
史上最大のディール! ウクライナ停戦「米露交渉」案は習近平の「トランプへのビッグプレゼント」か?

遠藤誉
中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
2/22(土) 20:21
北京を訪問した時のトランプ大統領と習近平国家主席(写真:ロイター/アフロ)
ウクライナ戦争の停戦交渉がウクライナ抜きで行なわれていることにゼレンスキー大統領が激怒し、習近平国家主席に助けを求めた話を2月20日のコラム<「習近平に助けを求める」ゼレンスキー ウクライナを外した米露会談を受け>で書いた。
しかし、もし「ウクライナ抜きの米露のみによる交渉」を「こっそり」トランプに提案していたのが習近平だったとすると、どうなるだろうか?
世界の認識はガラリと変わってくる。
その奇想天外な「仮定」が、実は本当だったことが、2月12日のウォール・ストリート・ジャーナルに載っており、それを引用する形で2月13日にロイターが報道していた。
中国はもちろん「沈黙」したままだ。
それにしても、習近平はなぜこのようなことをしたのだろうか?
それはトランプが選挙中から「中国からのすべての輸入品に、一律60%の完全を賦課する」と宣言していたからではないだろうか?
まるでそのご褒美のように、トランプ2.0が始まると、関税「60%」実施に関しては事実上の延期になっている。
これが本当だとするなら、史上最大のディールを習近平は賭けたことになる。
おそらくトランプが最も欲しがっているのは「ノーベル平和賞」であることを、習近平は知っていたのではないかと推測する。
◆習近平の提案:ウクライナ抜きで「米露だけで」停戦交渉をしてはどうか
2月12日のウォール・ストリート・ジャーナルはExclusive | China Tries to Play the Role of Peacemaker in Ukraine(中国はウクライナに和平をもたらす役割を果たそうとしている) - WSJというタイトルで、タイトルからは推測しにくい内容の報道をしている。これでは多くの人が見逃してしまうだろう。
実際には何を報道しているか、要点をピックアップして下記に示す。
●中国当局はここ数週間、仲介者を通じてトランプ陣営と水面下の交渉をしている。
●北京とワシントンの関係者によると、中国の提案は、「ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領の関与なしの米露首脳会談をしてはどうか」というものだ。
●この提案は、「ウクライナの将来を決めるいかなる協議にもウクライナを含めなければならない」という西側諸国の長年の約束に反する。
●ホワイトハウスは中国の提案を受け取ったか否かに関しては明確にしていない。
●ワシントンの中国大使館報道官は、この提案について尋ねられると、「知らない」と述べた。
●トランプは選挙中、「大統領就任後24時間以内にウクライナ・ロシア戦争を終わらせることを目指している」と述べていた。現在は「就任後100日以内にそうする」と述べている。
●米政府当局者は、この遅れの原因は「ロシアに対する中国の支援にある」としている。中国の支援により、モスクワは戦闘を継続し、停戦を求める国際社会の圧力に抵抗することができた。ロシアの戦争努力は、イランと北朝鮮からも支持されている。(以上)
何やら曖昧模糊としていて、中国の提案は「ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領の関与なしの米露首脳会談をしてはどうか」というものだと書きながら、一方では、それを揉み消すような書きっぷりだ。
しかし2月13日になるとロイターは、もっと明確なタイトルChina proposes Putin-Trump summit to end Ukraine war, WSJ reports(中国、ウクライナ戦争を終わらせるためにプーチン・トランプ首脳会談を提案、WSJが報じる) | Reutersで報道した。
ウクライナのkyiv independentも2月13日にChina proposes to host Trump-Putin talks without Ukraine's Zelensky, WSJ reports(中国はウクライナのゼレンスキー抜きでトランプ・プーチン会談の開催を提案、WSJが報道)と、明確にウォール・ストリート・ジャーナルの意図がわかる形で報道している。
これがあまり大きくは扱われていないのは、中国の戦略性の「強(したた)かさ」を十分には認識していないからかもしれない。
拙著『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』に書いたように、習近平の哲理は「兵不血刃(ひょうふけつじん)」にある。「兵不血刃」とは中国に古くからある「荀子・議兵」にある言葉で、「刃(やいば)に血塗らずして勝つ」という意味だ。「戦わずして勝つ」と同じだが、習近平は「荀子」に基づいた国家戦略を練るのが好きだ。あの習近平なら、これぐらいのことはやりそうだと筆者には映る。

遠藤誉
中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
2/22(土) 20:21
北京を訪問した時のトランプ大統領と習近平国家主席(写真:ロイター/アフロ)
ウクライナ戦争の停戦交渉がウクライナ抜きで行なわれていることにゼレンスキー大統領が激怒し、習近平国家主席に助けを求めた話を2月20日のコラム<「習近平に助けを求める」ゼレンスキー ウクライナを外した米露会談を受け>で書いた。
しかし、もし「ウクライナ抜きの米露のみによる交渉」を「こっそり」トランプに提案していたのが習近平だったとすると、どうなるだろうか?
世界の認識はガラリと変わってくる。
その奇想天外な「仮定」が、実は本当だったことが、2月12日のウォール・ストリート・ジャーナルに載っており、それを引用する形で2月13日にロイターが報道していた。
中国はもちろん「沈黙」したままだ。
それにしても、習近平はなぜこのようなことをしたのだろうか?
それはトランプが選挙中から「中国からのすべての輸入品に、一律60%の完全を賦課する」と宣言していたからではないだろうか?
まるでそのご褒美のように、トランプ2.0が始まると、関税「60%」実施に関しては事実上の延期になっている。
これが本当だとするなら、史上最大のディールを習近平は賭けたことになる。
おそらくトランプが最も欲しがっているのは「ノーベル平和賞」であることを、習近平は知っていたのではないかと推測する。
◆習近平の提案:ウクライナ抜きで「米露だけで」停戦交渉をしてはどうか
2月12日のウォール・ストリート・ジャーナルはExclusive | China Tries to Play the Role of Peacemaker in Ukraine(中国はウクライナに和平をもたらす役割を果たそうとしている) - WSJというタイトルで、タイトルからは推測しにくい内容の報道をしている。これでは多くの人が見逃してしまうだろう。
実際には何を報道しているか、要点をピックアップして下記に示す。
●中国当局はここ数週間、仲介者を通じてトランプ陣営と水面下の交渉をしている。
●北京とワシントンの関係者によると、中国の提案は、「ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領の関与なしの米露首脳会談をしてはどうか」というものだ。
●この提案は、「ウクライナの将来を決めるいかなる協議にもウクライナを含めなければならない」という西側諸国の長年の約束に反する。
●ホワイトハウスは中国の提案を受け取ったか否かに関しては明確にしていない。
●ワシントンの中国大使館報道官は、この提案について尋ねられると、「知らない」と述べた。
●トランプは選挙中、「大統領就任後24時間以内にウクライナ・ロシア戦争を終わらせることを目指している」と述べていた。現在は「就任後100日以内にそうする」と述べている。
●米政府当局者は、この遅れの原因は「ロシアに対する中国の支援にある」としている。中国の支援により、モスクワは戦闘を継続し、停戦を求める国際社会の圧力に抵抗することができた。ロシアの戦争努力は、イランと北朝鮮からも支持されている。(以上)
何やら曖昧模糊としていて、中国の提案は「ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領の関与なしの米露首脳会談をしてはどうか」というものだと書きながら、一方では、それを揉み消すような書きっぷりだ。
しかし2月13日になるとロイターは、もっと明確なタイトルChina proposes Putin-Trump summit to end Ukraine war, WSJ reports(中国、ウクライナ戦争を終わらせるためにプーチン・トランプ首脳会談を提案、WSJが報じる) | Reutersで報道した。
ウクライナのkyiv independentも2月13日にChina proposes to host Trump-Putin talks without Ukraine's Zelensky, WSJ reports(中国はウクライナのゼレンスキー抜きでトランプ・プーチン会談の開催を提案、WSJが報道)と、明確にウォール・ストリート・ジャーナルの意図がわかる形で報道している。
これがあまり大きくは扱われていないのは、中国の戦略性の「強(したた)かさ」を十分には認識していないからかもしれない。
拙著『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』に書いたように、習近平の哲理は「兵不血刃(ひょうふけつじん)」にある。「兵不血刃」とは中国に古くからある「荀子・議兵」にある言葉で、「刃(やいば)に血塗らずして勝つ」という意味だ。「戦わずして勝つ」と同じだが、習近平は「荀子」に基づいた国家戦略を練るのが好きだ。あの習近平なら、これぐらいのことはやりそうだと筆者には映る。
以下はリンクで