超一流が集まる理由
2/21/2022
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東京メトロ溜池山王駅から直結するオフィスビルの地下1階にその病院はある。赤坂虎の門クリニック。周囲に各省庁や大手企業のオフィスが立ち並び、病院の立地は都内でも有数だ。
【写真】名医たちが実名で明かす「私が患者なら受けたくない手術」
院内の壁紙はオフホワイトでよく見ると木立の模様が入っている。診察室などの出入り口は濃茶色をした木目の引き戸、待合室の灯りはやさしい自然光だ。
落ち着いた雰囲気だが、ぱっと見の印象は最近の新しいクリニックがどこでもそうであるように、小奇麗なところという印象しか残らない。しかし、ここは知る人ぞ知る「名医」しかいない病院なのだ。
「東京大学医学部附属病院(元)副院長」、「日本皮膚外科学会理事長」……クリニックのホームページを見ると、所属している医師たちの経歴に驚く。都内で別のクリニックを経営する開業医が言う。
「あそこで働くのは大病院で実績を残してきた医師ばかり。皆例外なく優秀なトップドクターです」
実際、このクリニックに所属するのは大学病院や総合病院で教授や診療部長などを務めた医師が7割を占めている。
誰でも、予約なしでいつでも入れるという意味では巷にあふれるクリニックと変わらない。それなのに、なぜこれだけの医師が集まっているのか。赤坂虎の門クリニックの元理事長で、現在も同クリニックの消化器内科に勤める竹内和男氏(72歳)がこう言う。
「開業は'17年10月です。虎の門病院の副院長だった私はその数年前の準備段階から関わっています。
赤坂虎の門クリニックの開業の第一の目的は虎の門病院の外来の大混雑を軽減させることにありました。そのため当院は近接する虎の門病院と緊密な関係にあり、所属する医師の多くが虎の門病院での勤務経験があります」
虎の門病院は、著名人も多く通う都内有数の名病院だ。東京大学医学部附属病院の関連病院でもあるため、東大出身の優秀な医師が多いことでも知られる。竹内氏の話に戻ろう。
「我々のようなベテランの医師は長い付き合いの患者さんも多いのですが、定年退職すると縁が切れてしまう。患者さんからすればせっかく親しくなり、信頼している医師に診てもらえなくなることに不安を感じる方も多い。そうした患者さんの受け皿になる医療機関を作りたかった。
また我々医師のほうも定年とはいえまだ現役で働きたいという気持ちが強い。ただ、定年後に開業となれば大きな資金も必要になるため、リスクがある。こうした問題を解決するためにクリニックを開いたのです」
同クリニックには、60~70代の医師が多く所属する。しかし、安易な再雇用先では決してない。厳しい面接をし、
「患者さんのためにならないと思えばお断りする」(竹内氏)ケースもあるという。
所属する医師は高齢であっても、最先端の医療に精通する精鋭揃い。同年代の町医者と比すれば医学的知識も桁違いだ。無数の患者を診てきたベテランばかりなので、高齢の患者の気持ちも通じやすい。
さらに同クリニックの医師たちの優秀さを分かりやすく測る指標がある。「専門医」や「指導医」が非常に多く所属しているのだ。
「専門医制度とはそれぞれの診療領域を担当する臨床系の学会が専門医の修得すべき項目や研修施設などを定め、試験によって診療技能の修得レベルを認定する仕組みです。
専門医になり10年以上経過し、規定の症例数などの条件をクリアすると、専門医を育てる立場になる。これが指導医です。当院に在籍するのは学問的にも優れていて、臨床経験も豊富な先生ばかりということです。自画自賛になりますが、専門医と指導医がこれだけ集まっているクリニックは日本でも少ないのではないでしょうか」(竹内氏)
担当医を指名できる
個別に見ても、医療界では誰もが知る名医が並ぶ。
「例えば現院長の大原(國章)先生は、メスを握る皮膚科医として全国的に有名で、国際学会にもしばしば呼ばれています。定年まで勤務した虎の門病院では皮膚がんの専門家として、大勢の患者さんの手術を担当していました。
老年内科を専門とする大内尉義先生も、元東大病院の副院長で、その後、虎の門病院で院長を務めていました。定年を機に臨床をさらにしっかりやりたいということで、赤坂虎の門クリニックに来ていただくことになりました」 こう語る竹内氏だが、この人ももちろん、名医中の名医だ。虎ノ門中村クリニックの院長・中村康宏氏はこう言う。
「消化器内科の竹内先生はエコー検査などの診断能力に関しては日本で一番と言っていいでしょう。普通なら見落とされるような小さな腫瘍を発見できる方です。私も開業後、自分で判断が付かなかった場合などは竹内先生に診てもらうこともありました」
しかし、これだけ名医が揃っていても、自分が診てもらいたい先生にたまたま当たるとは限らないのでは―。用心深い読者のなかにはそんな疑問が浮かぶ人もいるかもしれないが、心配はない。
このクリニックでは、担当医の指名制を導入しているのだ。お目当ての医師がいれば、事前に予約しておけばいい。ホームページには、所属医師のプロフィールやインタビューが掲載されているので、ゆっくり自分向きの人を探すことができる。
さらに、画期的なのは指名した医師に手術まで担当してもらえることだろう。簡単な手術であればクリニック内でも可能で、全身麻酔を使う大手術でも近接する虎の門病院などの提携病院で設備を借り、出張手術を行っているのだ。同クリニックの現院長の大原國章氏(73歳)が言う。
「実際、年に数件は提携病院に出向いて手術をしています。今月も皮膚がんの患者さんを都立広尾病院で手術します。
赤坂虎の門クリニックに私が移ってから、初診でみえた患者さんです。全身麻酔が必要だと判断したため、都立広尾病院を紹介、入院してもらって、手術の日に私が行くことになっています。広尾病院の皮膚科部長は、私が虎の門病院にいた頃の部下なので、入院から手術の日程調整までとてもスムーズに運びました。
当院の先生は皆さんベテランで実績がある。自分のネットワークも持っていますから、それを生かすことができるのは大きな武器と言っていいでしょう。
いくら私がその患者さんの手術に広尾病院が適していると思ってお願いしても、個人的な関係がなければ、なかなか受け入れてもらえませんから」
そもそも大原氏のような優秀な医師が、大学病院や総合病院にいたあいだは、望んでも誰もが手術を受けられるわけではなかった。前出の開業医が言う。
「大きな病院で、有名な先生に手術を担当してもらうのはハードルが高い。著名人かよほど特殊な病気である、もしくは強力なコネがないとトップクラスの医師に執刀してもらうチャンスはない。普通の患者は、下っ端というと語弊がありますが、経験の浅い若手の医師が診るのが当たり前です。
仮に有名な先生宛の紹介状を持ってきたとしても、ちらっと診るだけであとは他の医師に任せるしかないほど多忙なのです」
自分は、手術をするほどの大病はいまのところない。普段のクスリをもらうだけなら、近所のクリニックで十分と思っている人もいるだろう。だが、そんな人でも通う価値はおおいにある。
赤坂虎の門クリニックは消化器内科、呼吸器内科、泌尿器科など13の診療科を擁す。これが大きな強みになるのだ。竹内氏が言う。
「赤坂虎の門クリニックを一言で言えば、多診制のクリニックです。一つの経営母体の下に、さまざまな診療科があり、それぞれのエキスパートがいる。総合病院の外来機能だけをまとめたものと言えばいいでしょうか。
医療モールと勘違いされるのですが、あちらは一つの建物に複数の独立したクリニックが入っているもので、当院とは全く違います。すべての科が患者さんの電子カルテを共有できますから、連携もスムーズで、複数の医師が総合的に診断することができる。
患者さんとしてはそれぞれの科で初診料を払う必要がありませんし、何より一つの施設の中で様々な科の医師に診てもらえるわけです」
大病院と違い混んでいない
特に高齢の患者の場合、複数の病気を抱えているケースが多いため、非常に使い勝手が良いだろう。
赤坂虎の門クリニックに通っている70代女性が言う。
「いまは消化器内科の吉田(行哉)先生と泌尿器科の黒澤(和宏)先生、皮膚科の大原先生にかかっています。特に大原先生には感謝しています。
皮膚に湿疹があってかかっていたのですが、あるとき、鼻の付け根に黒子ができて大原先生に相談したところ、すぐに『黒子ではなく癌だよ』と言われ、手術をしていただきました。
年をとるとあちこちが痛んでくるのですが、ここなら診察券一枚でいろいろな病気の専門の先生に診ていただけるので本当に助かっています。
大病院と違って混んでいないので、信頼できる先生たちとゆっくり時間をかけてお話ししながら相談できるのもいいですね」
そう、ここまで至れり尽くせりのクリニックであるのにもかかわらず、現時点では混雑していない。実際、本誌が取材のために訪れたときも、待合室の人はまばらだった。
場所が赤坂にあるため、「診察料が高いのではないか」と敬遠する人もいるかもしれないが、それはもちろん間違いだ。
「赤坂のオフィスビルにあるクリニックと聞くと高額な医療費がかかる自由診療の病院をイメージするかもしれませんが、うちは通常の保険診療なので、安心してください」(竹内氏)
つまり、近所の普通のクリニックに行っても名医しかいない赤坂虎の門クリニックに行っても、かかるおカネは一緒だ。
「かかりつけの病院は、家からすぐの身近なところがいい」という気持ちはわかる。だが、少し都心に足を延ばせば、奇跡のようなクリニックに通えるのだ。
首都圏に住んでいるのなら月に一度、クスリをもらいに行くだけでも十二分にメリットがあるだろう。
赤坂虎の門クリニックの院長の大原氏が内状を赤裸々に語ってくれた。
「病院経営という意味では決して楽ではありません。赤坂の一等地にあるクリニックですから、家賃をはじめとする固定費は決して安くない。先生方のお給料も決していいとは言えません。
少なくとも先生方が大学病院や総合病院にいた頃と比べると大幅に減っているでしょう。まあ、私のように一度定年退職した人がその後も働く場合、一般企業でも給料は下がりますからそれで納得しています。
それでも働いているのは、この病院には真摯に患者を診ることが出来る環境があるからでしょう」
名医しかいない病院は確かに存在した―。
最高のかかりつけ医を見つけたい人は一度、赤坂に足を向けてみてはいかがだろうか。
引き続き、後編の『プロ中のプロだから知っている…薬剤師が「飲まないクスリ」「飲むクスリ」』では日本の医療をささえる薬剤師の視点から、明かす。
『週刊現代』2022年2月19・26日号より