■指名手配/ロバート・クレイス 2020.1.6
「訳者あとがき」からの情報
エルヴィス・コール 自称 “世界一優秀な探偵”
派手なアロハシャツが定番スタイル。
渓谷の絶景を望むテラスのついた三角形の家でかわいげない黒猫と暮らしている。
ヨガや太極拳や空手やテコンドーをミックスした自己流の武道をたしなみ、料理が趣味で、無類のビール好き。
ノリは軽いが、その信念は重く鋼のようにゆるぎない。
ジョー・パイク コールの相棒
海兵隊上がりの元警官。
銃砲点を営むかたわら、探偵事務所のバイオレンス部門を担当。
いつでもどこでも黒いサングラスがトレードマーク。
強面で、寡黙で、決して笑わず、ごくまれに口の端をほんの少しゆがめる。
台詞が極端に少ないわりに存在感は抜群。
これだけで、ぼくなんかは食指が動くミステリです。
一見すると対照的なふたりだが、どちらもベトナム帰還兵で、ともに数々の修羅場をくぐり抜け、強い絆で結ばれている。
という過去がある。
作品の中では、こう述べられている。
電話を切って、何度か深呼吸をした。長くゆっくりと息を吸いこみ、長くゆっくりと吐きだす。軍隊時代、敵を見つけるために、ヘリコプターが着陸できない鬱蒼としたジャングルへ送りこまれた。パイロットが機体をホバリングさせると、わたしたちは着陸用のそりの部分に足を踏みだし、ロープを滑り降りて美しい緑の葉叢をすり抜けながら目に見えない場所へと向かった。下でなにが待ち受けているのか知るよしもない。ライフルを構えた屈強な男たちが見張っていたとしても知るすべはない。そりの上に立つたびに怖かった。あのときの気分をいまも味わっているが、それでも、当時もそうしたようにわたしは足を踏みだし、敵のビルまでの三ブロックを歩いていった。
クレイス作品に関してたびたび言われていることだが、今回も、女性の描き方がうまいなあと感心する。依頼人であるシングルマザーのデヴォンは、働きながらひとり息子を育て、ままならない現実と折り合いをつけながら日々を懸命に生きている。
「タイソンは善良な子よ、わたしは心の底からそう信じている。分別のある子に育てたのに、こんなことになってしまって、その責任はわたしにあるような気がしてならないの。こんなことにならなければどんなによかったかと思うわ、でもわたしはあの子の母親。ずっと自問しているのよ、わたしはなにをしてたの? なにをまちがったの?って。あなたを恨んではいない。責める気もない。いまは自己嫌悪に陥らないようにがんばっているところ」
デヴォンの何が素晴らしいのか、作品をお読みくださればよ~く分かります。
さて、「でかいのとばかでかい」二人の殺し屋。これが何とも忘れがたい存在にとだんだんなっていくのです。なんとも不思議なことに。
今回のもうひと組の主役と言っても過言でない、悪役の大男たち。ただの悪党かと思いきや、章を重ねるごとにじわじわと不思議な(ほとんど理解不能な)味わいをかもしだし、目が離せなくなる。
お楽しみ下さい。 この一冊。
『 指名手配/ロバート・クレイス/高橋恭美子訳/創元推理文庫 』
「訳者あとがき」からの情報
エルヴィス・コール 自称 “世界一優秀な探偵”
派手なアロハシャツが定番スタイル。
渓谷の絶景を望むテラスのついた三角形の家でかわいげない黒猫と暮らしている。
ヨガや太極拳や空手やテコンドーをミックスした自己流の武道をたしなみ、料理が趣味で、無類のビール好き。
ノリは軽いが、その信念は重く鋼のようにゆるぎない。
ジョー・パイク コールの相棒
海兵隊上がりの元警官。
銃砲点を営むかたわら、探偵事務所のバイオレンス部門を担当。
いつでもどこでも黒いサングラスがトレードマーク。
強面で、寡黙で、決して笑わず、ごくまれに口の端をほんの少しゆがめる。
台詞が極端に少ないわりに存在感は抜群。
これだけで、ぼくなんかは食指が動くミステリです。
一見すると対照的なふたりだが、どちらもベトナム帰還兵で、ともに数々の修羅場をくぐり抜け、強い絆で結ばれている。
という過去がある。
作品の中では、こう述べられている。
電話を切って、何度か深呼吸をした。長くゆっくりと息を吸いこみ、長くゆっくりと吐きだす。軍隊時代、敵を見つけるために、ヘリコプターが着陸できない鬱蒼としたジャングルへ送りこまれた。パイロットが機体をホバリングさせると、わたしたちは着陸用のそりの部分に足を踏みだし、ロープを滑り降りて美しい緑の葉叢をすり抜けながら目に見えない場所へと向かった。下でなにが待ち受けているのか知るよしもない。ライフルを構えた屈強な男たちが見張っていたとしても知るすべはない。そりの上に立つたびに怖かった。あのときの気分をいまも味わっているが、それでも、当時もそうしたようにわたしは足を踏みだし、敵のビルまでの三ブロックを歩いていった。
クレイス作品に関してたびたび言われていることだが、今回も、女性の描き方がうまいなあと感心する。依頼人であるシングルマザーのデヴォンは、働きながらひとり息子を育て、ままならない現実と折り合いをつけながら日々を懸命に生きている。
「タイソンは善良な子よ、わたしは心の底からそう信じている。分別のある子に育てたのに、こんなことになってしまって、その責任はわたしにあるような気がしてならないの。こんなことにならなければどんなによかったかと思うわ、でもわたしはあの子の母親。ずっと自問しているのよ、わたしはなにをしてたの? なにをまちがったの?って。あなたを恨んではいない。責める気もない。いまは自己嫌悪に陥らないようにがんばっているところ」
デヴォンの何が素晴らしいのか、作品をお読みくださればよ~く分かります。
さて、「でかいのとばかでかい」二人の殺し屋。これが何とも忘れがたい存在にとだんだんなっていくのです。なんとも不思議なことに。
今回のもうひと組の主役と言っても過言でない、悪役の大男たち。ただの悪党かと思いきや、章を重ねるごとにじわじわと不思議な(ほとんど理解不能な)味わいをかもしだし、目が離せなくなる。
お楽しみ下さい。 この一冊。
『 指名手配/ロバート・クレイス/高橋恭美子訳/創元推理文庫 』