北沢楽天 その魅力
楽天が、時事新報に所属しながら、自ら描き広告まで編集する「東京パック」を創刊したのは1905(明治38)年4月のこと。日本海海戦の1月前だった。
「パック」とは、英語でどんな字を書くのだろうといつも思っていた。この雑誌の初刊を見ると、Puckとある。Packならすぐ分かるけど、すぐにはピンと来ない。
辞書を引いてみと、英国の伝説上の人物の「いたずら好きの妖精」のこと。シェークスピアの「夏の夜の夢」にも出てくるという。
楽天に西洋漫画の誇張などの技法を教えてくれた豪州人ナンキベル(Nankivell)が、後に米国で編集長をしていた政治風刺漫画誌「Puck」にならってこの名をつけた。
楽天でまず驚いたのは、その4月15日に発行された「東京パック」の表紙である。初めてこれを見た人は、日本人が描いたとは誰も信じないだろう。バタくさいからだ。
東京パックも第一巻第一号(もちろん旧字体)も、書き方は、今のよう左から右ではなく、右から左である。
日本語は上からだけでなく、左右どちらからでも書ける。便利な言葉である。右からのアラビア、ヘブライ語もビックリだ。絵の下にそのタイトルが、これまた右から左に書いてある。
「露帝噬臍の悔(ろてい ぜいせい の くひ)と、ルビも歴史的仮名遣いでふってある。
小学校に入学したのが昭和20年。教育漢字と当用漢字しか知らない世代。その意味がすぐには理解できない。「噬臍」が、「何かへその話かな」とまでは分かっても、お手上げ。また辞書。暇なので辞書はよく引く。
漢和辞典には、「自分のへそを、かもうとしても届かないことから、悔いても及ばぬことの例え」で、「ほぞをかむ」との説明。「そうか、ほぞは、臍のことだったのか」。戦後のえせインテリの底の浅さである。
暇だから、本当にへそをかめないのかと、柔軟体操のつもりで試してみた。長年の暴飲暴食でせっせと築いた太い腹、やはり無理。腹が薄い人は、身体を屈めても、へそも後に下がってかめないのだろうか。今度聞いてみよう。
「露帝とは誰だったかな」。これは最近、NHKの「坂の上の雲」で見たばかりだから、ニコライ2世。これだけはすぐ正解。学生時代、マルクスやレーニンを人並みに少しばかりかじった名残だ。
日本に来ては、大津事件で巡査に斬りつけられ、最後は家族ともども銃殺される数奇の人生をおくった。フランスのルイ16世同様、王朝の最後は、積年の悪政の報いながら、無残である。
この表紙は、ニコライ2世が、腰を浮かして、前かがみになって、歯をむいてへそをかもうとしている。(写真)もう少しだが無理なのだ。その時、ロシア聖教の十字架付きの王座に左手を支えているだけで、身体は王座から離れている。「王座から離れる」、つまり失脚を暗示している。
この絵が、日本海海戦、ロシア2月革命以前に描かれたことに驚いた。海外生活の中で、凄いと思う時事漫画は多く見た。それでも、その時点ではなく、将来を見越した時局漫画を見たのはほとんど記憶にない。
これは、日本海海戦、ロシア2月革命(1917年3月 皇帝退位)の前に描かれた“予言の漫画”なのだ。
時局漫画というとおり、風刺漫画は、現在進行形、あるいは過去形で書かれることが多い。将来を暗示する時局漫画を見るのは初めてだ。
明治から大正にかけて、こんな素晴らしい時事漫画が一世を風靡していたのに、今の政治漫画のお粗末さは目を覆うばかりだ。本当の意味の風刺も批判も見当たらない。川柳も同じだ。
図書館には楽天の全集があるところもある。漫画を志す人には是非、見てほしい。「漫画とは何か」。浅薄なものではない。こんな繰り言を言うのは老人のひがみか。
楽天が、時事新報に所属しながら、自ら描き広告まで編集する「東京パック」を創刊したのは1905(明治38)年4月のこと。日本海海戦の1月前だった。
「パック」とは、英語でどんな字を書くのだろうといつも思っていた。この雑誌の初刊を見ると、Puckとある。Packならすぐ分かるけど、すぐにはピンと来ない。
辞書を引いてみと、英国の伝説上の人物の「いたずら好きの妖精」のこと。シェークスピアの「夏の夜の夢」にも出てくるという。
楽天に西洋漫画の誇張などの技法を教えてくれた豪州人ナンキベル(Nankivell)が、後に米国で編集長をしていた政治風刺漫画誌「Puck」にならってこの名をつけた。
楽天でまず驚いたのは、その4月15日に発行された「東京パック」の表紙である。初めてこれを見た人は、日本人が描いたとは誰も信じないだろう。バタくさいからだ。
東京パックも第一巻第一号(もちろん旧字体)も、書き方は、今のよう左から右ではなく、右から左である。
日本語は上からだけでなく、左右どちらからでも書ける。便利な言葉である。右からのアラビア、ヘブライ語もビックリだ。絵の下にそのタイトルが、これまた右から左に書いてある。
「露帝噬臍の悔(ろてい ぜいせい の くひ)と、ルビも歴史的仮名遣いでふってある。
小学校に入学したのが昭和20年。教育漢字と当用漢字しか知らない世代。その意味がすぐには理解できない。「噬臍」が、「何かへその話かな」とまでは分かっても、お手上げ。また辞書。暇なので辞書はよく引く。
漢和辞典には、「自分のへそを、かもうとしても届かないことから、悔いても及ばぬことの例え」で、「ほぞをかむ」との説明。「そうか、ほぞは、臍のことだったのか」。戦後のえせインテリの底の浅さである。
暇だから、本当にへそをかめないのかと、柔軟体操のつもりで試してみた。長年の暴飲暴食でせっせと築いた太い腹、やはり無理。腹が薄い人は、身体を屈めても、へそも後に下がってかめないのだろうか。今度聞いてみよう。
「露帝とは誰だったかな」。これは最近、NHKの「坂の上の雲」で見たばかりだから、ニコライ2世。これだけはすぐ正解。学生時代、マルクスやレーニンを人並みに少しばかりかじった名残だ。
日本に来ては、大津事件で巡査に斬りつけられ、最後は家族ともども銃殺される数奇の人生をおくった。フランスのルイ16世同様、王朝の最後は、積年の悪政の報いながら、無残である。
この表紙は、ニコライ2世が、腰を浮かして、前かがみになって、歯をむいてへそをかもうとしている。(写真)もう少しだが無理なのだ。その時、ロシア聖教の十字架付きの王座に左手を支えているだけで、身体は王座から離れている。「王座から離れる」、つまり失脚を暗示している。
この絵が、日本海海戦、ロシア2月革命以前に描かれたことに驚いた。海外生活の中で、凄いと思う時事漫画は多く見た。それでも、その時点ではなく、将来を見越した時局漫画を見たのはほとんど記憶にない。
これは、日本海海戦、ロシア2月革命(1917年3月 皇帝退位)の前に描かれた“予言の漫画”なのだ。
時局漫画というとおり、風刺漫画は、現在進行形、あるいは過去形で書かれることが多い。将来を暗示する時局漫画を見るのは初めてだ。
明治から大正にかけて、こんな素晴らしい時事漫画が一世を風靡していたのに、今の政治漫画のお粗末さは目を覆うばかりだ。本当の意味の風刺も批判も見当たらない。川柳も同じだ。
図書館には楽天の全集があるところもある。漫画を志す人には是非、見てほしい。「漫画とは何か」。浅薄なものではない。こんな繰り言を言うのは老人のひがみか。
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