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『学校なんか行かなくていいよ』という一言じゃ絶対に救われない

2024年11月04日 20時05分05秒 | メンタルヘルスのこと>心の健康
「あのときの気持ちは、よく不登校支援で言われるような『学校なんか行かなくていいよ』という一言じゃ絶対に救われないというか、そんな表面的なことではないんですよね」  



「死にたい」から救われて 相談チャット創設した大学生の思い #こころの悩みSOS
9/5(月) 16:00 2022



この数日間、死のうと思っていました>  

夜中3時過ぎ、担任の先生に送ったメールが人生を変えた。数時間後、電話で目覚めると家の前に先生が立っていた。この原体験から、無料チャット相談「あなたのいばしょ」を創設した現役大学生、大空幸星さん(23)。駆けつけてくれた先生の存在に感じた「安心感」を提供したい。NPO理事長として、年間約20万件超もの相談が寄せられる窓口の運営を担う。

「学校に行けない」状況、そして、「死にたい」気持ちとは――。

「学校なんか行かなくていい」で救える?


大空幸星さん=東京都内で2022年8月1日、宇多川はるか撮影

 大空さんは、「死にたい」と思ったことが2度ある。 

 1度目は、小学6年のとき。小学5年で両親が離婚し、愛媛県で父と2人暮らし。ささいなことであたってくる父に対し、「母を追い出した張本人」という思いで反発し、口論が絶えなくなった。次第に互いに暴力を振るうようになったが、父に力でかなうわけもない。暴言、暴力に対する恐怖で、家に居場所はなくなっていった。突然息が出なくなるほど胸が痛むこともあり、夜も眠れなくなる。  

登校班の待ち合わせ場所が、自宅の近くだった。朝、カーテン越しに、見つからないようにそっと、通学していく友人たちを見送る。学校が嫌いなわけではなかった。むしろ、学校には居場所があったし、行きたかった。でも行けない。昼夜逆転し、学校に通えなくなった。罪悪感が胸にこみ上げた。

  「あのときの気持ちは、よく不登校支援で言われるような『学校なんか行かなくていいよ』という一言じゃ絶対に救われないというか、そんな表面的なことではないんですよね」  

先生や友人に頼ることは思いつかなかった。「自分で処理しないといけない」と思っても、状況は変えられない。

「生きることに疲れた」。そう思い始めたとき、死が現実味を帯びてきた。高台にあった家の庭にはフェンスがあり、越えれば崖下に落ちる。でも、怖くて越えられない。

「死ぬこともできない」。そんな思いがこみ上げた。胸が痛む頻度も増え、父に頼んで病院へ行くと、即入院となった。



駆けつけてくれた先生 その存在の意味


 入院中と知った、東京で暮らす母から「一緒に暮らさないか」という連絡 があった。父との暮らしに戻ったら、また同じ苦しみが繰り返されると思い、上京を決意。中学1年の夏、一人で東京へ向かい、母と再婚相手との生活が始まった。  

ただ、母と義父は家を空けがちで、約1カ月帰ってこないこともあった。テーブルに置かれた食事代を手に、近くの定食屋で、毎日一人で夕飯を食べた。

  そんな生活も長くは続かない。高校生になると、母は再婚相手と離婚し、仕事も失い、収入が途絶えた。家の退去期限が迫る中、母との激しい言い争いが絶えない。  

「何もかもが限界だ」  

 顔が浮かんだのが、冒頭の担任の先生。 家庭環境を知ってか「飯食ったか?」と声をかけるなど、前々から何かと気にかけてくれていた。でも、それ以上の特別な存在ではなかった。だが、明日学校に行けない理由は伝えたい。そう思い立った。父や母に対するこれまでの思い、苦しみを一気につづった。夜中のメールに、生徒のSOSを察知した先生は、すぐに自宅まで駆けつけてくれた。

「社会に、自分のことを気にかけてくれる人がいる」――。

初めてそう思えた瞬間だった。その後、母との関係性という根本的な問題解決を、先生がしてくれたわけではない。でも、「僕には、いざとなったら頼れる人がいる」という安心感が、気持ちを「生」に向かわせた。大学を目指して勉強し始めた。


「あなたのいばしょ」の相談支援拠点でスタッフと共に、パソコン画面を見つめる大空幸星さん=東京都内で2022年8月1日、宇多川はるか撮影

 2017年、慶応大総合政策学部に入学。20年3月に友人と2人でチャットの相談事業「あなたのいばしょ」を開始し、12月にNPO法人化した。全国から寄せられる相談は1日約1000件。うち約4割が、10代の子どもたちからの相談だ。  

大空さんは言う。

 「先生がいなかったら、絶対あのとき自殺していたな、と今でも思います。NPOで提供したいのは、僕が先生の存在によって感じられた安心感なんです」

「あなたのいばしょ」の相談支援拠点に設置された赤色と黄色のパトランプ=東京都内で2022年8月1日、宇多川はるか撮影

 都内にあるNPOの相談支援拠点。ビルの一室では、常勤の職員たちが24時間態勢で、パソコン画面を見つめる。

「雑談したい」という要望から、「今すぐ飛び降ります」という差し迫った相談まで、多種多様だ。部屋の壁面には、赤と黄の2色のパトランプが設置されている。 

 黄色が点灯するのは、「自殺リスクが高い相談」が入ってきたとき。1日に何回も点灯し、緊急対応の必要性を知らせる。  

赤色は、「DVや虐待などに関する相談のうち、命に関する危険が迫っているとき」。こちらは点灯するだけではなく、部屋中に警告音を響かせる。チャットの文字を分析し、独自のアルゴリズムから自動で判断される緊急度に応じ、点灯する黄色と赤色のランプ。より緊急度が高い赤色が点灯すれば、職員総出で対応にとりかかる。児童相談所や警察など関係機関と連携を図ることもある。  

「小学生からの自殺の相談も、毎日ありますよ。いっぱいあります」。大空さんはそう説明し、言い切る。「『死にたい』という感覚は、子どもでも持つわけです」  

重ねるのは、自身の経験だ。「共通しているのは、学校ではすごく『いい子』で、家族にも迷惑はかけたくない、いじめられているわけでもない。何に悩んでいるかもわからないけれど、とにかく苦しいと。それ、僕もよく分かるんです」


「死んでもいいけど、死んじゃだめ」


相談支援拠点でパソコン画面を見つめる大空幸星さん=東京都内で2022年8月1日、宇多川はるか撮影

 大空さんは最近、大学の卒業論文の締め切りに追われる中、新著を執筆してきた。タイトルは、「『死んでもいいけど、死んじゃだめ』と僕が言い続ける理由」。夏休み明けで悩む子どもたちに伝えたいと8月末、出版した。「どうしてもそのタイミングで出したかった」

  「死んでもいいけど、死んじゃだめ」――。

踏み込んだ言葉にも思えるメッセージは

、「NPOの方針ではないけれど、僕が悩んで思い至った、一つの考え方」と語る。「『自殺はダメ』って言いがちだけど、自殺は苦しみからの出口というか、逃げ道の一歩。だから、本当に逃げたい人の出口をふさいじゃったら、最後の逃げ道をふさいじゃうと思うんです」  

「死んじゃダメ」とは言えないけれど、死なないでほしい。そんな思いを込める。「『死』は心の中に置いたままでもいい。とにかく生きてさえいれば、誰かとつながって孤独が癒やされ、前に進む気力も芽生える。自分の人生を生きるために、そういうことを知っておいてほしいなと思います」

【宇多川はるか】
※この記事は毎日新聞社とYahoo!ニュースによる連携企画記事です。


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