D&Dを長く遊んでる分、しかしファンと自称できない微妙な距離感が続いているこのゲームシステムに対し、評価は厳しくなりがちです。この馴染めなさを他に例えると、憧れていたブランド商品のカタログを眺めている間は楽しいけれど、いざ実物を手に取ると期待ハズレの肩透かし内容、しかし実用的には十分な機能が揃っていて不便は無い、歴史ある由緒正しい海外産の「普通」な高級品でしょうか。そして極まった瞬間に素晴らしい輝きを放ちますが、持続せず狙って光らせることも出来ません。
それでもまず先に長所から。
キャラクターを作り、物語上で動かすTRPGのシステムとして、歴史の長さはダテではなく、掘り下げ作り込みのルールが半端なく詳細なため、最終的な異能力の根拠が明確です。世界を滅ぼす異質な存在など中二病炸裂させるにも確実なルールがあり、後から自己申告設定言った者勝ちは出来ません。ルールが詳細な分、状況対応策が多く特にピンチからの立て直し手段はありとあらゆる事象にこじつけて復活可能です。
終盤にいくほど能力は微に入り細を穿ち、使える手段が増えるため、かなり格上らしき強大なデータのボスキャラでも勝ちに行ける見込みがあります。
これが例えば「私の戦闘力は53万です」と強さを示す基準軸が1本しかないと、たった戦闘力5ではゴミのように消し飛び、対抗手段がありません。他所のゲームでは53万に対抗するルールがありません。おそらく。たぶん。そこでD&Dだとどうなるかといえば、鍛えて育てて知恵と策略に資材と人脈をフル活用し
・自分を50万まで鍛え10万の装備を足す
・30万の自分を二段に構える
・10万の自分を10回復活させる
・他所から40万借りて20万で倒す
・相手を半分に減らし30万で倒す
・相手が10万に減るまで待ち20万で倒す
・まぐれで得た一生一度の100万をぶつける
時間をかけて仲間と相談したり、他者の知恵を借りるならばもっとアイデアは増えるでしょう。そして、これら道筋を想定したなら、次は具体的に目的達成まで積み上げるルールがあります。それに自分一人だけで頑張るわけでもなく、チーム内の誰かが勝てば良いくらいの気構えだと、結構なトンデモ危機状況でも意外とすんなり行けたりします。自分を含めた他メンバーのトンデモ能力をあれこれ相談しながら試行錯誤を繰り返し、やがては「これ倒すの無理だろ」みたいな強大な相手に難易度の高いシナリオを突破する物語が組み上がります。長い物語を進んでいく楽しさと、多くの戦術で駆け引きする楽しさが両立します。以前に仲間内で8年間かけて長期キャンペーンを遊びました。それだけ続けると、どんなボンクラ行動を続けたキャラクターでも、物語の主人公足り得る厚みが出ます。創作の楽しみに+αのランダム性が加わり、最後まで「ひょっとしたら」の期待とスリルを含ませながら進めることが出来ました。これが完全に物語創作の手順だとキャラが作者の枠を超えるのはまず不可能でしょう。外部から想定外の感想をもらった、終了予定地点を超えても物語がまだ続く不測の事態になって、ようやく創作キャラクターは自ら動き出すのではないでしょうか。
つまり、キャラクターを創作して活躍させる箱庭として、D&Dの世界はたいへん遠く深くまで広がっています。距離設定の話じゃないです。構成する概念の圧倒的分量の多さが魅力です。
試しにさ、昔に別ゲームで使ってたキャラクター達と戦わせてみたのよ。誰にでもあると思うけど、脳内世界オリジナルキャラクターの中に必ず一人「最強」の存在がいるはずです。その人にとっての創作の起点で、思いつく限りの中二設定を詰め込んだ世界の中心にそびえている最強柱な人、いるじゃない。
私にも当然いました。超カッコよくて超強い奴が。
その最強さんと、D&D4thで最高レベルまで鍛え上げた自キャラを戦わせてみました。仮名をD&D君と呼びます。その2人が最強の座をかけてタイマン対決を脳内シミュレートしました。
ーー最強さん、勝てないんだよ。
勝つ姿が想像できない、どうしてアナタが倒れてるんですか。おかしいぞ、自分のインナー世界の法則が崩れるぞ、何かの間違いだろ。じゃあ、何か条件を付けて……、いや待て、最強が条件つけてどうすんだ?なんで負けるんだ?積み重ねてきた手段の分量が違うんだ。
元・最強さんのパラメータは主に3つ。
バカみたいに強い攻撃力
アホみたいに高い耐久力
あとはスピードも超速いんだけどさ
でも、D&D君の猛攻を凌ぎ切るルールが無いんだ。逆にD&D君のほうは、倒れた後のリカバリの早さと間合い詰める能力が明確に決まっていて、確実に二手目が打てる。そこを凌ぐには瞬間移動なりで「逃げ」ないと耐えられない。逃げるか倒れるかの二択だが、最強は逃げちゃいかんよね。そんなの耐えりゃいいじゃん、最強なんだろ?とは思えなかった。こいつの全力ラッシュに耐えられる奴なんていないよ、ゴジラいるでしょ、D&D世界にも居るんだゴジラ相当の怪物が。そのD&D版ゴジラが1ラウンドで倒れるんだよ。それも全弾ヒットする前にだ。6割程打ち込んだあたりでダウンしちまった。そんな馬鹿パンチを喰らって立っているほどウチの最強さんは厚かましくなかった。撃ったD&D君も自分で自分を打ったら始め4~5発で消し飛ぶ破壊力だからね。攻撃力だけキャパオーバーしてるのさ。
それでも攻撃力過多同士の激突だから、体力なんて即ゼロになって互いに精神力だけで立ち上がって殴り合う展開も考えた。では最強さんとD&D君のどっちがメンタル強いのか比較した。
最強さんのピンチ時に奮起するトリガーは「想い出」だ。どれだけダメージ受けようが、過去に一つだけあった「想い出」を支えに何度も立ち上がるんだ。それ本当に想い出かい?呪いじゃないのかい?
D&D君の奮起するトリガーは、そもそも存在しない。正確に高威力攻撃を繰り返すための制御機構でしかない。いつまでも同じ性能を維持し続ける。
同じくらい強い奴らが時間無制限でやりあったら、先に疲れた方が負けるシンプルな結果になった。最強さんは元・人間、機械みたいな奴相手には成長して打ち勝てるんじゃないのって展開は不採用。最強さんは既に限界まで努力して成長して最早ありえない程に強いが、メンタルは元・人間なのであまりに長時間動き続けると疲れるし飽きるんだ。単純にヒューマン・エラーが起きた。環境最悪なブラック戦場だから仕方ない。一方のD&D君は機械みたいだが機械じゃない。ただ永遠に正確な動作を続けるのが目的なので疲れないし性能低下もしない。正確な攻撃を打ってる間にフィードバックされる感覚は「楽しい」なんだよ。こんなアタック中毒者と殴り合って、私の自分世界最強キャラクターは頂点から脱落してしまいました。それでもまだ2番目に強いからな。どこも弱体化してないからな。相手がおかしいんだよ。
長々と脳内世界独自設定語りを書きましたが、要点は自己を支える「偶像」を後から破壊するほどに、D&Dというゲーム世界のデータ量は膨大で、それらを拾って組み立てる像は、緻密な造りで異論反論を納得させるだけの根拠に足り得ます。
ある日、ひょいと覚醒した超能力のような都合良さは無く、小さな能力ルールを増やし、実際に使いながら、成功と失敗を繰り返して運用法を編み出し、それらの集合体として活躍した成果から、ようやく浮かび上がった「揺るぎない信仰を伴った偶像」ですから、そりゃ自分に都合よく設定を盛った「古い偶像」では分が悪いのも当然でしょう。あと、新・偶像は2箇所ほどルール違反の強化を施しているので、手段を選ばない程の目的意識がかなり強固です。実は強さ比べが本質ではなく、目的のために違法禁則にも手を染める覚悟量の差です。少なくとも20年前の自分と現在の自分では、今のほうが遥かに頑迷です。昔の自分が嫌いですから。もしも10年前、20年前の自分と出会っても意見が合わないでしょう。10年前は愚鈍、20年前は短慮、現在は狷介、その年代で性格の悪さが皆どれも違います。そこを多様性に富むといえば流行りに乗って聞こえが良いでしょうが、一貫性が無いだけでは、と自分で思います。
D&Dの長所を書くはずでしたが、システムに直接言及した部分は無く、自分の趣味と性格形成の話になってしまいました。
まるで架空宗教の経典と、それを娯楽として消費する不信心者の関係です。神はいるんじゃね?私のために、みたいな。
私はD&D信者の素質に著しく欠けており、本編に興味なく自己内パーツを組み立てる素材集としてしか見ていません。変な怪人と怪獣いっぱい居て楽しいですよね、D&D。