のこゝろ也。
一 藤原秀能 于時ニ左衛門ノ尉。五位下。河内守。
秀宗ガ二男。十七首
入
一 夕月夜しほみちくらし難波江の芦のわか葉をこゆる
しら波
古抄云。此五文字春のおぼろなるをいへり。夕は月の
ひかりもさやかならぬものなり。ゆふ月夜小倉の
山などよめる心なり。いかにものどかなる難波江に、
白波の芦のわかばをそろ/\とこゆるは、やう/\
夕しほみちくらしとみたてたる哥なり。言語
道断の所なり。又月のうつりたるを、白波の
こすやうにみたる哥ともいへり。されども以前の
心可然欤。
増抄云。くらしは來るらし也。夕月夜の比塩みち
くるとなり。おほくみちぬゆへに、芦のわか葉の
またみじかきを、潮こゆる程なり。大しほなれば
わか葉もみえぬなり。心をつくべし。たゞ夕月
夜とはをかぬなり。しづみはてぬ景氣なるべし。
頭注
しほは月にしたがふ
ものなれば夕月の
ころは少みちぬる
となり。
※古抄 新古今聞書幽斎増補。ただし若干差異がある。
※夕月夜小倉の山
古今集 秋歌下
長月の晦の日大井にてよめる 紀貫之
ゆふづく夜をぐらの山になくしかのこゑの内にや秋はくるらむ
※大潮 大潮は、最も潮の干満の差の大きいことで、満月・新月の1、2日後に起こる。新月の一・二日後は夕方の月となる。