伊藤浩之の春夏秋冬

いわき市遠野町に住む市議会議員。市政や市議会、日常の活動などを紹介していきます。

常任委員会視察・へブロスカイト太陽電池

2025年01月30日 | 原発・エネルギー

 へブロスカイト太陽電池は、従来のシリコン半導体太陽電池とは異なる。 

 ヘブロスカイトは、灰チタン石(かいちたんせき)を意味し、この結晶構造をもつものを総称してヘブロスカイトという。このヘブロスカイトの結晶構造を持つ化合物を利用して発電するものがへへブロスカイト太陽電池というそうだ。

 同社は、この分野の開発で世界の先端を走っているようだ。「積水」の名称は住宅でおなじみだが、セロハンテープを独自に開発、現在は液晶用シール材など高機能プラスチック製品も開発・販売している。この技術を活用して、水に弱く、水蒸気さえ耐久性に悪影響を与えるヘブロスカイトを、フィルムで挟みこむことで長寿命化を実現したという。

 このヘブロスカイトを活用した太陽電池(以下、ヘブロスカイト)は薄く作ることができ、従って軽く、曲げることも可能で弱い光でも発電できる特性がある。また、ロール状の基材を巻き出して印刷し、再びロール状に巻き取るロールtoロールで製造できるため、低コスト生産も可能になる。主原料の「ヨウ素」は、日本の生産量が世界第2位。原料の取得に困ることはない。

 現在、身近に見ている太陽光発電のパネルは、シリコン半導体を利用して発電をしている(以下シリコンパネル)。このシリコン半導体に代わりヘブロスカイトを利用するのがヘブロスカイト太陽光発電だ。

 説明よると、ヘブロスカイトの実現には課題がある。シリコンパネルより、①発電効率が低い、②耐久性に劣る、③大型化が難しいという。同社はこの弱点の克服をめざし、研究開発を続けてきた。

 発電効率は、3㎝角程のミニセルでシリコン並みの発電効率20%を達成している。しかしセルを大型化すると発電効率が落ちるという。現在30㎝幅の膜状のセルで発電効率15%を達成、製造をしている。さらに効率の向上をめざして研究しているという。

 また耐久性は、シリコンパネルの場合おおむね20年だが、ヘブロスカイトは短い。同社は10年相当の耐久性を達成し、20年を目標にさらに研究をすすめるという。ただ、現状では国際的にみてもヘブロスカイトを製造する企業がないため製品を認証する規格がない。このため同社の考えを国に伝え規格の策定を求めているという。さらに1m幅のセルを製造するためのライン開発に着手している。

 同社は様々なヘブロスカイト活用法を検証している。

 活用にあたっても課題は多いという。「薄い、軽い、曲がる」特性は、固く曲げることができない従来のシリコンパネルに比べ、設置できる場所も可能性を飛躍的に拡大する。すでに開発されている都市部でも建築物などに設置することが可能となり、従来は離れていた発電地と消費地を一致することが可能となり、送電ロスを減少させることができる。文字通り地産地消のエネルギー獲得ができるということになる。

しかし、使用するためには法制度をはじめ克服すべき課題もある。

一つとして紹介されたのが建築基準法だ。

同法は建築物の外壁部への可燃物の設置を禁止している。ビルはもちろんだが、一般の木造住宅の場合さらに規制が厳しいという。ヘブロスカイトは、火を噴きだして燃えるということはなく、熱が加わるとブクブクと泡だつように溶けるという。しかし、やはり可燃物とみなされている。

 また、薄く曲げられるが強みのヘブロスカイトだが、セルの縁をボルト止めするだけでは、隙間から裏側に入り込む風がセルをあおってしまう。この結果、耐久性などの性能が低下する。接着剤でセルの全面を密着する施工法をとりたいが、建設会社は嫌う。接着剤の耐性に懸念を持ち、ボルト締めなどで試され済みの施工を望むというのだ。

 こうした中、同社は、2025年に30㎝幅のヘブロスカイトの販売を開始する予定としている。このため、課題となっている設置方法の開発短縮をめざして50社と共同開発を進めているという。

 具体的な活用方法がいくつか紹介された。

 大阪万博では、バスのシェルターの曲面屋根250mにヘブロスカイトを設置して夜間にLEDを点灯し、1,000mの照明とする予定という。

また、ビルでの活用では、外壁へのパネルの設置(建築基準法をクリアするため鉄板にヘブロスカイトを張り付けビルの外壁に固定)や内壁(スパンドレル=防火区画に接する外壁)に交換可能な形での設置し、100年ほどとされるビルで恒久的な発電ができる仕組みも作ろうとしている。

他に、水をはった学校プール上での発電も試みている。水面に立つ波の影響を極力軽減するために、ヘブロスカイトを乗せた筏(いかだ)の縁にはスカート状に波除けをたらして、セルへの影響を極力少なくする工夫をしているという。

他に、下水道処理場の沈殿槽の蓋上面(薬剤耐性の検証など)火力発電所(塩害への性能検証など)、倉庫壁面(軽量構造建屋での使用実証など)農地(農作物の影響調査など)駅(物証や発電量の計測実験など)や港湾施設の円柱形の柱等への設置なども進め、様々な環境下での体制や設置方法の試行を続けているようだ。 

 ヘブロスカイトについて調べて、読んで、また視察してお話を聞き、考えたことを以下2点にわたって記入したい。

 1つは、ヘブロスカイトが、従来、太陽光発電の導入で生み出されてきた、地域での住環境の劣悪化や住民との軋轢・トラブルを解決するツールになるのではないか、という期待だ。視察に訪れる前に、ヘブロスカイトについて調べその特性を知った時つくづく感じた。

従来のシリコンパネルは、一部の住宅や建築物の屋根などのほか、中規模以上の発電施設は、休耕農地や場合によっては山林を大きく切り開いた場所に設置されるケースが多発している。その結果、様々なトラブルを発生させてきた。

 本市でも、大雨時に工事中の太陽光発電所から土砂が流出し通学路指定の道路を通行不能にしたり(高野)、工事中の発電所から流出した土砂が住宅を直撃した例など、太陽光発電にまつわる様々な問題が発生してきた。高野の事例の場合、同一事業者が中規模な太陽光発電所を狭い地域に複数個所開発しており、環境影響評価逃れを疑わせるような設置例だった。

 昨年の市議会議員選挙期間中には、内郷宮地区で街頭演説をした際、その地区の奥まった山林での太陽光発電所の開発が、台風13号の影響による宮川の氾濫に影響したのではないかと危惧を覚えている住民から声がかかった。この時の洪水の主因は、線状降水帯の発生による集中豪雨とされているが、危惧するその気持ちも分からなくはない。

遠野町には遠く沖縄県那覇市の事業者が鶴石牧場跡地に大規模な太陽光発電施設を計画し、環境影響評価の手続きを進めている。以前に、入遠野官沢では牧場から土砂が流出し沢が濁流となり、水を利用した養殖や農地、飲用水の汚濁などで地域の暮らしを脅かしたことがある。

 また、すでに設置された太陽光発電所内の法面(のりめん)が崩落したり、水源地にあたる深山田地区の林野が開発されて以降上遠野川の水位が上がり、溢水の不安が住民を悩ませている例がある。

ヘブロスカイトは、都市部などすでに開発がされている地域で、従来の建設物等に幅広く設置することを可能とする。別の言い方をすれば、そういうところこそ発電の適所ということができる。へブロスカイトが普及すれば、新たな開発による山林の破壊によって土地の保水力を低下させるなどの問題が発生しなくなり、先にあげたような住民の不安や危惧は発生することがなくなる。

 同社はヘブロカイトの2025年中の販売開始を予定でいるものの、その値段は従来のシリコンパネルの4倍から5倍の価格になるという。ヘブロスカイトは薄いため、見込める生産量では原材料の大量消費によるコスト削減を見込めないことが原因らしい。当面、ヘブロスカイトは体育館の屋根に設置したいと考えているようだ。耐荷重性が小さく、しかも広いため設置が効率的に進むからだろう。生産が拡大するまで、その特性の一つとしての魅力的な「安価」はお預けの状態にあるのだ。

 したがって、現在全国各地の中山間地などの地域で発生している問題を解決するには、その普及までしばらくの時間を要することになる。しかし、今後のことを考えるなら、新たな開発を必要としないヘブロスカイトが従来の特性をいかんなく発揮して、普及が進むことに大いに期待したい。

 2つ目に、シリコンパネルなどで問題になっているリサイクル技術の確立も併せて研究されており、この面での心配もないということ。

 シリコンパネルでもリサイクル技術の開発が進んでいる。同社はヘブロスカイトのリサイクル技術の確立も併せて研究している。

同社はバイオマスを原料に汎用化学品・燃料を製造するバイオファイナリー研究している。この原料に廃ヘブロスカイトを使うことで最終的にはエタノールを作り出し、化粧品などの材料とするという。

 ただヨウ素には鉛も含まれる。鉛の安全性はどう担保されるのだろうか。その点確認すると、材料となるヘブロスカイトを気化する段階で鉛は沈むため回収が容易だという。また、そもそも含まれる鉛の量は、表層から10㎝の通常の土壌より低レベルで、その点でも安全性には問題がないという。

 まとめに、視察では、へブロスカイトで広がる太陽光発電の可能性の拡大を感じることができた。来年度から実用化される予定だが、さらに研究・性能向上が進み、普及がすすむことが期待されるとつくづく思った。



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