1月の末に行った日本共産党市議団の飯田市の視察をまとめていたものを紹介します。長文ですが、興味があればご覧ください。
市民の自主的取り組みを広めて再生可能エネルギーの普及をはかる本市の取り組み強化に飯田市の条例に学ぶ
2011年3月12日から15日にかけて、東京電力福島第一原子力発電所の1号機から4号機が次々と事故を起こしたことを受けて、いわき市は震災及び原発事故からの復旧・復興をすすめるために策定した「いわき市復興ビジョン」で、「将来的」という限定付きですが「原子力発電に依存しない社会の 実現を目指す」と明確な考えを打ち出しました。
また、いわき市議会は2013年6月16日に設置した東日本大震災復興特別委員会がまとめ、同年8月26日に市長に提出した第1次提言で「エネルギー転換を推進し、原子力発電所に依存しない社会を目指す、本市としての意志を表明すること」と求め、議会としても「原子力発電所に依存しない社会を目指す」立場を明確にしました。
こうした中で本市では、再生可能エネルギーの促進に向けて、従来から続けていた太陽光発電システム設置にかかる補助金(一般住宅で1万円/kw。上限4kw)に加え、小名浜港を基地に浮体式洋上風力発電の実証試験を行う「ふくしま未来」などの取り組みをすすめています。
「原子力発電に依存しない社会の実現」に加え、世界的課題になっている二酸化炭素(Co2)の削減を合わせてすすめるためにも、再生可能エネルギーの開発・普及は欠かせない課題となっています。行政レベルがこれに取り組むことがもちろん大切ですが、民間レベルの取り組みも欠かせませんません。
現在、再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度があるために、市内でも民間事業者が太陽光パネルの設置などをすすめています。同時に民間レベルの取り組みでは、住民自身の取り組みが注目されます。民間事業者の取り組みは、その地域の太陽光など再生可能エネルギーを活用して生み出された利益は、事業者の本社機能が置かれた地域に、その大半が持ち出されてしまい、地域の経済循環に回るお金はわずかなものにとどまります。
ところが住民が取り組むことによって、住民が再生可能エネルギーを活用して生み出された利益は基本的に全て地域に還元され、地域内での経済循環を生み出すことができるからです。
こうした考えを活かす具体的な取り組みを始めたのが長野県飯田市でした。同市では、全国で初めて再生可能エネルギーの導入をすすめることで、持続可能な地域づくりに関する条例を制定して、取り組みを始めたところでした。
条例は「飯田市再生可能エネルギーの導入による持続可能な地域づくりに関する条例」です。2013年3月25日に制定されました。
■結い(協働)を育んだ地域柄
飯田市は長野県南部に位置し、北部の県庁所在地・長野市まで160km余、車で2時間15分ほどかかります。名古屋市は距離にして約100km、車で1時間20分であり、市民生活はむしろ名古屋市との結びつきが強い位置にあります。
東西には南アルプスと中央アルプスが走り、安土桃山期に現在の街区の原型が形成されました。面積は658.73㎞2、人口10万6千余。森林面積は84.6%、日照時間は2,138.9時間(2012年)で、再生可能エネルギー源に恵まれた環境です。古くから「結い」による協働性を大切に育んできた地域性があり、飯田の名称の語源は「結い田」だとも言われているそうです。
同市は1947年飯田大火と呼ばれる大規模火災に見舞われ、市街地の7割を消失し、1万7,778人が被災しました。大火後、飯田東中学校の生徒が美しい街を作ろうとリンゴ並木を構想し植樹したり、防火用通路の整備に住民が土地を無償提供するなどの取り組みから、古くからの「結い」の精神は、「自らのまちを自らで守る」という自治の精神や「公」の場を自らの手で維持・管理するという考えに醸成されていきました。
こうした住民の精神風土を土台にして飯田市では、飯田らしさを活かしたまちづくりをすすめる地域自治制度の導入や、地域に着目した学習と交流を深める場としての公民館が大切な役割を果たしてきました。
飯田市のCo2削減など環境問題では、1996年に「21いいだ環境プラン」、97年に「新エネルギー導入ビジョン」を策定し、太陽光発電や太陽熱利用、また木質ペレット利用者への補助制度などが実施されてきました。また、2004年には「環境と経済の好循環のまちづくり事業」が始まり、太陽光市民協働発電事業などが進められてきました。
具体的には同年、「おひさま進歩エネルギー㈱」(以下、おひさま進歩)との「公益的共同事業」として、「おひさま発電所設置プロジェクト」が始まりました。環境省の「環境と経済の好循環のまちモデル事業」いわゆる「平成のまほろばまちづくり事業」を活用したもので、全国の出資者(市民ファンド)、飯田市、地域の工務店等の協力を得ながら、市の施設や事業所の屋根を借りて、その上に太陽光パネルを設置するなどの事業です。2008年度までに合計1,208Kw、約150カ所の太陽光発電システムが設置されました。
この事業では市民ファンドが資金面での一画をなしています。市民ファンドは、プロジェクトのために設立された「おひさまエネルギーファンド㈱」が担いました。ファンドは、太陽光発電、省エネルギーの両事業で南信州おひさまファンドを募り、個人・法人あわせて460名から目標額の2億150万円を調達しました。その成功の要因としては、飯田市との契約が、行政財産の「屋根貸し」と1kw当たり29円の買い取りを20年間存続する内容だったことなどから事業の安定感が高まり、結果、出資者の安心感につながったことにあるとみられます。また、ファンドの成功が、市中金融機関の融資に当たっての信用確保にもつながったと考えられています。
■持続可能な地域づくりの市民の取り組みを市が支えるための飯田市条例
このような前段の取り組みがあって、飯田市は条例を制定しました。条例は、これらの経験を活かしながら、行政と再生可能エネルギー活用事業(以下「活用事業」と記す)に取り組む地縁団体・市民団体との関係を明確にしたということができると思います。24条からなる条例の第1条目的に、このことが整理されています。
第1条は次の内容を盛り込みました。
一つに「様々な者が協働」のもとに、飯田市民が主体となって飯田市の区域に存する自然資源を環境共生的な方法により再生可能エネルギーとして利用し、持続可能な地域づくりをすすめることを飯田市民の権利とする」ことです。
二つには、「この権利を保障するために必要となる市の施策を定めることにより、飯田市におけるエネルギーの自立性及び持続可能性の向上並びに地域でのエネルギー利用に伴って排出される温室効果ガスの削減を促進、もって、持続可能な地域づくりに資する」ことをうたいました。
要約すれば、「市民が主体」で再生可能エネルギーを利用し持続可能な地域づくりをすすめることを「飯田市民の権利」として認め、市も施策を通じてこの市民の取り組みの後押しをすることで「持続可能な地域づくり」をすすめるということです。
この目的を達成するための条例の具体的な内容としては、5点の説明がありましたが、大きく言えば次の3点に整理されます。
■事業の実現性と安定運営を条例で保証
一つには、地縁団体・市民団体などの市民が活用事業を行おうとする場合に、市の指導・助言のもとに計画を実現性の高いものに練り上げ安定運営を図ることを、条例で保証している点です。
条例は、行政と民間の協働のルール化を図るために、第9条では、地域団体等が活用事業を行う場合の届け出の義務付け、これに対する市の指導・助言の義務付けがされました。事業の立ち上がり資金の支援ができるよう、基金も造成しました。
また、市から専門的知見に基づいて適切な支援・アドバイスを行うことができるように、付属機関の設置も盛り込みました。「飯田市再生可能エネルギー導入支援審査会」という名称で、環境エネルギーや金融、電力会社など各分野の専門家で構成し、市長の諮問に基づいて案件の内容審査、基金貸付の適否の審査を行うようにしました。市長には審査会の答申の尊重が義務づけられています。
これらの支援を行う根拠となるのが、条例で市民に付与された「地域環境権」です。
地域環境権は憲法上の権利ではなく、あくまでも飯田市独自に定めたローカルな権利です。条例では、「飯田市民は、自然環境及び地域住民の暮らしと調和する方法により、再生可能エネルギー資源を再生可能エネルギーとして利用、当該利用による調和的な生活環境のもとに生存する権利」(飯田市条例第3条)と説明しています。
憲法上の規定とは異なって個人の財産権等に及ぶものではありませんが、飯田市はこの規定を導入することによって、再生可能エネルギー事業に取り組む市民を増やすなどの政策的誘導を行い、また、この権利を行使しようとする住民団体等の事業計画を支援する根拠を据えたということたできると思います。
■信用力の付与で市民団体の資金調達を容易にする効果
二つ目に届け出のあった事業を「公共サービス」と決定したり、市有財産の活用などで便宜を図ること等で「信用力」を高めることです。このことによって、取り組みをする地縁団体等が資金調達をしやすい環境を作ることができ、条例の制定によって、その信用力をさらに強固なものにすることができたといえるでしょう。
市に届け出られた、人的要件や公共性の担保、自己資金の状況など一定の要件を満たす活用事業は「公共サービス」と決定されます。この事業に対しては、①継続性と安定性のある実施計画づくりとその実現のための助言、②金融機関や投資家から初期費用を調達しやすくする環境を整える信用力の付与、③補助金の交付や資金の貸付、④私有財産を利用する場合の利用権限の付与―という新たな支援が準備されています(第10条)。
先のファンドで紹介したように、このような内容を実施することで事業に対する信用力が高まれば、初期費用も調達しやすくなるわけです。
■市民団体の取り組みを容易に
三つに、これらを通じて市民による地域団体等が再生可能エネルギー事業に取り組みやすい環境を作ることです。
取り組む主体が市民団体、市では町内会や自治会といった地縁団体などを想定していますから、事業をすすめる上ではいわば素人集団です。こうした団体が事業を起こし、継続的に安定してすすめるためには、それ相応の支援をしていかなければ、市民の「地域環境権」は絵に描いた餅になってしまうでしょう。先のファンドについても、仮にファンドを造成できない事業者であれば、それに代わってファンドを造成することも可能にしているといいます。
こうした団体をしっかり支援する仕組みを作ることで、市民団体が起業しやすい環境が作られたということができると思います。
■飯田市の再生可能エネルギー普及の取り組み
飯田市での再生可能エネルギー普及の取り組みでは、太陽光発電の他、森林資源を活用し木質ペレット製造事業と連携し、木質バイオマスの利用拡大をのためのストーブ設置費用への補助制度、地元産材を活用するモデルハウスの「りんご並木のエコハウス」(下写真)の建設と活用、LED防犯灯への切り替えによる環境ビジネスの創出、小水力発電機の開発と活用への実証事業、電動小型バスの運行と信号のない円形交差点で安全を確保するラウンドアバウトの設置などが行われています。
この中で太陽光発電普及の事業では現在、おひさま進歩が「おひさま0円システム2013」という事業に取り組んでいます。これは出資者の出資金を活用しておひさま進歩が各家庭に太陽光発電システムを設置し、それぞれの家庭は毎月電気料(太陽光発電システムから購入するということ)としておひさま進歩に9年間にわたって定額を支払い、その収入をもっておひさま進歩が出資者に配当する仕組みです。おひさま進歩への電気料の支払いは、いわば太陽光発電システムの分割払いで、各家庭は9年後にはおひさま進歩への電気料金支払いはなくなり、発電システムを自己所有することになります。
また各家庭の視点から見ると、各家庭は初期費用なしで太陽光発電システムを導入し、9年間おひさま進歩への電気料金と電力会社由来の電気の使用分を支払いすることになる一方、電力会社からは固定価格買い取り制度での売電収入を受け取ることになります。発電システム設置による電力会社の電気使用分の削減により浮いた電気料金と固定価格買い取り制度による売電収入を、おひさま進歩の電気料金にあてると考えれれば、家計に負担をかけることなく、太陽光発電システムをを設置することになるので、普及のはずみとなる制度と言えそうで。、参考になります。
■市民の取り組みの拡大に本市の取り組みの参考に
飯田市の取り組みを本市で考えた場合、日射量をはじめ中山間地と農業があるため小水力発電導入の可能性、再生可能エネルギー普及の潜在力を抱えているという点で、飯田市と同様のものを持っています。
いわき市でも飯田市と同様の再生可能エネルギー普及に向けた事業メニューは持っていますが、部局が変わることがあるなど、それを総体としてとらえることができない状況があります。飯田市の場合は、環境モデル都市推進課で一括して扱いつつ、また「飯田市再生可能エネルギーの導入による持続可能な地域づくりに関する条例」を制定することで、これらに取り組む市の基盤を固く据えたことになると思います。
「原発に依存しない社会」をめざす本市だからこそ、こうした立場を明確にして、本市の取り組みをすすめることが求められています。
原発が事故を起こし、固定価格買い取り制度が始まって以降、本市には民間事業者による太陽光パネルの設置がすすんでいます。
一方では、「いわきおてんとSUN企業組合」が設立され、小川町に太陽光発電所を設置するなど、市民による発電事業の取り組みもあります。福島県内では原発事故後に20の企業組合が設立されているといいます。このような取り組みを支援し、大きく広げ行くことも本市の今後の課題となっています。
飯田市で再生可能エネルギーの活用をはかる取り組みのけん引役を担っているのが、おひさま進歩エネルギー㈱というNPO団体から派生した市民運動のようでした。ここが実施する様々なアイディアが市を動かしてきたという状況にあるように感じました。また、この会社がファンドの造成という事業をすすめる中心的役割を担うことができるため、再生可能エネルギーを市民的レベルで推進する上での優位性を持っているとも思います。
本市で、飯田市のような市民レベルでの再生可能エネルギー活用をはかる取り組みをすすめるために、こうした市民運動の育成ということも課題になってきます。市民運動の育成によって、補助制度による個人レベルの取り組みの意識喚起に頼るだけでなく、市民の自主的な事業として、さらに大規模に事業をすすめることが可能になってくることができるからです。
飯田市の条例制定は、おひさま進歩以外の様々な市民団体・地縁団体が再生可能エネルギー事業に取り組む際の、市の支援の根拠と支援のあり方の基本を据えたという点で、大きな意義あるものとなっています。本市の取り組みとして大いに学ぶ点があると思いました。
市民の自主的取り組みを広めて再生可能エネルギーの普及をはかる本市の取り組み強化に飯田市の条例に学ぶ
2011年3月12日から15日にかけて、東京電力福島第一原子力発電所の1号機から4号機が次々と事故を起こしたことを受けて、いわき市は震災及び原発事故からの復旧・復興をすすめるために策定した「いわき市復興ビジョン」で、「将来的」という限定付きですが「原子力発電に依存しない社会の 実現を目指す」と明確な考えを打ち出しました。
また、いわき市議会は2013年6月16日に設置した東日本大震災復興特別委員会がまとめ、同年8月26日に市長に提出した第1次提言で「エネルギー転換を推進し、原子力発電所に依存しない社会を目指す、本市としての意志を表明すること」と求め、議会としても「原子力発電所に依存しない社会を目指す」立場を明確にしました。
こうした中で本市では、再生可能エネルギーの促進に向けて、従来から続けていた太陽光発電システム設置にかかる補助金(一般住宅で1万円/kw。上限4kw)に加え、小名浜港を基地に浮体式洋上風力発電の実証試験を行う「ふくしま未来」などの取り組みをすすめています。
「原子力発電に依存しない社会の実現」に加え、世界的課題になっている二酸化炭素(Co2)の削減を合わせてすすめるためにも、再生可能エネルギーの開発・普及は欠かせない課題となっています。行政レベルがこれに取り組むことがもちろん大切ですが、民間レベルの取り組みも欠かせませんません。
現在、再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度があるために、市内でも民間事業者が太陽光パネルの設置などをすすめています。同時に民間レベルの取り組みでは、住民自身の取り組みが注目されます。民間事業者の取り組みは、その地域の太陽光など再生可能エネルギーを活用して生み出された利益は、事業者の本社機能が置かれた地域に、その大半が持ち出されてしまい、地域の経済循環に回るお金はわずかなものにとどまります。
ところが住民が取り組むことによって、住民が再生可能エネルギーを活用して生み出された利益は基本的に全て地域に還元され、地域内での経済循環を生み出すことができるからです。
こうした考えを活かす具体的な取り組みを始めたのが長野県飯田市でした。同市では、全国で初めて再生可能エネルギーの導入をすすめることで、持続可能な地域づくりに関する条例を制定して、取り組みを始めたところでした。
条例は「飯田市再生可能エネルギーの導入による持続可能な地域づくりに関する条例」です。2013年3月25日に制定されました。
■結い(協働)を育んだ地域柄
飯田市は長野県南部に位置し、北部の県庁所在地・長野市まで160km余、車で2時間15分ほどかかります。名古屋市は距離にして約100km、車で1時間20分であり、市民生活はむしろ名古屋市との結びつきが強い位置にあります。
東西には南アルプスと中央アルプスが走り、安土桃山期に現在の街区の原型が形成されました。面積は658.73㎞2、人口10万6千余。森林面積は84.6%、日照時間は2,138.9時間(2012年)で、再生可能エネルギー源に恵まれた環境です。古くから「結い」による協働性を大切に育んできた地域性があり、飯田の名称の語源は「結い田」だとも言われているそうです。
同市は1947年飯田大火と呼ばれる大規模火災に見舞われ、市街地の7割を消失し、1万7,778人が被災しました。大火後、飯田東中学校の生徒が美しい街を作ろうとリンゴ並木を構想し植樹したり、防火用通路の整備に住民が土地を無償提供するなどの取り組みから、古くからの「結い」の精神は、「自らのまちを自らで守る」という自治の精神や「公」の場を自らの手で維持・管理するという考えに醸成されていきました。
こうした住民の精神風土を土台にして飯田市では、飯田らしさを活かしたまちづくりをすすめる地域自治制度の導入や、地域に着目した学習と交流を深める場としての公民館が大切な役割を果たしてきました。
飯田市のCo2削減など環境問題では、1996年に「21いいだ環境プラン」、97年に「新エネルギー導入ビジョン」を策定し、太陽光発電や太陽熱利用、また木質ペレット利用者への補助制度などが実施されてきました。また、2004年には「環境と経済の好循環のまちづくり事業」が始まり、太陽光市民協働発電事業などが進められてきました。
具体的には同年、「おひさま進歩エネルギー㈱」(以下、おひさま進歩)との「公益的共同事業」として、「おひさま発電所設置プロジェクト」が始まりました。環境省の「環境と経済の好循環のまちモデル事業」いわゆる「平成のまほろばまちづくり事業」を活用したもので、全国の出資者(市民ファンド)、飯田市、地域の工務店等の協力を得ながら、市の施設や事業所の屋根を借りて、その上に太陽光パネルを設置するなどの事業です。2008年度までに合計1,208Kw、約150カ所の太陽光発電システムが設置されました。
この事業では市民ファンドが資金面での一画をなしています。市民ファンドは、プロジェクトのために設立された「おひさまエネルギーファンド㈱」が担いました。ファンドは、太陽光発電、省エネルギーの両事業で南信州おひさまファンドを募り、個人・法人あわせて460名から目標額の2億150万円を調達しました。その成功の要因としては、飯田市との契約が、行政財産の「屋根貸し」と1kw当たり29円の買い取りを20年間存続する内容だったことなどから事業の安定感が高まり、結果、出資者の安心感につながったことにあるとみられます。また、ファンドの成功が、市中金融機関の融資に当たっての信用確保にもつながったと考えられています。
■持続可能な地域づくりの市民の取り組みを市が支えるための飯田市条例
このような前段の取り組みがあって、飯田市は条例を制定しました。条例は、これらの経験を活かしながら、行政と再生可能エネルギー活用事業(以下「活用事業」と記す)に取り組む地縁団体・市民団体との関係を明確にしたということができると思います。24条からなる条例の第1条目的に、このことが整理されています。
第1条は次の内容を盛り込みました。
一つに「様々な者が協働」のもとに、飯田市民が主体となって飯田市の区域に存する自然資源を環境共生的な方法により再生可能エネルギーとして利用し、持続可能な地域づくりをすすめることを飯田市民の権利とする」ことです。
二つには、「この権利を保障するために必要となる市の施策を定めることにより、飯田市におけるエネルギーの自立性及び持続可能性の向上並びに地域でのエネルギー利用に伴って排出される温室効果ガスの削減を促進、もって、持続可能な地域づくりに資する」ことをうたいました。
要約すれば、「市民が主体」で再生可能エネルギーを利用し持続可能な地域づくりをすすめることを「飯田市民の権利」として認め、市も施策を通じてこの市民の取り組みの後押しをすることで「持続可能な地域づくり」をすすめるということです。
この目的を達成するための条例の具体的な内容としては、5点の説明がありましたが、大きく言えば次の3点に整理されます。
■事業の実現性と安定運営を条例で保証
一つには、地縁団体・市民団体などの市民が活用事業を行おうとする場合に、市の指導・助言のもとに計画を実現性の高いものに練り上げ安定運営を図ることを、条例で保証している点です。
条例は、行政と民間の協働のルール化を図るために、第9条では、地域団体等が活用事業を行う場合の届け出の義務付け、これに対する市の指導・助言の義務付けがされました。事業の立ち上がり資金の支援ができるよう、基金も造成しました。
また、市から専門的知見に基づいて適切な支援・アドバイスを行うことができるように、付属機関の設置も盛り込みました。「飯田市再生可能エネルギー導入支援審査会」という名称で、環境エネルギーや金融、電力会社など各分野の専門家で構成し、市長の諮問に基づいて案件の内容審査、基金貸付の適否の審査を行うようにしました。市長には審査会の答申の尊重が義務づけられています。
これらの支援を行う根拠となるのが、条例で市民に付与された「地域環境権」です。
地域環境権は憲法上の権利ではなく、あくまでも飯田市独自に定めたローカルな権利です。条例では、「飯田市民は、自然環境及び地域住民の暮らしと調和する方法により、再生可能エネルギー資源を再生可能エネルギーとして利用、当該利用による調和的な生活環境のもとに生存する権利」(飯田市条例第3条)と説明しています。
憲法上の規定とは異なって個人の財産権等に及ぶものではありませんが、飯田市はこの規定を導入することによって、再生可能エネルギー事業に取り組む市民を増やすなどの政策的誘導を行い、また、この権利を行使しようとする住民団体等の事業計画を支援する根拠を据えたということたできると思います。
■信用力の付与で市民団体の資金調達を容易にする効果
二つ目に届け出のあった事業を「公共サービス」と決定したり、市有財産の活用などで便宜を図ること等で「信用力」を高めることです。このことによって、取り組みをする地縁団体等が資金調達をしやすい環境を作ることができ、条例の制定によって、その信用力をさらに強固なものにすることができたといえるでしょう。
市に届け出られた、人的要件や公共性の担保、自己資金の状況など一定の要件を満たす活用事業は「公共サービス」と決定されます。この事業に対しては、①継続性と安定性のある実施計画づくりとその実現のための助言、②金融機関や投資家から初期費用を調達しやすくする環境を整える信用力の付与、③補助金の交付や資金の貸付、④私有財産を利用する場合の利用権限の付与―という新たな支援が準備されています(第10条)。
先のファンドで紹介したように、このような内容を実施することで事業に対する信用力が高まれば、初期費用も調達しやすくなるわけです。
■市民団体の取り組みを容易に
三つに、これらを通じて市民による地域団体等が再生可能エネルギー事業に取り組みやすい環境を作ることです。
取り組む主体が市民団体、市では町内会や自治会といった地縁団体などを想定していますから、事業をすすめる上ではいわば素人集団です。こうした団体が事業を起こし、継続的に安定してすすめるためには、それ相応の支援をしていかなければ、市民の「地域環境権」は絵に描いた餅になってしまうでしょう。先のファンドについても、仮にファンドを造成できない事業者であれば、それに代わってファンドを造成することも可能にしているといいます。
こうした団体をしっかり支援する仕組みを作ることで、市民団体が起業しやすい環境が作られたということができると思います。
■飯田市の再生可能エネルギー普及の取り組み
飯田市での再生可能エネルギー普及の取り組みでは、太陽光発電の他、森林資源を活用し木質ペレット製造事業と連携し、木質バイオマスの利用拡大をのためのストーブ設置費用への補助制度、地元産材を活用するモデルハウスの「りんご並木のエコハウス」(下写真)の建設と活用、LED防犯灯への切り替えによる環境ビジネスの創出、小水力発電機の開発と活用への実証事業、電動小型バスの運行と信号のない円形交差点で安全を確保するラウンドアバウトの設置などが行われています。
この中で太陽光発電普及の事業では現在、おひさま進歩が「おひさま0円システム2013」という事業に取り組んでいます。これは出資者の出資金を活用しておひさま進歩が各家庭に太陽光発電システムを設置し、それぞれの家庭は毎月電気料(太陽光発電システムから購入するということ)としておひさま進歩に9年間にわたって定額を支払い、その収入をもっておひさま進歩が出資者に配当する仕組みです。おひさま進歩への電気料の支払いは、いわば太陽光発電システムの分割払いで、各家庭は9年後にはおひさま進歩への電気料金支払いはなくなり、発電システムを自己所有することになります。
また各家庭の視点から見ると、各家庭は初期費用なしで太陽光発電システムを導入し、9年間おひさま進歩への電気料金と電力会社由来の電気の使用分を支払いすることになる一方、電力会社からは固定価格買い取り制度での売電収入を受け取ることになります。発電システム設置による電力会社の電気使用分の削減により浮いた電気料金と固定価格買い取り制度による売電収入を、おひさま進歩の電気料金にあてると考えれれば、家計に負担をかけることなく、太陽光発電システムをを設置することになるので、普及のはずみとなる制度と言えそうで。、参考になります。
■市民の取り組みの拡大に本市の取り組みの参考に
飯田市の取り組みを本市で考えた場合、日射量をはじめ中山間地と農業があるため小水力発電導入の可能性、再生可能エネルギー普及の潜在力を抱えているという点で、飯田市と同様のものを持っています。
いわき市でも飯田市と同様の再生可能エネルギー普及に向けた事業メニューは持っていますが、部局が変わることがあるなど、それを総体としてとらえることができない状況があります。飯田市の場合は、環境モデル都市推進課で一括して扱いつつ、また「飯田市再生可能エネルギーの導入による持続可能な地域づくりに関する条例」を制定することで、これらに取り組む市の基盤を固く据えたことになると思います。
「原発に依存しない社会」をめざす本市だからこそ、こうした立場を明確にして、本市の取り組みをすすめることが求められています。
原発が事故を起こし、固定価格買い取り制度が始まって以降、本市には民間事業者による太陽光パネルの設置がすすんでいます。
一方では、「いわきおてんとSUN企業組合」が設立され、小川町に太陽光発電所を設置するなど、市民による発電事業の取り組みもあります。福島県内では原発事故後に20の企業組合が設立されているといいます。このような取り組みを支援し、大きく広げ行くことも本市の今後の課題となっています。
飯田市で再生可能エネルギーの活用をはかる取り組みのけん引役を担っているのが、おひさま進歩エネルギー㈱というNPO団体から派生した市民運動のようでした。ここが実施する様々なアイディアが市を動かしてきたという状況にあるように感じました。また、この会社がファンドの造成という事業をすすめる中心的役割を担うことができるため、再生可能エネルギーを市民的レベルで推進する上での優位性を持っているとも思います。
本市で、飯田市のような市民レベルでの再生可能エネルギー活用をはかる取り組みをすすめるために、こうした市民運動の育成ということも課題になってきます。市民運動の育成によって、補助制度による個人レベルの取り組みの意識喚起に頼るだけでなく、市民の自主的な事業として、さらに大規模に事業をすすめることが可能になってくることができるからです。
飯田市の条例制定は、おひさま進歩以外の様々な市民団体・地縁団体が再生可能エネルギー事業に取り組む際の、市の支援の根拠と支援のあり方の基本を据えたという点で、大きな意義あるものとなっています。本市の取り組みとして大いに学ぶ点があると思いました。
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