「八田さん、八田二郎さん、起きてください
長崎大学の正門で寝てる場合じゃないですよ」
「あっつ、お隣の山田さん」
「息子の四郎さんはジェームス山のホームセンターで白骨化して、
孫の七郎君は片手と片目が無くなり、富岡製糸工場に就職しました。
嫁のとし子さんは住み込みのパートに出ていき、八郎君は、
コバエの大群に襲われて消化されて液体になったみたいですよ」
「えっつ、この数日間でそんな事になっていたんですか、
じゃあ、家には、もう誰も居なくなったんですか」
「いや、コバエの家族が1000匹ほど住んでるよ」
「ああ、俺はもう何もかも失ってしまったんだ
この前、キーボードの隙間や白い壁を小さな大名行列が歩くのを見たんだが
あれはコバエの集団だったんだ。
医者のやつは、アルコール依存か、悪いクスリのせいだと言いやがった。
もっと早くにバルサンを焚くべきだったのに」
「とにかく、まずコバエを退治してから、それから、
明るい未来の事を考えましょう」
「もういいんです、俺は家には帰りません。
もう、孤独な宗教者として、隠れキリシタンとして、
長崎の五島列島で仏教徒として生きていきます。
カカオポリフェノールさえあれば高齢者でも免疫力が高まるんです。
今日から『カカオの実教団』の教祖となります。
そして私は『八田カカオビンズ』に改名します」
焦点の合っていない八田二郎の目を見た山田さんは、
すべてを悟り、それ以上、何も言わなかった。
もし、時の流れが逆転できるなら、
ほんの少しだけ過去に戻りたかった。
未来から振り返った過去はいつも
懐かしい色をしているものだ。
鼻をかんだらコバエが2匹出てきた。
長崎大学の正門で寝てる場合じゃないですよ」
「あっつ、お隣の山田さん」
「息子の四郎さんはジェームス山のホームセンターで白骨化して、
孫の七郎君は片手と片目が無くなり、富岡製糸工場に就職しました。
嫁のとし子さんは住み込みのパートに出ていき、八郎君は、
コバエの大群に襲われて消化されて液体になったみたいですよ」
「えっつ、この数日間でそんな事になっていたんですか、
じゃあ、家には、もう誰も居なくなったんですか」
「いや、コバエの家族が1000匹ほど住んでるよ」
「ああ、俺はもう何もかも失ってしまったんだ
この前、キーボードの隙間や白い壁を小さな大名行列が歩くのを見たんだが
あれはコバエの集団だったんだ。
医者のやつは、アルコール依存か、悪いクスリのせいだと言いやがった。
もっと早くにバルサンを焚くべきだったのに」
「とにかく、まずコバエを退治してから、それから、
明るい未来の事を考えましょう」
「もういいんです、俺は家には帰りません。
もう、孤独な宗教者として、隠れキリシタンとして、
長崎の五島列島で仏教徒として生きていきます。
カカオポリフェノールさえあれば高齢者でも免疫力が高まるんです。
今日から『カカオの実教団』の教祖となります。
そして私は『八田カカオビンズ』に改名します」
焦点の合っていない八田二郎の目を見た山田さんは、
すべてを悟り、それ以上、何も言わなかった。
もし、時の流れが逆転できるなら、
ほんの少しだけ過去に戻りたかった。
未来から振り返った過去はいつも
懐かしい色をしているものだ。
鼻をかんだらコバエが2匹出てきた。