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野暮用

 広辞苑いわく、
「野暮用」・・取り立てて言うほどのものでない、つまらない用事。
       趣味や遊びに関わらない仕事のための用事。
らしいが、昨日私が名古屋まで出かけた用事はまさに後者の「趣味や遊びに関わらない仕事のための用事」だった・・。「何の用事?」と訊かれたって、正直に答えられやしない。粋でいなせな男としてちょっとは知られた男として、こんな野暮な用向きで出掛けたとあっちゃ沽券に関わるというものだ。
 などと戯言を言いたくなるほど、面白くない用事だった。用向きが野暮である以上、あれこれ言い訳したところで野暮に決まっているが、野暮に野暮が重なってしまえば、もうどうしようもない・・。
 
 名古屋の真ん中、栄の地下駐車場に車を停めて、さあ乗り込むか、と地下街をしばらく歩いていたら、ふと携帯を車の中に忘れてきたのに気がついた。家にかかってきた電話は皆私の携帯に転送されるようにしてきたから、携帯がなくては電話に出られない。この年度末の忙しい時期だけに大切な電話がかかってくるかもしれない・・、走って取りに戻った。しかし・・、どこに車を停めたのかまったく覚えていない。地下1階だったのは覚えていたが、はてどのあたりに停めたのか思い出だせない・・、困った。早くしないと地下街に待たせた妻がプリプリ怒り出す。どこだっけ・・。ふと妻が「紫のA・・」と呟いていたのを思い出した。あれは駐車した場所の柱に書かれていた番号だったような・・。そう思ってすぐそばの柱を見たら、ピンクに塗られた上にBと書いてあった。「やっぱりそうだ、紫のAだ!」そう思いついてきょろきょろ見渡したら、あった!紫のA!・・・お陰で、なんとか車まで辿りつくことができた。
 駐車場から走って戻ったら、妻は和服屋に入り込んで店員さんと話し込んでいた。なんだ、焦らなくてもよかったのか・・。ちょっと拍子抜けしたが、後で面倒なことになるよりはずっといい。そこから少し歩いて地上に出たら、目的の場所はすぐに見つかった。
 だが、そこでもまた己の不注意さに情けなくなってしまった・・。そこに来るまでに用意しておかなければならないものが幾つかあったのだが、そのうちの1つを買って来るのを忘れていた。仕方なしにそれが売っている場所を教えてもらって、すぐに買いに出た。買い忘れて来る人が多いのだろう、地図が用意してあって、丁寧に説明してくれたし、さほど離れた所でもなさそうだったので、すぐに見つかるだろうと思っていたのだが・・。横に2ブロック行くはずだと思って小走りに行ったところ、おかしい、見当たらない。この通りにあるはずなんだが、見つからない。変だな・・。妻は待合室のTVで高校野球を見ていたから(しかも試合は妻の贔屓チーム・中京大中京が戦っていた)、しばらくは我を忘れて試合観戦をしているだろうが、早く戻らなくては手続きに時間がかかってしまう。塾を始める時間よりも前に家に着かなきゃいけないからこんな所でグズグズしてはいられない、焦った・・。ちょうど通りの角で弁当を売っている女の人がいたので、「すみませんが」と道を尋ねると、「ああ、そこならあの角を曲がったらありますよ」と親切に教えてくれた。感謝もそこそこに、走っていったが、???、おかしい、ない・・。どうして?
 「あっ、コンビ二だ!」すぐに入っていって、お茶を買いがてらまた場所を訊いた。「すぐそこですよ」と店員さんが指で指したところまで走ったら、あった!ほっとした・・。でも、どうして見つけられなかったんだろう?
 などと首をひねりながら、必要なものを買ってまた元の所に戻った、もちろん走って・・。それからは至ってスムーズに事が運んで、思ったよりも短時間で主目的たる野暮用は終了した。だが、もうへとへと、疲れた・・。でも、もう一踏ん張りして、昼食を食べるために少し離れたデパートまで歩いていった。すると・・。


 案内カウンターに置いてあった「桜パンダ」、私の新しいPCのマウスパッドと同じキャラクターが出迎えてくれた。そのとぼけた風貌を見たら、一瞬疲れを忘れたが、それくらいじゃそれまでに受けたダメージは簡単に払拭できない。ご飯を食べ終わって家路につく頃から、体全体がどよ~~んと重くなり、塾の最中も疲労困憊した感じは抜けなかった。走った影響か、特に足が重い・・。

 まったく困ったもんだ・・・。
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