■■■■■■■チェンマイ・ロングスティの行方■■■■■■■■
■「百歳時代のロングスティは」
●2018年の最新の海外在留邦人数調査統計」(日本外務省)が発表
になった。それによると、チェンマイロングステイのタイの退潮傾向が
より鮮明になってきた。
■「チェンマイロングステイの近況(長期滞在統計)
(年次) (チェンマイ) (伸率) (タイ全国計)(伸率)
平成29年(2017) 3221人- 2,9 72,754人 3,4%
平成28年(2016) 3318 -11,1 68,908 4,3
平成27年(2015) 3733 - 2,9 67,424 4,9
平成26年(2014) 3843 - 2,0 64,285 8,5
平成25年(2013) 3920 1,4 59,270 6,5
●その退潮傾向の大きな理由としては―――、
・世代交代による定年後の在り方の社会的な変化
・円安、バーツ高の為替傾向による現地生活費の上昇
・現実的な現地情報が増大することによるロングスティ魅力の後退
・日本での日常生活の相対的な優位性の発見
など、多くの事が見えてくる。
またロングスティという形式でなく、あくまでも特定の外国や街に比較的
ノンビザで長逗留して、旅として楽しむシニアが増大する傾向にある。
スマホ時代を迎えて、20年前には想像もつかない さまざまな情報が行
き交い、行動の選択肢が、数十倍に増えた結果とも想定される。
百歳時代の到来による、新しいライフシフトのあらわれかもしれない。
■「日本企業のタイへの進出概況」(商業統計)
(年次) (チェンマイ)(タイ全土計)(伸率)
平成29年(2017) 69社 3925社 120,1%
平成28年(2016) 70 1783 3,4
平成27年(2015) 69 1725 5,1
平成26年(2014) 70 1641 3,9
平成25年(2013 ) 68 1580 7,6
●タイ全土の在留邦人数の増大は、中国からの生産工場のシフトを
含め、日本企業のタイへの進出に伴うものである。
チェンマイの長期滞在者(ロング スティヤ—)は、大きく後退するが、
日本企業のタイ進出で、タイ全土の長期滞在数は、大幅に伸びてい
る事がよくわかる。
統計数字は、国際情勢の推移を如実に物語っているといっていい。
■「識者の卓見」
●「タイのロングスティ・ツーリズムは、
より多くの外貨獲得を目的にしたタイ政府と、まず、物価の安いゆとり
ある生活環境の中で、退職後の生活を送ろうという 日本人側の思惑
の食い違いという奇妙なバランスの中で継続してきた。
●タイでの生活費は、マレーシアと比べて安くインドネシアと合い拮抗
するレベルだが、査証取得の簡便さは インドネシアをはるかに上回る。
それが、なによりもまして多くのロングスティヤ—を惹きつけてきた理由
である。
そこに反照して見えるのは、退職者や、高齢者にとっては、必ずしも
住みよいとは言えない 日本という国の実情である。
●そのように考えると 日本人の高齢化に伴う国際移動とは 結局のとこ
ろ 国内問題に帰するのではないかと思えてくる。
こうした悲観論を打破するような異郷の地において、新しい生き方に
情熱を傾ける人々の活動を今後も発掘してゆきたい」
(「海外日本人社会の組織化と分節化)―タイ、チェンマイを中心にー
首都圏大学東京、教授。社会人類学者、伊藤 真氏の研究論文より」
長らくにわたりチェンマイロングスティを研究して来た識者のさすがの
卓見である。
●こうして20年近くの長きにわたつて、多くの定年後シニアの 賛同を
得てきた「チェンマイロングスティ」が第2ステージを迎えようとしている。
その主体であった戦前生まれの高齢者世代が去り、戦後生まれの団
塊世代に打って代わる事で、今までの海外ロングスティ・パワーが 衰
退しようとしている。
●チェンマイ・ロングスティの退潮は、日タイの経済動向はもとより海外
情勢の変化や 世代の趣向性やトレンドなど、多くの要因が考えられる。
「月額 15万円で海外生活ができる」 という 当初からのタイ国政府の
セールスメッセージは、タイの経済成長による生活物価の高騰や、円
安バーツ高で大きく後退し、ロングスティヤ—の期待を裏切る事になっ
た。
加えてロングスティヤ—の高齢化による医療や介護ケアーの危惧のた
めに、帰国を余儀なくされるロングスティヤ—が相次いでいる。
しかしシニアの動向に詳しい専門家は、
「海外ロングスティは、日本の高齢者の余後を彩る、魅力ある選択肢
のひとつつとして、経済的にゆとりある層を主体に再び脚光を浴びる
時が必ず来る」 と予測する。
■[戦後海外旅行の経緯」
●経済再建中の戦後日本で海外ロングスティが発想されたのは、海
外との交易や人的交流や海外旅行が活発になり、ようやく経済的に
ゆとりが見えてきた頃、迫りくる高齢化や定年後の人々の過ごし方を
どうするか、行政としての国の指針が,求められてきた。
●その端緒は、1986年に通商産業省が海外交易を拡大する施策と
して日本の定年者を対象に海外滞在型余暇構想「海外ロングスティ」
を提唱した事に始まるといわれる。
その下敷きになったのが、すでに欧州で定着していた「定年後を海外
で豊かに暮らす」というシルバ―コロンビア計画である。
●戦後の経済復興の過程で、海外交易の進展とそれに伴う海外旅行
の解禁は、「み外ロングスティ」への前段といえる。
そして、1972年の為替の自由化に伴う円貨の固定相場制の解除は、
日本人の海外への志向性をいやがうえにも高めることになったといっ
ていい。
そして2000年には、日本では初の海外ロングスティとして、タイ政府
によるチェンマイロングスティ・プロジェクトが具体化することになる。
■「戦後海外旅行の推移」
(年次) (主な出来事) (海外旅行者数)
1964年(昭和39年)・海外旅行の解禁 12万7749人
1964年【昭和39年】東京オリンピック開幕 ・東海道新幹線開業
1970年(昭和45年)・ジャンボジェット運航開始
1970年(昭和45年)日本万国博覧会(大阪万博)
1971年(昭和46年)・沖縄返還協定調印
1972年(昭和47年)・海外旅行100万人突破 (1ドル308円)
1973年(昭和48年)第1次オイルショック
1974年(昭和49年)戦後初のマイナス成長率
1977年(昭和52年)平均寿命男72,69歳世界一、
1978年(昭和53年)・成田国際空港開港
1979年(昭和54年)第2次オイルショック
1985年(昭和60年)プラザ合意
1986年(昭和61年)・ANA国際定期便就航
1987年(昭和62年)・JAL完全民営化
1991年(平成03年)湾岸戦争勃発
1992年(平成04年)一般財団法人ロングスティ財団設立
1994年(平成06年)・関西国際空港開港
1995年(平成07年)●阪神淡路大震災
1998年(平成10年)特定非営利活動促進法(NPO法)成立
2001年(平成13年)米国同時テロ発生
2003年(平成15年)イラク戦争勃発
2008年(平成20年)リーマンショック
2010年(平成22年)・JAL経営破綻
2011年(平成23年)●東日本大震災
2014年(平成26年)・出入国者数 44年ぶりの逆転
2017年(平成29年) 153万2918人
2018年(平成30年)
2019年(年号未定) G20世界首脳会議(大阪)
2020年(年号未定) 東京オリンピック:2020
2015年(年号未定) 日本万国博(大阪)予定
■「海外旅行の出国数」(統計)
(年次)1972年(昭和47年) 45年前
●出国者数 153万2928人
●入国者 66万2474人
(順位)(行き先) (出国者数)人
1位 香港 34万9212
2位 台湾 27万7704
3位 ハワイ 23万5000
4位 韓国 21万7287
5位 マカオ 19万4128
6位 イタリア 18万9500
7位 グアム 13万8864
8位 英国 13万2697
9位 タイ 9万3534●
10位シ ンガポール 7万0280
(年次)2017年 (平成29年)
●出国者数 1788万9300人(前年比 4,5%増)
●入国者数 2869万1000人(前年比19,3%増)
(順位)(行き先) 〈出国者数2016〉
1位 米国 375万8297人
2位 中国 249万7700
3位 韓国 183万7782
4位 台湾 158万6489
5位 タイ 134万9388●
6位 シンガポール 78万9179
7位 フランス 68万2121
8位 ベトナム 67万1379
9位 ドイツ 64万7243
10位 香港 63万2959
(出所;日本政府観光庁2017統計)
■「どう生き抜くか」
●英国,ロンドンビジネススクール教授の リンダ・グラットンさんの著書
「ライフシフト」(東洋経済 刊)副題 「百歳時代をどう生き抜くか」が大
ヒットした。改めて生涯で複数のキャリアを持つマルチステージ人生の
素晴らしさが話題を呼んでいる。
これを契機にして、政府首相官邸に「人生百年時代構想会議」が発足
した。政府は全ゆる分野から識者を集め、その今後対応について多面
的に検証するという。
■「第2ステージへの期待」
●日本政府の高齢者に対する定年後の施策は、「百歳時代の到来」と
地方創生計画の推進で大きく変容しつつある。
最近では地方創成で高齢者の余後は、海外ではなく国内の地方移住
が優先のように見えてくる。
タイでは、海外からの観光客の増大と、現地生活費の高騰によって、
チェンマイ・ロングスティの推奨広報が、タイ国政府観光庁のホームペー
ジから消えた。 タイ・ロングスティの成熟化によって、ゆとりある日本の
高齢者に,どうか気ままに来て楽しんで欲しいというスタンスに映る。
●海外ロングyステイは、海外旅行とは本質的に異なる。
海外における 異国での生活滞在には、海外生活に関する広範な知識
と、自己責任が要求される。
それだけに成功の喜びは、また格別といっていい。 チェンマイ・ロング
ステイの第2ステージに期待したい。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます