「FLESH&BLOOD」二次小説です。
作者様・出版社様とは一切関係ありません。
海斗が両性具有設定です、苦手な方はご注意ください。
「それ、どういう意味?」
「俺はお前が気に入った。また会おう、カイト。」
「何で、俺の名前を?」
「・・どうやら、覚えていないようだな。」
九尾の狐―ジェフリーは、そう言って笑うと、海斗の唇を塞いだ。
“大人になったら、ジェフリーのお嫁さんになる!”
海斗の脳裏に、幼い頃の記憶が甦った。
「もしかして、あなたは・・」
海斗がそう言って九尾の狐を見ようとしたが、そこには誰も居なかった。
(最近、疲れているかな、俺・・)
その日の夜、海斗は自室のベッドに寝転がって、あの九尾の狐の事を思いだしていた。
(あの人とは、昔会った事がある。でも、何処で・・)
考えている内に、海斗は眠ってしまった。
「こんな所に居たのか、ジェフリー。」
「誰かと思ったら、ナイジェルか。」
金髪を夜風に揺らしながら、ジェフリーが一人酒を飲んでいると、同族で親友のナイジェルがやって来た。
彼は金髪碧眼が多い妖狐の中で珍しい黒褐色の妖狐だった。
ナイジェルは、私生児である事と、その珍しい毛色であるという事を理由に一族から迫害されていた。
ジェフリーだけが、ナイジェルの味方だった。
妖狐の中でも地位が高い家柄に生まれ、何不自由ない生活を送っていたジェフリーだったが、ナイジェルと友人になった所為で一族を追放され、こんな廃墟同然の神社を押し付けられたのだった。
だが、ジェフリーは一族の権力争いから逃れ、悠々自適な生活を送っていた。
「それにしても、ここは酷い臭いがするな。」
「滅多な事を言うな、何処で誰が聞いているのかわからないからな。」
「そうだった。」
「あいよ、お待ちどうさん。」
そう言って店の親爺がジェフリーの前に差し出したのは、油揚げが乗った蕎麦だった。
「お前もどうだ?ここの蕎麦は絶品だぞ。」
「俺が以前、蕎麦を食べて死にかけたのをあんた、もう忘れたのか?」
「そうだったな。親爺、きつね饂飩ひとつ。」
「あいよ!」
「それにしても、最近鬼がこの界隈で出没しているらしい。」
「へぇ・・」
ジェフリーが油揚げを食べていると、そこへ一人の男がやって来た。
「よぉ、二人共、こんな所に居たのか!」
「何をしに来た、キット。」
鳶色の髪をなびかせた一匹の妖狐に、ナイジェルは氷のように冷たい視線を送った。
キットことクリストファー=マーロウは、一族の“変わり者”で、劇作家だった。
キットは脚本のネタ探しの為に、時折人の世界にやって来るのだった。
「鬼が、最近嫁探しをしているそうだ。」
「へぇ、そうか。で、その鬼はどんな顔をしている?」
「黒髪に緑の瞳をした、美貌の持ち主だそうだ。そういやジェフリー、お前さん漸く許嫁と会ったんだって?」
「あぁ。だが、向こうは俺の事を憶えていないらしい。」
「どんな娘だ?」
「炎のように鮮やかな、赤い髪をしていた。何でも、ここに来たのは、“病気療養”の為だそうだ。」
「へぇ・・」
「ちょっと気になったから、お前さんの許嫁の事を調べてみたんだが、面白い事がわかった。」
「面白い事?」
「あぁ・・」
キットはジェフリー達に、海斗が何故東京からこの函館にやって来たのかを話し始めた。
二月前、東京で見合い相手に乱暴されそうになった海斗は、その髪を飾っていた簪で相手の右目を突いて失明させたのだった。
「彼女の両親は、娘が精神を病んだと思い、父親が所有する函館の別荘で暮らす事になったそうだ。」
「相手の男はどうしている?」
「消息不明だそうだ。」
ガタン、と大きな音が外から聞こえたので、海斗は最初風の音だと思った。
だがそれが違うと気づいたのは、廊下を歩く何者かの足音だった。
「見つけたぞ。」
「ひっ!」
恐ろしくて声が出ないというのは、まさにこの状況の事を言うのだろう。
海斗は、虚ろな目で自分を見つめる男から逃げようとしたのだが、その前に男が彼女の首を絞めた。
「ずっとお前を殺してやりたかった。」
(助けて、誰か・・)
薄れゆく意識の中で、海斗は頭上で何かが弾けたような音を聞いた。
「間に合ったな。」
男の返り血を浴びた海斗が恐る恐る目を開けると、そこには美しい緑の瞳をした男が立っていた。
「あなたは、誰?」
「迎えに来たぞ、我妻よ。」
海斗が憶えているのは、そこまでだった。
「あそこだ!」
ジェフリー達が東郷家の別荘へと向かうと、そこには先客が居た。
「遅かったな、狐共。」
そう言ってジェフリー達を嘲笑ったのは、黒髪と緑の瞳を持った鬼だった。
「お前が・・」
「そこを退け。」
そう言った鬼は、気絶した海斗を横抱きにしていた。
「カイトをどうするつもりだ?」
「我妻として貰い受ける。」
「ふざけた事を抜かすな!」
ジェフリーがそう言って腰に帯びていた太刀を抜いた。
ビセンテは、そっと海斗の身体を地面に横たえた。
激しい剣戟の音が聞こえ、海斗はゆっくりと目を開けた。
目の前では、自分を助けてくれた黒髪の男と、神社で会った九尾の狐が戦っていた。
「これで終わりだ!」
「やめて!」
海斗の腕から、鮮血が滴り落ちた。
「カイト!」
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