この本を読むきっかけは、つい最近、東野圭吾の『変身』という作品を読んで面白かったから、何か違う作品を読んでみようと思い、書店で偶然手にとり、内容が私が以前受けた胸部大動脈瘤に関するものだったからだ。(角川文庫、740円、約450頁)
最初の頃は少し退屈したが、だんだんと、犯行が明らかになるにつれ、どうなるのかなあという展開が楽しみになる本だった。
内容は、帝都大学病院の西園教授とその部下で研修医の氷室夕紀とその両親にまつわる過去とその大学病院で胸部大動脈瘤の手術を受ける財界の大物島原総一郎の過去に係る恨みを持つものの犯行ということになるのだが、人物の描き方がうまくて、なかなかグーでした。
特に、胸部大動脈瘤の手術を経験している人なら自分がどういう手術を受け、どれだけ危険なことを医師によって助けてもらえたのかということがよくわかると思う。
脳の酸素需要を下げるためにいったん25℃くらいまで体温を下げて、人工心肺装置を使って心臓を止められるのは4時間。その間に人工血管や人工弁(私の場合)への置換などを手際よくする必要があるところに、自家発電装置まで停電!
しかし、その危機を救った、犯人の魂への呼びかけ。ぎりぎりの所でも投げ出さず患者を助けようとする看護師や医師の使命感。胸が熱くなりました。読んでいて、電車の中で思わず涙がにじんできました。
そう、胸が熱くなる。心が洗われる。嬉しくて、泣けてくる。そうした経験の少ない日常で、そうした経験をごくわずかな時間でも共有できたことは大変貴重です。
そして、そうした経験をするには、人生に正面から立ち向かうことでしか、得られないのではと思いました。また、「人間は生まれながらにして、使命を与えられている」ということばが印象的でした。