軒 端 梅
三番目物 本鬘物 作者不明
東国の僧が都の東北院を訪ね、咲いている梅を門前の男から和泉式部の梅と教えられ眺めていると女が現れ、由来を教え夕暮れに梅の花の蔭に消える。門前の男から和泉式部の供養を進め、夜に僧が法華経を読経すると和泉式部の霊が現れ、譬喩品の読経に感謝して、昔法華経の読経の声に魅かれて歌「門の外法の車の音聞けばわれも火宅を出でにける哉」と詠んだ功徳で菩薩になったと述べる。また和歌の徳や都の鬼門を守るこの寺を讃えながら舞を返して、恋多き昔を思い出し、式部の臥所であったという方丈に消え、僧も夢も覚める。
前ジテ:都の女 後ジテ:和泉式部霊 ワキ:旅僧 ワキヅレ:同伴僧
アイ:東北院門前の男
ワキ 年立ち返る春なれや、年立ち返る春なれや、花の都に急がん。
ワキ 是は東國方より出たる僧にて候、我いまだ都を見ず候程に、此春思ひ立ち都に上り候。
ワキ 春立つや、霞の關を今朝越て、霞の關を今朝越て、果はありけり武蔵野を、分暮しつつ跡遠き、山又山の雲を經て、都の空も近づくや、旅までのどけかる覽、旅までのどけかる覽。
同ワキ 急候程に都に着て候、又これなる梅を見候へば、今を盛と見えて候、如何樣名のなき事は候まじ、此あたりの人に尋ばやと思ひ候
果はありけり武蔵野を 巻第四 秋歌上 378 左衛門督通光
水無瀬にて十首歌奉りし時
武藏野や行けども秋のはてぞなきいかなる風か末に吹くらむ
写真は京都市の東北院と誠心院の軒端の梅