百首哥に 摂政
荻の葉にふけばあらしの秋なるをまちけるよはのさをしかの聲
詞めでたし。 秋なるをとは、秋の聲にてかなしき
物を、といふこゝろなり。 一首の意は、嵐は荻の葉ふけば、
かなしき物を、又そのあらしのつてに、鹿の音を侍けること
よ。何しに侍けむ。鹿の音も、きけば又いよ/\かなしさをそ
ふるものをと也。秋なるをといひ、まちけるといふ。詞のいきほひ
をもて知るべし。 古き抄の説ども、みなひがごとなり。
おしなべて思ひしことのかず/"\に猶色まさる秋のゆふぐれ
めでたし。 おしなべては、一ツにおしくるめて也。 かず/"\には、
数多くある物を一ツごとに也。 色はかろく見るべし。 一首の
意は、つねにはたゞ、かなしき事も、一ツにおしくるめておもふ
のみなりしに、秋の夕暮には、猶又その数々の思ひの、一ツごと
にかなしさのまさるとなり。
だいしらず
くれかゝるむなしき空の秋を見ておぼえずたまる袖の露哉
一二の句のつゞき、聞よからず。四の句もいうあらず。すべてよくも
あらぬうたなり。
家の百首の哥合に
物おもはでかゝる露やは袖におくながめてけりな秋の夕暮
上句、物思はぬ人の袖に、かやうに露のおく物かはといふ意也。
ながむるも、物思ふと同じことにて、四の句は、物思ひけりなとい
ふ意なり。すべて同じことを、二所にいはではかなはぬ時、一ツは詞
をかへて、相照して、それと聞ゆるやうによむこと。一ツのな
らひ也。此類多し。心得おくべし。
をのこども、詩を作りて、哥に合せ侍りしに、山路
秋行といふことを 慈圓大僧正
み山路やいつより秋の色ならむ見ざりし雲の夕暮の空
いつよりの下に、かくといふ言を加へて心得べし。 題の路ノ字
行ノ字の意も、はたらかず。すべて趣のおかしからぬ哥也。