「考えはじめると、眠れなくなるのよ。」
「そりゃあそうだ。」
「あの株がどんな風に成長しているのか。採られてなくなっていないか。」
「大丈夫だ。あの木を知っている人はいねべ。」
「多分、そうだと思うんだけどなあ。」
いつも沈着冷静なA氏にしては、心が昂ぶっているのが分かる。それもそのはず、あの木にマイタケが発生したのを見たというのだ。
マイタケというのは、不思議なキノコである。ミズナラの巨木から生えるというのは、どれも同じなのだが、それぞれの木毎に生え方が違うのだ。キノコの色、株の大きさ、発生する時期などが微妙にずれる。その辺を頭に入れて山を歩くと、マイタケに出逢える確率が高くなる。
一番早く出るのがこの木。最低気温が20℃を下回るようになったら出掛けてみる。この木に発生したのなら、来週は、あの木に出るはず。というように順番に当たっていくのだ。
ただ、厄介なのが、発生する年のサイクル。毎年発生してくれれば良いんだけれど、一度発生すると来年は休みとか、数年は出ないみたいに、木ごとにサイクルが異なるのだ。
そんでですね、A氏が一昨日キノコ山に入ったら見つけたと言うんですよ。過去、史上最高の収穫を得たミズナラの木に、『サワリ』(ようやく枝分かれが始まった状態)が出ていたというんです。この木への発生は4年ぶりです。
採るにはまだ早いと判断して、おいてきたのは良いけれど、何せ激戦区。採られてしまわないかと気が気でなかったとのこと。
車止めで身支度を整えたところに、軽ワゴン車が一台加わる。出てきた方は、見覚えのあるキノコマン。結構な年配なのだが、矍鑠としており、山での移動スピードはかなり早い。
ヤバイ人に会っちゃった!(^0^;)と思ったんだけど、彼は、最初に手前の尾根を当たるはずだから、我々がのんびりしていなければ、追い抜かれることはないと思う。
渓水はどこまでも透明で
花が咲きほころび
我々を呼んでいるのだけれど
振り返る余裕なし。
史上最速のスピードで目的の木に辿り着いた。途中、念のために、通過点にあるマイタケ木を点検してみたら、
1本目の木でも
2本目の木でも
マイタケが出ていました。ホッと一安心。
この2本が無事ならば、本命の木も大丈夫でしょう。さあ、伝説のミズナラに向かって尾根登りです。
最近、年齢を重ねるにつれて気を付けるようになってきたのがペース配分。自分の体力に見合ったペースで動けば、何とかなるということが分かってきたのだ。
しかし、今回は、やっぱり焦りがありましたね。目的地の状況に対する不安と、後ろからの追従者によるプレッシャーでオーバーペース気味かも。息が切れる。確か、このコースは足元だけでなく、頭上の木々も行く手を遮るんだよな。以前、リュックが木の枝に絡まって身動きが取れなくなったことがあった。肩で息をしつつ慎重に気を配りながら登坂。
「あったあああ!!」
先を行くA氏の声が渓に響く。どれどれ?
おおっ
美しい!
あっちにも
こっちにも
株の大きさ、色合い、そして、育ち具合、どれも申し分ありません。『サカリ』(傘が勢いよく開いた状態)です。
丁寧に収納していく
「4年前に見つけたときは、日付は今年と大体同じなんだけど、『サカリ』を過ぎていたものもあったのよ。今年は、ちょうどよい時に当たって良かった。」
この激戦区では、マイタケに出会うことすら危ういというのに、こんな大株を、しかも、最も良い『サカリ』の状況で採れるとは、幸運であった。
「これで、ようやく安心して眠れる。」
これは、心の底から出てきたA氏の言葉だね。
それにしても、素晴らしい山の恵みをいただくことができました。
山の神様、そして、A氏、ありがとうね。
帰り道に咲いていたヤマトリカブト
ここまできて、ようやく渓谷に訪れた秋の気配を楽しむゆとりができました。
往路で頑張った分、のんびりペースで山を下る2人でした。
よかったですね。天然のまいたけがこんなに採れるなんてすばらしいです。
でもかなりの厳しい道中だとお察しします。
ぐっすりお休みくださいね。
追従者(笑)(笑)
何となくお気持ちわかります(^^♪
天然のものを頂いてみたいです。
一度も頂いたことがありませんもの。
おめでとうございます!(笑)
もし、別の人が数分でも先に到着してしまっていたら、また4年も待たなければならないと思うと、まるでオリンピックの金メダルを獲ったような気分でしょうね~。
山の恵み、どう召し上がるかも楽しみです!
コメントありがとうございます。
2人で感動を分かち合ってきました。
転がり落ちてしまうような場所なので、さすがに踊りませんでしたが、心は舞い上がっていました。
ありがたい山の恵みです。
コメントありがとうございました。
マイタケ採りは、ピンポイントの勝負なので、他の山菜と違うんですね。
筍だったら、いっぱい生えているうちの一部をシェアしあう感じなので焦らないんですけど、マイタケはねえ。
正直、焦りました。
でも、無事に収穫出来て帰り着くことが出来たので良かったです。
天然物、香りが素晴らしいですよ!
コメントありがとうございます。
確かに、オリンピックの金メダルとは、なるほどです。
この4年に一度の機会を逃すと、合計で8年間待つことになってしまいますからね。
奇しくも現在問題になっている、某国のオリンピックをボイコットしたときの選手達が、とても可哀想だったことを思い出します。
8年経ったら、歳とるもんなあ。