸完了のサインが届いた。松明に火をつけてサインを送り返した。直ちに4人は、門脇に身をひそめて待っている者たちへ、手分けして伝令に走った。
 伝令を受けた彼等は、飛び出した。門番の衛兵の命を奪うや大門を開け放った。上陸した軍団の将兵たちが城市内に流れ込むのに一呼吸の間があった。彼等は、闇を通して状況を見て、頃は、『よし!』 と判断するや城外に出て、焚き火に火を点けた。軍団が現れた。彼等は手に持っている松明に火をつけて、城市内に入っていく、軍勢はなだれをうって突入した。城壁の全ての門から軍団が火の点いた松明をかざして突入した。
 街路から街路へと火の川が流れる。眠っていたトロイに恐怖が襲いかかった。彼等は、トロイの各家々に火を放って駆け抜けた。
 トロイ軍の将兵たちは、寝込みを襲われ、為すすべもなく、斬り倒されていった。

第14章  焼討炎上  17

2008-07-03 10:13:18 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 ネストルの深慮は、他の将の考えの至らないところに及んでいた。約60000の大軍が海上を移動して行う作戦行動である。誰にも気付かれなかったら、それこそ不思議である。必ず気付かれる。彼は、心を配って、市街戦開始前の状況を考えた。『若し、この戦闘行動を一番早く察知するのは、ヘレスポントス海峡の管理所である。』 この管理所と城市との距離は、4キロくらいのはずである。馬の早がけで14~15分と判断した。『ややっ!これは危ない!』 彼は、作戦の成功について、この上ない危険を感じた。彼は、将5人を選んで、呼び寄せ、この別働行動について説明した。
 『お前等に頼む。失敗は許さん!そこでの結果は、敵兵の一人も生かしておくことはならん。以上だ。行けっ!』
 ネストルは、軍船3隻の将兵手配し、船団に先駆けて出航させた。
 トロイの海峡管理所の兵が異変に気がついた。彼は、上の者に告げた。
 『何か様子がおかしい。何かが起ころうとしている。ちょっと見てきます。』
 そのように言って、小屋を出ようとしたとき、鎧を身に着けた連合軍の一隊が小屋に飛び込んできた。彼は、すかさず剣を抜いて挑んだが、槍に胴を刺し貫かれて果てた。管理所の内外一帯は、闘いの場に急変した。この隊を率いてきた将は、大声でわめいた。
 『一人残さず討ち取れ!一人として生かしておくことはならん!いいか、やれっ!』 彼等は、ネストルの指示による別働隊であった。
 海峡管理所の襲撃は極く短い時間で終わった。一隊は必要と思われる人員を残して、トロイ城市に向って移動した。

第14章  焼討炎上  16

2008-07-02 07:38:12 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 アガメムノンとネストルは、エーゲ海に傾いていく夕陽を緊張した面持ちで見つめていた。二人の胸に去来するのは、勝利の二文字であった。
 全船団に出陣の命令を発するタイミングを陽の高さで計っていた。総攻撃のタイミングに合わせるために、いつ出航するか。島の西側に隠れていた船団が、島の東側に移動して、船列を敷いていた。この地点からは、軍船を手漕ぎによって、約1時間でトロイの海岸に着岸できると想定していた。海は落ち着いていた。出航時は風が凪いでいるはずである。彼等の腹積もりでは、帆を張らずに手漕ぎで海を渡りたかったのである。
 海を沸かすように燃えている真っ赤な夕陽は、その身を海に沈めた。2本の火矢が煙を尾引かせて飛んだ。船団は動いた。海は泡立った。一斉に対岸のトロイに向けて進発した。
 夜のとばりが静かに色濃くなっていく、白く泡立つ航跡を残して軍船は波を蹴って海上を進んだ。

第14章  焼討炎上  15

2008-07-01 07:42:51 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 メネラオスが出てきた。続いてメネラオス配下の兵が出てくる。メネラオスは、闇の中で、主将格の男と握手を交わした。
 『手筈は。』 『OK!です。』
 『よし!兵を連れて急げ!手筈どおりやれ!』 主将格の男は、15人の兵を連れて広場をあとにした。
 デオメデス、ネオプトレモスと続いて、エペイオスが最後に降りて、木馬の腹胴の戸を閉じた。彼等は、オデッセウスに導かれて闇に消えていった。攻撃開始まで少々間がある。広場は静寂の暗闇に戻っていた。
 このとき、古代の時間としては、深更の時に至ろうとしている時間であった。

 トロイ戦争の研究者の説によると、襲撃の月日と時間が判明しているらしい。資料によると、BC11**年6月5日夜9時頃といわれている。不明なのは、紀元前何年であるか、これが判明していないのである。

 闇に姿を消した4人の者たちは海に向いている城壁の上へと急いだ。
 主将格の男の率いる15人の兵たちは、城壁の各所にある門に散っていった。

第14章  焼討炎上  14

2008-06-30 07:31:31 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 夜の闇が忍び寄ってくる。人々が家に帰り、眠りに就くときである。
 酔いどれた4人の男が広場を横切って木馬に向って来る。そして、広場の物陰から、また1人の男、これはシノンであった。広場には、猫の子一匹見当たらなかった。
 オデッセウスは、例の小さな穴から外をうかがった。
 暗闇の中で、4人の男の目が合った。その中の、主将格と思われる男が木馬を叩いた、三回叩いて二度さすり、これを二回繰り返した。木馬からは、ことことと音が鳴り返事と思われる音がした。主将格の男は、持っていた頭陀袋から小さめの松明を取り出し、他の3人とシノンに手渡し、男は小さな声で命令した。『行け。』4人の男は闇に消えて城壁に急いだ。主将格の男は、今一度、広場の隅から隅へと目を走らせ、安全を確かめた上で木馬を叩いて、最後のサインを送った。
 木馬の腹胴が、かたり、ことりと音をきしませた。木馬の中では、エペイオスが落とし戸のくさびを抜いた。木馬の腹にぽっかりと穴が開いた。綱がおりて来る。降りようとしている者の足が現れた。

第14章  焼討炎上  13

2008-06-28 08:20:45 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 息苦しさに耐えて、腹胴の中で過ごす将兵たちは、掻きたいところも掻かずに身をすくめて潜んで時をやり過ごしていた。
 オデッセウスの覗き見の穴からの光も途絶えた。静かに夜の闇が近づいてきていた。
 日がな一日、終戦の安堵で喜び歌った一日も暮れ、人々は、その暮色の中を家路についた。その宵闇の中、木馬の近くにたたずんだ、一人の女性がいた。彼女は、他人には聞こえないような小さな声でつぶやいた。
 『戦争が終わった!そんなこと、とんでもない!あるわけがない。』 そして、歩き始めた。まだ何かつぶやいている、聞き取れない。彼女はささやく、小さな声、いや、喘ぎに似た吐息の声であった。彼女へレンは、メネラオスが木馬の中にいると信じて語りつぶやいた。
 『愛しい人よ、いるのでしょう。私の愛しい人、貴方に会いたいわ。ね~、顔を見せて、私のメネラオス。』 彼女は、木馬の周りを巡りながら呼びかけた。ヘレンは、木馬の周りを三、四度巡って遠ざかっていった。
 木馬の腹胴の中には、緊迫の気がみなぎった。

第14章  焼討炎上  12

2008-06-27 07:52:29 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 木馬の腹胴の中は、人いきれと季節がらとで気が狂わんばかりに暑かった。換気のための細工は、木馬のタテガミの構造に隠されていた。効果の程は疑わしかった。
 この腹胴に潜んで、もう、どれくらいの時間が経っているのだろうか、オデッセウスは、体内いや腹時計で時を探った。
 エペイオスは、オデッセウスに触れてサインを送った。真っ暗な腹胴の中に、一条の光が走った。エペイオスは、光の入ってくる穴に目をつけて、外を見るように手まねで伝えた。エペイオスとオデッセウスのいるところ、そこは指令者の指定席であったのだ。穴の大きさは、直径1ミリくらいである。その小さな小さな穴から、わずかではあるが外の情景がうかがい知ることができた。目を穴につけなければ見えない。この腹胴の中にいて、盲目状態で過ごす不安感がやわらいだ。
 オデッセウスは、50の目を代表して、外の状態をうかがい知った。シノンは、その穴の視野にはいなかった。
 神殿前の広場に着いたのちの、広場の市民たちの喜ぶ様が、かいま見てチエックしたオデッセウスであった。

第14章  焼討炎上  11

2008-06-26 13:46:33 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 叫び、歌い、踊り、人々は、街路のいたるところで、酒を酌み交わし、食べ物を食べて、戦いの終わったことを喜び合った。
 今日の夕陽はひときわ大きく茜色に燃えて、トロイの海を、山河を、陣営のなくなった戦野を、そして、喜びにひたったトロイ城市を染めながら、暮色に包んでいった。
 夕陽に映える木馬は、ひときわ荘厳さを、かもし出し、腹中に知られてはならない秘密の荷をはらんでいる不気味さたたえて、見上げるトロイ市民を睥睨していた。

第14章  焼討炎上  10

2008-06-25 07:02:06 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 木馬は、門を抜けて城市内に入った。街路を車輪をきしませながら通り、アテナの神殿広場へと向かっていく、木馬は、広場の中央に置かれた。人々は、ここでも喊声をあげた。
 太陽は、中天にかかって照り輝いている。風はない、強い陽射しは容赦なく降り注いでいる、彼等は、喜びに溢れていた。
 彼等は、ここでも感覚が麻痺していた。腹胴に潜む総勢25人の重量のことを考えると、木で造られた馬にしては、重いのではなかろうかと気がついた筈である。大勢の力で引く、それが彼等の感覚の目を見えなくさせていた。
 エペイオスの木馬造りの巧みさは、将兵たちが乗り込んだ木馬全体の重量のバランスを考えて、石で大きなパラスアテナの神像を彫り刻み造らせ、寝させた状態でつんでおいたことである。
 王女カッサンドラは、悲嘆にくれながら、大声で叫んでいるが誰も聞いていなかった。ラオコーンといえば、その頃、シノンが隠れていた池の草むらを調べていた。事件はそこで起きていた。彼は、毒蛇のひと噛みによってこと切れていたのである。