『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第8章  クレタ離脱  45 

2019-06-14 07:16:01 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 テカリオンが船頭を伴って会所に姿を見せる。
 『軍団長殿、待たせました』
 『おう、テカリオン殿、残債の決済から済ませるとしようか。余剰分は、今回の仕入れの決済に充当する』
 オロンテスとセレストス、テカリオンと船頭、四人が話し合いながら業務を進めていく、集散所から受け取った木札500枚を小麦のあき袋に詰めてある、その袋を山と積んで決済業務を行う、木札の詰まった袋が300個にも及ぼうという大量である。双方が慎重に仕事を進める。
 『統領殿、軍団長殿、そして、オロンテス殿、ありがとうございました』
 テカリオンと船頭が深く低頭する、礼を述べる。
 テカリオンが領収の旨を書き記した木板をオロンテスに手渡す、オロンテスが目を通す、確かめる。
 イリオネスに受け取った木板を渡す、決済の業務が終わる。
 オロンテスがテカリオン方に決済業を手伝ったセレストス以下三名の者を紹介する。
 『テカリオン殿、船頭殿、この者らが私の仕事を手助けしてくれています。今後ともよろしく願います』
 『こちらこそ、何卒よろしく』と丁寧に言って握手を交わす。
 決済業務を終える、次は、仕入れの業務である。
 オロンテスは、セレストスらを連れて小麦を収納している倉庫へと向かう、テカリオンと船頭が同道する。
 小麦の在庫量を調べる、オロンテスが丹念に調べる、チョット首をかしげる、思いより在庫量が多いように思う、小麦の仕入れ量を双方が意見を述べあい検討する。
 オロンテスは、仕入れ量をセーブして答えを出す。
 『テカリオン殿、今回の仕入れ量はこのくらいでと考えています』と言って、木板に想定仕入れ量を書き手渡す。
 『今回は、確かに訪問からの期間が少々短かかったですな。次回訪問までの期間を考えるとこれが適量かとも思われます。私らもこちらの小麦の在庫量を考えて、伺うよう配慮します。そうであればこれが適量とも思われます』
 二人の間に沈黙の時が流れる。
 テカリオンが話しかける。
 『オロンテス殿、その数量で良しとしましょう。小麦の消費量を考えて、こちらに伺う、それが私が提供できるサービスであるとも考えます。了解しました』
 『では、この数量で受け入れいたします。荷降ろしはどのような段取りでやるかを話し合っておきましょう』
 二人は顔を合わせる、オロンテスが口を開く。
 『荷降ろし、荷運びは、アサイチで始めます。助っ人は何人くらいでいきますかな?』
 『そうですな、60人くらい願えれば、幸いです』
 『解りました。手配しておきます』
 明朝の荷役作業の打ち合わせを終えた。
 

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第8章  クレタ離脱  44

2019-06-13 07:38:12 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 アエネアスら三人が会所に来る、待機していたオロンテスが立ちあがる。
 『あっ!テカリオン殿、ようこそ!』
 『お~お、オロンテス殿、達者でしたかな?』
 『はい、元気で日々、業務遂行にあたっています。テカリオン殿も元気でいられる。何よりです』
 二人が顔を合わせる、挨拶が終わる、オロンテスがテカリオンにたずねる。
 『テカリオン殿、会ってすぐのたずね事で、失礼ですが、夕食の件で当方の準備があります。船の一同は何人ですかな?』
 『お~お、そのような気づかいはしないでください。こちらが痛み入ります』
 『そう言わずに言っていただきたい』
 『大人数です。気づかいしないでください』
 『くどいようですが、言ってください。軍団長より下命されています』
 押し問答のすえ、テカリオンが答える。
 『船の者らは、33人です。オロンテス殿、正直に本音を言います。実はですな、船の者らは、こちらで馳走になるパンをこの上なく楽しみにしています。チョットづうづうしい言いぐさですな。オロンテス殿、夕食の件、喜んで頂戴します』
 『では、テカリオン殿、また、のちほど』
 オロンテスが用向きに場を離れる。
 アエネアスらは、久しぶりに訪れたテカリオンを囲んで、世の中の近況を話し合う。
 テカリオンは、アテネの近郊の海岸集落のピレウスの造船事業の近況について事細かに語る。
 話題が変わる、アテネのパン焼き製造の商業化の進化状況について話す。
 夕食の時がおとずれる、テカリオンと側近、アエネアスとイリオネスの四人でテカリオンの歓迎夕食会となる。
 船の乗り組みの者らとの交流夕食会も催す、浜はテカリオンの交易船を迎えてにぎわった。
 
 テカリオンらがニューキドニアの朝を迎える、テカリオンも郷に入って郷に従う、側近の一人を伴って朝行事に行う。
 『船主殿、チイ~ト、寒さを感じますな』
 『こらえろ!周りをみろ!一同、楽しんでいる』
 テカリオンが朝行事を終えて浜にあがる、寒さをこらえて、朝行事の慣習の良さをアエネアスと語り合う。
 イリオネスが一同を会所へと誘う、朝食のテーブルを囲む、例によって、ぶどう酒のはちみつ湯割りでパンを食し楽しむ。
 船のほうへも焼き立てのパンが届けられる。
 朝食を終える、イリオネスは、オロンテスとともに今日の業務の段取りをテカリオンと打ち合わせる。
 『軍団長殿、業務段取り解りました。朝食、馳走になりました、ありがとうございました。では、担当を連れてまいります。場はこちらでよろしいですね』
 『私らも準備を整えて、ここで待っています』
 テカリオンは場を去っていく。
 イリオネスは、オロンテスと準備について打ち合わせる。
 『オロンテス、場にはセレストス他決めた3名を同席させてくれ。それから建国探索出航のことについて触れないで業務を行う。いいな』
 『了解しました』
 イリオネスは、何事にも注意深く慎重を期していた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第8章  クレタ離脱  43 

2019-06-12 13:26:59 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 話し合いを終えたスダヌスの船が浜をあとにして沖へと向かう。
 アエネアスとイリオネス、そして、話し合いに列席した者らがスダヌスの船を見送る。
 キドニアへと向かうスダヌスの船と入れ違いにテカリオンの船が沖に姿を見せる、帆柱の先端にテカリオンの旗印が風になびいている、浜風は東南から西北に向けて吹き抜けていく、沖に吹いている風は、旗のなびき具合から見て東風であるらしい。
 浜の張り番の伝令により会所に一報が届く、軍団長が受け取る。
 『交易船が浜に近づきつつあります』
 『おう、ご苦労!』
 言葉のやり取りを耳にするアエネアス。
 『おう、軍団長、テカリオンの船だろう。もう、着岸するころではないのか?浜へ行こうか』
 『え~え、行ってみますか』
 二人が波打ち際に立つ、交易船が着いている、積み荷の関係で浜から少々離れた地点に船が停泊している。
 張り番の者が、軍団長に報告する。
 『只今、パリヌルス隊長がハシケで船のほうに行っていますが』
 『おう、そうか』
 アエネアスとイリオネスがハシケの到着を待つ、ハシケが波打ち際に着く、テカリオンが下りてくる、同乗してきた側近がハシケに積んできた荷を下ろす、チエックするテカリオン、パリヌルスとうなずき交わす、渚に立つアエネアスと目が合うテカリオン、急ぎ歩み寄る、礼を交わす、言葉をかける。
 『統領殿、無沙汰で過ごしています。失礼を許してください。変わることなく過ごしていられますか?』
 『おう、この通り元気でいる。テカリオン殿も元気かな?』
 『はい、この通り達者で日夜仕事に携わっています。こうしてこの地に来れる、とても喜んでいます。ありがとうございます』
 テカリオンが身体をイリオネスのほうに向ける。
 『軍団長殿、久しぶりに当地にまいりました。日ごろ大変世話になっています。変わりなく健やかそうで何よりです。持参いたしました心づくしの粗品です。受納ください』
 ハシケからおろして浜に積んだ品々を手で指し示す、深く低頭する。
 『おう、テカリオン殿、久しぶりだ、元気な姿を見せてくれた。テカリオン殿、あなたの来訪を待っていました。当方こそいろいろ世話になっている、こちらこそあなたに感謝の気持ちでいっぱいですな!持参の品々ありがたく頂戴する。ありがとう。厚く礼を言う』
 テカリオンがイリオネスの傍らに立つパリヌルスに世話をかけた礼を言う。
 『なんのなんの、私への礼はいらない。側近を船に送った』
 『パリヌルス、世話をかけたな、ありがとう!またゆっくり話をしよう。三日くらい当地に滞在する予定でいる。ことによったら長くなるかもだ』
 『おう、解った』
 アエネアスとイリオネスがテカリオンとともに会所に向かう、三人が会所に着く、オロンテスがテカリオン到着の報を受けて会所に待っていた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第8章  クレタ離脱  42

2019-06-12 04:33:56 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 次を頭の中に想い浮かべたアエネアスは、ハタッと考える。
 『なんと、俺のやっていることは、決心以来、考えてばかりいる。考えることが仕事か。あとは、考えたことを伝える。彼らがそれをカタチにする、してくれる。彼らを『活かす』ことに注力して考える。これが俺のすることである。軽んずべからずだな!』と自覚する、我に返る。
 イリオネスが話しかけてくる。
 『統領、先ほど言われた件については、これまでやってきた通りの営業対応でいいのではと考えます。当方の体制が整ってさえいれば、自信を持っての対応です』
 『そうか、お前の言う通りだな。お前の言わんとするところを理解した』
 『ドックスが取り締まる建造体制、ダックスに引き継ぐ営業の展開に自信を持っての対応で充分であると心得ます。ただし、ダックスがどうしても処理が難しいと思われる場合には、スダヌスに相談でと言う段取りにしておけばいいと考えます』
 『おう了解。お前の考えでこの件は決着!対応するのが互いに大人だ、心配に及ばないな。それで話を進める』
 二人が対応するスダヌスとの話し合いの大筋が決まる。
 スダヌスの到着を待つ、予定した時間に彼が到着する、話し合いに列する者らも出席する、昼食を共に過ごす、話し合いに入る。
 人事の紹介をする、アレテス担当の漁業関係の話がまとまる、ポリスの件については、スダヌスの息子のクリテスが参画しているだけにスダヌスは快諾に及んだ。
 アエネアスらの出航後の状態を把握する、それらを総括する、そのうえで、船舶関係の件を協議する。
 スダヌスがイリオネスに説明を求める。
 『これは広範囲の対外問題を含んでいる。どのような体制になるのか。どのような運営になるのか?を説明していただきたい』
 『船舶関係の建造と営業については、これまでと何ら変わらない。ただ、建造に関する人員が少なくなるゆえに、月々の建造艇数が、5艇であったものが、4艇、もしくは、3艇となる。それについてはーーー』 
 『ほう、それについて、何ですかな?』
 『需要と供給に問題が発生した場合には、対応できる体制を整えてあります。もちろん、スダヌス浜頭殿に相談しての処理体制となっています』
 『解りました。ポリスが形成されるだけに組織で諸事に対応責任があります。充分に配慮ください』
 『その配慮に手落ちはない。浜頭。安心していただきたい』
 アエネアスが答える。
 『承知いたしました。依頼の件、引き受けます。安心してください』
 スダヌスが自信ある口調で承諾を告げる。
 アエネアスとスダヌスの目が合う、双方が手をさしのべる、握手を交わす。
 イリオネスとも握手をする、スダヌスは、場に会同している一同と握手を交わす、話し合いが終わる。
 考えていた時間より時間がかかることなく話し合いが終結する。
 アエネアスらが組みあげた人事が効を奏したカタチで結着を見る。
 アエネアスは、スダヌスの快諾に感謝する。
 スダヌスは、自分を信頼して事の大事を託してくれるアエネアスの期待を引き受ける。
 互いに阿吽であった。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第8章  クレタ離脱  41

2019-06-10 03:40:31 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 朝行事、身体を海に浸している、彼らに緊張が走る、大日輪が水平線を破る一瞬がおとずれる。
 水平線を破る大日輪の頂点に目をくぎづける、彼らの歓喜の雄叫びが海ずらを走り抜ける、合掌の姿も見える、合掌と言う姿は人が自然にするカタチなのであろうか、興奮と敬虔の光景が現出する。
 アエネアスは瞑目している、決意の実行を誓う、決意のカタチを瞼の裏に描く、余念を抱かず、ただひたすらに成就を誓約して祈る。
 父の姿をまねているユールス、父の風情を見あげる、父子二人の朝行事が終わる。
 アカテスがユールスを迎えに来る。
 朝行事を終えたイリオネスが浜で待っている、朝の挨拶を交わす、今日を打ち合わせる。
 パリヌルスらが顔を見せる、イリオネスは少しばかり緊張の面持ちで彼らと今日を打ち合わせる。
 スダヌスとの話し合いに出席するメンバーについて念入りに打ち合わせる。
 『そういうことだ解ったな!話し合いは午後からと予定している』
 『了解しました』と一同が答える。
 『ところでオキテス、人事のほうだが確定したか?』
 『はい、確定しました』
 『建造の場を統括するのは誰にした?』
 『ドックスです』
 『ドックスに出席を指示しておいてくれ。営業関係のほうの人事も決定しているな?』
 『はい、決定しています。ドックス出席の件了解しました』
 オキテスとの打ち合わせを終える、パリヌルスに話しかける。
 『パリヌルス、アレテスに指示はしてあるな。それからだが、クリテスとソリタンを出席させてくれ』
 『判りました』
 『オロンテス、セレストスの出席だが大丈夫だな?』
 『はい、大丈夫です』
 『おう、一同以上だ。よろしく頼む。用件があれば、統領と俺は会所のほうにいる』
 イリオネスは打ち合わせを終える、場を解く、各自がそれぞれの持ち場へと向かう、アエネアスとイリオネスは会所へ歩を向ける。
 会所におちついた二人は、朝食を終える、スダヌスとの話し合いの段取りを打ち合わせる。
 手抜かりは許されない、念を込める、綿密に筋を組み立てる、水の漏れがない話し合いの手順を組み立てる。
 漁業関係、ポリスの件、体制の総括状態の説明、それらを打ち合わせたうえで船舶の営業関連を話すように話の進め方を組み立てる。
 『なあ~、イリオネス、スダヌスとの打ち合わせが終われば残るは外部との話し合いだな。それについて、時期と誰にどのように話すかを検討してくれ。俺も考える。イラクリオンのエドモン浜頭らとの話をどのようにするか、まだ結論に至っていないお前の考えを今日明日中にまとめてくれ』
 『そうですな、そのあたりをどのようにするかを考えます。スダヌスにあたってみることも考えて検討します』
 『この件は、関係筋、互いの仕事の進め方もある故に簡単とは言えない。俺なりに考えておく』
 アエネアスは、出航の準備をどのように整えるかについて考え始めていた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第8章  クレタ離脱  40

2019-06-07 04:54:06 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 アエネアスが無意識につぶやく。
 『この時節がたまらない!好きだ!』
 黎明の訪れが日に日に早まる、陽射しが強くなっていく、アーモンドの花が咲きほころぶ頃が来る、心が身体が活性する。
 衝動が体を貫く、じっとしておれない、目覚める、寝をむさぼっているユールスを起こす。
 広場を横切る、ユールスの歩調に合わせる、坂道を駆けおりる、朝行事の浜に着く、ムムッ!一番のりではない。
 早起きの者らが海に身を浸している、空を仰ぐ、星がまたたく二つ、三つ。
 ユールスの手をひいて海に身を浸す、身体、知覚、五感が覚醒する、ユールスと顔を合わせる、目が合う、笑みを交わす、情が通う、一時を過ごす。
 早起きの彼らと共に、大日輪が水平線を破って昇る時を待つ。
 『大日輪の昇る姿を見たい!』
 晴れの日である限り、この望み、期待は必ず達成される、成就する。
 『全てがそうであってほしい』
 誰もがそう望む。
 アエネアスは、希望の達成、成就に関する条件を自然の成り行きから学びとる、結論する。
 『条件を整えれば、必ず成就する!整わざれば成就なし!』
 アエネアスとユールス、そして、海に身を浸す彼ら一同、大日輪が水平線を破って顔を見せる、その一瞬に想いを馳せる、願望の成るを自然体で祈願する、その一瞬に誓約する。
 成就させたいことをイメージする、思考する、準備を整える、起ちあがる。
 脚下を照顧する!一歩前へ踏み出す、成就への一歩である。
 事の始まりには、何故がある、どうしてがある、どうすればいいがある、進む方向に分かれ道がある、行く手を阻む壁がある。
 立ち止まる、前へ行こうか?退こうか?乗り越えようか?飛び越そうか?つらぬくか?決断に迷う。
 迷う、間違える、しくじる、つまずく、突き当たる、難事に遭遇する。
 自然体で考える、自分の身の丈で考える、身の丈が及ばない。
 悔いる、改める、謙虚を忘れず、自分の力量を計る、自分の立ち位置を考える。
 すべての力の結集を考える、出力を考える、不可能を可能化する、不可能を排除する。
 事の成就を自分に約束する、約束を結果とする、事の成就が成る。
 アエネアスは、統領として、一族の統率者として、あるべき自分を構築する。
 『こうあれば、未来に立ち向かえる!自分の考えの実現に至誠を尽くしてくれる者ら、自分と行を共にしてくれる者ら、これら一族を大切にすることこそ、施政の第一義である!』
 彼は、心の肝に念じた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第8章  クレタ離脱  39

2019-06-06 07:26:12 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 ギアスとセレストス、二人がイリオネスと目を合わせる、ギアスが話しかける。
 『軍団長、聞きました統領の決意の表明ですが、統領の決意のほどが察せられます。了解しました。統領の決意表明にスタンスして業務の遂行をします』
 セレストスがギアスに続いて答える。
 『統領の決意を重く受けとめて、業務に励みます』
 二人は、返事をする、起ちあがる。
 『軍団長、これにて失礼します』
 二人は会所を去る。
 アエネアスは、一族とのかかわり合う経緯を深く強く考える、強烈に自覚する。
 それはやり遂げねばである。それと同時に自制についても考える、気合の先走り、勇み足一歩で事をしくじる、そうではあってはならないのである。
 イリオネスが声をかけてくる。
 『統領、明日の件ですが、スダヌスとの話し合いに誰を同席させるかを考えなくてはと考えています』
 『お前の腹案は?』
 『はあ~、私の腹案?全く考えてはいませんが。統領の考えでは?』
 『そうだな、俺はこのように考えている。考えていることは3点だ、まずは漁業関係、次にポリスの件、残る一つは、船舶営業の件だ。オキテスは人事のことを決着したのかな。出席を予定している者の中に最適と考えられる人物がいない、オキテスが決めた人事の中にそれを任せられる人物がいるか否かだ。そうであればその者を出席させようと考えている。お前の考えを言ってくれ。今が何なら、明朝、朝行事の場でそれをオキテスに聞いて、事前の打ち合わせをやる』
 『了解しました。その手順で仕事を進めます』
 『いま、この場で打ち合わせておく用件があれば言ってくれ』
 『明日、午前中にでもテカリオンの件の事前打ち合わせをやっておきたいと考えています』
 『仕入れ量の件、事情の改変に伴う船舶関係の取引に関する件等が考えられる』
 『そうです。それらの件について、オロンテスと次期責任担当を含めて、時間をとって話し合っておきます』
 『いろいろと用件があるな。慎重対処だな。イリオネス、石橋をたたくにもほどがあるぞ。そのあたりを心得てたたいて渡ろう。テカリオンは、我々のためによくやってくれている。テカリオンに感謝しなければならないところが多々ある』
 『統領の言われる通りです。この際、感謝の念を持って接します』
 『俺とテカリオンとの話し合いは、建国の地の探索に関する情報収集だ。パリヌルス、オキテス、オロンテスも呼んで話を聞く』
 『解りました』
 『明朝だが、オキテスに建造の場の人事の件について確かめてくれ』
 二人は打ち合わせを終える。
 『統領、今日はこのあたりで引き上げますか。何かありますかな?』
 『ない!イリオネス、行こう』
 二人は立ちあがる、会所をあとにする。
 陽は西の海に身を沈めている、この時代彼らには、春と言う季節言葉がない、現代の季節言葉で言うとクレタは春である、宵の時間が長くなってきていた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第8章  クレタ離脱  38

2019-06-05 04:47:36 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 アエネアスは、決意の表明をした場に沸きあがる拍手に姿勢を改める。
 彼は、自分に集まる目線、沸く拍手に一族と自分と互いを結ぶ絆の絡みを強烈に感じとる。
 彼ら一族がアエネアスの施政の決意表明を素直な心情を以って受託し感動してくれている。
 アエネアスの施政に全幅の信頼をおいていることを拍手が答えてくれている。
 イリオネスがアエネアスに代わって場に立つ、声をあげる。
 『一同、ご苦労であった。新暦を迎えるにあたっての統領の施政に関する公式表明の会を終える。質疑があるようであれば、その説明会を各部ごとに開催する。ここに統領の公式表明の集会を終える。以上。解散する』
 彼らは集会を解く。
 パリヌルス、オキテス、リナウスらの一群が場を引き上げていく、オロンテスとアレテスのパン工房とと漁業部の連中が場に残る、質疑応答を話し合う、イリオネスが質疑応答に答える。
 『この事案の実行に関する段取り等は、今後、責任担当を通じて指示し遂行していく』と言い渡して施政執行の方針を説明する。
 イリオネスは、アエネアスの決意表明において、施政の第一義にポリスの形成をおいたことが、この計画の遂行を難なく進行させる感触を得ている。
 そのようなわけで、声明に関する質疑の応答にうまく答えることができた。
 統領の施政表明の計画遂行のしたたかさを心のうちに感じ取っている。
 決意の公式表明の集会を終えた二人は、会所におちつく、程なくキドニアから帰ったセレストスとギアスが顔を見せる。
 『おう。二人、帰ってきたか、ご苦労であった。掛けて休め、話もある』
 セレストスが今日の成果報告を終える。
 『軍団長、もう一件報告があります』
 『おう、何だ?』
 『今日、キドニアにおいてテカリオンに会いました。明後日、昼前に当地に来るとのことです』
 『おう、そうか。了解した。工房に行ったらオロンテス隊長にその旨を伝えてくれ』
 『解りました』
 『おう、二人ともそこに掛けろ、話がある。今日だが、一族一同の集会を開催した。新暦の始まりを迎えるにあたっての統領の施政の公式表明だ。その件を二人に伝える』
 イリオネスは、二人に統領の施政の決意の公式表明の詳細を伝える。
 『そうですか。あと10日余りで新暦が始まるのですね』
 かたわらで三人の話合いを聞いているアエネアスは、自分と一族の関わり合いをしみじみと想い浮かべ考えた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第8章  クレタ離脱  37

2019-06-04 04:22:37 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 イリオネスが広場に集まった一同を見て廻る。
 パリヌルス、オキテス、オロンテス、アレテス、リナウス、そして、それぞれの一群を引率してきた主だった者らに指示を伝えている。
 『統領が立っているところに集まってくれ』
 『解りました』と各自が答える、即、行動する。
 イリオネスが状況を見る、アエネアスの傍らに立つ。
 各部の者らを落ち着かせたパリヌルスらが再びイリオネスのところに集まる。
 『君らに伝えておきたいことがある。俺からの頼みだ』
 間を取る、一同と目を合わせる。
 『今日この場において統領の施政の公式表明を行う。アエネアス暦の第一の月が10日余りののちに始まる、それを期にしての重大表明だ。その時に若しだ、場に騒ぎが生じたら、それを抑えてほしい、その一事だ!解ったな!』と念を押した。話が続く。
 『それからだが、統領の表明が終わったあとだが、彼らから理解できないことを質問するだろうと考えられる。この場においては質疑応答の機会は考えてはいない』
 話しに間を持つ。
 『それぞれの部で質疑応答の機会をもって、この俺が質問に答える。以上だ。なお、質疑応答の場だが、俺の都合もあって、今日と明日の二日にわたってやる。今日の施政表明が終わったあとにやるのは、アレテスの漁業部、オロンテスのパン工房、あすの昼めし前に建造部、昼めしのあとにリナウスの雑用部と段取りしている。なお、いま不在のギアスらにはこの件の説明は、この俺がする』
 『解りました』
 『伝える用件は以上だ。よし!戻ってくれていい』
 イリオネスは、彼らに段取りを言い渡す、統領の表明の声が一同に届きやすいように配慮する、アエネアスの立つところを中心にして遠からず近からずに半円状に場を整える、整えた場を確認する、アエネアスに声をかける。
 『統領、始めてください』
 『おうっ!』
 アエネアスが半円状に一同が草地に座している中心に立つ、その傍らにイリオネスが控えて立つ。
 一族の1500余りのまなざしがアエネアスの顔面に集中する。
 アエネアスが口を開く、一族への呼びかけは、一族へのフレンドシップの言葉つかいで始める。
 『今日この場に集まってくれた諸君!日頃の活動、大変にご苦労!君らには心から感謝している、声を大にして礼を言う、ありがとう、ありがとう、ありがとう!』
 アエネアスが体の向きを変えながら、軽く頭を下げながら、ありがとうを連呼する。
 場に盛大に拍手が湧きあがる。
 『君らも知っているように10日後には、新しい暦の第一の月が始まる。この期に及んで、新しい目論見を以って、事を行うことを考えている。その第一は、新しい人事を以って、この地にポリスの形成をする。第二には、我々民族が願ってやまない建国の地の探索の途に就く!出航は、第一の月の21日に予定している。一族一同よ!私の背中を押してくれ!以上が新しい暦の始まりに際しての私の施政に関する意思の表明である』
 アエネアスが一同と顔を合わせる、目線を絡める、互いが感動する、一族一同がアエネアスの施政の決意表明を聞いて感激の拍手をする、拍手がやまない、場が湧きあがった。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第8章  クレタ離脱  36

2019-06-03 05:13:01 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 アエネアスら、彼らが生きている古代、現代のように言葉、語彙が豊富な時代ではない。
 目が口ほどにものを伝えたであろうと考えられる、目が開いていても心の窓が閉じていては心が通じない、互いに目を見つめる、対手の目に穴をあける。
 目線を絡めて話し合う、心の絆が結ばれる。
 『おう、イリオネス、頃合いはどんなだ?もう、彼らが来る頃かな?』
 『いや、まだです。もう少し間があります』
 『おう、そうか』
 『なあ~、イリオネス、俺は考えたのだが、ポリスの件だが、ポリスを成り立たせる心遣い、運営の技、つくりあげていく未来について、そのコツを残り少ない日々の間に伝授しなければならんな』
 『そうですね。それは何があろうともやらねばなりません』
 『そのことについて、イリオネス、時間をさいて考えてくれ。まとまったら合議の上、即、実行する。また、引き継いでくれる者らにも事の処理方法等の実務の要諦を教える必要がある。その対処についても考えてくれ』
 『解りました。その機会と実行を考えます』
 『お前と俺、以心伝心、思考のシンクロニシテイ、考えて導き出す答えの正確性とその信頼性、そして、その実行性も高く、成果の適格性も極めていい。よくやってこれた。引き継ぐ者らにも、感謝の心を伝えて、人を動かす礼式を伝えていかねばならんな』
 アエネアスがチョット姿勢を改める、イリオネスに向き合う。
 『イリオネス、ありがとう。これから新しい準備と作業分野に足を踏み入れる。よろしく頼む』
 『統領の言われた言葉、喜んでいただきます。これからも力いっぱい励み努めます』
 二人は見つめ合う目を合わせて、これからを約束する。
 小高い丘の広場である、下方からざわっとした話し声を耳にする。
 オキテスとドックス、艇の運行の責任を担当しているダックスを先頭にして建造の場の者らが広場への坂を登ってくる、イリオネスが彼ら一団を迎える。
 間をおくことなく、アレテスが漁業部の一群を従えてやってくる。
 同時に姿を見せたのがパン工房の連中である、スタッフのパンクスが先頭にいる、彼も傍らの工房のスタッフと話し合いながら歩いてくる、オロンテスが最後尾にいる、オロンテスもスタッフのひとりと話し合いながら歩を進めてくる。
 漁業部の連中より少々遅れて、パリヌルスが一団を率いて姿を見せる、彼らは、隊列を整えてやって来る、先着している者らが目を見張る。
 アエネアスは、広場の高い位置に立っている、イリオネスが彼らの位置決めをして場に就かせる、彼らに腰を下ろさせる。
 少々遅れて広場についたのが、リナウスの率いる一族の雑用をさばいている連中、男女合わせて60人余りである。
 一族一同が生計を営む落邑の中心位置にある小高い丘の広場である、彼ら一同が集合する、顔をそろえた。