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■■■■■■■■■■白兎伝説と四面会議■■■■■■■■■■
北條俊彦
経営コンサルタント・前 住友電工タイ社長
■■「イナバの白兎伝説」
⚫️学校で建国の歴史を教えない国は, 日本ぐらいであろうか ?
我が国最古の書物『古事記』は,天地開闢から神の出現,そして
国造りから天皇の時代へと,繋がる我が国の成り立ちが語られた
雄大な物語である。
因幡国風土記は現存せず,出雲国風土記や日本書紀に記載はない
が,古事記では『イナバノシロウサギの神話』を,スサノオ
六代目の子孫オオナムチ(大穴牟邇神)が,国造りを完成させ国
を支配する神へと成長してゆく物語の最初に位置付けている。
「因幡国に住む八上比売に求婚するため出かける 兄神に同行の
途上,ワニを騙したため皮を剥がれ苦しむ兎にオオナムチは出逢
う。
兄神とは違い彼は適切な治療法を教え兎を救うが ,回復した兎は
“オオナムチこそが八上比売と結婚するだろう”と予言する。」
物語はここから始まり,やがて兎の予言通り八上比売と結婚した
オオナムチは,兄神達を退け, 国を支配する神となり 名前も大国
主神と名乗ることになる。
古事記には,因幡の白兎(実表記は「稲羽之素菟」)について[最
後の和邇,我を捕えて我が衣を削げり」と記されており,一説では
この付近を領した白兎神が, 日本海を荒らす海賊和邇の大軍と於
岐ノ島で戦い, 奮戦虚しく最後の和邇に打ち敗れ,血に塗れ, 倒れ
た白兎神こそが因幡の白兎だったとも解釈されている。
⚫️スサノオ(須佐之男命)は、ご承知のように天照大御神,月読
命に続いてお生まれになった物語の多い神である。
天照大御神は,猛々しく荒ぶる,そして粗暴な弟神のスサノオを恐
れられ“天の岩屋“にお隠れになったが為に スサノオは ”高天原“
を追放されるのである。
八俣遠呂智退治は,地上界に降りたスサノオの物語。
遠呂智の尾から出た草那藝之大刀は,後に 天照大御神に献上され、
古代天皇の権威である三種の神器の一つとなる。熱田神宮の 御
神体である。後に英雄ヤマトタケルは,その剣を持ち東征で大い
に活躍した。
●智頭町金刀比羅神社 ヤマタノオロチ木彫
“夜久毛多都 伊豆毛夜幣賀岐 都麻碁微爾 夜幣賀岐都久流 曾能夜幣賀岐袁
(やくもたつ いずもやえがき つまごみに やえがきつくる そのやえがきを)
これは, スサノオが詠んだ我が国最初の 和歌といわれており,
“祝婚の歌”として 現在迄も歌い継がれているのである。
■■「地域振興プロジェクト」
⚫️さて1980年から大分県の全市町村で始められた “一村一品運
動”を思い起こしてみたい。
1979年当時大分県知事の 平松守彦が提唱し, 実効をあげた地域
振興プロジエクトである。そして国内のみならず アジアはじめ
多くの国々が, 地域経営や経済政策の一環として取り入れた。
⚫️タイ王国でも2001年に,当時のタクシン首相が,
タイ版一村一品運動「OTOP (One Tambon One Product)」を
始め,全国に展開している。●OTOPの店
OTOPは、タクシンが地域振興のために開始したものだが, 人口
の8割を占める農村部を自分の支持基盤に取り込むための政策
でもあった。もう一つの政策の柱の“30バーツ医療制度”と 併せ
効果は絶大で,現在亡命中ではあるが農村部でのタクシン人気は,
いまだ衰えを見せていない。
⚫️1987年秋に竹下内閣が成立, 記憶に残るのが竹下の基本政策
の一つ『ふるさと創生事業』であろうか。
従の国主導の政策実行を止め(国は支援の立場とし)地方交付税
の配分活用で各自治体が主体的に知恵を出し,特色ある自治体経
営を進めることで地方経済を活性化させ, 新たな 国造りを目指す
ものであった。
しかし「ふるさと創生一億円事業」は,大いに話題を提供し
たものの成功した事業は少なく “単なるバラマキに終わった“と,
その評価は至って厳しい。
ただ各自治体と住民が自分達の住む地域と向かい合うことで,ふ
るさとを意識しその地域経営において住民自身が参加し,真剣に
考える機会を提供した事は 大いに評価できる。
●鳥取の砂丘(出所:鳥取県)
⚫️鳥取県は人口が日本国内で最も少なく 県内総生産(名目GDP)
も47都道府県では最も小さく, 少子高齢, 過疎化の進む課題の
多い自治体であるが, 県内の優れた文化財を地域振興資源として
活用した特色ある地域経営を実施しており, その成功事例は数多
い。
JICAの研修事業では, 学びの対象として何度か鳥取県を訪問させ
て頂いたが, 鳥取にはどこかヨソ者を惹きつける不思議な魅力が
あるのだ。
●鳥取砂の美術館(出所:鳥取県)
⚫️JICA国別研修(コロンビア)では,鳥取県内の地域振興事例を
学ぶため,コロンビア人研修員達と
・鳥取県庁、
・鳥取市役所、
・智頭町役場、
・鳥取大、
そして
・砂場珈琲、
・タルマーリ、
・三滝園
他, 数多くの企業・施設を訪問させて頂いた。
特に, 智頭町ではこと起こし運動“ひまわりシステム“から30数
年 多くの成功事例を産み出し“民のちから”による 地域経営を活
発におこなっていた。
⚫️智頭町のパン屋さんタルマーリでは, 経営者の渡邊格氏から、
「腐る経済」とは地域で得た利潤を全て使い切り, 地域で生産
した商品を地域内で消費すること。
そして持続可能な「腐る経済循環」を目指す仕組みつくりで
ある「地域循環型こと起こし」について学ばせて頂いた。
(図)タルマーリ地域内循環図
⚫️砂場珈琲では社長ご講義の後, コロンビア珈琲と クラブサ
ンドで温かくもてなして頂いた。当時, 唯一, 鳥取県に スタバが
なく平井知事の「鳥取にはスタバはないが,日本一の砂場がある」
発言が大いに受け「スタバはないが砂場はある」が, 砂場珈琲の
宣伝コピーとなっていた。
参考までに,現在, スタバは鳥取駅南口, 及びイオンモール鳥取北
店内の2店舗が営業している。
●砂場珈琲本店
⚫️少し話は変わるが,私の研究テーマである天然繊維強化樹脂の
材料候補の一つ, 麻について学ぶため繊維利用目的で野州麻を栽
培されている 栃木県の麻農家大森由久さんを 訪問させて頂いた
事がある。
大森さんの野州麻は, 伊勢神宮の注連縄(しめなわ)や元横綱白
鵬土俵入りの横綱にも使われ, 昭和57年に品種改良された栃木
白という無毒の大麻である。
栃木白は,,陶酔作用を起こすTHCは殆ど含まない。大森さんから
は麻の技術特性だけでなく, 縄文時代から続く麻と人との関り合
い, そして 日本の伝統文化との深い結びつきについても 学ばせ
て頂いた。
その昔, 智頭町にも麻の栽培とそれに繋がる歴史と文化が存在し
た。1948年GHQによる大麻栽培禁止令以来, 60年ぶりに 智頭町
で大森さんの弟子が麻の栽培を始めると聞き, 新たな町おこしと
伝統文化の復活に期待し心から喜んだものだが, 残念な結果にな
ってしまった。
■■「最強の地方振興システム」
⚫️山間過疎地域である智頭町で, 地域活性化計画作りの手法と
して住民参加型『四面会議システム』を確立させている。
それは地元の“こと起こし運動”のリーダーである 寺谷篤志氏と、
京都大学防災研究所岡田憲夫先生との合作である。
当時,智頭町では高齢化が顕著に進行し高齢者の独居世帯が増加、
共助のコミュニテイも機能しなくなっており, 独居老人の安否確
認,及び扶助のため 新しい社会システムの構築が必要となってい
た。
そのため 地元郵便局長であった寺谷篤志氏が リーダーとして誕
生させたのが“ひまわりシステムであった。詳細については寺谷
篤志氏著書「創発的営み:地方創生へのしるべ 鳥取県智頭町発」
を一読頂きたい。
このシステムは, その後「ひまわりサービス」として国政レベル
の事業へ格上げされ 全国展開されたが,小泉の郵政民営化によっ
て町村における重要な公共機関であった 特定郵便局が無くなり
(このことが地方の疲弊と崩壊を一気に加速させて行くのだが)
「ひまわりサービス」の機能は縮小,変質化してしまうのである。
🔵出所:鳥取県智東町
⚫️四面会議システムとは、
・「SWOT分析」
・「四面会議図」
・「協働デイベート」
・「行動計画書」
で構成され,参加者間との役割分担と包括的で相互連携的な実行
案作りを可能とする(正解より成解を重視する)会議手法である。
またコミュニケーションや 共通経験の場ともなり,外部者との交
流ネットワークも構築できるシステムだ。それは 国内だけでな
くアジア諸国でも, 地域振興や防災など様々な領域で活用されて
いる。
⚫️地域経営や地方創生の基本は『自助・共助・公助』をそ
れぞれ、相互補完的に機能させること。
特に、自助・共助に おいて個人や地域のコミュニテイが,自発的
に参画しながら,地域の特性を反映させ,実行可能な行動計画や連
携の仕組みを創ることが 重要だ。
少子高齢化と人口減少,地方の荒廃は現代日本が直面する 重要課
題であるが, 時間差こそあれ世界各国共通の課題でもある。
「課題先進国」として 我が国が世界に先駆けて 取り組むこと
になるが, 能率・効率・生産性などの経済合理性のみで考えるの
でなく,我が国固有の価値観を保持し 伝統や文化など社会的合理
性に重きを置いた『新しい社会システム』を創り上げ, 地方
を元気にすることから先ず始めるべきである。
・グローバル化、
・ボーダレス化、
・フラット化、
・ノマド化
の 流れの中で,如何にサバイブしてゆくのか、日本人一人一人が
しっかりと考えるべきである。
グローバルスタンダードなどは, 決して存在しないのだ。
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