今日は難しいですよ。レトロトランスポゾンと自食作用のお話。
トランスポゾンというのは、染色体上にあって位置をあちこち転移できる因子でありまして、生物は普通持っている物です。最初のトランスポゾンは、バーバラ・マクリントック博士によってトウモロコシの実の斑の原因として発見されました。1940年のことですから組み替えDNA技術なんかなくて純粋に遺伝学で可動因子が染色体上を動いてトウモロコシの実をまだら模様にすることを証明しました。すごいですねー。トウモロコシの遺伝解析なんか年に1回しか出来ないんじゃないのかな? 彼女はこの業績でノーベル賞を受賞しました。
このトランスポゾンが動く時にはDNAとして動く物と一度RNAになってから再びDNAに戻って染色体の別の位置に挿入する物とがあって、後者の物をレトロトランスポゾンといいます。このレトロトランスポゾンと同じ方式で我々の染色体に侵入して増殖しやがるウィルスをレトロウィルスといいまして、がんの原因になるRNAウィルスのほとんどやエイズウィルスがレトロウィルスであります。ですから、レトロトランスポゾンの動きを封じることが出来たらレトロウィルスにも勝てるってんで、注目されてるんですよ。
東工大、動く遺伝子によるゲノムの損傷から細胞を守るシステムを発見
さて、レトロウィルスにしてもレトロトランスポゾンにしても、動く時にはRNAとなってタンパク質パーティクルに包まれます。RNAは分子として非常に脆弱で、防御のための殻に入らないといけないんですな。そして、その中で自分のRNAをDNAへ逆転写して、そのDNAを再び宿主細胞の染色体DNAにぶち込みます。こういうプロセスを経てこいつらは増えていくわけ。トランスポゾンはこの過程を細胞の中で完結させますが、レトロウィルスは細胞の外に飛び出て他の細胞に感染し、感染細胞を増やしていきます。
電子顕微鏡法と蛍光たんぱく質を使用した蛍光顕微鏡法で、このレトロトランスポゾンRNAを包むパーティクルを酵母細胞が細胞質中で選択的に集め、『自食作用』によって消化してしまいトランスポゾンのやたらめったらな転移を抑えていることを東工大の大隅先生のグループが発見しました。こうすることで細胞はトランスポゾンの転移で起こる染色体上の遺伝子の突然変異を防いでいると考えられます。
『自食作用(オートファジー)』のお話は2008年の7月8日のエントリーで説明しましたが、もう3年経ってますから忘れたよね。きっと。これは細胞が飢餓状態になったときにオートファゴソームと呼ぶ小胞が出来て細胞質をごそっと包み込みそこに入った細胞質成分を消化して栄養を供給するシステムです。自分で自分の一部を消化して使うので『自食作用』と名付けられました。最初は、飢餓に応じたしくみと理解されていましたが、変性タンパク質を消化したり活性酸素で傷ついたミトコンドリアを処分したりというような栄養供給以外の目的にも使われ、自食作用を制御する遺伝子を破壊されたマウスが癌を発症することから癌の発生を抑えるためにも自食作用は使われていると考えられるようになりました。大隅先生が酵母細胞で見つけたレトロトランスポゾンのパーティクルをオートファゴソームで駆逐する現象がほ乳動物では癌抑制に働くからくりのひとつなのかもしれません。
上の写真はバーバラ・マクリントック博士が1942年から働いたコールド・スプリング・ハーバー研究所で撮りました。ロング・アイランドにあるとても美しい研究所です。
トランスポゾンというのは、染色体上にあって位置をあちこち転移できる因子でありまして、生物は普通持っている物です。最初のトランスポゾンは、バーバラ・マクリントック博士によってトウモロコシの実の斑の原因として発見されました。1940年のことですから組み替えDNA技術なんかなくて純粋に遺伝学で可動因子が染色体上を動いてトウモロコシの実をまだら模様にすることを証明しました。すごいですねー。トウモロコシの遺伝解析なんか年に1回しか出来ないんじゃないのかな? 彼女はこの業績でノーベル賞を受賞しました。
このトランスポゾンが動く時にはDNAとして動く物と一度RNAになってから再びDNAに戻って染色体の別の位置に挿入する物とがあって、後者の物をレトロトランスポゾンといいます。このレトロトランスポゾンと同じ方式で我々の染色体に侵入して増殖しやがるウィルスをレトロウィルスといいまして、がんの原因になるRNAウィルスのほとんどやエイズウィルスがレトロウィルスであります。ですから、レトロトランスポゾンの動きを封じることが出来たらレトロウィルスにも勝てるってんで、注目されてるんですよ。
東工大、動く遺伝子によるゲノムの損傷から細胞を守るシステムを発見
さて、レトロウィルスにしてもレトロトランスポゾンにしても、動く時にはRNAとなってタンパク質パーティクルに包まれます。RNAは分子として非常に脆弱で、防御のための殻に入らないといけないんですな。そして、その中で自分のRNAをDNAへ逆転写して、そのDNAを再び宿主細胞の染色体DNAにぶち込みます。こういうプロセスを経てこいつらは増えていくわけ。トランスポゾンはこの過程を細胞の中で完結させますが、レトロウィルスは細胞の外に飛び出て他の細胞に感染し、感染細胞を増やしていきます。
電子顕微鏡法と蛍光たんぱく質を使用した蛍光顕微鏡法で、このレトロトランスポゾンRNAを包むパーティクルを酵母細胞が細胞質中で選択的に集め、『自食作用』によって消化してしまいトランスポゾンのやたらめったらな転移を抑えていることを東工大の大隅先生のグループが発見しました。こうすることで細胞はトランスポゾンの転移で起こる染色体上の遺伝子の突然変異を防いでいると考えられます。
『自食作用(オートファジー)』のお話は2008年の7月8日のエントリーで説明しましたが、もう3年経ってますから忘れたよね。きっと。これは細胞が飢餓状態になったときにオートファゴソームと呼ぶ小胞が出来て細胞質をごそっと包み込みそこに入った細胞質成分を消化して栄養を供給するシステムです。自分で自分の一部を消化して使うので『自食作用』と名付けられました。最初は、飢餓に応じたしくみと理解されていましたが、変性タンパク質を消化したり活性酸素で傷ついたミトコンドリアを処分したりというような栄養供給以外の目的にも使われ、自食作用を制御する遺伝子を破壊されたマウスが癌を発症することから癌の発生を抑えるためにも自食作用は使われていると考えられるようになりました。大隅先生が酵母細胞で見つけたレトロトランスポゾンのパーティクルをオートファゴソームで駆逐する現象がほ乳動物では癌抑制に働くからくりのひとつなのかもしれません。
上の写真はバーバラ・マクリントック博士が1942年から働いたコールド・スプリング・ハーバー研究所で撮りました。ロング・アイランドにあるとても美しい研究所です。