河童アオミドロの断捨離世界図鑑

ザスドラス博士の弟子の河童アオミドロの格安貧困魂救済ブログ。

振り向けば長崎 第3話

2016年02月18日 | ZIZY STARDUST
「八田さん、八田二郎さん、起きてください
長崎大学の正門で寝てる場合じゃないですよ」

「あっつ、お隣の山田さん」

「息子の四郎さんはジェームス山のホームセンターで白骨化して、
孫の七郎君は片手と片目が無くなり、富岡製糸工場に就職しました。
嫁のとし子さんは住み込みのパートに出ていき、八郎君は、
コバエの大群に襲われて消化されて液体になったみたいですよ」

「えっつ、この数日間でそんな事になっていたんですか、
じゃあ、家には、もう誰も居なくなったんですか」

「いや、コバエの家族が1000匹ほど住んでるよ」

「ああ、俺はもう何もかも失ってしまったんだ
この前、キーボードの隙間や白い壁を小さな大名行列が歩くのを見たんだが
あれはコバエの集団だったんだ。
医者のやつは、アルコール依存か、悪いクスリのせいだと言いやがった。
もっと早くにバルサンを焚くべきだったのに」

「とにかく、まずコバエを退治してから、それから、
明るい未来の事を考えましょう」

「もういいんです、俺は家には帰りません。
もう、孤独な宗教者として、隠れキリシタンとして、
長崎の五島列島で仏教徒として生きていきます。
カカオポリフェノールさえあれば高齢者でも免疫力が高まるんです。
今日から『カカオの実教団』の教祖となります。
そして私は『八田カカオビンズ』に改名します」


焦点の合っていない八田二郎の目を見た山田さんは、
すべてを悟り、それ以上、何も言わなかった。

もし、時の流れが逆転できるなら、
ほんの少しだけ過去に戻りたかった。

未来から振り返った過去はいつも
懐かしい色をしているものだ。

鼻をかんだらコバエが2匹出てきた。



ハウスダストが消えぬまに

2016年02月18日 | ZIZY STARDUST
「ハウスダストが消えぬまに」

♪はじめまして 黒いキノコバエ
♪肥料の中の 卵たち
♪エアコン風に 運ばれてきた
♪虫だらけの 真冬のエコライフ

♪ハウスダスト 幾千の虫を見送って
♪息が止まってた 胸の底
♪ハウスダスト 幾億のチリを吸い込んで
♪なぜか 思い切り泣けた

作詞:八田二郎
作曲:松任谷由実

写真は有機肥料と無農薬で育ったイチゴ。

上等な有機肥料の場合は有機物は肥料としての無機物に変わっていて、
発酵の高熱で虫の卵なども無くなっているらしいが、
100円ショップのやつはそうではなかったのか。
冬場の気温ではコバエは発生しないはずだが、
エアコン暖房で虫も暮らしやすいのだろう。

部屋の中だと通常はどこからかクモが出てきて虫を食べてくれるのだが、
最近の寒さでクモも冬眠したのかどこかに行ってしまったようだ。

有機農法や無農薬が良いとされているが、
実際、農家からしてみれば、めちゃくちゃ高コストになるにちがいない。

とにかく、部屋の中での野菜作りは無謀のようだ。
といって畑を借りるほどの気力は無いし。
高齢者はハウスダストが原因で肺炎でぽっくりいくかもしれんし。
化学肥料での水耕栽培なら可能かもしれないが。
自然と人間の共存はやはり難しい。




振り向けば長崎 第2話

2016年02月18日 | ZIZY STARDUST
俺は大学病院には行かず、大学構内を歩き回った。

『世界精神心理学教室』

ポプラの大木の横に古そうな建物があり、入り口に墨で書いた看板が置かれていた。

「研究室のようだな、学生のふりをして入ってみよう」

白髪の温厚そうな老人が居た。

「やあ、八田君じゃないか、何十年ぶりかな、京大に居た頃、
君がアートの道を目指すといって、大阪芸大を受験しにいってから
それっきりだもんなあ」

「あっつ、あなたは岩田先生。まだお元気でしたか。
大阪芸大は二次面接に遅刻して落ちました」

「八田君のアート活動はどんな具合だね?
個展の案内ハガキも来なかったぞ」

「あ、アート活動ですね、あれは、もうやめました。
音楽家の人が書いた『アートの祭り』っていう本読んだんですが、
もう歳をとると、なにもかもが、後の祭りなんですね」

「いや、あきらめることは無い、人類はそれ全体が一つの存在なんだよ、
君以外の人類は、君の多重人格者として、世界に現れているだけだ、
君は君である以外に私でもあるんだよ、私は君の別の人格としての存在だ」

「あれですね、ユングの世界観というのか、カエルの子はカエル、
とかゆう哲学でしたよね。カエルの子にそれぞれ名前を付けても、
だんだん、見分けがつかなくなるという実験結果でしたよね。
たしか、岩田先生が2305年にネイチャー誌に発表して、
大事件になりましたよね」


ここで、筆者は何を書いているのかがだんだんわからなくなってきた。
花粉症の薬とホットワインを同時に飲んだのが原因のようだった。
札幌雪祭りの雪像も、様々な形をしたオブジェは最後に溶けてひとつの水になる。
ハエの細胞も人の細胞も融合してハエ男になる。
そんな妄想を頭の中で回転させながら、八田二郎は、長崎大学の正門で、
ホームレスのように壁にもたれて眠りに就いた。
まだ冷たい春風は八田二郎を起こさぬよう、その横を、そっと吹き抜けていった。



振り向けば長崎

2016年02月17日 | ZIZY STARDUST
「俺は誰なんだ、これからどこへ行こうとしてるんだ
なぜ、宇宙の始まりの無が自分の中に存在してるんだ」

「そうだ、大学病院でホルマリン漬け標本になるんだった」

浜口町から長崎大学病院までの60段の年輪のような石段を昇りながら、俺は考えた。

人生に善悪も成功失敗も金持ちも貧乏も無い。

その人生に満足できたかどうかだ。

最後に、きれいなホルマリン標本になれるかどうかなのだ。

納得できたかどうかなのだ。

その事を、八田二郎自身は、

「N得人生」と名付けてみた。

「N徳人生」のほうが人徳が感じられて良いかもしれない。


振り向けば長崎、浦上天主堂が夕陽を受けて赤く輝き、

港のあたりで出会った女達はいつものような胸騒ぎ、

始めチョロンギ、中カッパ、カモメ鳴いても蓋取るな、

稲佐山のロープウェー乗り場も改修されて、

葉加瀬太郎のテーマソングも寂しく響く、夜景がにじむ白内障だった。


「そうだ、ガンジス川行こう」

八田二郎は遠く南シナ海に向けてつぶやいた。


八田家は途方に暮れる

2016年02月17日 | ZIZY STARDUST
「ただいまー」

「七郎、どうしたの、血だらけじゃないの」

「は、墓場で、とお、しょお、小学生の群れに襲われたんだよ。
大丈夫だよ。たいしたことないから」

「何言ってるのよ、片目と片手が無くなってるじゃないの
さあ、早く、そのギターをきれいに拭いて、楽器屋に売ってきなさい
もっと大変な事になったのよ」

「えーっつ、僕のケガより大変な事が・・・」

「おとうさんのアンドロイド遺族年金が打ち切りになったのよ。
夢の年金生活は、もう、泡と消えたのよ。
つまり、おとうさんは人間だったってわけ。
今日、ジェームス山のホームセンターに行ったら、
『ウルヴァリンのすべて』っていうイベントをやってて、
骨格標本が展示してあったのよ。それが、猫背で足が短いところとか、
体形がうちのおとうさんにそっくりだったのよ。
それで調べてもらったら、その骨は普通の人間のもので、しかも、
うちのおとうちゃんの骨だったのよ」

「えーっつ、じゃあ、このアンドロイドの目玉は誰なんだ」

「七郎、何をわけわからないことを言ってるの
もう、ビートルズになる夢は捨てて、富岡製糸工場で働きなさい
これからは富国強兵の時代なのよ」


富国強兵の時代には音楽などの芸術は不要とされるのだった。
時代の波にほんろうされ続けた八田一家は途方に暮れていた。
時は2300年の春。時代は大きく移り変わろうとしていた。

八田九太郎 誕生

2016年02月16日 | ZIZY STARDUST
父親の八田四郎が成仏したというのに、息子の八田七郎はまだ遊びほけていた。

「今日も墓場でギターの練習だ、僕はビートルズになるんだ、これからは、
おとうちゃんの残してくれたアンドロイド遺族年金で楽に暮らしていけるしな」

七郎は立ち並ぶ墓石を聴衆にみたててグヤトーンのエレキギターをかき鳴らした。

「♪スターマーンウェイチングインザスカーイソーチルドレンレットイットビーブギーナイトーフィーバー」

その時だった、正面の墓石の間から丸い石のような物が投げつけられ、右目に当たった。
右目は完全に無くなってしまった。
今度は右腕に当たって、腕は吹き飛んだ。

「うっ、誰だ、こんな事をするのは、出てこい」

七郎の前には目玉だけの姿になった八田四郎が居た。

「わてや、お前の父親の八田四郎やで。わてはおまえに復讐に来たんや
片目、片腕ではもうギターは弾けんやろ。
これからは、わてがお前を支配するんや。
お前の右目に入り込んで、残った左腕もコントロールしてやる」

「目玉のおとうさん!なんてことをするんですか!」

「おい、九太郎。おまえは今日から八田九太郎になるんや
わてが、おまえをSTAP細胞でコントロールして、売れる漫画家にしてやる
残った左腕でマンガを描きまくるんや」

「九太郎って、四と七を足したら十一じゃないですか」

「げげげー、わては計算間違えたんか」

「わっはっは、わっはっは、わっはっは、はー」


合体した親子は墓場で笑い転げた。
墓場に咲き始めた梅の香りが、親子の過去の溝を徐々に埋めていった。
墓場は過去のためではなく未来のために存在するのだと八田九太郎はその時知った。



昼間のランタン

2016年02月15日 | ZIZY STARDUST
今はランタンフェスティバルの期間なので、昼間のランタンを見ておいた。
光ってないとありがたみが無い。

目的は、ここのちょっと先に、家賃18000円の一戸建て3LDK賃貸があるので、
それを見に行ったのだ。

なぜか、不動産屋さんはその場所に行きたくないので、グーグルマップを見て、
勝手に行ってくれと言う。

路面電車の駅から16分という長崎の港も見える好立地なのだ。
グーグルマップでもちゃんと存在しているが、航空写真でみると、なぜか、もやもやっとして
見えない。ひょっとして実体の無い霊的な物件なのだろうか。
それで不動産屋さんがいやがったわけだ。

グーグルマップで道順を検索すると森の中の細い道を行くように表示される。
つまり、その道以外はすべて石段なのである。

森の中の道を登山のように登っていくとだんだん道幅が狭くなり、
マレーシアのジャングルのようになってきた。

どこが道やら川やら畑やらわからない草地を乗り越え、
廃村のような風景の中にその借家はあった。

しかし、長崎の斜面は景色としては美しいが使い道が無い。
ビワかザボンを植えるしかないのか。

何軒か家はあるのだが半数くらいが空き家になってる気がした。
航空写真で見えないのは上に草や木が茂ってるかららしい。

少しふもとのほうに下がると家の数が増えてきて人の気配もしてきたが
なにせ、下の道路まで数百段はあろうかという長崎独特の地形である。

不動産屋さんが行けない大きな理由は車が入れない事にあった。
こんな物件ばかり何件も歩いて案内していたらへとへとになるに違いない。

こうやって、日本の不便な田舎から高齢者から順に人が居なくなり、
減少した人口は、ますます都心に集まって、そのうち津波で全滅するのだ。

目玉で水切り遊び

2016年02月15日 | ZIZY STARDUST
地獄の番人は、八田四郎のアダマンチウム製の骨を抜き取り、ホームセンターに卸売りした。

3000円ほどになった。

そして、四郎に言われたとおり、その目玉を無縁仏の墓場のほうへ放り投げた。

水切り遊びが得意だった地獄の番人は、目玉を5回もジャンプさせて、墓場の中央にピタリと着地させた。


「これで良かったんだよね、これであんたの魂は成仏できたのかい?
もう聞こえてないかもしれないけれど」

「番人さん、おおきに、わてはこの日にために、自分の目玉にDNAとルテインとアントシアニンと、
再起動のためのスクリプトと、ついでSTAP細胞を組み込んでおいたんや。
これで、地獄に行くこと無くこの世に留まることができる。
ほんま、おおきに」


八田四郎は今まで自分をないがしろにしてきた、妻のとし子と、子どもの七郎と八郎に、
復讐することを決意した。

わてが居ないことを幸いに、あいつらは、今頃、かんころ餅でもあぶって食べているに違いないのだ。

寒くなったり暖かくなったりの、このところの地球温暖寒冷化に八田四郎は花粉症を発症していた。

でも、目玉だけの存在になったので鼻水の心配は無かった。

それだけが無性にうれしくて笑おうとしたがアゴが無かったので無理だった。

寒かった冬ももうすぐ終わるが、どうせまた1年後に冬が来るのだ。

上がった株価はどうせまた下がるのだ。

そうやって乱高下しながら太陽系は消滅していくのだと思った。