「FLESH&BLOOD」の二次小説です。
作者様・出版社様は一切関係ありません。
海斗が両性具有設定です、苦手な方はご注意ください。
二次創作・BLが嫌いな方はご注意ください。
「カイト、カイトは何処なの!?」
「奥様、何かありましたか?」
「この花壇の花、枯れているから全部抜いて頂戴!」
「はい・・」
「辛気臭い顔を、これ以上見せないで!」
「わかりました・・」
東郷海斗は寒空の下、花壇の花を黙々と引き抜いていた。
「ちょっと邪魔よ、退きなさい。」
「はい。」
海斗が俯いている顔を上げると、そこには彼女の雇用主の娘・リゼルとその取り巻きの姿があった。
リゼル達の姿が見えなくなると、海斗はリゼルに対して頭の中で悪態を吐いた。
(クソ、さっさと金が貯まったらここから出て行ってやる!)
海斗がホテルのメイドとして働き始めたのは、彼女が居た孤児院が火事に遭った時からだった。
安住の地をなくした海斗は、住み込みで働ける場所を探した末に、現在のホテルに辿り着いた。
このホテルでメイドして働いて、もうすぐ四年目となるが、給料が低い上に朝から深夜まで働き詰めの毎日を送っていた。
キツイ仕事の他に、海斗はホテルのオーナーであるアンジェリンと、その娘であるリゼルに毎日雑用を押し付けられていた。
傲慢と高慢さを持った二人にこき使われた海斗の怒りが爆発したのは、その日の夜の事だった。
「俺は何も盗んでいません!」
「嘘おっしゃい、わたしはお前がエプロンのポケットにダイヤの指輪を入れたのを見たのよ!」
海斗は盗みの疑いを掛けられ、エプロンのポケットを裏返したが、何も出て来なかった。
「あら、わたしの勘違いだったみたいね。」
「ふざけるな、人を泥棒扱いしてそれだけで済ますのか!これ以上あんた達に振り回されるのはうんざりだ!」
海斗はそう叫んでアンジェリンに退職届を叩きつけると、そのまま荷物をまとめてホテルから出て行った。
これからどうしようか―海斗がそう思いながら石畳の道を歩いていると、一台の馬車が彼女の前に停まった。
「お前が、俺の花嫁か?」
「え・・」
「俺と共に来い。」
訳が分らぬまま、海斗は馬車の中へと引き摺り込まれた。
「一体何なの、あんた、誰?」
海斗はそう言うと、自分を馬車の中へと引き摺り込んだ男を睨んだ。
その男は金髪碧眼で、かなりの美男子だった。
それに、豪奢な服の上からでもわかる程の美しい筋肉の持ち主だった。
「俺はジェフリー=ロックフォード、お前の夫になる男だ。」
「はぁ?」
馬車に揺られ、海斗が謎の男と共に向かったのは、美しい白亜の屋敷だった。
「ここは?」
「俺の家だ。」
「え?」
「詳しい話は中で話そう。」
「うん・・」
海斗が男と共に屋敷の中へと入ると、奥から一人の男がやって来た。
「ジェフリー、遅かったな、その子は?」
「ナイジェル、その子は俺の“蓮姫”だ。」
「“蓮姫”だと?」
右目に眼帯をつけた男は、そう言った後海斗を睨んだ。
「お前、幾つだ?」
「もうすぐ十八になります。」
「家族は?」
「居ません。」
「そうか。仕事はどうした?」
「さっき、辞めて来ました。あの、俺はこれからどうすれば・・」
「お前、名は?」
「海斗です。」
「家事は出来るか?」
「はい。」
「そうか。カイト、急で申し訳ないが夕食の支度を手伝ってくれないか?」
「わかりました。」
右目に眼帯をした男はナイジェルと名乗り、海斗を厨房へと案内した。
「俺の事はナイジェルと呼んでくれ。」
「ナイジェルさん、“蓮姫”って何ですか?」
「それはジェフリーからお前に話してくれるだろう。」
そう言って俯いたナイジェルは、少し気まずそうな顔をしていた。
「ジェフリー、話がある。」
「何だ?」
「あの子に、“蓮姫”の事を話していないのか?」
「あぁ。」
「言っておくが、俺はあの子に教えるつもりはないからな。」
ナイジェルはジェフリーの書斎に夕食が載ったトレイを置いた後、厨房へと戻っていった。
そこでは、海斗が鍋の油汚れを必死に取ろうとしていた。
「何をしている?」
「この汚れ、中々落ちなくて・・」
「レモンの皮を使え。」
「わかりました。」
「仕事は何をしていた?厨房での仕事ぶりを見たが、手際が良かったぞ。」
「ホテルで働いていました。オーナーから散々こき使われた挙句、泥棒扱いされて堪忍袋の緒が切れて辞めました。と言っても、俺の財産は旅行鞄ひとつだけ。」
「困り果てていた所を、ジェフリーが拾った、という訳か。」
「はい・・」
「ナイジェル、カイトを少しかりたいんだが、いいか?」
「構わないさ。」
海斗が厨房から出てジェフリーと共に書斎へと向かうと、彼は一冊の本を本棚から取り出した。
「それは?」
「“蓮姫”について書かれた本だ。」
「“蓮姫”?」
海斗が本を開くと、そこには裸の男女が様々な体位で愛し合う絵が載っていた。
「これは・・」
「余り俺の方から教えたくなかったんだが・・“蓮姫”は、運命の相手と巡り会うと、その相手に“蜜”を与える伝説の存在だそうだ。」
“蜜”の意味がわかった海斗は、顔を赤く染めて俯いた。
「じゃぁ、俺があなたの・・」
「そういう事になるな。」
ジェフリーはそう言うと、海斗の唇を塞いだ。
その直後、乾いた音が書斎に響いた。
「どうした、ジェフリー、その痣は?カイトは何処に行った?」
「・・何も聞くな。」
海斗は屋敷から飛び出し、街の中を歩いていた。
(いきなりキスするなんて有り得ないだろ!)
ジェフリーの頬を叩いた後、彼女は気まずくなって屋敷から飛び出したものの、行くあてがなかった。
あのホテルに戻りたくはないが、この不景気の中簡単に仕事が見つかる訳がない。
これからどうしようか―そんな事を考えながら海斗が街を歩いていると、一人の男とぶつかった。
「あ、ごめんなさい・・」
「怪我は無いか?」
そう言いながら海斗に手を差し伸べたのは、美しい翠の瞳を持った男だった。
彼は、黒地に銀糸の刺繍が施された軍服を着ていた。
「あなたは・・」
「カイト、こんな所に居たのか!」
ナイジェルはカフェの前で見知らぬ男と話している海斗の姿を見つけた。
「ナイジェル・・」
「この男とは知り合いなのか?」
「ううん、彼とは初対面だよ。」
「ジェフリーがお前の事を心配している、一緒に帰ろう。」
「うん、わかった。」
「待ってくれ!」
ナイジェルと共に海斗が屋敷への道を歩き出そうとした時、黒い軍服の男が突然海斗の腕を掴んだ。
「カイトから離れろ。」
「ほう?わたしとやる気か?」
黒い軍服の男は、そう言うと腰に帯びている長剣へと手を伸ばした。
「カイト、下がっていろ。」
「でも・・」
「往来の真ん中でそんな物騒なものを振り回すとは感心しないね、セニョール?」
美しい金髪をなびかせ、そう言いながらナイジェルと男との間に割って入ったのは、ジェフリーだった。
「貴様は、あの・・」
「何だ、俺を見てそんなに驚く事はないだろう?」
口元に笑みを浮かべながらジェフリーが腰に帯びていた長剣を抜いた瞬間、男が長剣の切っ先を彼に向けて来た。
「何をしやがる!」
「こんな田舎で暮らしている間に、剣の腕が鈍ったのか?」
「抜かせ!」
突然始まった二人の戦いを、周囲に居た者達は興味深そうな様子で遠巻きに見つめていた。
「カイトに何の用がある?」
「彼女は、わたしの妻となる。故に、わたしが王都へと連れて行く。」
「馬鹿な事を!」
ジェフリーはそう叫ぶと、男の向う脛を蹴飛ばした。
「カイト、ナイジェル、逃げるぞ!」
「待て!」
脱兎の如く駈け出したジェフリー達を男は慌てて追い掛けようとしたが、彼らの姿は何処にもなかった。
「ビセンテ様、こちらにいらっしゃったのですね!」
「レオ。」
糖蜜色の髪を揺らしながら男の元へとやって来たのは、一人の少年だった。
彼の名は、レオナルド、男―ビセンテの小姓である。
「お姿が見えないので、心配していたのですよ!」
「済まない。チュロスを買ってやるから、許してくれ。」
「もう、僕を子供扱いして!」
「待ってくれ、レオ!」
慌ててレオの後を追いかけたビセンテは、暫くこの町に滞在する事を決めた。
そう、あの美しい赤毛の女神を妻として迎えるその日まで。
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作者様・出版社様は一切関係ありません。
海斗が両性具有設定です、苦手な方はご注意ください。
二次創作・BLが嫌いな方はご注意ください。
「カイト、カイトは何処なの!?」
「奥様、何かありましたか?」
「この花壇の花、枯れているから全部抜いて頂戴!」
「はい・・」
「辛気臭い顔を、これ以上見せないで!」
「わかりました・・」
東郷海斗は寒空の下、花壇の花を黙々と引き抜いていた。
「ちょっと邪魔よ、退きなさい。」
「はい。」
海斗が俯いている顔を上げると、そこには彼女の雇用主の娘・リゼルとその取り巻きの姿があった。
リゼル達の姿が見えなくなると、海斗はリゼルに対して頭の中で悪態を吐いた。
(クソ、さっさと金が貯まったらここから出て行ってやる!)
海斗がホテルのメイドとして働き始めたのは、彼女が居た孤児院が火事に遭った時からだった。
安住の地をなくした海斗は、住み込みで働ける場所を探した末に、現在のホテルに辿り着いた。
このホテルでメイドして働いて、もうすぐ四年目となるが、給料が低い上に朝から深夜まで働き詰めの毎日を送っていた。
キツイ仕事の他に、海斗はホテルのオーナーであるアンジェリンと、その娘であるリゼルに毎日雑用を押し付けられていた。
傲慢と高慢さを持った二人にこき使われた海斗の怒りが爆発したのは、その日の夜の事だった。
「俺は何も盗んでいません!」
「嘘おっしゃい、わたしはお前がエプロンのポケットにダイヤの指輪を入れたのを見たのよ!」
海斗は盗みの疑いを掛けられ、エプロンのポケットを裏返したが、何も出て来なかった。
「あら、わたしの勘違いだったみたいね。」
「ふざけるな、人を泥棒扱いしてそれだけで済ますのか!これ以上あんた達に振り回されるのはうんざりだ!」
海斗はそう叫んでアンジェリンに退職届を叩きつけると、そのまま荷物をまとめてホテルから出て行った。
これからどうしようか―海斗がそう思いながら石畳の道を歩いていると、一台の馬車が彼女の前に停まった。
「お前が、俺の花嫁か?」
「え・・」
「俺と共に来い。」
訳が分らぬまま、海斗は馬車の中へと引き摺り込まれた。
「一体何なの、あんた、誰?」
海斗はそう言うと、自分を馬車の中へと引き摺り込んだ男を睨んだ。
その男は金髪碧眼で、かなりの美男子だった。
それに、豪奢な服の上からでもわかる程の美しい筋肉の持ち主だった。
「俺はジェフリー=ロックフォード、お前の夫になる男だ。」
「はぁ?」
馬車に揺られ、海斗が謎の男と共に向かったのは、美しい白亜の屋敷だった。
「ここは?」
「俺の家だ。」
「え?」
「詳しい話は中で話そう。」
「うん・・」
海斗が男と共に屋敷の中へと入ると、奥から一人の男がやって来た。
「ジェフリー、遅かったな、その子は?」
「ナイジェル、その子は俺の“蓮姫”だ。」
「“蓮姫”だと?」
右目に眼帯をつけた男は、そう言った後海斗を睨んだ。
「お前、幾つだ?」
「もうすぐ十八になります。」
「家族は?」
「居ません。」
「そうか。仕事はどうした?」
「さっき、辞めて来ました。あの、俺はこれからどうすれば・・」
「お前、名は?」
「海斗です。」
「家事は出来るか?」
「はい。」
「そうか。カイト、急で申し訳ないが夕食の支度を手伝ってくれないか?」
「わかりました。」
右目に眼帯をした男はナイジェルと名乗り、海斗を厨房へと案内した。
「俺の事はナイジェルと呼んでくれ。」
「ナイジェルさん、“蓮姫”って何ですか?」
「それはジェフリーからお前に話してくれるだろう。」
そう言って俯いたナイジェルは、少し気まずそうな顔をしていた。
「ジェフリー、話がある。」
「何だ?」
「あの子に、“蓮姫”の事を話していないのか?」
「あぁ。」
「言っておくが、俺はあの子に教えるつもりはないからな。」
ナイジェルはジェフリーの書斎に夕食が載ったトレイを置いた後、厨房へと戻っていった。
そこでは、海斗が鍋の油汚れを必死に取ろうとしていた。
「何をしている?」
「この汚れ、中々落ちなくて・・」
「レモンの皮を使え。」
「わかりました。」
「仕事は何をしていた?厨房での仕事ぶりを見たが、手際が良かったぞ。」
「ホテルで働いていました。オーナーから散々こき使われた挙句、泥棒扱いされて堪忍袋の緒が切れて辞めました。と言っても、俺の財産は旅行鞄ひとつだけ。」
「困り果てていた所を、ジェフリーが拾った、という訳か。」
「はい・・」
「ナイジェル、カイトを少しかりたいんだが、いいか?」
「構わないさ。」
海斗が厨房から出てジェフリーと共に書斎へと向かうと、彼は一冊の本を本棚から取り出した。
「それは?」
「“蓮姫”について書かれた本だ。」
「“蓮姫”?」
海斗が本を開くと、そこには裸の男女が様々な体位で愛し合う絵が載っていた。
「これは・・」
「余り俺の方から教えたくなかったんだが・・“蓮姫”は、運命の相手と巡り会うと、その相手に“蜜”を与える伝説の存在だそうだ。」
“蜜”の意味がわかった海斗は、顔を赤く染めて俯いた。
「じゃぁ、俺があなたの・・」
「そういう事になるな。」
ジェフリーはそう言うと、海斗の唇を塞いだ。
その直後、乾いた音が書斎に響いた。
「どうした、ジェフリー、その痣は?カイトは何処に行った?」
「・・何も聞くな。」
海斗は屋敷から飛び出し、街の中を歩いていた。
(いきなりキスするなんて有り得ないだろ!)
ジェフリーの頬を叩いた後、彼女は気まずくなって屋敷から飛び出したものの、行くあてがなかった。
あのホテルに戻りたくはないが、この不景気の中簡単に仕事が見つかる訳がない。
これからどうしようか―そんな事を考えながら海斗が街を歩いていると、一人の男とぶつかった。
「あ、ごめんなさい・・」
「怪我は無いか?」
そう言いながら海斗に手を差し伸べたのは、美しい翠の瞳を持った男だった。
彼は、黒地に銀糸の刺繍が施された軍服を着ていた。
「あなたは・・」
「カイト、こんな所に居たのか!」
ナイジェルはカフェの前で見知らぬ男と話している海斗の姿を見つけた。
「ナイジェル・・」
「この男とは知り合いなのか?」
「ううん、彼とは初対面だよ。」
「ジェフリーがお前の事を心配している、一緒に帰ろう。」
「うん、わかった。」
「待ってくれ!」
ナイジェルと共に海斗が屋敷への道を歩き出そうとした時、黒い軍服の男が突然海斗の腕を掴んだ。
「カイトから離れろ。」
「ほう?わたしとやる気か?」
黒い軍服の男は、そう言うと腰に帯びている長剣へと手を伸ばした。
「カイト、下がっていろ。」
「でも・・」
「往来の真ん中でそんな物騒なものを振り回すとは感心しないね、セニョール?」
美しい金髪をなびかせ、そう言いながらナイジェルと男との間に割って入ったのは、ジェフリーだった。
「貴様は、あの・・」
「何だ、俺を見てそんなに驚く事はないだろう?」
口元に笑みを浮かべながらジェフリーが腰に帯びていた長剣を抜いた瞬間、男が長剣の切っ先を彼に向けて来た。
「何をしやがる!」
「こんな田舎で暮らしている間に、剣の腕が鈍ったのか?」
「抜かせ!」
突然始まった二人の戦いを、周囲に居た者達は興味深そうな様子で遠巻きに見つめていた。
「カイトに何の用がある?」
「彼女は、わたしの妻となる。故に、わたしが王都へと連れて行く。」
「馬鹿な事を!」
ジェフリーはそう叫ぶと、男の向う脛を蹴飛ばした。
「カイト、ナイジェル、逃げるぞ!」
「待て!」
脱兎の如く駈け出したジェフリー達を男は慌てて追い掛けようとしたが、彼らの姿は何処にもなかった。
「ビセンテ様、こちらにいらっしゃったのですね!」
「レオ。」
糖蜜色の髪を揺らしながら男の元へとやって来たのは、一人の少年だった。
彼の名は、レオナルド、男―ビセンテの小姓である。
「お姿が見えないので、心配していたのですよ!」
「済まない。チュロスを買ってやるから、許してくれ。」
「もう、僕を子供扱いして!」
「待ってくれ、レオ!」
慌ててレオの後を追いかけたビセンテは、暫くこの町に滞在する事を決めた。
そう、あの美しい赤毛の女神を妻として迎えるその日まで。
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