河童アオミドロの断捨離世界図鑑

ザスドラス博士の弟子の河童アオミドロの格安貧困魂救済ブログ。

サラ・スマイル

2016年02月12日 | ZIZY STARDUST
朝から頭に違和感があった。

鏡を見ると頭の皿が無くなってるではないか。

そういえば、昨日、歯医者に行った時、

「歯垢除去の時にお皿がじゃまなんで、はずしてもらえますか」

わてはしかたなく皿をはずした。

「ざわざわざわ、カッパの皿は、ざわざわざわ、はずれるんだ」

歯科医院内のスタッフのみんながいっせいにつぶやいているのが聞こえた。

あの時に置き忘れてきたのだ。


「昨日のカッパの皿を返してもらえますか」

「な、なんですか、それ。院長、変な人が来たんですけどー」

「あ、あれ、捨てたよ、要らないものだろ」

「なんてことするんだ、要るか要らないかは患者が決めることだ。
虫垂だって最近は医者の判断で勝手に切るものじゃないんだぞ。
わては、あの皿でハゲを隠していたんだぞ、
『これは皿であってハゲではない』というアイデンティティのためにだ。
そのためにわては今までカッパとして生きてきたんだ」


泣きそうになる心を抑えながら、替わりの皿を探したが、
ぴったりくるものが無かった。

「そうだ、植木鉢の水受けが使えるじゃないか」

そう気づいた二郎の心にやっと春が訪れたような気がした。

もうすぐ春一番の嵐が来るような気圧配置だった。


ガンジスへの道

2016年02月10日 | ZIZY STARDUST
その頃、八田四郎は、三途の川でまだ立ち止まっていた。

「ねえ、番人さん、地獄への道は3方向しか無いんかなあ」

「あっ、真上に見えるマンホールからはバラナスの路地に出られるよ。
ガンジス川のほとりだから、あそこまで行けば天国に行けるかもしれん
でも、天国に行けるのは心と体の軽い羽根のような人々だけだがな」

「じゃあ、なんで、みんな天国に行けないんだい?」

「握りしめている六文銭の重さで空を飛べないんだよ
六文銭さえあれば、とりあえず地獄でもそれなりに普通に暮らせるからなあ
完璧な幸福や理想や永遠の平和とか、そんなものは多くの人間にとって
さほど必要無いんだよ」

「わかる、わかるよ。時々災害があって、戦争があって、原子炉が爆発して、
人が死んで、また頑張るほうが、神様としても見てて面白いだろうしね。
わても、地獄行でええわ。そのかわりひとつお願いがある。
わての骨はアダマンチウム合金だから、ホームセンターで高く売れる。
そのお金を番人さんにあげるから、わての目玉だけを無縁仏の墓のほうに
投げ込んでくれないか、お願いするよ」

「わかった、意味不明だが、今後の展開が見えそうな気もするよ。
気をつけてな」


ルテインとアントシアニンを充分に補給した、四郎の目玉は、希望に輝いていた。
来世では、ブルーベリー農家になるのだと、ひそかに決意していた。

海からカッパ淵へ

2016年02月10日 | ZIZY STARDUST
「八田二郎さん、遅かったじゃないですか
えっ、おまえ、八田さんじゃないな、カッパじゃないか」

「い、いえ、カッパと入れ替わっただけですわ。
中身は八田二郎のままですさかい」

「どうして、カッパになってしまったんだ。新手の所得税隠しか」

「いえね、頭蓋骨の中の海が大きくなって、
とうとう遠野のカッパ渕とつながったみたいなんですよ。
おかげで、来週あたりから九州大学の実験室送りになるかもしれんのですわ
『水力による瞬間空間移動』とかの献体として解剖されるかもしれん
入院とかになったら、若い看護婦さんとウハウハですわ
下の世話とかしてくれますかね」

「単なる外科手術なら日帰りじゃないのか、献体なら納骨してくれるし」


医者の意見は十人十色だ、そもそも10人いれば、そのうちの1人は必ずアホだ。
他の1人が天才的な場合もある。世の中の仕組みはそんなものだ。




更新免許を受け取りに行く

2016年02月09日 | ZIZY STARDUST
「すみません、今日は免許の更新日なんで、警察署まで行きたいんで
尋問は帰ってからにしてもらえますか」

「八田さん、年収70万円で原付と車まで持っているんですか、
それとも、ついに、自ら警察署に自首ですか」


都会の免許更新センターでは写真撮影と同時に当日交付なのだが
地域によっては写真持参で交付日まで日数がかかる場合がある

引換券を渡してしばらく待っていた


「八田さん、八田二郎さん」


わては窓口に行って免許証を受け取った


「間違いないですね、じゃあ、確認の印鑑を押させていただきます」


「まて、この写真はわての顔じゃない。

ぼやけて頭が透けている薄黄緑色のカッパの霊の写真じゃないか。

国家権力がこの一週間の間に写真をすり替えたのか」


「この写真はあなたが自分で撮影なさったものですよ
誰が見たってあなたそのものです」


「そ、そうですか、じゃあ、5年前の人間だった頃の古い免許ももらえますか
人間だったという証として持っておきたいのです」


「いいですよ、ただし穴を開けてますから、古い免許証は所持しないでくださいね
あなたはもうカッパなんですから、人間の証明にはもう使えませんよ」


免許には金色の帯が入っている。きっと、5年の間に人間からカッパへと、ステージが上がったのだと思う。
人は歳をとると自分でも気づかないうちに、どんどん、妖怪の側に近づいていくのだろう。

こうなったら、ガンジス川でカッパとして生きるしか道は無い。

その頃八田二郎は

2016年02月08日 | ZIZY STARDUST
その頃、八田二郎(八田四郎の父親)は福祉局の職員から質問されていた。

「無職。年金収入のみ年収70万円。
ほほう、この年収で鉄筋マンションの賃貸、最新スマホが5台、ノートパソコンが10台。
毎年バンコクのサービスアパートメントに1か月住んでの観光旅行。時々、石垣島や沖縄に旅行。
玄関に新品の折り畳み自転車が2台。廊下にはアマゾンの段ボールが山積み。
はたしてこんな生活が可能なんですかね」

「か、可能です。芸能人やスポーツ選手相手に薬売ってますし、く、薬といっても、富山の置き薬です。
タイガーバームとかオロナインとかそういうたぐいの薬です」

「じゃあ、このテーブルにある白い結晶とスプーンはなんなんだね」

「これは、メダカ水槽用のハイポといって塩素を中和する薬です。
スプーンで細かくして水道水に混ぜるんです」

「じゃあ、なぜスプーンの底が真っ黒にコゲているんだね」

「そ、それはぷっちんプリンの底のカラメルソースの部分です。
あれ全部すくうのは難しいんです」

「おまえ、ぷっちんプリンを容器のまま食べているのか」


職員の執拗な責めは夕方まで続いた。
少しは日が長くなったとはいえ、冬の夕暮れは早い。
二郎は保健所に送られた四郎の事が心配でならなかった。
テレビに映った元野球選手の顔がフラッシュに照らされ、
まるで自分の方を見つめているように見えた。

三途の川で立ちつくす

2016年02月07日 | ZIZY STARDUST
もう、すでに作者は主人公が八田次郎だったか四郎だったかわけがわからなくなっていた。


ダストシュートの底のコンクリートの床にたたきつけられた八田四郎は動かないままだった。

「ウイーーーン、ウイーン、ドナウドナウ、ウイーン」

八田四郎の補助原子炉エンジンが再稼働を始めたのだ。

「けけっ、わてはアンドロイドや。毒饅頭なんかで死ぬわけないがな」

あたりは真っ暗だった、周囲には、前の人々の物と思われる骨が散らばっていた。
暗闇になれてくると、三方向に明るい出口があるのに気づいた。
道案内の看板まで設置されていて、その下にちゃんと係員まで座っていた。
そこは水路のようで小さな舟が波に揺れていた。

「あんたはここで焼かれて灰になるよ、そして、
真っすぐ行くと『斎場』家族とか引き取り手のいる場合はそっちだ。
左に行くと『ホームセンター』高品質の人骨は肥料として高く売れる。
孤独で値打ちの無い骨は右の『無縁仏の集積墓場』に行く。
着ている服は東南アジアに輸出するよ」

「三つに分かれているから『三途の川』というのやな
わてはどこに行けばいいのですか」

「まあ、『無縁仏の集積墓場』だね、でも金しだいじゃ、行き先変更も可能だよ」

「くそっ、死んでからの価値も金しだいなんやな
株券や土地の権利書でもいいですか」

「そりゃ、だめだね、それは生きてる人間にだけ有効なものだ、
ここを渡るには、最低、六文銭は必要だ」

「わてはそんな古い貨幣は持って無いで」

「胸元に手を入れてみろ、あんたの生きた価値分だけの一文銭が入ってるはずだ
音がしないところをみると、あんたの胸はたぶん空っぽだな」


四郎の胸には何も無かった。毎日早起きしたのに三文の得にもならなかった。
つまり生きた価値はゼロだったということだ。
格安人生でもなかった。無の人生だった。
四郎の心はビッグバン以前の宇宙と同じ状態だったのだ。

ホームセンターの前にたこ焼きの屋台が出ているのか、
ほのかなソースの匂いがこの三途の川の渡し場まで流れてきていた。

保健所饅頭

2016年02月07日 | ZIZY STARDUST
保健所の係員は極めて冷静に説明した。

「じゃあ、八田さん、このよもぎ饅頭か、甘酒饅頭か、好きなほうを食べてください。
どちらかを食べると苦しみながら死にます。もういっぽうを食べると笑い死にします」

「わては、少年の頃は夏を追いかけていたんや。だんだん高くなる九月の空。向かい風の秋の匂い。
まだ九月なら全速力で走れば、夏に追いつけると思っていたし、確かに夏を追い越すこともできた。
でも、今は違う、いくら走ったところで夏には追いつけやしない。
わてはもう40歳になってしまった。このスニーカーの速度では夏に追いつけないことを知った。
だから、今、わてはすごく悲しいんや、泣けてしまうんや」

「涙がたくさん出るという事は、それだけの量の幸福が、あなたの心に中に今まで、
貯まっていたということです。ここに来られる60歳以上の方はたいてい無表情な顔をされておられます。
悲しさの量と幸福の量は同じですから、悲しくない人は幸福でもなかったのです。
さあ、とっとと饅頭を食べてあの世へ行ってください」

「くそっ、こうなったら両方食べてやるー」


うげげげー、うひゃうひゃー、ぐるしいー助けてくれー、おもろすぎるギャハハー、グエー


苦しみと笑いを織り交ぜながら、そうして八田四郎は気を失った。

「きょうのやつは簡単だったな」

係員はそう言うと、地下へ続くダストシュートへと八田次郎を放り入れた。



(なんなんだ、だんだん一貫したストーリーになってきてるぞ)