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永遠の命?>「機械の脳」が現実に?現実味を帯びてきた脳の人工再現―東京大学工学系研究科

2025年02月16日 00時03分35秒 | 医学と生物学の研究のこと
最終目標の「意識のアップロード」に至ると、AIによって生体脳の機能を全て置き換えることが可能であるという。実現すると、脳内の記憶を全て伝送し、肉体が不要で生き続けることが可能になる。


機械の脳」が現実に? 現実味を帯びてきた脳の人工再現――東大研究者たちが講演う





 脳の機能を機械の身体に移植して、永遠の命を得る――サイエンス・フィクションの世界で夢見られてきたような未来が今、徐々に現実味を帯びつつある。

10/19/2021
 
 
 ライフサイエンス分野の事業に取り組む、LINK-Jは9月27日、「脳は人工的につくれるのか?〜脳の情報処理のフロンティアに挑む」と題したトークイベントをオンラインで開催。東京大学から気鋭の科学者2人が参加し、最先端の脳研究を披露した。


 登壇者は東京大学大学院工学系研究科の渡辺正峰准教授と、東京大学生産技術研究所の池内与志穂准教授。渡辺氏は情報工学、池内氏は生物学の視点から脳の機能の解明を進めている。

脳とつながる機械で「意識のアップロード」目指す

 神話の時代から多くの物語に描かれてきた「考える機械」は実現しうるのか。現代科学は、まさにその答えに手が届く位置にある。

 脳神経科学者として“人工意識”をテーマに研究を進める渡辺氏。「意識を機械にアップロードする技術」の実用化を目指すスタートアップ、MinD in a Device社の技術顧問も務めている。

  東京大学大学院工学系研究科の渡辺正峰准教授
 
 その渡辺氏は「多くの科学者は『脳は人工的に作れる』と考えている」と話す。脳を作るとはどういうことなのか。渡辺氏いわく、それは「意識」の再現であるという。


 人間の脳は、ニューロンと呼ばれる千数百億個もの神経細胞から構成されたネットワークだと考えられている。


 数千億個のニューロンが相互に作用する通信の全貌は、現代のコンピューティング技術ではとても再現できない規模に及ぶ。しかし渡辺氏は「ニューロンの構造は多くが解析できていて、実のところ電気回路にすぎない」として、現代の技術の延長線上で模倣できるようになると予測する。


 その予測の上で、渡辺氏は「果たして人工的に作った脳に意識が宿るのか」という疑問を持つ。この問いの答えは意識の定義にも依存するが、渡辺氏は「イエス」と予測している。


 意識を脳の情報処理の観点で捉えると、「何かを知覚したとき、脳内のニューロン間で電気が走った結果、主観的に得られる感覚(クオリア)」と考えられるという。これはすなわち、脳に走る電気信号を観測し、適切な電気信号を書き込める機械が存在すれば、それは「意識を読み書きできる機械」ということになる。


 ただし、仮に脳の電気信号を読み書きできる機械が作成できたとしても、それが確実に「意識を読み書きできる機械」である保証はない。機械が意識を読み書きしていると確証するには、自分の身体に機械を差し込んで、実際に意識を感じるか実験してみるしかないからだ。

 その検証を試みるのが、渡辺氏の研究の目標であり、同氏が関わるMinD in a Device社の目標であり、具体的には「20年後に意識をアップロードするサービス」を提供することを目指している。ヒトの脳の意識をアップロードして、肉体が果てても機械の身体で生き続けることができる、そんなサービスの開発を進めているという。

  MinD in a Device社の公式Webページ
 
 そのカギとなる脳に接続する機械「BMI(Brain Machine Interface)」のコンセプトは、すでに東京大学から特許が出願されている。これは右脳と左脳をつなぐ脳梁(のうりょう)という部位にCMOSセンサーを差し込んで接続するアイデアで、原理的には脳梁の断面部にある全てのニューロンの情報を読み取れるという。さらにiPS細胞を接続インタフェースとして利用し、狙ったニューロンを刺激して情報を書き込む(発火させる)ことも可能としている。


 MinD in a Device社ではロードマップを描き、

3段階のステップで実現を目指す。

第1段階では、深層学習AIで生体脳のデジタルツインの作成を試み、てんかんなどの中枢神経系創薬のために活用する。

第2段階では、中枢神経系疾患の症状進行を緩和する非侵襲性BMIデバイスを開発。

第3段階ではAIによってヒトの脳の一部の機能の代替を目指す。

 最終目標の「意識のアップロード」に至ると、AIによって生体脳の機能を全て置き換えることが可能であるという。実現すると、脳内の記憶を全て伝送し、肉体が不要で生き続けることが可能になる。

 意識がアップデートされた人間はどうなるのか。渡辺氏は「記憶の転送が済んだら、死というものを経ることなく、全くシームレスに意識を機械の身体に移行することができる」と予測している。


「2つのミニ脳」をつないだら……

 渡辺氏がコンピューティング技術をもって脳を再現を試みているのに対し、池内氏は、生物学の立場から脳の再現に挑んでいる。
  東京大学生産技術研究所の池内与志穂准教授
 
 池内氏は、人工脳組織を作成し、その機能を把握するアプローチを取っている。脳は多数のニューロンから構成された複雑な構造となっているが、その中でも池内氏が特に重要と考えているのが「軸索」だ。

 軸索とは、脳の神経ネットワークをつなぐ、バイパスのような存在。パイプが絡まったような細長い形状をしており、近くや遠い位置にある細胞同士をつなぎ、情報を伝達する。ヒトの脳は、各領域にそれぞれの役割を持っており、それらが軸索でつながることで、高度な機能を持つと考えられている。


 軸索のイメージ図

このような脳組織のつながりを再現するため、池内氏はiPS細胞から軸索の束を培養し、その両端を大脳神経組織で作った小さな球に接続した、人工脳組織を作成した。


 培養された大脳の神経細胞では通常、単調な神経発火(電気信号を発する動き)が発生しているが、このミニチュアでは軸索でつないだ2つの脳組織から、不規則で複雑な神経発火パターンが観測できたという。



  2つの脳組織をつないだミニチュア
 
 さらに、軸索でつないだ脳組織からは、記憶の片りんとも思われる現象が観測された。脳組織に、外部から刺激を与える(発火させる)と、脳組織はその刺激と同調し、発火する。2つをつないだ脳組織に刺激を与えると、刺激を止めた後もしばらくは同調した反応が続いたという。「一番単純な記憶の片りんと思われる現象を観測している可能性がある」と池内氏は推測する。


 この外部刺激を繰り返し与えていると、初めは応答に時間がかかるが、試行回数を増やすごとに応答を返す時間が速まることも明らかになった。このため、刺激パターンを脳組織全体で認識している可能性が考えられるという。
 池内氏はこれらの生物学的アプローチから脳の理解を進め、まずは中枢神経系疾患の克服に向けた創薬支援へと応用を目指している。


 その先にある目標は「脳型バイオコンピュータ」だ。池内氏は脳研究において生物学的アプローチと、BMIをはじめとする工学的アプローチは近未来は融合し、将来的には、脳の計算能力を利用したコンピュータが開発されるのではないかと予測している。


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