■■■■■タイ ロングスティの行方■■■■■■■■
中西英樹
タイ王国 チェンライ市在住(ロングスティヤー)
■■「海外日本人会」
⚫️先頃、チェンライ日本人会の新年会が空港近くの日本レストラン
で開かれた。会員,家族合わせて30-40名、昨年の忘年会以来,久しぶ
りにお目にかかるという会員も多い。自分はチェンライに来てすぐ
日本人会に加入した。
今年で14年目になるが,半分近くの会員の名前と顔が一致しない。
古い人が帰国したり,亡くなったりして、代わりに新人が増えている
ということだろう。新しい会員との会話は,こちらに来てどれくらい
ですか,お住まいは,ご出身は,と当り障りない話題から始まる。
⚫️旧日本軍では1日でも早く入隊した兵士のほうが偉い。これは曹洞
宗の1日でも早く永平寺に入門した僧のほうが偉いという風習が軍隊
に引き継がれたからという。この風習は学校の部活にまで及んでいる。
別に長く日本人会にいるからと言って先輩風を吹かせる気は無いが、
何か新人に助言できることがあれば、という気持ちはある。
自分だってチェンライに来た当初は多くの邦人にお世話になった。
でも最近、この会話の流れがスムーズにいかないケースが増えてきた。
というのは日本人会に入会したが,それまで20年以上,タイに在住して
おりまして,という方が何人かおられるからだ。将棋クラブに有段者の
新人が入ってきたという感じか。20年もタイに在住しているのだから、
年齢は自分より上,どうしてこれまでの場所からチェンライに移られた
のですか,どちらが過ごしやすいですかとか、こちらが教えを乞う形で
勉強させてもらう。
■■「国保は安心の極み」
⚫️今回,入会希望の日本人夫婦はご主人が81歳,奥さまが78歳,
チェンマイに20年お住まいだったそうだ。ご夫婦でタイ滞在20年以
上は珍しい。チェンマイには日本人会がいくつもあるし、日本の友
人も多かったそうであるが、息子さんがパヤオの大学の先生になっ
ているので,チェンライの隣県,パヤオに住まいを移されたとのこと
だった。
パヤオにはパヤオ湖があり,風光明媚なところであるが、周りに邦人
がいなくて寂しいとのこと。お二人ともお元気そうであったが,健康
に不安を感じられたら帰国されるのではないかと思った。
自分の知っている邦人夫婦は殆どが帰国されている。
⚫️年を取れば友人,知人が少なくなり,寂しさを感じる。これはタイ
にいても日本にいても同じだろう。でも体に不調が生じた場合,日本
にいたら助かったのに,というケースはある。治療を受けるにしても
タイ語や通訳の説明では心もとない。
「シクシク痛むんですが」を携帯でタイ語翻訳すると「鈍痛がある」
のタイ語になる。こんなやり取りをタイの医者と繰り返すのではスト
レスで病状が悪化してしまう。
それに健康でなければロングステイも海外旅行もあったものではな
い。もし病気になったら納得のいく治療を日本で受けたい,はタイに
限らず欧米在住邦人にも広がっている共通認識だ。
もちろん,これは治療費の問題もある。国保制度は国民の安心の源泉
と言える。
■■「人生,何が起きるか判らない」
⚫️海外に住むリスクの第一は健康である。死ぬまで健康であるとい
う保証はないのだから,いざとなったら帰国できる手立てを取ってお
く必要がある。
海外に住みたいという人への助言の第一は,日本の家を処分しないこと、
必ず帰って住む家を確保しておくことである。
⚫️リスクもいろいろ。
リスクは健康ばかりではない。タイに来て初めて結婚できた, 相手は
自分より40歳も年下,気立ての優しいタイ女性、車も買ったし,家も建
てた老後は彼女に見てもらおう。ところがその若い奥さんが急死する。
財産はすべて奥さん名義、奥さんの親族がこの家から出て行け,車もこ
っちのものだ。こうなるとタイ人は親族,村人,役所すべて結束する。
幸せもつかの間、豪邸を追い出され,アパートの一室で細々,年金暮し、
帰るにも日本の家はない。こういったケースは稀ではない。
先般、20年以上チェンライに暮らしていた邦人が急死した。付き合い
は殆ど無く,葬儀に参加した邦人は2,3名とのこと。
奥さんは日本語が話せない。地元で葬儀,荼毘は済ませたが,総領事館
に死亡連絡をしたのかどうか誰も知らない。
正式な婚姻であれば配偶者に年金の半額が支給されるが,奥さんはそ
れを知らないだろうし,手続きを手伝う友人もいない。
「自分が死ぬ」は当然の理でリスクではない。でも残された人が
困る、はリスクと言えようし,その軽減の手立てはしておくべきだろ
う。
日本人会に入会して,先人からいろいろアドバイスを受けていれば,役
員も動きようがあったのではないか。日本人会への入会はロングステ
ィのリスク軽減の一環と声を大にして言いたい。
■■■■■■■■海外人生の最終章■■■■■■■■
■■「人生の四住期」
⚫️母と兄と3人でチェンライに移り住んだのは2009年1月だった。
「門松や 思へば一夜 三十年」 という芭蕉の句があるが,正に
「思へば一夜 十四年」の感慨に囚われる。この14年は,その前の何十
年かと比較すると大きな違いがある。それはヒンズー教の人生を4つ
に区切る4住期という考え方と関係している。
四住期とは即ち、
●「学生期(がくしょうき)」
まだ一人前ではなく,学び,心身の鍛錬を通して成長していく期間。
●「家住期(かじゅうき)」
仕事を得て懸命に働き,結婚し,家庭を持ち,子を育てるために頑張
る期間。
●「林住期(りんじゅうき)」
世俗を離れ,迷いが晴れ,人生の最後の場所を求め,遊ぶように何者
にも囚われない人生の最終盤。
それぞれ25年ずつとなっているが、自分の場合,60歳で仕事をやめ、
年金生活となった。タイに来た時は,子供は独立し,カミさんからも独
立を宣言されていたので,正に林住期を謳歌できる条件は整っていた。
⚫️生きるために働く世俗的な生活から解放された。会社の人間関係、
客先との軋轢,給金の中には我慢代も含まれていると思っていたから、
社会人の時はあまたのストレスに耐えてきた。でも 仕事をやめたら
ストレスがなくなって,体調までよくなった。学生期,家住期はそれぞ
れ25年,林住期は50歳から始まるとされるが,自分には60歳から林住期
と[遊行期]が一緒にやってきたように思う。
⚫️父は50年ほど前に61歳で亡くなった。死ぬ直前まで働いていたか
ら、学生期と家住期だけで人生を終わったことになる。今,異国でノ
ンビリ暮らしていると若くして? 亡くなった父を可哀そうに思うこ
とがある。でも今や人生100年時代,75歳までは家住期, 働けるだけ働
いて欲しいというお国の政策もあるし,働くことが元気の源,死ぬまで
働きたいという高齢者もいる。人の生き方はいろいろだ。遊行期の自
分には何も言う資格はない。
■■「タイの高度成長」
⚫️14年が思へば一夜,であったけれど、タイの変化を多々見てきた。
初めてチェンライを訪れた2002年,案内してくれた邦人が,最近,市内
に交通信号ができたというので見物に行ったと話していた。車が少
なかったため信号が要らなかったのだ。自分が移り住んだ頃はアジ
アハイウェイと言われる幹線道路には交通信号があったが,ちょっと
郊外に出ると信号はなかった。自分が住むようになってここ10年,車,
バイクの増加は著しく、それに伴って 主な四辻に信号が付くように
なった。
偶には交通渋滞があって,交差点を通過するのに信号2回待ちという事
もある。来た当初,チェンライからメーサイへよくドライブしたが,前
後に車の姿を見ることは稀だったように思う。
⚫️「タイGDPの推移」
出典:第一生命経済研究所
⚫️「海外在住日本人数」2022年(主に企業滞在とロングステイ)
外務省
⚫️考えてみれば,タイの一人当たりGDPは2009年には4,213ドルだっ
たが2019年には7,814ドルとなっている。バイクの販売台数も伸びて
いるがそれにもまして4輪車,特にセダンタイプの車の登録数が増えて
いる。交通量の増大も国が豊かになっていることもデータが示すとお
りだ。
因みに日本の2009年における一人当たりGDPは41,469ドル、2019年
は40,566ドルと横ばい,失われた20年と言われている所以であるが、
発展途上国や中進国は伸びしろがあるから発展速度が速いと言える。
自分が10歳前後のとき,食堂の支那ソバ(当時は中華そばとかラーメ
ンとか言わなかった)が1杯35円だったと記憶している。それが今で
は800円前後か。タイ経済も急発展,数年前,タイソバ(クイッティオ)
は1杯30Bだった、ちょっと田舎に行くと25B, ところが今では40B、
50Bとなっている。生活程度を落とさないとやっていけないほどでは
ないし,ある程度のインフレは, 国民生活向上のためには避けて通れな
いのだろう。
■■「高級車も増えた」
⚫️そういえばさすがタイも中進国,金持ちが増えているんだな,と実感
することがある。自分がこちらに来た頃,大型バイクを見かけることは
殆ど皆無、自分がフォルツァを買った当初は子供が目を丸くしてみて
いたものだ。ところが今では1000ccを越えるデュカディ,BMW,トライ
アンフなどがグループで走り回っている。ベンツ,マセラティなどの高
級セダンも見かける。へえ,タイには金持ちが多いなあと感心するのだ
が,彼らが金持ちなのではなく,自分が貧乏なだけと気づく。
そういえば小学校の同級生はみな秀才ばかりだったが,それは彼らが特
に優秀というわけではなく,単に自分が劣等生だっただけのことだった。
日タイの経済統計を調べたり,少年時代を思いだしてクヨクヨしている
ようでは遊行期の高みには程遠いと言わざるを得ない。
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