一昨年のニチ朝番組のマスコットキャラがネット上の某所で虐められています。ネット上で匿名掲示板なり、R18Gも扱う画像SNSなどでは、こうした架空キャラを虐待するネタが定期的に発生します。古くは2ちゃんの「しぃ」ふたばの「実装石」ピクシブの「ゆっくり」など枚挙に暇がありません。近くでよく見ればそれぞれが持つ雰囲気が微妙に異なるのがわかりますが、遠くから眺める分には残酷で悪趣味なネタに変わりなく、大抵の人からは眉を顰めて敬遠されるジャンルです。しかし同じように見えても細かな傾向は違います。自分の専門は実装石ですが、ゆっくり等の他キャラにはまったく興味が湧きませんでした。
ところで、それら古い虐待ネタに代わって現在進行形の被虐キャラ化しているのは「ペギタン」です。実はこれも盛り上がっていたのは2020後半~21年までの話で、現在は残り火が燻っているだけなのですが、そろそろ流れも鎮火しつつあるので、私見を交えた概要を書いておこうかと思います。
ペギタンというのは2020~2021年にかけて放送された「ひーりんぐっどプリキュア」に登場するマスコットキャラの1匹で、小さなペンギンの姿をしています。性格は気弱らしいです。らしい、と伝聞のような書き方なのは、私がプリキュアという作品をシリーズ通してただの一度も視聴した事がなく、まったく本編内容を知らず、ふたばやピクシブでのペギタンの描写から窺い知れるキャラ概要がそのくらいだからです。本編なんか見なくてもキャラ虐待に支障ないのは実装石でよく分かってるんだよ。私はローゼンメイデンも未読未視聴だけど、翠星石の劣化コピーらしい実装石をギタギタにするのは得意でした。それでペギタンも本編中では気弱なのが災いして、どうも戦力増強にあまり貢献できなかったらしく、視聴者からのヘイトを稼いでしまったようで、本編でさらっと流された失態への応報な扱いを、二次創作的に消化しようとする流れが生まれた様子です。
私がこのジャンルを最初に知った時には、既に「ペギタニスト」という言葉が存在していました。ペギタニストとは文字通り、ペギタンをギタギタに痛めつける嗜好を持つファンの事を指します。しかし彼らはペギタンを嫌っている様子ではありませんでした。作中で迂闊な行動を取るペギタンに何の報いも無く進んでいく本編物語に対し、作品世界とキャラクターの行動を納得消化するためのファン心理が働いていたフシが窺えます。視聴者視点では過剰な高待遇を受けているかに見えるキャラへ、相応の苦痛と受難を与え、視聴者それぞれが解釈のバランスをとるために虐待パロディを作っている様子でした。なぜなら、それらペギタニストと呼ばれるジャンルで描かれるペギタンは、たいへん可愛らしく、また性格や言動も愚かしい程にパートナーを一途に慕うものであり、その小さく愛らしいペギタンが理不尽に翻弄され、不条理に蹂躙され、ボロボロに傷つけられながら泣き叫ぶ姿は、残酷描写で可愛らしさがより一層際立つ内容でした。つまりペギタニストと呼ばれる人々はペギタンを嫌うどころか、大変可愛いと考えており、そのペギタンを過酷な環境へ追い込むことで、必死に苦しみもがくペギタンの可愛らしさがさらに輝くという感性を持っています。大変よく理解できます。私も同意します。小さく儚く可愛らしい者が悲鳴を上げ絶叫し死に物狂いで悶え苦しむ姿は大変可愛らしく、他に代えようもなく尊い価値があるものです。
しかし、それでもやはりこれらはヘイト創作です。ヘイト創作とは、ある作品やキャラクターに不満を感じた時にそれらを改変し、貶める意図で作られる二次創作を指します。先のペギタンを虐待する一連の流れに、ペギタンを貶める意図が皆無とは言えません。これらのペギタン二次創作では本編中に一切なかった糞尿を漏らす場面が頻発します。また設定上オスなのに卵を産み、ベビーペギタン(略してベビタン)という赤子を育てる場面もよく出てくるようになりました。実はこれらの「過剰な排泄」と「子供を産み増える」設定は虐待ネタでは普遍的な描写で、これまでも余所で虐待ネタに使われたキャラクターには、もれなく追加されていました。そしてこの設定が大っぴらに取り込まれていくと、キャラクターが必ず陥る既定路線があります。有害野生動物化して駆除対象となる方向性です。すると描かれるキャラの容貌に変化が起こります。容姿はより醜悪に、言動はより傲慢で強欲に、憎むべき邪悪な存在へと書き換えられていきます。そしてこれらの架空キャラ虐待ネタを好むファン層にも系統分化が起こります。
元々の、可愛いけど少々ウザいキャラが酷い目に逢うのを好む層。
新解釈で、醜悪な汚く卑しいキャラを苛烈に処罰するのを好む層。
どういうわけか、この手のジャンルではある程度まで参加人数が増えると、被虐対象を過剰に蔑み貶め、悪として糾弾処罰したがる傾向が出てきます。それでペギタンについて話すスレッドでも日々が経つほどに雰囲気と流れが変化していきました。より過激で即物的な方向へです。いや過激なのは元からか。ペギタンで検索するとサジェストで「はんだごて」と出てきます。これは2020年中頃からペギタニスト達が執拗にペギタンの尻にはんだごてを突っ込み焼き続けた結果です。最初期からやってることは酷いのですが、当時のスレッドの流れはなかなかに技巧的でした。ペギタン画像となりきり台詞の書き込みに対し、当意即妙なレスを返しつつ場面に応じた画像を貼り、小さなエピソードを繋げていくのです。例えば、
ペギタンが温泉に入りたいと言えば、ゆっくり暖まってね、と「熱湯で煮られる」画像が貼られ、
いくらおにぎりが好きだと言えば、いくらをプレゼント、と「足にマチ針を大量に刺す」画像が貼られ、
僕のアナルさんに忠誠を誓えと言えば、即「はんだごてで腹腔内を焼かれる」画像が貼られ、
もっと舌を使えと生意気を言えば、その舌を用意するために「ペギタンの舌を切り落す」画像が貼られ、
何をどうしてもペギタンがドギツイしっぺ返しを受ける即興劇の様相を呈していました。それでいて会話口調は穏やかに進み、つまり「口頭では柔らかな態度を崩さないのに、行動は苛烈で容赦ない暴力を加え、ペギタンの望まない方向に要求をかなえる」悪意と皮肉に多少のウィットを交えた大人の悪趣味な雰囲気がありました。例えるならば大昔の連歌遊びのような上の句に下の句を繋げるように、なりきりペギタンの言動へ逆手に取るような一捻りした返答と、内容に応じた画像を即時貼り付けていく、少々知恵と発想の妙意が要る、なかなかに高度で雅な楽しみ方でした。実際、書き込みに対し瞬時に論点ずらしと混ぜっ返しを考え、最適な画像を選び数秒のうちにレスを返すのは、瞬発的発想力と豊富なネタ画像を網羅する記憶力の両方が必要で、くだらないことに無駄な力を発揮する「としあき」さん達の高いスペックが窺えました。あの人たちは基本的に頭は良いんだよ、性癖が歪んでるから理解されにくいだけで。
しかし、どんなジャンルも時間が経てば変化します。ペギタンがギタギタにされる絵を描く人も変わり、ネタ傾向も変わり、ピクシブの感想欄の雰囲気も変わり、ふたばのペギタンスレッドの流れも変わっていきました。可愛らしいペギタンの容姿を醜悪にアレンジした絵が増え始め、ペギタンなりきりの台詞は元の気弱キャラとはかけ離れた図々しくふてぶてしい物言いに占められ、それらへの返答レスも直接的な罵倒と殴打画像の割合が増え、架空キャラを悪意と嫌味で面白おかしく弄るよりも、直球の憎悪で叩きのめす傾向に流れて行った様子でした。つまり、ペギタンを扱うヘイト創作に違いはありませんが、主人公が交代したのです。
前半では、理不尽と不条理な受難に翻弄されるペギタンが悲劇の主人公でした。
後半では、理不尽で不条理な言動で周囲に迷惑をかけるペギタンを罰するスレ民が主人公になっています。
ただし、どちらも使用されるのは苛烈なペギタン暴行画像なため傍目には同様に見え、両者ともペギタンがぼろぼろになる点では一致するので、傾向が違えども対立することはありません。ただし両者から見たペギタンの姿は明らかに違うようです。
一方は、気弱で甘ったれなマスコットキャラが、日曜朝の子供向けTV番組から間違ってR18G指定Vシネマ世界に迷い込み、ガチ悪人の残虐さに蹂躙される哀れな姿を好み、この場合のペギタンは惨たらしい仕打ちにより一層可愛らしさを引き立てられた、悲劇の主人公です。
もう一方は、己の分をわきまえず自分のわがままで際限なく周囲に要求を繰り返し、節制なく増殖し周辺環境を汚し迷惑を振りまく害獣の姿です。容姿こそペギタンですが性格も図太く、パートナーに依存せずとも逞しく野生化して暮らしており、それらに迷惑を被った人間が腹に据えかねて報復処罰する対象としての設定が多数つけ加えられており、こちらのペギタンはいわば勧善懲悪ドラマで時間いっぱいに傍若無人を重ね続けて、最後に誅殺される悪役の役目を負っています。周囲に散々ストレスフルに負荷をかけ続け、その応報として有らん限りに罵倒されながら壮絶な死に様を散らすヘイト要員として消費されています。
つまり、両者では暴行を受ける要因が異なります。前者は小さく非力でやや愚かしいマスコットキャラを、可愛いからとギタギタに痛めつける人間側に問題理由があり、後者では有害生物がその迷惑の咎で刑罰を受けるペギタン側に問題原因があります。どちらが歪んでいるかと言えば前者のサディズムだと思いますが、後者の無理矢理な他罰傾向も行き過ぎている気がするので、共に世間からは公序良俗に反したモラルの無い悪趣味ネタと見られることには違いないでしょう。
ここまで書いていれば隠しようもなく、自分は明確に前者の「可愛いから痛めつけたい」側で、いちいち相手の落ち度をあげつらわないとペギタンに暴行を加えられない面倒な縛りを窮屈と感じます。そもそも善だの悪だの気にしてたら楽しめないジャンルです。そして自分が求めるものも、悪を叩き潰す正義と自己肯定感ではなく、可愛らしい者が凄惨な目に遭うギャップの美しさであり、あくまで主人公はペギタンであり、虐待を加える者は添え役でしかありません。そして苦痛と悲哀の表現は肉体損壊と流血量だけで表すものでもなく、むしろ内面的な精神が蝕まれていく過程こそが最も重要と考えています。自分で書かないのかと言えば、ペギタンはあくまで「出来の良い他所の子」なので書きません。老害思考の自覚もあるので他人には指示も表明もせず、自宅の日記で感想を一人で呟くだけに留めています。
しかし昨今の新しい被虐ネタとして、というか一部の二次創作者の描くペギタンは非常に精神的損壊描写に優れており、極めて高レベルな残酷悲哀キャラに仕上がっています。強度の精神的ストレスを受け続けた場合の、心が壊れた姿の描き方がたいへん秀逸です。苦痛と恐怖を受け過ぎると悲鳴すら上げられなくなるのよ。そんな元気は残ってないのよ。そして特筆すべきは、物理的にも精神的にも容赦ない凄惨な拷問を何百回も描きながら、対象のペギタンは終始一貫して素晴しく可愛らしいこと。TV本編だとちょくちょく作画崩れがあったりイマイチ容姿の解釈がこなれていない絵もあるのですが、ペギタニスト系創作者の描くペギタンは本編よりも容姿の愛らしさが大増量されています。もちもちとやわらかそうなほっぺやお腹やペギケツの丸さ、気弱そうに潤んだ目、非力にぺちぺちと振る小さな手足、不安に溢れ出す涙、苦痛に強張る皺、ストレスで禿げる脱毛、助けを求めて「ちゆ~」とかつてのパートナーの名を呼び続けるも、番組放送終了とともにパートナー契約は解消されており、誘拐監禁され終わりの見えない拷問虐待を受け続けるうちに表情が固まり、明らかに精神に失調をきたして怯える姿はあまりに可愛らしく、キュートアグレッションを強くそそられる姿をしています。その怯え続けた先に到達したのは、もはや抵抗も諦め、悲鳴をあげる気力も失い、ただ恐怖に硬直しながら無言で涙を流し続ける適応障害を起こした精神の壊れたペギタン、俗にPTSDタンと呼ばれる状態です。
よくぞここまで描き切ったと感心します。肉体損壊のたびに大声で悲鳴と絶叫をあげながら惨殺されてる間はまだまだ元気があるんだよ。少なくとも大声をあげる自由はあり、苦痛を主張する気力もあります。何回ブチ殺されてもすぐに再生復活するネタなので、肉体損壊などダメージのうちに入りません。それで好きなだけ泣き叫ぶの騒音も許されてるなら、心も体もめいっぱい自由を満喫しているのと変わりません。苦しみの質としてはまだまだ序の口だと思います。私は加虐方法手段として派手な肉体破壊より精神を蝕む拘束を好みます。一瞬で終わる肉体の苦痛より、無限に続く終わらない精神抑圧のほうが効果的と考えます。もちろん併用すればなおさら効果的です。
結局のところ、他にも数多くあるヘイト創作キャラ虐待ジャンルで、私が興味をそそられたのが実装石とペギタンだけというのは、効果的なメンタル破壊描写があるかどうかに尽きます。ちなみにこの手のジャンルの多くでは、精神的虐待方法として、親子を捕えて子を殺す展開が多くありますが、ワケあり家庭育ちの自分には親子愛が理解できず、家族殺しのどこが苦しいのかサッパリわかりません。子供をぽんぽん生んでダメージを受ける盾役を増やす防御策は生存戦略として優秀で、実際それで本体がノーダメージで済むのだから、これはもはやサバイバル群像劇の一種で、虐待ネタではないとも思います。
というか、どのジャンルでも虐待ネタが進むとキャラの性格がどんどん改変され、親子の情愛など欠片もないふてぶてしく悪辣な種族へと設定が変化していくのは毎度のことなのに、そこで出てくる精神的苦痛の与え方が親子関係を壊す方向にしか考えられないのは、発想が貧困かつ矛盾してると思います。倫理も道徳もわきまえない卑しいキャラがなぜか親子愛だけは十分に備えている不思議。つまり作者側が家族愛を無条件に信じており、疑問なく前提に置いてしまっている。彼らは幸せな家庭で大事にされて育った人達なのでしょう。私にはそのへんよくわかんねーや。
私は子だの親だの外部オプションへは目を向けません。そんなマトを散らせる作戦には乗りません。そいつ本体を捕まえてから分解できる限り解剖し続けます。自由を奪い可能性を削り希望を一つづつ諦めさせながら、徐々に変化していくであろう泣き声を楽しみます。始めは悲鳴、次に絶叫、続いて嗚咽、やがて慟哭、その先は何でしょうか。断末魔までじっくり付き合いながら眺めていたいと思います。対象を嫌いだからやるんじゃないのよ。可愛いからこそ見たい聞きたい楽しみたいと思うのです。
そんなジャンルの有望株として最近上がってきたキャラがペギタンですが、結局のところ、私にとっては他所の子なので、他所のペギタン飼い主さん達の虐待手腕に関心しつつ、受けた刺激は自分のところに居る子達にフィードバックしたいと考えています。うちの子てのは実装石のことです。うちの実装石達は、主を求めて彷徨う非力な出来そこない人形であり、野生で図々しく逞しく繁殖する害獣ではありません。その小さな儚い生きた人形の心を弄び踏み躙る話が大好きなのですが、全盛期から既に20年近く経っており、もう誰も書いてくれないので自分が書くしかありません。当時からも自分好みの傾向作品は少なく自分で書くしかありませんでした。自給自足です。ちなみにヘイト創作のつもりはありません。元ネタのローゼンメイデンは原作・アニメともに未読・未視聴で、元キャラの翠星石にも興味なく、彼女を貶し蔑む意図もありません。彼女をモデルにいじった劣化コピーキャラがたまたま私の琴線に触れただけです。キュートアグレッションとは対象が可愛くなければ成り立ちません。対象へ過剰な落ち度を求め、咎を負わせ、汚く卑しく醜く貶め蔑み、悪として断罪するのはただの正義他罰中毒で別種の欲求です。私はペギタンがギタギタに傷つけられる姿が大好きですが、その原因の9割は病んでる自分にあります。残り1割は他者への依存心の高いキャラクターの甘えんぼ性格描写に依ります。つまり、危機感の薄い甘えん坊かまってちゃんが恐ろしい人達に捕まり、意図しない方向でかまわれてしまい、一方的にボロクソに壊される様子が大好物です。対象の性格が「かまってちゃん」なのが重要なのさ。私の世界法則ではかまってちゃんは大リスクなので、そのまま愛され肯定しちゃうとバランス悪いのよ。